亜急性甲状腺炎 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
亜急性甲状腺炎の診療停止について
日本での新型コロナウイルス感染が完全に終息するまで亜急性甲状腺炎の診療は停止(ステロイド投与中のコロナ感染は重症化するため)。
亜急性甲状腺炎のステロイド治療は、新型コロナウイルス感染にすぐ対処できるよう、コロナ病棟のある病院で行った方が良いと思います。
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
Summary
亜急性甲状腺炎は30-40歳代女性に多く、80%以上でHLA-B*35陽性、約50%で1ヶ月以上前に上気道ウイルス感染。症状は発熱・甲状腺のはれ・移動性の痛み、甲状腺中毒症状。診断は炎症反応(白血球・CRP上昇)、甲状腺超音波(エコー)検査で痛みに一致して硬い低エコー領域。甲状腺穿刺細胞診/組織診で多核巨細胞(中等度出現)/類上皮細胞(多数出現)、好中球浸潤。バセドウ病・橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行する事あり。副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)劇的に効く、ロキソニンなど抗炎症薬(NSAIDs)で対症療法も。一時的または永続的に甲状腺機能低下症になる事も。
Keywords
亜急性甲状腺炎,甲状腺,エコー,原因,症状,検査,治療,ステロイド,バセドウ病,HLA
亜急性甲状腺炎は30歳代、40歳代の女性に多く、女性は男性の12倍です。
甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンが多い状態)のほとんど(約8割)はバセドウ病です。亜急性甲状腺炎の割合は10%弱(8.4%)とされます。バセドウ病に亜急性甲状腺炎を合併する稀な状態が1%未満(0.3%)あります(亜急性甲状腺炎とバセドウ病合併/移行)。(第61回 日本甲状腺学会 O27-2 印旛地域における7年間の甲状腺中毒症の原因疾患頻度)
亜急性甲状腺炎は
- 夏に多く、冬にもみられ、約50%で上気道感染(感冒、のどの炎症)後に起こるため、ウイルス感染後におこる過剰な免疫反応と考えられます。原因ウイルスは、
①夏に多いエンテロウイルス(エコーウイルス、コクサッキーウイルス)、アデノウイルス(プール熱など)
②冬に多いインフルエンザウイルス、ライノウイルス(鼻風邪)
③通年性のサイトメガロウイルス、エプスタイン‐バールウイルス(EBウイルス)、ムンプスウイルス[流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)]、風疹ウイルスなど何であっても構わない)
④(イタリア、トルコでは)新型コロナウイルス
⑤インフルエンザワクチン接種でも;不活化されたインフルエンザウイルスなので、不思議ではありません。(Kaohsiung J Med Sci. 2006 Jun;22(6):297-300.)
⑥B型肝炎ウイルスワクチン接種でも(Endocr J. 1998 Feb;45(1):135.)
- 組織適合性抗原HLA-B*35:01、HLA-B*67:01に関連が強いとされ、この遺伝子型を持つ人に特に起こりやすいとされます(亜急性甲状腺炎の83-87%でHLA-B*35陽性)。
ウイルス抗原と甲状腺細胞抗原が似た構造をしていると、免疫細胞である細胞障害性T細胞が、両者を同じと認識し攻撃するためと考えられます(交差反応、交差認識)。
一般的な亜急性甲状腺炎の症状は、
- 発熱(実際は無熱性~38度以上の高熱まで様々)
- 甲状腺の腫れ(はれ);外から見て分かる事も、分からない事もある
- 痛み;左右どちらかから始まり、他方へだんだん移動していきます(クリーピング)。痛みがある部分は硬く、「癌より癌らしい硬さ」といわれます。
(実際は無痛性、非常に軽度の痛みの事も多い Thyroid. 2001 Jul;11(7):691-5.) - 甲状腺中毒症:バセドウ病ほどではなく、軽度の事多いですが、血中の甲状腺ホルモンが過剰になり、動悸息切れ、発汗、倦怠感などがおこります。
甲状腺の組織が破壊され、内部の甲状腺ホルモンが急激に血液中に放出されるためです。
重度の甲状腺中毒症になるケースもあります。
そもそも亜急性甲状腺炎の炎症は、微弱なものから強烈なものまで千差万別です。そのため、教科書通りの典型的な症状とは限らず、無症状で自然と消えていったり(不顕性型)から、中途半端な症状だったりします。いくら症状に差があっても、甲状腺超音波(エコー)所見はほぼ共通です。
(教科書通りでない亜急性甲状腺炎[①早く見つかり過ぎる亜急性甲状腺炎(先行する頚部腫大/甲状腺中毒症)②甲状腺中毒症無いが、サイログロブリンだけ上昇③何年しても終息しない])
亜急性甲状腺炎の初発症状として発熱に筋痛、関節痛を伴う報告があり、他の病気との鑑別必要です。(Praxis (Bern 1994). 2007 Sep 26;96(39):1483-5.)(Acta Med Port. 2011 Sep-Oct;24(5):821-6.)。中には、頚部痛の無い発熱・筋痛・関節痛だけの亜急性甲状腺炎の報告があります(Kaku Igaku. 1992 Dec;29(12):1475-8.)。
亜急性甲状腺炎の検査・診断は①炎症反応:白血球(WBC)・CRP上昇②甲状腺超音波(エコー)検査で痛みがある所が炎症の強い部分(エコー輝度が低く黒色、癌より癌らしい硬さでエラストグラフィーは青色)③診断付かない場合、甲状腺穿刺細胞診で多核巨細胞/類上皮細胞/好中球浸潤④最終手段は組織生検。甲状腺未分化癌、甲状腺原発悪性リンパ腫、甲状腺乳頭癌、のう胞内出血急性化膿性甲状腺炎、橋本病急性増悪などと鑑別診断要。
亜急性甲状腺炎の検査・診断は
- 炎症反応:白血球(WBC)・CRPの上昇
- 甲状腺超音波(エコー)検査で亜急性甲状腺炎に特徴的な所見;痛みがある・あるいはあった炎症の強い部分は、エコー輝度が低く、黒色に見えます。同部は
①急性期には血流が乏しく、ドプラーモードで無血流になります(回復期には血流増加)
②硬く(癌より癌らしい硬さ)、エラストグラフィーにて青く見えます。)
- どうしても診断付かない場合、甲状腺穿刺細胞診で免疫細胞である多核巨細胞(中等度出現)/類上皮細胞(多数出現)と、好中球(急性炎症の白血球)の浸潤を証明。次項の組織生検で分かるように、多核巨細胞/類上皮細胞は、それ程、数が多くないので、(筆者の経験では)穿刺細胞診で検出できない事が多いです。
また、多核巨細胞は結節性橋本病(橋本病結節)や甲状腺乳頭癌でも見つかります。
- 最終手段は組織生検。
甲状腺穿刺細胞診でも亜急性甲状腺炎の診断付かない場合、あるいは癌性リンパ管炎を否定できない場合、組織生検になります。写真は、病理コア画像[日本病理学会(Japanese Society of Pathology) 教育委員会編集]より引用したものです。
亜急性甲状腺炎とバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)の合併/移行がある。亜急性甲状腺炎の経過中、TSH受容体抗体(TRAb)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)が陽性なら①元々存在した②誘発された。亜急性甲状腺炎が終息後、これら抗体は持続もしくは一過性で消失。甲状腺の痛みが消失、CRPも陰性化したのにFT4・特にFT3が上昇する場合、バセドウ病を疑う。萎縮性甲状腺炎への移行もある。TRAbのみ陽性化し、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発症しない事も。橋本病の甲状腺に起きた亜急性甲状腺炎はエコー診断難。
亜急性甲状腺炎の
- 発見時(同時、ただ発症時に併存していたか不明)(Case Rep Endocrinol. 2018 Oct 30;2018:3210317.)
- 経過中
- 数ヶ月後から数年後(Clin Endocrinol (Oxf). 1998 Apr; 48(4):445-53.)
にバセドウ病の自己免疫抗体(TSH受容体抗体:TRAb)、橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)もしくは抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が、血液検査で検出されることがあります。
その理由として、
- 既にバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)である人が亜急性甲状腺炎になった
(第55回 日本甲状腺学会 P2-08-03 バセドウ病診断時に亜急性甲状腺炎を合併していた1 例)
(第54回 日本甲状腺学会 P075 バセドウ病に亜急性甲状腺炎が合併した症例と無痛性甲状腺炎が合併した症例の甲状腺機能の相違)
- もともとバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)の素因のある人で、
①亜急性甲状腺炎により破壊され血中へ放出された甲状腺濾胞細胞(もしくは細胞成分)が抗原となり自己免疫反応が誘発された
②亜急性甲状腺炎の炎症性サイトカイン(サイトカインストーム)が原因で、自己免疫反応が誘導された
③ステロイドを減量する際、リバウンド的に自己免疫反応が誘導された(筆者の印象では、急激にステロイド剤を減量する報告に多いような気がします。例えば、プレドニゾロン20mgを5日後に10mgにする)
(第55回 日本甲状腺学会 P2-08-02 亜急性甲状腺炎からバセドウ病を発症した比較的高齢女性の1 例)
(第56回 日本甲状腺学会 P1-048 亜急性甲状腺炎の加療中にバセドウ病を発症した一例)
と考えられます。HLAタイピングでB35とDR3を検出、亜急性甲状腺炎とバセドウ病の両方に対する遺伝的感受性を認めた報告があります(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)(Thyroid. 2011 Dec;21(12):1397-400.)。
亜急性甲状腺炎終息後、
- ほとんどはTSH受容体抗体(TRAb)・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)消失
- TSH受容体抗体(TRAb)・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)残存し、バセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行
※バセドウ病抗体については下記参照
(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)(Clin Endocrinol (Oxf). 1998 Apr;48(4):445-53.)(Intern Med. 2003 Aug;42(8):704-9.)
しかし、伊藤病院の報告では抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性亜急性甲状腺炎患者の50%が持続陽性、50%が陰性化(第54回 日本甲状腺学会 P098 亜急性甲状腺炎(SAT)での自己抗体の推移)
どの様な時に、亜急性甲状腺炎のバセドウ病への移行を疑えば良いでしょうか?
- プレドニゾロン(PSL)開始し、甲状腺の痛み消失しCRPも陰性化したのに、FT3、FT4(特にFT3)が上昇する場合(通常は低下します)に。
(第57回 日本甲状腺学会 P2-018 亜急性甲状腺炎が誘因となり発症したバセドウ病の1 例)
(第61回 日本甲状腺学会 O19-3 亜急性甲状腺炎の発症から、徐々にBasedow病が顕在化してく る病態を継時的に観察し得た一例)
- 亜急性甲状腺炎の発症時から、TSH受容体抗体(TRAb)陽性、あるいはFT3優位の甲状腺中毒症(破壊性変化が勝る場合はFT4優位)、アイソトープ検査(99mTcシンチグラフィー、I-123 シンチグラフィーでバセドウ病パターン、あるいは亜急性甲状腺炎の炎症巣で取り込み欠損・非炎症巣で摂取率高値)。
(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)(Clin Endocrinol (Oxf). 1998 Apr;48(4):445-53.)(Intern Med. 2003 Aug;42(8):704-9.)
「有痛性バセドウ病」の中には亜急性甲状腺炎とバセドウ病の合併が含まれると筆者は考えています。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、亜急性甲状腺炎のバセドウ病への移行を見逃さないため、初診の方には、FT3と破壊/バセドウ病の活動性を示すサイログロブリンも測定します。
萎縮性甲状腺炎は、本来バセドウ病抗体であるTSHレセプター抗体(TR-Ab)が甲状腺を刺激する事無く、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の甲状腺への結合を阻害し甲状腺機能低下症おこす病気です(萎縮性甲状腺炎)。この時のTR-Abは、特殊型のTSB-Ab(TSHレセプター抗体[阻害型])です。
実は、TSB-Abは亜急性甲状腺炎の急性期(破壊期)には既に陽性になっていて、破壊による甲状腺中毒症にマスクされているとの報告があります(Endocr J. 1996 Apr;43(2):185-9.)。
埼玉医科大学の報告では、亜急性甲状腺炎の急性期にTRAb 17.6 IU/Lと強陽性、回復期(低下期)には、TSB-Ab 99.2 %(>31.7%)・TSAb 221%(>120%)となり、1年以上を経過しても甲状腺機能低下症が続いているそうです(第59回 日本甲状腺学会 P2-2-4 一過性にTRAb 高値を示し、1年以上甲状腺機能低下症が持続する亜急性甲状腺炎の一例)。
亜急性甲状腺炎の回復期に甲状腺機能低下症になった場合、
- 患者の約20%でTSB-Ab(TSHレセプター抗体[阻害型])が陽性になり、1.2~3.5年の甲状腺ホルモン補充療法を必要とした。最終的にTSB-Abは消失し、甲状腺機能は正常に。
- TSB-Abが陰性なら、甲状腺機能低下症は一過性の事が多かった(2〜6ヶ月間)
とされます(J Clin Endocrinol Metab 73: 245-250, 1991.)。
ただし、急性期にはTR-Abの有無に関わらず甲状腺中毒症の状態で、回復期(低下期)には甲状腺組織が破壊された影響で甲状腺機能低下症になるのは、よくある事です。甲状腺組織の破壊が重度であれば、永続性の甲状腺機能低下症になります(下記、亜急性甲状腺炎の転帰 参照)。
バセドウ病抗体(TRAb)のみ陽性になり、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発症しない・一過性で終息する場合もあります。亜急性甲状腺炎の
- 約2.3%で第1世代バセドウ病抗体(TBIAb)が陽性
- 約1.2%はバセドウ病抗体(TBIAb)が陽性でも甲状腺機能正常
- 約0.09%はTSAbが陽性で甲状腺機能亢進症/バセドウ病になるか、TSBAbが陽性で萎縮性甲状腺炎(甲状腺機能低下症)になり、その後、最終的に抗体は消失し甲状腺機能正常に。
- 約0.02%はTSAbが陽性で、そのまま甲状腺機能亢進症/バセドウ病が継続するか、TSBAbが陽性で萎縮性甲状腺炎(甲状腺機能低下症)が継続する
(Clin Endocrinol (Oxf). 1998 Apr; 48(4):445-53.)
兵庫県立加古川医療センターの報告では、
- 症例1;血液検査でTSH 0.003μIU/ml,FT4 1.66ng/dl,FT3 4.45pg/ml,CRP 1.95mg/dlと破壊性甲状腺炎のパターン。後日TRAb 3.4IU/L(<2.0)が判明、99mTcシンチグラフィでは右葉に集積。プレドニゾロン漸減・投薬中止後も甲状腺機能は正常を維持(TRAb が、その後下がったか不明)。
- 症例2;TSH 0.003μIU/ml,FT4 3.03ng/dl,FT3 9.21pg/ml,CRP 3.09mg/dlと甲状腺機能はバセドウ病パターン。初診時TRAb 1.1IU/L(<2.0)とグレーゾーン、1ヶ月後8.6 IU/Lまで上昇、99mTcシンチグラフィでは右葉に集積。プレドニゾロン漸減・投薬中止と後、一時的に甲状腺機能低下になったが、甲状腺機能は正常を維持(TRAb が、その後下がったか不明)。
(第60回 日本甲状腺学会 P1-3-3 TRAb陽性を認めバセドウ病との鑑別を要した亜急性甲状腺炎の2例 )
ただ単に、TRAbのみ陽性になっただけか、実際に甲状腺機能亢進症/バセドウ病になったのか、前項の99mTcシンチグラフィで、はっきりする可能性があります。
橋本病(慢性甲状腺炎)の甲状腺は超音波(エコー)画像は、内部が粗雑・不均一で低エコー領域も多い。その上に亜急性甲状腺炎の変化が重なっても、典型的な亜急性甲状腺炎の超音波(エコー)画像にならないため、エコー診断は難しいです。[J Adolesc Health Care. 1988 Sep;9(5):434-5.]
むしろ、臨床経過や血液検査所見の方が、亜急性甲状腺炎を疑う根拠になります。
それでも橋本病に発生する甲状腺原発悪性リンパ腫との鑑別が難しい場合があります[J Clin Ultrasound. 1997 Jun;25(5):279-81.]。
最後は、甲状腺穿刺細胞診で免疫細胞である多核巨細胞(中等度出現)/類上皮細胞(多数出現)と、好中球(急性炎症の白血球)の浸潤を証明すれば確定します。
しかし、亜急性甲状腺炎が発症する前から、橋本病で定期的な超音波(エコー)検査を行っていた場合、過去の画像と対比できるため診断は容易になります。
亜急性甲状腺炎のリンパ節腫大を悪性リンパ腫と間違えない
亜急性甲状腺炎の頚部リンパ節腫大が悪性リンパ腫の様に見える場合があります。甲状腺内の低エコー領域も甲状腺原発悪性リンパ腫と鑑別が必要なので、益々紛らわしくなります。
亜急性甲状腺炎の治療と転帰
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)が劇的に効き、2-3日で痛み消え、熱下がり治ったように錯覚。服薬中止で1週間以内に元に戻る。ステロイドをゆっくり着実に減量し平均3-4か月。70歳以上の高齢者には使い難い。抗甲状腺薬無効。ロキソニンなど抗炎症薬は対症療法で、亜急性甲状腺炎自体の炎症を抑えない。再発率は20-30%、1年後以上の再発は1-2%でHLA-B35が関与。53.6%が6カ月以内に一時的に甲状腺機能低下症。永続的甲状腺機能低下症は5.9%、副腎皮質ホルモン剤で回避率上がる。バセドウ病、Tg抗体・TPO抗体陽性で橋本病(慢性甲状腺炎)に移行もある。
亜急性甲状腺炎の治療
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)が劇的に効きます。たいてい服薬開始後、2-3日で、痛みも消え、熱も下がり、治ったような錯覚に陥ります。これにだまされ、服薬中止すれば(患者の自己判断・治療経験のない医者)、1週間以内に元の症状になり、最初からステロイドをやり直さねばなりません。最善の方法は、エコー所見で改善しているか確認しながらステロイドをゆっくり着実に減量する事です。(平均3-4か月は掛かります。)
具体的には、長崎甲状腺クリニック(大阪)でしかできない亜急性甲状腺炎の治療プロトコル をご覧ください。
ロキソニンなどの抗炎症薬(NSAIDs)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に使う抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)は効きません。
ロキソニンなどの抗炎症薬は、痛みを和らげる・熱を下げる対症療法で、亜急性甲状腺炎自体の炎症を抑えません。
- 副作用などが危惧され、高齢(次項)で、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の平均3-4か月投与が行えない
- 本当に存在する数年かかっても完全治癒しない亜急性甲状腺炎
- 非常に軽度の亜急性甲状腺炎で、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を投与しなくても自然治癒する可能性高い
時などに使用。ただし、1. 2. の場合、破壊され尽くして永続的甲状腺機能低下症になるのは覚悟せねばなりません。
齲歯(虫歯)治療中の方に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与はできません。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、齲歯(虫歯)治療中の方に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与はできません。他の甲状腺専門医施設では、気にせず副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与する所もあるでしょう。
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を20mgから開始し、数か月投与すると、正常な免疫も抑えられ、日和見感染(通常では感染しないような弱毒菌で重篤な感染症)起こす危険が生じます。齲歯(虫歯)治療中は、傷口から口腔内の弱毒菌が血中へ入り日和見感染→感染性心内膜炎に至ります(糖尿病と歯周病⇒急性化膿性甲状腺炎・全身膿瘍・感染性心内膜炎)。
高齢者への副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与
高齢者に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を長期投与(亜急性甲状腺炎の場合3-4ヶ月)した場合、感染症の誘発(特に結核既往歴のある場合)、ステロイド糖尿病、ステロイド骨粗鬆症、ステロイド高血圧症、ステロイド白内障、ステロイド緑内障等の副作用が現れ易いので要注意。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、70歳以上の高齢者への副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を投与は避けるようにしています。
73歳、女性、特に易感染性が無いのに、通常量より少な目15mg/日のプレドニゾロンで肺炎を併発した亜急性甲状腺炎の報告があります。セフトリアキソンナトリウム水和物点滴、トフスロキサシントシル 酸塩を内服投与、プレドニゾロンを3日おきに減量・中止し、軽快したそうです。(第61回 日本甲状腺学会 O19-5 ステロイド治療中に肺炎を併発し、地域連携医療を必要とした亜急性甲状腺炎の一例)
60歳台への副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与
60歳台は、さほど高齢でも、中年でもない、中途半端な年齢です。
- 38度以上の熱発が数週間(少なくとも1週間以上)下がらない、NSAIDsで下がっても、効果切れるとすぐに38度以上になる場合
- 甲状腺中毒症が重篤な亜型で、かつ喘息などの理由でβブロッカー使用できない場合
などは、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を投与せざる得ないでしょう。長期投与(3-4ヶ月)の合併症も考慮し、場合によっては
- 免疫不全によるニューモシスチス肺炎の予防にST合剤
- 糖尿病内科でインスリン自己注射指導
- ステロイド骨粗鬆症予防のビスフォスフェート
- 降圧薬
- 眼科共観
が必要です。
- 熱発軽減
- 痛み僅か
- 副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)のリスク大きい)
なら、ステロイドの3-4ヶ月投与リスクを十分説明し、甲状腺機能正常化するかもしれないが、甲状腺全体が破壊され尽くし、永続的甲状腺機能低下症もあり得るのを納得していただいた上で、経過観察が最良と思います。
ロキソニン、カロナールなどの非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)は
- 37度台でも倦怠感強い人
- わずかな痛みでも抑えたい人
が頓服で飲めばよいでしょう。
某甲状腺専門病院のホームページには「自然に治る病気ですので、慢性化することはなく、再発もめったにありません。」と楽観的なことが書かれています(甲状腺専門医制度が作られる以前、適当に甲状腺診療が行われていた時代の遺物か?)。
確かに、自然軽快する亜急性甲状腺炎が存在しますが、現実には、そんな簡単なものだけではありません。
- 亜急性甲状腺炎の再発
- 亜急性甲状腺炎の10年以上してからの再発
- 本当に存在する数年かかっても完全治癒しない亜急性甲状腺炎
- 永続的甲状腺機能低下症
- バセドウ病に移行することあり、日本甲状腺学会では毎年、どこかの施設が亜急性甲状腺炎からバセドウ病へ移行した症例を報告しています。
これは、もともとバセドウ病の素因のある人の自己免疫反応が、破壊され血中へ放出された甲状腺濾胞細胞が抗原となり誘発されるためと考えられます。HLA遺伝子は亜急性甲状腺炎のHLA-B35とバセドウ病のHLA-DR3両方を持っていた報告があります(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)。
- 亜急性甲状腺炎終息後も抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)残存し、橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行。ただし、亜急性甲状腺炎発症前の甲状腺の状態が分らない限り、最初から抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性で、橋本病(慢性甲状腺炎)だった可能性を否定できません。
- 腺腫様甲状腺腫になる
亜急性甲状腺炎の再発率は20-30%でかなり高く、ステロイドの最大容量を増やし、慎重に減量せねばなりません。亜急性甲状腺炎再発リスクはHLA遺伝子(組織適合性抗原)依存性で、特異的なHLA-B*35に加えHLA-B*18:01、DRB1*01、C*04:01が関連するとされます(Int J Mol Sci. 2019 Mar 3;20(5):1089.)。
亜急性甲状腺炎の1年後以上の再発は1-2%あるとされ、長崎甲状腺クリニック(大阪)でも10-20年後に再発した亜急性甲状腺炎がありました。10年以上して再発する亜急性甲状腺炎は組織適合性抗原HLA-B35遺伝子に加えHLA-C3やHLA-A26が関連するされます(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)。HLA遺伝子は生涯変わる事はないため、再発しても不思議ではありません。
2回目の亜急性甲状腺炎は、1回目に比べて症状は軽くなります。
53.6%が発症後6カ月以内に一時的に甲状腺機能低下症になるが、永続的甲状腺機能低下症になるのは5.9%。副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)使用で永続的甲状腺機能低下症になる確率は下がります。
永続的甲状腺機能低下症になった人は全員、甲状腺の左右両側に低エコー領域があり、最終的に甲状腺は萎縮したそうです。(J Endocrinol Invest. 2009 Jan;32(1):33-6.)
伊藤病院の報告では、理由は不明ですが、永続的甲状腺機能低下症になるのは男性が多いそうです。(第65回 日本甲状腺学会 O8-3 亜急性甲状腺炎治癒後に永続性甲状腺機能低下症に至る症例の特徴の検討)
甲状腺全体が破壊され尽くし、永続的甲状腺機能低下症になった亜急性甲状腺炎の方も長崎甲状腺クリニック(大阪)におられます。また、 亜急性甲状腺炎発症前の甲状腺の状態が分らない限り、最初から甲状腺機能低下症だった可能性を否定できません。
上記のような事にならなくても、亜急性甲状腺炎により甲状腺組織が破壊された後、代償的に組織増殖が起こると、
- のう胞変性;甲状腺組織が溶けてしまい、空洞ができます。
- 代償的に組織が増殖し、腺腫様結節(過形成結節)→腺腫様甲状腺腫
が生じます。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、亜急性甲状腺炎が終息後数カ月で、念のため甲状腺超音波(エコー)検査を施行するようにしています。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,天王寺区,浪速区,生野区も近く。