バセドウ病と間違える無痛性甲状腺炎 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見④ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、年次開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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甲状腺の病気は一見、首だけのローカルな病気と誤解されますが、実は全身に影響し、他臓器の病気にかかわることが多いのです。
Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病と異なり、無痛性甲状腺炎の甲状腺ホルモン上昇は一過性。無痛性甲状腺炎は橋本病(慢性甲状腺炎)に、過剰なヨード摂取・ストレス(精神的・手術・出産など)・薬剤(リチウム剤・GnRH等)、副腎皮質ホルモンの急激な減少が引き金になりおこる。破壊期は甲状腺ホルモン(FT4, FT3)が上昇し甲状腺中毒症、回復期は低下・正常化。超音波(エコー)像は、炎症部が無血流の低エコー領域、非常に軽い場合、何の変化もなし。治療はベータブロッカーなどで対症療法のみ。長くて約6カ月以内に自然軽快し、2年に3回以上再発、永続性甲状腺機能低下症になる場合も。
Keywords
バセドウ病,無痛性甲状腺炎,橋本病,甲状腺ホルモン,ヨード,甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,症状,治療,再発予防,ストレス
バセドウ病と間違える無痛性甲状腺炎
甲状腺ホルモンの値が高く、甲状腺機能亢進症/バセドウ病とよく間違える無痛性甲状腺炎があります。橋本病(慢性甲状腺炎)に、過剰なヨード摂取・ストレス(精神的・手術・出産など)が引き金になっておこる事が多く、バセドウ病の寛解期(活動性が収まっている時期)にもおき、再発と間違えることがあります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病が持続的に甲状腺ホルモンが高値であるのに対して、無痛性甲状腺炎の甲状腺ホルモン上昇は一過性で、1-3か月の甲状腺ホルモン変化(正常化または低下)をみればおのずと診断がつきます。ただし薬剤性の無痛性甲状腺炎(特に不整脈の薬のアミオダロン、アンカロン®)は最長4年におよぶものもあり注意が必要です。
- 橋本病(慢性甲状腺炎);抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)両者が強陽性なら発症する確率は高い(Postgrad Med. 1989 Oct;86(5):269-72, 277.)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の寛解期(活動性が収まっている時期):再発と間違えることがあります。
- 甲状腺の抗体がない場合でも起り得る
- 甲状腺に病気のない女性の出産後(出産後甲状腺炎)
に、
- 過剰なヨウ素(ヨード)摂取(Nihon Naibunpi Gakkai Zasshi. 1989 Feb 20;65(2):91-8.)(J Endocrinol Invest. 2005 Nov;28(10):876-81.)
- ストレス[精神的・手術/外傷・妊娠/出産(出産後無痛性甲状腺炎)など]
- 薬剤[炭酸リチウム(リーマス®)・インターフェロン・スニチニブ・GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)作動薬・抗てんかん薬・アミオダロン・IL-2 [インターロイキン(Interleukin)-2]、免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害]
- 副腎皮質ホルモンが急激に減少する状態;クッシング症候群(副腎腫瘍摘出後)・クッシング病(下垂体腺腫摘出後)、急過ぎるステロイド製剤の減量/中止
が引き金になっておこる事が多いです。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の寛解期におこる無痛性甲状腺炎
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の寛解期(活動性が収まっている時期)に無痛性甲状腺炎が起きると、バセドウ病の再発と間違えることがあります。バセドウ病の寛解期といえども、バセドウ病抗体(TR-Ab, TS-Ab)が正常化していない場合、鑑別は極めて困難です。最終的には放射線アイソトープ検査の99mTc(テクネチウム)シンチグラフィーまで必要になる事があります。(第54回 日本甲状腺学会 P075 バセドウ病に亜急性甲状腺炎が合併した症例と無痛性甲状腺炎が合併した症例の甲状腺機能の相違)
- 破壊期:甲状腺ホルモンが上昇し、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と同じ症状
- 回復期:甲状腺ホルモンが低下し、甲状腺機能低下症と同じ症状、あるいは・正常化し症状消失。
無痛性甲状腺炎の血液検査所見は、
- 破壊期:甲状腺ホルモン(FT4, FT3)が上昇し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低下する甲状腺機能亢進症/バセドウ病と同じ甲状腺中毒症の血液検査所見
- 回復期:甲状腺ホルモン(FT4, FT3)が低下し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇する甲状腺機能低下症と同じ血液検査所見、あるいは正常化。
ただし、甲状腺ホルモン(FT4, FT3)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の変動には、時間差が存在するため
- 甲状腺ホルモン(FT4, FT3)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)共に上昇(あたかもSITSHの様)
- 甲状腺ホルモン(FT4, FT3)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)共に低下(あたかも中枢性甲状腺機能低下症の様)
する不規則な状態も存在します。
無痛性甲状腺炎 超音波(エコー)画像
無痛性甲状腺炎(軽度)急性期 超音波(エコー)画像
無痛性甲状腺炎(重度)急性期 超音波(エコー)画像
無痛性甲状腺炎の下甲状腺動脈血流速度(ITA-PSV)
無痛性甲状腺炎の急性期の下甲状腺動脈収縮期最大血流速度(ITA-PSV)は、正常~低値です。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の下甲状腺動脈収縮期最大血流速度(ITA-PSV)は正常~異常高値になるのとは対照的です。(無痛性甲状腺炎と甲状腺機能亢進症/バセドウ病との見分け方)
無痛性甲状腺炎(中等度)回復期 超音波(エコー)画像
破壊期→回復期と甲状腺ホルモンが変動するので、治療は対症療法のみ行い無痛性甲状腺炎が沈静化するのを待つしかありません。[動悸がすれば脈を抑えるベータブロッカー(βブロッカー)など]
バセドウ病なのか無痛性甲状腺炎なのか、甲状腺中毒症の原因が不明の場合、診断が決定するまで必要に応じてベータブロッカー(βブロッカー)投与や安静にて経過観察します。
β(ベータ)ブロッカー
β(ベータ)ブロッカーは本来、高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症の薬です。甲状腺ホルモンが過剰な状態では、高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症が起こりやすく、それを防ぐ目的で使用されます。
β1非選択性βブロッカーは、心臓以外にもブロック作用があり、気管支喘息悪化、高血糖(逆に低血糖)などの危険があるため、心臓に選択的に作用するβ1選択性βブロッカーの方が良いです。
長崎甲状腺クリニック(大阪)ではβ1選択性βブロッカー
- ビソプロロールフマル酸塩(商品名:メインテート);ほどよい効果。ただ降圧薬でもあるため、低血圧のひとでは少量投与になります。血圧下がり過ぎると、ふらつきが起こります。腎臓悪い方には使用できません。
- メトプロロール酒石酸塩(商品名:セロケン):腎臓悪い方にも使用できます。徐放剤(商品名:セロケンL)は、甲状腺ホルモン値の低下に伴う心拍数の変化に対応して減量するのが難しいため、通常剤を使用します。
長崎甲状腺クリニック(大阪)で使用しないβブロッカーは、
無痛性甲状腺炎は、通常数ヶ月(回復期(低下期)を入れると長くて約6カ月)以内に自然軽快しますが。、
- 一度おこすと、誘因が除去されない限り、何度も繰り返します。その時の破壊の強さにより、症状が強く出る場合、ほとんど自覚症状なく血液検査で軽い異常のみの場合まで、さまざまです。
複数の施設が公表しているデータでは、2年に3回以上が多いですが、ごく軽いものまでカウントすれば、それ以上であろうとされます。
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行することがあります。
- 何度も大きなのを繰り返すと、そのたびにダメージが蓄積され、永続的な甲状腺機能低下症になります。回復期にエコー輝度が低い(黒い)部分が残る場合、甲状腺内に血流増加がない場合、永続的な甲状腺機能低下症になります。
- アミオダロン誘導性甲状腺中毒症Ⅱ型など特殊な場合、終息するのに数年を要します。
無痛性甲状腺炎の再発を予防するには、
- 過剰なヨード摂取を制限
- ストレスの除去・除去できないストレスには精神安定剤・抗うつ剤
- 原因薬剤中止
短期間(10~14日)で再燃する無痛性甲状腺炎
無痛性甲状腺炎も短期間(10~14日)で再発を繰り返すと、ほとんどバセドウ病と同じような状態です。このような症例には、無痛性甲状腺炎を起こさないような予防策を講じ、効果無ければ甲状腺全摘手術するしかありません。(第54回 日本甲状腺学会 P218 短期間に頻回の再燃、改善を繰り返した無痛性甲状腺炎の一症例から考えるチアマゾール内服、外科的治療の有効性について)
無痛性甲状腺炎おこすたびに低カリウム性周期性四肢麻痺
無痛性甲状腺炎おこすたびに低カリウム性周期性四肢麻痺になる症例が報告れています。筆者自身は見たことありませんが、低カリウム性周期性四肢麻痺の原因が、甲状腺ホルモンによるNa-K ATPaseの活性化による、細胞外から細胞内へのカリウム移動であれば説明つきます(低カリウム血症)。(第54回 日本甲状腺学会 P216 低カリウム性周期性四肢麻痺を頻回に繰り返す無痛性甲状腺炎の一例)
本来の橋本病急性増悪
橋本病急性増悪の発症機序には不明な点が多いです。
本来の橋本病急性増悪は、
- 発熱:大抵37℃台で、高熱とは言えませんが、38℃になる事も。
- 前頚部痛:亜急性甲状腺炎のように移動しません
- 甲状腺中毒:バセドウ病・無痛性甲状腺炎と同じくらい甲状腺ホルモンが高値になります。
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が異常高値(≧4000)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は高値の事も陰性の事も
- 亜急性甲状腺炎と同じく、WBC上昇、CRP軽度陽性
- 甲状腺超音波(エコー)検査で甲状腺はびまん性に腫大、全体が粗雑で低エコー
- 亜急性甲状腺炎と異なりステロイド抵抗性、甲状腺全摘出になる事があります。
- 永続性甲状腺機能低下症に移行
- 再発・遷延例の報告も多く
(第54回 日本甲状腺学会 P145 抗サイログロブリン抗体が強陽性を呈し、穿刺吸引細胞診にて診断に至った橋本病急性増悪の3例)(第55回 日本甲状腺学会 P2-08-07 関節リウマチの治療中に発症した橋本病急性増悪の一例)
無痛性の橋本病急性増悪
本来の橋本病急性増悪と異なるのは、痛みが無い点です。そうなると無痛性甲状腺炎とほぼ同じですが、急激に甲状腺サイズが大きくなり、気道圧排が生じたりする点が無痛性甲状腺炎と異なります。無痛性甲状腺炎は経過観察、甲状腺中毒症の強い場合、ベータブロッカー、ヨウ化カリウム(KI)、副腎皮質ステロイド剤の適応となりますが、橋本病急性増悪は最初から副腎皮質ステロイド剤使用しなければなりません(ステロイド抵抗性の事多いですが・・)。
無痛性の亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、教科書的には、
- 移動する痛みがあり
- 軽度の炎症性変化(WBC上昇、CRP軽度陽性)
- 軽度の甲状腺中毒症
- 甲状腺超音波(エコー)検査で、痛みの部位に一致して低エコーを認めます。同部は硬く、エラストグラフィーにて青く見えます。
しかし、痛みが無い亜急性甲状腺炎が意外に多く存在し、甲状腺超音波(エコー)検査で、低エコーのみを認めます。無痛性甲状腺炎との区別は難ですが、亜急性甲状腺炎の低エコー部は硬く、エラストグラフィーにて鑑別可能な事があります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。