亜急性甲状腺炎と鑑別を要する橋本病急性増悪[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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橋本病急性増悪(初診時)超音波(エコー)画像;甲状腺全体の、びまん性低エコー領域(日本甲状腺学会雑誌 8:46-5, 2017)
Summary
橋本病急性増悪は、亜急性甲状腺炎・急性化膿性甲状腺炎・癌性リンパ管炎(転移性甲状腺癌)、甲状腺原発悪性リンパ腫、甲状腺未分化癌と鑑別要。橋本病急性増悪の亜型は複数あり、発熱、前頚部痛(移動せず)、炎症強いと前頚部の皮膚も発赤、甲状腺中毒症(甲状腺機能正常、低下の事も)、CRP高値(10以上)、抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab)強陽性、甲状腺超音波(エコー)検査で低エコー領域は弾性硬(腫大のみの場合も)、穿刺細胞診はリンパ球優位、ステロイド抵抗性で減量すると再発し、最後は甲状腺全摘出かアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療になる事が多々あり。永続性甲状腺機能低下症に移行。
Keywords
橋本病急性増悪,亜急性甲状腺炎,急性化膿性甲状腺炎,癌性リンパ管炎,鑑別,抗サイログロブリン抗体,穿刺細胞診,橋本病,ステロイド抵抗性,永続性甲状腺機能低下症
橋本病急性増悪(painful Hashimotoʼs thyroiditis)は、その名の通り慢性甲状腺炎である橋本病が急性炎症(急性甲状腺炎と言えるでしょう)に移行した状態です。自己免疫が急激に悪化したのは明白ですが、明確な診断基準が無く、他の破壊性甲状腺炎(特に、橋本病抗体陽性の亜急性甲状腺炎)との鑑別が困難な場合が多いです(Intern Med 45: 351-352, 2006)。
橋本病急性増悪は、ほとんど女性で男性は稀です。発症年齢は39±21歳(Endocrinol Jpn. 1987 Dec;34(6):831-41.)、15歳女性の報告もあります(第64回 日本甲状腺学会 39-4 3年間のステロイド治療後に妊娠を契機に寛解に至った橋本病急性増悪の1例)。
橋本病急性増悪患者の約67%は組織適合性リンパ球抗原(HLA)のDR2を有し、100%がDR4を有していない。(一般的な橋本病患者の逆)(Endocrinol Jpn. 1988 Apr;35(2):231-6.)
橋本病急性増悪の発症機序には不明な点が多いです。
本来の橋本病急性増悪は、
- 発熱:大抵37℃台で、高熱とは言えませんが、38℃になる事も。
- 前頚部痛:亜急性甲状腺炎のように移動しません。しかし、移動した報告も複数あり(日本甲状腺学会雑誌 8:46-5, 2017)
炎症が強いと前頚部の皮膚も発赤し急性化膿性甲状腺炎の様。
- 甲状腺中毒症:バセドウ病・無痛性甲状腺炎と同じくらい甲状腺ホルモンが高値になります。しかし、発症後数日は、甲状腺ホルモン正常の事も。
甲状腺機能正常、甲状腺機能低下症、甲状腺中毒症いずれの場合もあります。(Endocrinol Jpn. 1987 Dec;34(6):831-41.)
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が異常高値(≧4000)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は高値の事も陰性の事も(Modern Physician 35:1113-1115,2015)
- 亜急性甲状腺炎と同じく、WBC上昇、CRP軽度陽性
- 甲状腺超音波(エコー)検査で
発症後数日は、硬くびまん性腫大と、一部低エコー領域(リンパ濾胞)
低エコー領域は甲状腺全体に広がり、粗雑で低エコーな状態
亜急性甲状腺炎のように結節状の場合がある(約17%)(Endocrinol Jpn. 1987 Dec;34(6):831-41.)
- 組織所見;限局性浮腫と炎症、濾胞の破壊と濾胞上皮の変性。顕著な細胞浸潤、肉芽腫性変化を認めず。[Endocrinol Jpn. 1986 Oct;33(5):701-12.]
- 亜急性甲状腺炎と異なり
①ステロイド抵抗性のため、入院してプレドニゾロン30mgで開始。ステロイド減量すると再発し、最後は甲状腺全摘出になる事、多々あります。
②ステロイド反応性で、劇的に改善、中止すると再発。プレドニゾロン少量(3mg)でも持続投与すると再発をある程度抑えられる。(第53回 日本甲状腺学会 P52 ステロイドで長期コントロールされている再発性熱性橋本病の1例)
ただし、例外的な終息しない亜急性甲状腺炎 との区別難
- 永続性甲状腺機能低下症に移行(燃え尽きて永続性甲状腺機能低下症になる亜急性甲状腺炎もある)
- 再発・遷延例の報告も多い(例外的な終息しない亜急性甲状腺炎 との区別難)
(第54回 日本甲状腺学会 P145 抗サイログロブリン抗体が強陽性を呈し、穿刺吸引細胞診にて診断に至った橋本病急性増悪の3例)(第55回 日本甲状腺学会 P2-08-07 関節リウマチの治療中に発症した橋本病急性増悪の一例)
橋本病急性増悪の亜型?としか考えられないような不思議な症例報告があります。
- 37~38℃の発熱が数週間続いて自然軽快を繰り返し
- 頚部違和感あるも甲状腺は硬く腫大、圧痛なし
- 甲状腺ホルモン低下あるいは軽度上昇、白血球の左方移動とCRP上昇
- 甲状腺エコーではびまん性腫大の増強と内部エコー輝度低下
この病状では、急性化膿性甲状腺炎・癌性リンパ管炎(転移性甲状腺癌)・末期の橋本病に発生した甲状腺原発悪性リンパ腫がまず疑われます。穿刺鏡検・培養、穿刺細胞診をまず行い、穿刺細胞診で
- 成熟リンパ球優位で明らかな異型性は見られず
- 甲状腺細胞は極少で判定不可
との結果になれば橋本病急性増悪です。(第57回 日本甲状腺学会 P2-056 発熱を繰り返す慢性甲状腺炎の一例)
このような病態は、典型的な無痛性甲状腺炎と橋本病急性増悪の中間的なものと考えれば良いかもしれません。
亜急性甲状腺炎に近い橋本病急性増悪①
橋本病急性増悪の亜型には、複数のパターンがある様です。北里大学の報告では
- 38℃台の発熱
- 頚部痛
- 超音波(エコー)検査で甲状腺両葉の低エコー域と周囲のリンパ節腫脹
- 炎症反応の上昇(CRP14.64 mg/dL);亜急性甲状腺炎にしては高過ぎる
と、亜急性甲状腺炎、甲状腺原発悪性リンパ腫、甲状腺未分化癌、急性化膿性甲状腺炎、癌性リンパ管炎(転移性甲状腺癌)を除外する必要がります。極めて亜急性甲状腺炎に近いですが、亜急性甲状腺炎にしては炎症反応が強過ぎます(炎症反応が強い亜急性甲状腺炎の報告もありますが・・)。
甲状腺組織生検では、線維化強く、濾胞上皮は僅かに残存、散在性のリンパ濾胞・リンパ球/形質細胞の集簇が見られ橋本病急性増悪と診断。NSAIDs(非ステロイド系抗炎症剤)投与のみで2カ月後に炎症反応も陰性化したそうです。
(第59回 日本甲状腺学会 P1-6-3 一過性に頚部痛を来し、診断に苦慮したサルコイドーシス合併の橋本病の一例)
亜急性甲状腺炎に近い橋本病急性増悪②
別の報告では、
- 亜急性甲状腺炎の様に、頸部疼痛が局所に限局し、その後、移動した(クリーピング現象)橋本病急性増悪の報告が複数。
- 橋本病急性増悪では、橋本病抗体がほぼ全例で陽性、かつ非常に高い抗体価の事が多いのに、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が軽度高値。
橋本病急性増悪(初診時)超音波(エコー)画像;甲状腺全体の、びまん性低エコー領域(日本甲状腺学会雑誌 8:46-5, 2017)
橋本病急性増悪(治療5か月後)超音波(エコー)画像;甲状腺全体の、びまん性低エコー領域は変化なし(日本甲状腺学会雑誌 8:46-5, 2017)
橋本病急性増悪の亜型?その③(甲状腺機能正常、甲状腺エコーで変化なし)
橋本病急性増悪の亜型には、癌性リンパ管炎(転移性甲状腺癌)、急性化膿性甲状腺炎(初期)と良く似たものもあります。伊藤病院の報告では、
- 38℃台の発熱
- 頚部痛
- 甲状腺機能正常
- 甲状腺超音波(エコー)検査で甲状腺腫大のみ、穿刺細胞診で橋本病(慢性甲状腺炎)の所見
- 炎症反応の上昇(CRP19.62 mg/dL)
の所見です。穿刺細胞診で癌性リンパ管炎(転移性甲状腺癌)、急性化膿性甲状腺炎(初期)を否定する事が重要です。他の橋本病急性増悪の亜型と同じく、ステロイド抵抗性で、減量すると再発し、最後はアイソトープ(放射性ヨウ素:I-131)治療で治癒したそうです。(第53回 日本甲状腺学会 P39 バセドウ病寛解後に橋本病急性増悪の病態を示しアイソトープ治療が奏功した1例)
橋本病急性増悪は、再燃・再発を繰り返し、ステロイド剤の離脱が困難場合が多い(筆者は離脱できた症例を見た事がありません)ため、最終的には甲状腺全摘手術になります(Intern Med 45: 351-352, 2006)(Modern Physician 35:1113-1115,2015) 。
どうしても甲状腺全摘手術が嫌な場合、おそらく、数年以上(甲状腺が完全に破壊されるまで?一生?)ステロイド剤を飲むことになるでしょうが、筆者は甲状腺全摘手術以外の症例を知らないため、何とも言えません。
また、ステロイド治療にも係わらず、絶え間ない痛みが続けば外科的治療(甲状腺全摘手術)が必要です(J Clin Endocrinol Metab. 2003 Jun;88(6):2667-72.)。
橋本病急性増悪から2~7年後に甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行した4例が報告されています。ただ、報告例はPainful Hashimoto’s thyroiditis(痛みのある橋本甲状腺炎)で、橋本病急性増悪とほぼ同義ですが、筆者の知っている強烈な橋本病急性増悪とはやや異なります。4例とも軽度で、短期間のステロイド投与、もしくは無治療で寛解しています。よって、ステロイドの減量によるリバウンドとは考え難く、亜急性甲状腺炎からバセドウ病に移行するのと同じ原理なのかもしれません(亜急性甲状腺炎とバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)の合併/移行)。
(Intern Med. 2006;45(6):385-9.)
また、橋本病急性増悪から数か月後に甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発した報告があります(第63回 日本甲状腺学会 C6-2 バセドウ病と橋本病急性増悪を合併した一例)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
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