甲状腺と食道(逆流性食道炎,食道憩室)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科 病態内科学で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流(NERD)は喉(のど)の違和感、声のかすれなど甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺癌と似た症状。好酸球性食道炎は食物アレルギーでバセドウ病患者は要注意。食道アカラシアは飲み込み困難で甲状腺腫瘍様の症状、抗GAD抗体陽性率高い。頚部食道憩室(Zenker憩室・Killian-Jamieson憩室)はエコーで甲状腺乳頭癌と鑑別難。食道憩室炎で嚥下痛、嚥下困難など亜急性/急性化膿性甲状腺炎様症状。巨大縦隔甲状腺腫による食道圧排、食道内圧上昇で食道憩室に。下行性食道静脈瘤は甲状腺癌・縦隔内甲状腺腫・バセドウ病、甲状腺手術後生じる。
Keywords
食道,甲状腺,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,逆流性食道炎,甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺乳頭癌,食道アカラシア,食道憩室,非びらん性胃食道逆流
胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease:GERD)は、胃液が食道に逆流して①逆流性食道炎や②非びらん性胃食道逆流(NERD)を引き起こす病態です。胃食道逆流症(GERD)は、下部食道括約筋の弛緩が原因でおこります。胃食道逆流症(GERD)の主な症状は、胸部症状(胸の違和感、胸焼け、胸痛)、呑酸(どんさん)だけでなく、喉(のど)の違和感・痛み、せき、嚥下障害(吞み込みにくい)の場合もあります。これらの症状を甲状腺の病気と勘違いして、甲状腺専門医を受診するケースが多々あります。
胃食道逆流症(GERD)は、内視鏡検査で食道炎の程度と症状の強さが必ずしも一致しません[非びらん性胃食道逆流(NERD)の存在]。
胸の中央あたりが食後に熱くなる胸やけは、胃酸が食道に逆流する逆流性食道炎の症状です。食道の粘膜は、胃酸に対する抵抗力が弱いため食道炎に至ります。
胃酸が口腔内まで逆流すると、苦みや酸っぱみを感じたり、げっぷが出て「きみずが上がってくる」と表現されます(呑酸:どんさん)。
最近、逆流性食道炎では胸部症状(胸の違和感、胸焼け、胸痛)以外にも、喉(のど)の違和感・痛み、せき、嚥下障害(吞み込みにくい)を起こすことが分かってきました。これらの症状を甲状腺の病気と勘違いして、甲状腺専門医を受診するケースが多々あります。
逆流した胃酸で慢性咽頭炎になるため、喉(のど)の違和感、声のかすれ、せき(咳嗽)など甲状腺機能低下症/橋本病(慢性甲状腺炎)、甲状腺癌など甲状腺の病気と同じような症状を呈する。異なる点は、逆流性食道炎の場合、
- 寝転んでいると症状が出て、座ったり、起きた姿勢で治まる。夜間のみの症状なら、①臥位に起因する胃酸逆流か、②寝室のハウスダストによるアレルギー反応のいずれかが濃厚。
- 食事や会話の際に悪化する
- 咳き込むと、脆い胃食道接合の炎症部が裂けて吐血する
食道粘膜のヒダは縦走しているので、胃酸と接して縦走潰瘍が形成されます。
胃切除後の術後食道炎は膵液・十二指腸液の逆流なので膵炎治療薬カモスタット メシル酸塩を使用します。
甲状腺機能低下症と逆流性食道炎
- 甲状腺機能低下症は、新陳代謝(脂肪分解)の低下と粘液水腫による肥満を生じ、逆流性食道炎を悪化させる可能性があります。(Clin Drug Investig. 2009;29 Suppl 2:17-8.)
- 食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎は、甲状腺機能低下症の初期徴候の1つで、胃酸分泌亢進でなく、消化管運動低下によると考えられています。(Klin Med (Mosk). 2006;84(2):71-4.)
逆流性食道炎の治療
逆流性食道炎の治療は、①胃酸の分泌を抑える胃酸分泌抑制剤、②胃酸を中和する制酸剤の投与です。しかし、それらはあくまで対症療法です。逆流性食道炎の原因となっている食道裂孔ヘルニアなどを治療しない限り、薬剤を中止すれば再発します。
胃酸分泌抑制剤、制酸剤ともに、甲状腺機能低下症/橋本病治療薬、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の吸収障害をおこします。[薬によるチラーヂンSの吸収障害(薬剤性チラーヂンS吸収障害)]
突然の胸やけ症状に対して、即効性の順に
- アルロイドG(アルギン酸ナトリウム;防御因子増強薬)やスクラルファート[薬によるチラーヂンSの吸収障害(薬剤性チラーヂンS吸収障害)]
- P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー);ボノプラザン(タケキャブ®)[薬によるチラーヂンSの吸収障害(薬剤性チラーヂンS吸収障害)]
- PPI(プロトンポンプ阻害薬);オメプラゾール、ラベプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾール[薬によるチラーヂンSの吸収障害(薬剤性チラーヂンS吸収障害)]
逆流性食道炎の再発予防
避けるべき食べ物は
- 脂もの;揚げ物、チョコレートも含む
- 刺激物
- アルコール
- 酸;オレンジジュースなどの柑橘系
- 塩分が多いもの;トマトジュースも含む
- カフェインを多く含むもの;コーヒー・紅茶
- 炭酸飲料
- 甘いもの;清涼飲料水
逆に、推奨される食べ物は
- おかゆ、うどん、白パン(要するにバターを練り込んだ食パンや菓子パンではないもの)
- 脂の少ない淡白な赤身肉・白身魚、鶏のささみ
- 牛乳、ヨーグルト(チラーヂンSの吸収障害をおこす食べ物)
- 豆腐(チラーヂンSの吸収障害をおこす食べ物)
喉(のど)の違和感、声のかすれなどから甲状腺の病気を疑って長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方の中に、非びらん性胃食道逆流(NERD)の人がいます。
甲状腺超音波(エコー)検査をしても、
- 症状を説明できる病変が見当たらない
- 甲状腺機能低下症/橋本病(慢性甲状腺炎)が存在し、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)投与後に甲状腺機能が正常化しても症状が改善しない
- 食道の上に甲状腺腫瘍があり、どちらが原因なのか判らない
- 甲状腺よりも足側(下方)の食道直上に圧痛がある
などの時は、耳鼻咽喉科にて喉頭ファイバー検査をお勧めします。それでも異常なければ、非びらん性胃食道逆流(NERD)を疑い、酸分泌抑制薬を試験投与します(治療的診断)。効果あれば、非びらん性胃食道逆流(NERD)と診断できます。
好酸球性食道炎の原因は食物アレルギー(小麦・ミルク・卵・大豆・ナッツ・海産物など)です。
好酸球性食道炎は30~50歳の男性に多く、増加傾向。半数は喘息・アレルギー性鼻炎などアレルギー疾患を持っています。
好酸球性食道炎の症状は
- 嚥下障害(飲み込みにくい)や咽頭部違和感・閉塞感(甲状腺の病気と鑑別要)
- 胸部の違和感・閉塞感、胸焼け(甲状腺と場所が違う)
- 無治療で放置すると線維化・狭窄し食べ物が通りにくくなる(甲状腺の病気と勘違いして甲状腺専門医を受診する)
好酸球性食道炎は、自己免疫疾患を合併しているリスクが高い。
- セリアック病、橋本病(慢性甲状腺炎)
- クローン病、潰瘍性大腸炎(UC)
- 関節リウマチ
- 選択的IgA欠損症、分類不能型免疫不全症(CVID)
- 多発性硬化症(MS)
(Am J Gastroenterol. 2016 Jul;111(7):926-32.)
食道憩室と甲状腺
憩室が増大したり、炎症をおこす(食道憩室炎)と
- 嚥下時の咽喉頭異物感・不快感
- 咳嗽(せき)、発声障害、誤嚥性肺炎
- 嚥下痛、嚥下困難
- 食物の停滞感
- 口臭
等の症状を呈し、亜急性甲状腺炎、急性化膿性甲状腺炎、甲状腺癌など甲状腺疾患と同じ症状になります。
[N Engl J Med. 2017 Nov 30;377(22):e31.][Clin Gastroenterol Hepatol. 2014 Nov;12(11):1773-82; quiz e111-2.]
また、甲状腺超音波(エコー)検査で甲状腺腫瘍(特に甲状腺乳頭癌)と見分け難い場合がありますが、頚部食道憩室は嚥下運動にて
- 腫瘤内高輝点の移動(唾液嚥下に伴い頚部食道から腫瘤内への唾液流入、続いて腫瘤から頚部食道への唾液流出)
- 右葉背側に腫瘤があれば左葉背側へ移動
を認めます[Endocr Metab Immune Disord Drug Targets. 2019;19(1):95-99.][Ann Med Surg (Lond). 2020 Nov 6;60:515-517.]
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の診断や無痛性甲状腺炎との鑑別目的で99mTc(テクネチウム)シンチグラフィーを行うと、甲状腺外で食道の走行に沿った99mTcO4-の集積を認める場合があります。唾液腺から唾液に分泌された99mTcO4-ですが、飲水によって消退しない時は、食道憩室に停留した唾液の可能性があります。[Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2003 Dec;30(12):1657-64.]
頚部食道憩室、Zenker 憩室は進行性に増大する傾向があるため、早期に外科切除すべきとされます。
また、症状が強い場合、憩室炎で穿孔や出血のリスクが高い場合も外科手術の適応になります。最近は、内視鏡的切除術やレーザー治療の選択肢もあります[Surg Endosc. 2021 Jul;35(7):3744-3752.][Acta Otorrinolaringol Esp (Engl Ed). 2021 Nov-Dec;72(6):381-386.]。
縦隔甲状腺腫の圧排による食道憩室
巨大縦隔甲状腺腫が食道を圧排し、食道内圧が上昇すると<Zenker憩室(頚部食道憩室)>を生じる事があります。憩室炎を起こしていなくても、食道圧排による嘔吐・嚥下障害・経口摂取不良が出現。巨大縦隔甲状腺腫を手術切除しない限り、治りません。
東北大学 乳腺内分泌外科の報告では、縦隔内へ伸展する約9cm大の巨大腺腫様甲状腺腫により発生した<Zenker憩室(頚部食道憩室)>を、甲状腺と同時切除したそうです。(第59回 日本甲状腺学会 P4-5-4 縦隔甲状腺腫に食道憩室を合併した1 例)
食道憩室炎
ケース①
ケース②
ケース③
食道アカラシアとは
食道アカラシアは、10万人に1人の稀な病気で、30歳-50歳代が多いとされます。食道アカラシアでは、食道下部平滑筋層内のアウエルバッハ神経叢細胞の変性・消失により、食道の蠕動運動が障害されます(食物をうまく胃の中まで運べず、食道内に停滞する)。下部食道括約筋弛緩不全・一次蠕動波消失・同期性収縮波出現が特徴。
食道アカラシアの症状は、
- 特に「冷たいお茶、ジュースを飲み込みにくい」のが特徴の嚥下障害です。甲状腺腫瘍、甲状腺腫と思い、長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方もいます
- 食物が食道内に停滞しているため、「胸が詰まった感じ」がします。甲状腺は喉仏の下方に位置するため、全然、場所が違います
また、寝転ぶと、口や鼻に食物や唾液が逆流してきます(甲状腺ではあり得ません)
- 食物の逆流に伴う「慢性咳嗽」、「喉(のど)の違和感」は、逆流性食道炎と同じで、甲状腺の病気と思い、長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方もいます
- 食道癌の発生頻度が高い
食道アカラシアと甲状腺
抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性の自己免疫性甲状腺疾患、1型糖尿病、尋常性白斑を伴う多腺性自己免疫症候群3C型に合併した食道アカラシアが報告されています。
また、食道アカラシアでは抗GAD抗体陽性率が高いとの報告があります(DigDisSci 2010, 55:307-311.)。
自己免疫によるアウエルバッハ神経叢の変性・消失により食道アカラシアが発症すると考えられます(1型糖尿病の経過中に食道アカラシアを合併した 多腺性自己免疫症候群の一例; 糖尿病53(12):829~833,2010)
普通、食道静脈瘤破裂と言えば、肝硬変・特発性門脈圧亢進症など消化器の病気を考えますが、甲状腺が原因の出血性下行性食道静脈瘤もあります。
甲状腺による下行性食道静脈瘤は、
- 甲状腺腫(腫れた甲状腺;特に甲状腺癌・縦隔内甲状腺腫・バセドウ病 )の4%
- 甲状腺腫術後非再発症例の12%
- 甲状腺腫術後再発甲状腺腫症例の54%
に起きるとされます(Fortschr Geb Roentgenstr Nuklearmed 118:440-445, 1973)。
原因として、
- バセドウ病など血流豊富な巨大甲状腺腫からの血液流出(Jpn J Surg. 1986 Sep;16(5):363-6.)
- 下甲状腺静脈が、手術による結紮や瘢痕化によって閉塞し、側副血行路として食道静脈瘤が発達
- 甲状腺癌の上大静脈浸潤による閉塞(Arch Surg. 1978 Dec;113(12):1463-4.)
があります(内分泌甲状腺外会誌 29(4):314-317,2012)。
しかし、甲状腺による下行性食道静脈瘤は、肝硬変・特発性門脈圧亢進症の食道静脈瘤と異なり、
- 凝固能が正常
- 上部食道にできるため、胃食道逆流による粘膜損傷を受けにくい
- 粘膜下の深い所に形成される
などの理由により、出血は稀です(Dig Dis Sci 27:23-27, 1982)。
下行性食道静脈瘤造影CT(内分泌甲状腺外会誌 29(4):314-317,2012)。
出血性下行性食道静脈瘤の治療は、
- 出血性ショックを警戒し輸液
- 胃管の盲目的挿入はさらなる大出血を招く危険性がある
- 内視鏡的静脈瘤結紮術(静脈瘤を輪ゴムで結紮する、endoscopic variceal ligation)は、欧米では第一選択。その後、甲状腺全摘になります。
- 静脈瘤内に薬剤を注入して硬化させる内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy)は、再発率の低さから日本では第一選択。しかし、硬化物質が肺塞栓をおこし死亡した報告があるため、慎重に考えるべきです。[Dtsch Med Wochenschr. 1998 May 29;123(22):691-5.]
緊急出血で内視鏡が困難な場合には、バルーンタンポナーデ法のSengstaken-Blakemore チューブ留置でその場をしのぎます。
胃カメラ・大腸カメラは、かわさき消化器内科クリニック(大阪市平野区瓜破)にお願いしています。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区,浪速区も近く。