甲状腺以外の悪性リンパ腫(シェーグレン症候群の唾液腺MALT 血管内リンパ腫 菌状息肉症;皮膚T細胞性リンパ腫)[橋本病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年恒例の日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックにつき、悪性リンパ腫の診療を行っておりません。それは血液内科の仕事です。
Summary
自己免疫性甲状腺疾患(橋本病/バセドウ病)合併のシェーグレン症候群は唾液腺MALTリンパ腫発生リスク大。血管内リンパ腫は小血管内で増殖しIVBCL(血管内B細胞リンパ腫)が多い。古典型は多発性脳梗塞・脊髄梗塞、不明熱(周期性発熱)、皮膚浸潤も多く、ランダム皮膚生検で診断。甲状腺との関連は不明。アジア亜型血管内リンパ腫は血球貪食症候群。皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)は、非ホジキンリンパ腫で、大半は菌状息肉症と言われ、多発性皮膚腫瘤から他臓器浸潤、感染症併発し極めて予後が悪いです。
Keywords
甲状腺,橋本病,バセドウ病,シェーグレン症候群,唾液腺MALTリンパ腫,血管内リンパ腫,アジア亜型血管内リンパ腫,皮膚T細胞性リンパ腫,非ホジキンリンパ腫,菌状息肉症
甲状腺と悪性リンパ腫
甲状腺と悪性リンパ腫 を御覧下さい。
甲状腺腫瘍と甲状腺以外の悪性リンパ腫が同時に存在すれば、普通なら甲状腺癌のリンパ節転移を最初に疑ってしまいます。甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)なら、
- 転移の割にサイログロブリンが上昇しない。
- 超音波(エコー)検査が行える部位ならリンパ節の形状が原発巣と異なる(CTでに評価は難しいかもしれません)。
- sIL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)が上昇している
などの矛盾に気が付けば悪性リンパ腫の合併と診断できます。
抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性で最初からサイログロブリンが上昇しない、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)が転移しやすい肺骨に悪性リンパ腫が存在するなら診断は難しくなります。
ヘルペスウイルスの一種、エプスタイン‐バールウイルス (EBV:EBウイルス) はB細胞由来の悪性リンパ腫、バーキットリンパ腫・ホジキンリンパ腫に深く関連しています。
頚部リンパ節原発のホジキンリンパ腫が、甲状腺に浸潤した症例が報告されています。(第54回 日本甲状腺学会 P246 急速なびまん性甲状腺腫大の1例-Hodgkinリンパ腫の甲状腺病変)
ホジキンリンパ腫(古典的ホジキンリンパ腫);若年者が多いため、抗ガン剤治療後の二次発がん、成長障害など晩期毒性が問題です。
新しく診断されたホジキンリンパ腫の75%は治癒可能。
近年、ホジキンリンパ腫細胞がPD-L1(プログラムド デス リガンド1)を発現している事が分かり、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)が保険適応に.
甲状腺外の頚部悪性リンパ腫 超音波(エコー)画像;内部は網目状構造で、リンパ管閉塞による偽嚢胞です。
甲状腺外 頚部悪性リンパ腫:びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)
エコー上、転移性リンパ節、頚部リンパ節反応性(炎症性)腫大との鑑別が必要です。
頚部リンパ節に悪性リンパ腫を御覧ください。
唾液腺腫瘍のなかで悪性リンパ腫は1.7 %とまれです。自己免疫性甲状腺疾患(橋本病/バセドウ病)との合併が多いシェーグレン症候群の唾液腺MALTリンパ腫発生リスクは高いです。また、慢性唾液腺炎は唾液腺MALTリンパ腫の危険因子です。(シェーグレン症候群と悪性リンパ腫)
頭頸部のMALTリンパ腫の特徴は、錯綜する線状物質で仕切られる低エコー領域で。[Acta Otolaryngol. 2014 Jan;134(1):93-9.]。
写真は、シェーグレン症候群とは無関係な耳下腺に見つかったMALTリンパ腫です。
血管内リンパ腫はリンパ節腫大、腫瘤性病変なしに小血管内で増殖するリンパ腫です。IVBCL(血管内B細胞リンパ腫)が多いです。全悪性リンパ腫の1%と稀な病気で、疾患の存在を疑わない限り、診断は不可能に近い。不明熱・血球減少・血清LDH高値で骨髄穿刺・骨髄生検・ランダム皮膚生検より診断されます。
- 古典型は進行性多発性脳梗塞・脊髄梗塞、不明熱(周期性発熱)をおこします。皮膚浸潤も多く、ランダム皮膚生検で診断。甲状腺/橋本病/バセドウ病との関連は不明ですが、甲状腺内の小血管内でも増殖するので、何か影響あるかもしれません。下垂体へのリンパ腫浸潤による中枢性甲状腺機能低下症の報告はあります。
- アジア亜型血管内リンパ腫:血管内リンパ腫には血球貪食症候群を伴うアジア亜型血管内リンパ腫があり、汎血球減少症、肝脾腫をおこします。
菌状息肉症(皮膚T細胞性リンパ腫)とは
皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)は稀な非ホジキンリンパ腫で、日本における新規患者は年間400人程に過ぎません。
皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)は、初診時において皮膚以外の臓器に病変を認めません。皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)の大半は菌状息肉症と言われるもので、放置すると10-20年後、多発性皮膚腫瘤から他臓器浸潤、感染症などを併発して極めて予後が悪くなります。
菌状息肉症(皮膚T細胞性リンパ腫)の皮膚病変
菌状息肉症は、病期により発疹が変化します。
最初の10-20年間は浸潤性紅斑期で、湿疹などが体幹・四肢に現れ、慢性湿疹やアトピー性皮膚炎と誤診されることが多い。
- ステロイド外用剤を処方されて、一端、治癒する事も多く、菌状息肉症がマスクされてしまいます。
- ステロイド外用剤の効きが悪い場合;
①多少効果あるも治癒しません
②免疫抑制剤のタクロリムス軟膏を使用すると、サイトカインのバランスが変わり、皮疹が悪化(鋭い皮膚科医なら菌状息肉症を見破ります。)
菌状息肉症の確定診断は皮膚生検ですが、病期により所見も異なります。
真皮浅層に帯状異型リンパ球浸潤を認め、表皮にも浸潤します。微小膿瘍を形成。抗CD4抗体の免疫染色陽性。(Modern Practices in Radiation Therapyより)
菌状息肉症(皮膚T細胞性リンパ腫)治療薬のベキサロテン(商品名タルグレチンカプセル)と甲状腺
国内臨床試験で、副作用が全例に認められ(えらいこっちゃ)、
- (中枢性)下垂体性甲状腺機能低下症(93.8%);(下記)
- 高コレステロール血症(81.3%);肝細胞のレチノイドX受容体(RXR)に結合しコレステロール合成を促進
- 高トリグリセリド(中性脂肪)血症(75.0%);肝細胞のレチノイドX受容体(RXR)に結合しトリグリセリド合成を促進、膵炎を起こす程の上昇も
- HDLコレステロールの減少(Med Clin (Barc). 2016 Feb 5;146(3):117-20.)
- 膵炎
- 低血糖
- 白血球減少症、好中球減少症(31.3%);ベキサロテン減量を要する
- 貧血(18.8%)
- 肝不全、肝機能障害
- 感染症
- 間質性肺疾患
- 横紋筋融解症
(J Dermatol. 2017 Feb;44(2):135-142.)
中枢性甲状腺機能低下症(視床下部・下垂体性甲状腺機能低下症)
視床下部・下垂体の甲状腺ホルモン受容体(TRβ)はレチノイドX受容体(RXR)の一種です。ベキサロテン(商品名タルグレチンカプセル)結合により活性化されれば、TSHβ鎖を合成する遺伝子のプロモーターにブレーキが掛かり、TSH合成が低下します[中枢性甲状腺機能低下症(視床下部・下垂体性甲状腺機能低下症)]。 [N Engl J Med. 1999 Apr 8;340(14):1075-9.]
また、ベキサロテンは、中枢性甲状腺機能低下症とは別経路で、
- 1型、2型脱ヨード酵素も阻害(Eur J Endocrinol. 2014 Jun;170(6):R253-62.)
- 脱ヨード酵素を介さずに甲状腺ホルモンの末梢分解を促進[J Clin Endocrinol Metab. 2007 Jul;92(7):2496-9.]
するとされます。
甲状腺ホルモン剤(チラージンS)の予防的投与
ベキサロテン内服して、早ければ3日~7日後、4~5週間後まで(ほとんど1カ月以内)に甲状腺機能低下症に至るため、甲状腺ホルモン剤(チラージンS)の予防的投与も考慮すべきでしょう。[Clin Endocrinol (Oxf). 2019 Jul;91(1):195-200.](第60回 日本甲状腺学会 O6-6 わが国におけるベキサロテンによる中枢性甲状腺機能低下症の頻度と対策)(第61回 日本甲状腺学会O35-4 ベキサロテン内服開始3日後に中枢性甲状腺機能低下症をきたし た菌状息肉症の一例)
但し、甲状腺機能低下していない時期に行うと甲状腺中毒症をおこす危険もあるため、ベキサロテン投与前の甲状腺ホルモン値を確認の上、少量から始めるのが良いと思います。
甲状腺ホルモン剤(チラージンS)のコントロールは、中枢性甲状腺機能低下症なので、TSHでなくFT4、FT3を指標に行います。報告では通常の中枢性甲状腺機能低下症よりも高容量(通常用量の2倍)を必要とします。[Clin Endocrinol (Oxf). 2019 Jul;91(1):195-200.][Clin Lymphoma. 2003 Mar;3(4):249-52.][Clin Lymphoma. 2003 Mar;3(4):249-52.]
最初から甲状腺機能低下症/橋本病で甲状腺ホルモン剤(チラージンS)服薬中の場合
甲状腺機能低下症/橋本病で既に甲状腺ホルモン剤(チラージンS)服薬中の場合、増量が必要になります。
最初から甲状腺自体がほぼ完全に破壊され、下垂体の影響を受けなくても(最初からTSHに反応しない)、甲状腺ホルモン剤(チラージンS=合成T4)の分解が促進されるため、増量の必要があります。
- 甲状腺全摘出後
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後で完全に甲状腺組織が破壊された状態
- 甲状腺無形成による先天性甲状腺機能低下症
でも同じです。
ベキサロテン投与中止した場合、甲状腺ホルモン剤(チラージンS)はどうすれば良いか?
ベキサロテンの中止後1週間、遅くとも4週以内に甲状腺機能が改善するとされます。甲状腺ホルモン剤(チラージンS)は半減期が約 9~10 日なので、同時の中止が良いという事になります。(第60回 日本甲状腺学会 P1-6-1 ベキサロテンによる中枢性甲状腺機能低下症を認めた1例)(British Association of Dermatologists 168: 192-200, 2013)
ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤の長期使用による副腎の廃用性萎縮を合併している
菌状息肉症(皮膚T細胞性リンパ腫)では、すべての病期でステロイド外用を推奨されており、ステロイド(副腎皮質ホルモン)による視床下部・下垂体抑制からACTHとコルチゾールは低下しています。
ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤の長期使用で、副腎が廃用性萎縮していると迅速ACTH負荷試験に反応しません。
ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤が体内に吸収されているため、甲状腺ホルモン剤(チラージンS)投与で即、副腎不全にはなりません。
菌状息肉症(皮膚T細胞性リンパ腫)と甲状腺癌
菌状息肉症治療の基本は紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVBなど)で、他臓器浸潤する前(病初期10-20年の間)に治療開始すれば、生命予後は悪化しないとされます。
菌状息肉症の抗がん剤治療とPUVA療法を施行した後に、甲状腺癌と前立腺癌の合併が発見された症例報告あり。菌状息肉症の細胞性免疫能低下状態に化学療法・放射線療法が何らかの影響を与えた可能性が考えられます。 [西日本皮膚科 Vol. 62 (2000) No. 3 P 317-320]
セザリー症候群は、菌状息肉症と同じく、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)の一種です。50〜60歳以上の高齢者に好発。発熱、リンパ節腫脹、全身に痒みを伴う発赤(紅皮症)が出ます。末梢血液中には、Tリンパ球細胞癌特有のくびれの深い核を持つ異型Tリンパ球(セザリー細胞)を認めます。
悪性リンパ腫の末梢神経障害は多様で
- 末梢神経への悪性リンパ腫の直接浸潤(多発性単ニューロパチー)
- 腫瘍随伴性神経障害(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)
を認めます。
アトピー性皮膚炎の治療薬、タクロリムス軟膏の長期使用で悪性リンパ腫が発生する危険があるとされます。海外ではタクロリムス(プロトピック®)軟膏を使用中に悪性リンパ腫、皮膚癌が発生したとの報告があります。
動物実験ではタクロリムス軟膏を塗り続けると、血中タクロリムス濃度の高い状態が長時間続き、悪性リンパ腫が発生しやすくなります。人間がタクロリムス軟膏を適正量使用する分では、血中タクロリムス濃度が一過性に高くなるアトピー性皮膚炎患者が少数存在しますが、持続的に上昇することはないと考えられます。
治療により誘発される自己免疫は、癌細胞の破壊を促進する可能性があります。自己免疫性甲状腺疾患の存在が、悪性リンパ腫の治療効果を上げ、予後を改善する報告があります。リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン(R-CHOP)療法後に寛解した、甲状腺以外のびまん性大細胞リンパ腫(DLBCL)患者では、PET/CTで甲状腺にびまん性集積を認めた群での生存率は有意に高くなります。(Ann Hematol. 2015 Jun;94(6):995-1001.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,浪速区,天王寺区,生野区も近く。