亜急性甲状腺炎 [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 内分泌 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺の基礎知識を、初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪市東住吉区)院長が解説します。
高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 甲状腺編 part3 を御覧ください。
亜急性甲状腺炎の性別・年齢層,原因,症状,検査,ステロイド治療,再発を解説。亜急性甲状腺炎の80%以上でHLA-B*35陽性、約50%で1ヶ月以上前に上気道感染。発熱・甲状腺のはれ・移動性の痛み、痛みに一致して低エコー領域。バセドウ病へ移行することあり。副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)が劇的に効く。
亜急性甲状腺炎は30歳代、40歳代の女性に多く、女性は男性の12倍です。
亜急性甲状腺炎は
- 夏に多く、冬にもみられ、約50%で1ヶ月以上前に上気道疾患(呼吸器の病気)にかかっていて、ウイルス感染後におこる過剰な免疫反応と考えられます。(ウイルスは、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルス、ムンプスウイルスなど何であっても構わない)
- 組織適合性抗原HLA-B*35:01、HLA-B*67:01に関連が強いとされ、この遺伝子型をもつ人に特に起こりやすいとされます(亜急性甲状腺炎の83-87%でHLA-B*35陽性)。
亜急性甲状腺炎の症状は、
- 発熱
- 甲状腺のはれ、痛みで、左右どちらかから始まり、他方へだんだん移動していきます。痛みがある部分は硬く、「癌より癌らしい硬さ」といわれます。
- 甲状腺中毒症:バセドウ病ほどではありませんが、血中の甲状腺ホルモンが過剰になり、動悸息切れ、発汗、倦怠感などがおこります。
甲状腺の組織が破壊され、内部の甲状腺ホルモンが急激に血液中に放出されるためです。
亜急性甲状腺炎の診断は
- 炎症反応:血中CRPの上昇
- 甲状腺超音波(エコー)検査で亜急性甲状腺炎に特徴的な所見(痛みがある・あるいはあった所が炎症の強い部分で、エコー輝度が低く、黒色に見えます。同部は硬く(癌より癌らしい硬さ)、エラストグラフィーにて青く見えます。)
- どうしても診断付かない場合、甲状腺穿刺細胞診で免疫細胞である多核巨細胞(中等度出現)/類上皮細胞(多数出現)と、好中球(急性炎症の白血球)の浸潤を証明。次項の組織生検で分かるように、多核巨細胞/類上皮細胞は、それ程、数が多くないので、(筆者の経験では)穿刺細胞診で検出できない事が多いです。
また、多核巨細胞は結節性橋本病結節や甲状腺乳頭癌でも見つかります。
- 最終手段は組織生検。
甲状腺穿刺細胞診でも亜急性甲状腺炎の診断付かない場合、あるいは癌性リンパ管炎を否定できない場合、組織生検になります。写真は、病理コア画像[日本病理学会(Japanese Society of Pathology) 教育委員会編集]より引用したものです。
亜急性甲状腺炎の経過中、バセドウ病の自己免疫抗体(TSH受容体抗体:TRAb)、橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)もしくは抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が、血液検査で検出されることがあります。
- 既にバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)のひとが亜急性甲状腺炎になった
- もともとバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)の素因のある人の自己免疫反応が、亜急性甲状腺炎で破壊され血中へ放出された甲状腺濾胞細胞(もしくは細胞成分)が抗原となり誘発された
と考えられます。亜急性甲状腺炎終息後、
- ほとんどはTSH受容体抗体・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)消失
- TSH受容体抗体・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)残存し、バセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行
どの様な時に、亜急性甲状腺炎のバセドウ病への移行を疑うか
どの様な時に、亜急性甲状腺炎のバセドウ病への移行を疑えば良いでしょうか?
- プレドニゾロン(PSL)開始し、甲状腺の痛み消失しCRPも陰性化したのに、FT3、FT4(特にFT3)が上昇する場合(通常は低下します)に。
(第57回 日本甲状腺学会 P2-018 亜急性甲状腺炎が誘因となり発症したバセドウ病の1 例)
(第61回 日本甲状腺学会 O19-3 亜急性甲状腺炎の発症から、徐々にBasedow病が顕在化してく る病態を継時的に観察し得た一例)
- 亜急性甲状腺炎の発症時から、TSH受容体抗体(TRAb)陽性、あるいはFT3優位の甲状腺中毒症(破壊性変化が勝る場合、FT4優位)。
「有痛性バセドウ病」の中には亜急性甲状腺炎とバセドウ病の合併が含まれると筆者は考えています。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では亜急性甲状腺炎のバセドウ病への移行を見逃さないため、初診の方には、FT3と破壊/バセドウ病の活動性を示すサイログロブリンも測定します。
萎縮性甲状腺炎への移行もあり
萎縮性甲状腺炎は、本来バセドウ病抗体であるTSHレセプター抗体(TR-Ab)が甲状腺を刺激する事無く、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の甲状腺への結合を阻害し甲状腺機能低下症おこす病気です。この時のTR-Abは、特殊型のTSB-Ab(TSHレセプター抗体[阻害型])です。
埼玉医科大学の報告では、亜急性甲状腺炎の急性期にTRAb 17.6 IU/Lと強陽性、回復期(低下期)には、TSB-Ab 99.2 %(>31.7%)・TSAb 221%(>120%)となり、1年以上を経過しても甲状腺機能低下症が続いているそうです(第59回 日本甲状腺学会 P2-2-4 一過性にTRAb 高値を示し、1年以上甲状腺機能低下症が持続する亜急性甲状腺炎の一例)。
最も、急性期にはTR-Abの有無に関わらず甲状腺中毒症の状態で、回復期(低下期)には甲状腺組織が破壊された影響で甲状腺機能低下症になるのは、よくある事です。甲状腺組織の破壊が重度であれば、永続性の甲状腺機能低下症になる事もあります(下記、亜急性甲状腺炎の転帰 参照)。
亜急性甲状腺炎の治療
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)が劇的に効きます。たいてい服薬開始後、2-3日で、痛みも消え、熱も下がり、治ったような錯覚に陥ります。これにだまされ、服薬中止すれば(患者の自己判断・治療経験のない医者)、1週間以内に元の症状になり、最初からステロイドをやり直さねばなりません。最善の方法は、エコー所見で改善しているか確認しながらステロイドをゆっくり着実に減量する事です。(平均3-4か月は掛かります。)
具体的には、長崎甲状腺クリニック(大阪)でしかできない亜急性甲状腺炎の治療プロトコル をご覧ください。
ロキソニンなどの抗炎症薬(NSAIDs)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に使う抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)は効きません。
ロキソニンなどの抗炎症薬は、痛みを和らげる・熱を下げる対症療法で、亜急性甲状腺炎自体の炎症を抑えません。
- 副作用などが危惧され、高齢(次項)で、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の平均3-4か月投与が行えない
- 本当に存在する数年かかっても完全治癒しない亜急性甲状腺炎
- 非常に軽度の亜急性甲状腺炎で、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を投与しなくても自然治癒する可能性高い
時などに使用。ただし、1. 2. の場合、破壊され尽くして永続的甲状腺機能低下症になるのは覚悟せねばなりません。
齲歯(虫歯)治療中の方に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与はできません。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、齲歯(虫歯)治療中の方に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与はできません。他の甲状腺専門医施設では、気にせず副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与する所もあるでしょう。
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を20mgから開始し、数か月投与すると、正常な免疫も抑えられ、日和見感染(通常では感染しないような弱毒菌で重篤な感染症)起こす危険が生じます。齲歯(虫歯)治療中は、傷口から口腔内の弱毒菌が血中へ入り日和見感染→感染性心内膜炎に至ります(糖尿病と歯周病⇒急性化膿性甲状腺炎・全身膿瘍・感染性心内膜炎)。
高齢者への副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与
高齢者に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を長期投与(亜急性甲状腺炎の場合3-4ヶ月)した場合、感染症の誘発(特に結核既往歴のある場合)、ステロイド糖尿病、ステロイド骨粗鬆症、ステロイド高血圧症、ステロイド白内障、ステロイド緑内障等の副作用が現れ易いので要注意。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、70歳以上の高齢者への副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を投与は避けるようにしています。
73歳、女性、特に易感染性が無いのに、通常量より少な目15mg/日のプレドニゾロンで肺炎を併発した亜急性甲状腺炎の報告があります。セフトリアキソンナトリウム水和物点滴、トフスロキサシントシル 酸塩を内服投与、プレドニゾロンを3日おきに減量・中止し、軽快したそうです。(第61回 日本甲状腺学会 O19-5 ステロイド治療中に肺炎を併発し、地域連携医療を必要とした亜急性甲状腺炎の一例)
60歳台への副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)投与
60歳台は、さほど高齢でも、中年でもない、中途半端な年齢です。
- 38度以上の熱発が数週間(少なくとも1週間以上)下がらない、NSAIDsで下がっても、効果切れるとすぐに38度以上になる場合
- 甲状腺中毒症が重篤な亜型で、かつ喘息などの理由でβブロッカー使用できない場合
などは、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を投与せざる得ないでしょう。長期投与(3-4ヶ月)の合併症も考慮し、場合によっては
- 免疫不全によるニューモシスチス肺炎の予防にST合剤
- 糖尿病内科でインスリン自己注射指導
- ステロイド骨粗鬆症予防のビスフォスフェート
- 降圧薬
- 眼科共観
が必要です。
- 熱発軽減
- 痛み僅か
- 副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)のリスク大きい)
なら、ステロイドの3-4ヶ月投与リスクを十分説明し、甲状腺機能正常化するかもしれないが、甲状腺全体が破壊され尽くし、永続的甲状腺機能低下症もあり得るのを納得していただいた上で、経過観察が最良と思います。
ロキソニン、カロナールなどの非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)は
- 37度台でも倦怠感強い人
- わずかな痛みでも抑えたい人
が頓服で飲めばよいでしょう。
某甲状腺専門病院のホームページには「自然に治る病気ですので、慢性化することはなく、再発もめったにありません。」と楽観的なことが書かれていますが、現実は異なります。
- 53.6%が発症後6カ月以内に一時的に甲状腺機能低下症になるが、永続的甲状腺機能低下症になるのは5.9%。副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)使用で永続的甲状腺機能低下症になる確率は下がります。
永続的甲状腺機能低下症になった人は全員、甲状腺の左右両側に低エコー領域があり、最終的に甲状腺は萎縮したそうです。(J Endocrinol Invest. 2009 Jan;32(1):33-6.)
- 甲状腺全体が破壊され尽くし、永続的甲状腺機能低下症になった亜急性甲状腺炎の方も長崎甲状腺クリニック(大阪)におられます。また、 亜急性甲状腺炎発症前の甲状腺の状態が分らない限り、最初から甲状腺機能低下症だった可能性を否定できません。
- 亜急性甲状腺炎の1年後以上の再発は1-2%あるとされ、長崎甲状腺クリニック(大阪)でも20年後に再発した亜急性甲状腺炎がありました。亜急性甲状腺炎は組織適合性抗原HLA-B*35:01、HLA-B*67:01に関連が強いとされ、HLAの型は遺伝子で決まっているため、再発しても不思議ではありません。
- 2回目の亜急性甲状腺炎は、1回目に比べて症状は軽くなります。
- バセドウ病に移行することあり、日本甲状腺学会では毎年、どこかの施設が亜急性甲状腺炎からバセドウ病へ移行した症例を報告しています。
これは、もともとバセドウ病の素因のある人の自己免疫反応が、破壊され血中へ放出された甲状腺濾胞細胞が抗原となり誘発されるためと考えられます。
- 亜急性甲状腺炎終息後も抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)残存し、橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行。ただし、亜急性甲状腺炎発症前の甲状腺の状態が分らない限り、最初から抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性で、橋本病(慢性甲状腺炎)だった可能性を否定できません。
上記のような事にならなくても、ある程度、甲状腺に破壊がおこり、代償的に組織が増殖すると、
- のう胞変性;甲状腺組織が溶けてしまい、空洞ができます。
- 代償的に組織が増殖し、腺腫様結節(過形成結節)
が生じます。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、亜急性甲状腺炎が終息後数カ月で、念のため甲状腺超音波(エコー)検査を施行するようにしています。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,天王寺区,浪速区,生野区も近く。











