甲状腺腫瘍・甲状腺がん[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用)、橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
Summary
甲状腺腫瘍が増えているのは超音波(エコー)検査、肺CT、頸椎MRIや頚動脈エコーで偶然見つかるため。人間ドックの甲状腺超音波(エコー)検査で20%に甲状腺腫瘍(甲状腺結節)がみつかり、約2-3%が甲状腺癌。甲状腺腫瘍には腺腫様甲状腺腫、濾胞性腫瘍(良性濾胞腺腫、濾胞腺腫良悪鑑別困難例、甲状腺濾胞癌)、甲状腺乳頭癌・濾胞型甲状腺乳頭癌などの亜型、甲状腺微小乳頭癌・浸潤型微小乳頭癌、甲状腺低分化がん、甲状腺髄様癌、甲状腺未分化癌、甲状腺原発扁平上皮癌、粘表皮癌、CASTLE甲状腺癌、甲状腺原発悪性リンパ腫、転移性甲状腺癌などがある。
Keywords
甲状腺腫瘍,超音波,エコー,検査,甲状腺結節,甲状腺癌,腺腫様甲状腺腫,腺腫様結節,良性濾胞腺腫,甲状腺乳頭癌
隠れ甲状腺癌(甲状腺ラテント癌)は、剖検(死後病理解剖する事)すると、日本人の3-5.2%に存在するとの報告があります(甲状腺結節取扱いガイドライン2013,p8-22)。フィンランド人、ハワイアンでも同様に高い数字です(Cancer 56:531-538,1985)。
甲状腺濾胞癌と甲状腺乳頭癌の重複癌
甲状腺は元々、腫瘍が発生しやすいホルモン臓器です。とは言え、近年、甲状腺腫瘍が増え続けています。これは、超音波(エコー)診断装置の進歩に加え、肺CT、頸椎MRIや頚動脈エコーで偶然見つかるものが増えているためです。
人間ドックで甲状腺超音波(エコー)検査をおこなうと10-20%位に甲状腺腫瘤(甲状腺結節)がみつかり、男女比1:2、約半数が10mm以上との報告が最も多いです。
甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013では、甲状腺結節の約2-3%(30-50人に1人)が甲状腺癌とされます。よって甲状腺超音波(エコー)検査で約0.5%(200人に1人)甲状腺癌が見つかる事になります。
非腫瘍性の嚢胞は約25%に見つかるとされます。
[Tokushima J Exp Med. 1993 Jun;40(1-2):43-6.][日本甲状腺学会雑誌 2010 Oct;1(2):109-113]
甲状腺腫瘍には以下のようなものがあります。まず、良性~境界の腫瘍は、
腺腫様甲状腺腫 を御覧ください。
濾胞性腫瘍 を御覧ください。
良性濾胞腺腫 を御覧下さい。
濾胞腺腫良悪鑑別困難例 を御覧下さい。
甲状腺濾胞癌 を御覧ください。
甲状腺乳頭癌 を御覧下さい。
甲状腺低分化がん を御覧ください。
甲状腺髄様癌 を御覧ください。
甲状腺原発悪性リンパ腫に詳細があります。
甲状腺のう胞は、
- 真性の嚢胞は稀;多のう胞性甲状腺疾患(PCTD)
- 破壊によるのう胞変性(破壊性のう胞)[橋本病(慢性甲状腺炎)、破壊性甲状腺炎、バセドウ病、腺腫様甲状腺腫]
- 小児のコロイドのう胞
- のう胞型腺腫様結節、のう胞型濾胞腺腫(のう胞腺腫)、のう胞形成型甲状腺乳頭癌、のう胞型髄様癌
1-3.および細胞が壁に沿って単層配列(1列)の のう胞型濾胞腺腫は、臨床的には単なる嚢胞(のう胞)として扱います。
良性であれば、
- エコー上、穿刺細胞診(FNA)が行えるだけの組織成分がない
- 組織成分があった場合、穿刺細胞診(FNA)を行えば、泡沫細胞が採取される
甲状腺のう胞はほとんどの場合、治療を必要としません。しかし、
- 巨大甲状腺のう胞が気管食道などを圧迫し、息がしにくい、飲み込みにくい場合
- 巨大甲状腺のう胞が縦隔進展する場合
- のう胞内出血の場合
- 美容上の問題;「首が腫れていて気になる」など
は、穿刺排液を行いますが、中の液体は粘稠で、太い針でも完全に抜けない事が多いです。
穿刺排液困難、何度、穿刺排液しても液がたまる巨大のう胞腺腫は手術適応になります。経皮的エタノール注入治療(PEIT)を行う施設もありますが、筆者はお勧めしていません。
橋本病のう胞変性
穿刺細胞診と甲状腺超音波(エコー)検査で良性と診断された甲状腺結節は、約5年間のフォローで
- 11.1%でサイズ増大が認められ、4.9mm(95%CI、4.2-5.5mm)の増大。多結節性の場合に増大しやすい。
- 0.3%で実は甲状腺癌だった。サイズ増大したのは0.2%。
- 9.3%で新たな甲状腺結節が出現。0.1%が甲状腺癌だった
(JAMA. 2015 Mar 3;313(9):926-35.)
伊藤病院で同じく良性と診断された甲状腺結節を10年以上フォローした報告では、
- 0.78%で実は甲状腺乳頭癌
- 0.56%は新たに出現した甲状腺結節の甲状腺癌
だった(第64回 日本甲状腺学会 4-1 甲状腺良性結節の経過観察中に悪性が判明する頻度について)。
結論として、甲状腺結節においては
- 穿刺細胞診も甲状腺超音波(エコー)検査も100%ではない
- 新たな甲状腺結節が出現する可能性もある
ため、10年以上のフォローが必要です。
※長崎甲状腺クリニック(大阪)では、がんゲノム医療、遺伝子パネル検査、患者申出療養制度に対応しておりません。
precision medicine(精密医療)は、個別の癌ドライバー遺伝子変異などに基づき最適な治療や予防を行うもので、がんゲノム医療、がん個別化治療(precision oncology)とほぼ同義になっています。そのため、従来の発症臓器別治療は、臓器を問わない遺伝子変異別の治療に移行しました。
遺伝子パネル検査は、次世代シークエンサーの遺伝子解析装置を用い、癌細胞の塩基配列を高速で解析する検査です。癌細胞の変異遺伝子が判明すれば、そこに効く分子標的薬を選択できます。
遺伝子パネル検査は、標準治療が終了した後(要するに標準治療で完治しなかった場合)、次に分子標的薬を探索する場合に限り保険適応が認められます。※放射線治療無効な甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌) 根治切除不能な甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)、甲状腺髄様癌、甲状腺低分化がん、甲状腺未分化癌に標準治療 レンビマカプセル®(レンバチニブ) ネクサバール錠®(ソラフェニブ)などを投与する際には必要ありませんが、それらが効かなかった、あるいは使用できなくなった場合に可能です。
甲状腺癌に対して遺伝子パネル検査を行うのは、
- 甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)では、I-131 放射線治療 が無効あるいは行えず、レンビマカプセル®(レンバチニブ) ネクサバール錠®(ソラフェニブ) も使用不能になった時
- 甲状腺低分化がん、甲状腺未分化癌 ではレンビマカプセル®(レンバチニブ) が使用不能になった時
- 甲状腺髄様癌では(カプレルサ錠®(バンデタニブ)、レンビマカプセル®(レンバチニブ) が使用不能になった時
など、標準治療で万策尽きた時です。
ただし、甲状腺癌の進行は緩徐な事が多いため、検体が古くなりDNAが変性し、検査不能になる可能性があります。
穿刺細胞診で採取した甲状腺癌細胞に対する次世代シーケンシング(NGS)の技術は、ほぼ確立されています(J Mol Diagn 2013 Mar;15(2):234-47.)。
甲状腺癌のprecision medicine(精密医療)として、
①RET阻害薬 レットヴィモ®(セルペルカチニブ:セルパーカチニブ:selpercatinib)が、RET遺伝子変異を持つ
- 進行または転移を有する全身療法が必要な12歳以上の甲状腺髄様癌
- 放射性ヨード治療抵抗性で、全身療法が必要な12歳以上の進行RET融合遺伝子陽性甲状腺癌(甲状腺乳頭癌、甲状腺低分化癌も含まれる)
に承認されています。
②BRAF 遺伝子変異陽性甲状腺未分化癌にタフィンラー ®(ダブラフェニブ:dabrafenib)+メキニスト®(トラメチニブ:Trametinib)も承認されています。
これらは患者申出療養制度により甲状腺癌に対しても使用が可能となります。※長崎甲状腺クリニック(大阪)では対応しておりません。
③その他、
- ペムブロリズマブ(Pembrolizumab:キイトルーダ®);マイクロサテライト不安定性が高いMSI-High固形癌に
- ロズリートレク®(エヌトレクチニブ:Entrectinib);ROS1(c-ros遺伝子1)陽性、またはNTRK(神経栄養因子受容体)融合遺伝子陽性の固形がんに。NTRKファミリーの選択的チロシンキナーゼ阻害剤
- ヴァイトラックビ®(ラロトレクチニブ:Larotrectinib);NTRK融合蛋白質陽性の切除不能または転移を有する癌
- 甲状腺未分化癌では、種々の遺伝子変異に対する分子標的薬の効果が報告されています(Acta Med Iran. 2017 Mar;55(3):200-208.)
があります。
甲状腺腫瘍の遺伝子パネル検査
※長崎甲状腺クリニック(大阪)では、遺伝子パネル検査に対応しておりません。
これまで病理検査では鑑別困難だった甲状腺結節(甲状腺のしこり)に、次世代シーケンシング(NGS) を用いた遺伝子パネル検査を行い診断する試みが始まっています。
アメリカでは甲状腺腫瘍に特化したNGS遺伝子パネル検査が開発され、病理診断に応用されています。
甲状腺腫瘍は遺伝子変異量が少なく、原因遺伝子がある程度絞り込まれているため(甲状腺癌の遺伝子変異)、NGS遺伝子パネル検査を併用すれば診断精度は上がるでしょう。
甲状腺乳頭癌のBRAF遺伝子変異、RET遺伝子再配列(変異でなく再配列)のような初心者でも知っている典型的な遺伝子変異を検出して(BRAF遺伝子変異で甲状腺乳頭癌を診断する試み)、病理検査で鑑別困難・意義不明だった濾胞型甲状腺乳頭癌が診断可能になるでしょう。
ただし、甲状腺癌の遺伝子変異は、組織型が違っても共通しているものが多く(甲状腺癌の遺伝子変異)、NGS遺伝子パネル検査だけですべての診断が確定する訳ではありません。(逆に過信すると誤診を招く危険性もあります)
さらに、甲状腺乳頭癌のTERT遺伝子プロモーター領域の変異を調べれば、悪性度を予測可能になります。
また、NGS遺伝子パネル検査は、これまで困難だった濾胞性腫瘍の鑑別、良性濾胞腺腫と甲状腺濾胞癌を区別するのに有用ですが(濾胞性腫瘍の遺伝子検査)、精度78%、感度76%、特異度80%で完全ではありません。
癌の悪液質は段階によって
- 前悪液質;代謝異常が軽度で、明らかな悪液質の症状を呈さない
- 不可逆的悪液質;高度代謝障害により栄養療法で改善しない終末期
- 悪液質;その中間
に分類されます。
悪液質では、
- がん患者の生活の質(QOL)が著しく低下
- がん化学療法に対する反応性が低下
- 予後を悪化させる。死亡率が増加
します。
甲状腺では特に甲状腺未分化癌(ATC)が悪液質を起こします。
しかし、意外にも、甲状腺に限らず癌の悪液質患者では、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)になり難いとの報告があります(Tumori. 1989 Apr 30;75(2):185-8.)。
さらに、悪液質患者で生じる低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)は、低栄養によるもので、良性疾患の低栄養による場合と変わらないとされます(Ann Surg. 1985 Jan;201(1):45-52.)。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、「甲状腺癌と放射線治療」に関するセカンドオピニオンはお断りしております。
甲状腺癌全摘出後のI-131 アブレーション治療 を御覧ください。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。