甲状腺と胸腺腫・CASTLE甲状腺癌[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会学術集会で入手した知見です。
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- 甲状腺と重症筋無力症
Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の32%で胸腺が過形成し甲状腺機能正常化で縮小。胸腺腫は胸腺癌(悪性胸腺腫)の可能性から胸部外科手術に。甲状腺超音波検査で胸腺腫は甲状腺下に内部均一な腫瘤。小児の胸腺とは異なる見え方。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病に胸腺癌合併も。甲状腺の胸腺様分化を示す癌(CASTLE;carcinoma showing thymus-like differentiation)は扁平上皮癌や甲状腺未分化癌と鑑別難。長期生存する甲状腺未分化癌にCASTLE が含まれる可能性(T細胞マーカーCD5の免疫染色にて鑑別診断)。
Keywords
甲状腺機能亢進症,バセドウ病,胸腺過形成,甲状腺,胸腺腫,胸腺癌,悪性胸腺腫,橋本病,CASTLE,扁平上皮癌,甲状腺未分化癌
未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病の32%(3人に1人)に胸腺過形成(良性の胸腺細胞増殖、腫瘍の「胸腺腫」と異なる)が合併する報告(Lancet1964;10:776-8)があります。
- 胸腺には甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対する親和性が低いTSH受容体(TSH受容体アイソフォーム)が存在し、過剰な甲状腺刺激により胸腺上皮が増殖する
- 甲状腺ホルモン自体の作用により胸腺過形成が起こる(Clin Exp Immunol 1997;27 :516-21.)
ためと考えられます。
治療開始後、間もない甲状腺機能亢進症/バセドウ病のCT写真を撮ると、3人に1人、胸腺過形成が見つかり
- 「胸腺腫だ!大変だ!呼吸器外科に紹介だ!」と大騒ぎになる→腫瘍の「胸腺腫」と間違われて開胸手術されれば悲惨な事に
- 心臓の上に乗っかるような形態なので、左に多く、CTで見ると、あたかも左下極の甲状腺結節・甲状腺腫瘤・甲状腺腫瘍のように見えて、「内分泌内科に紹介だ!」「甲状腺外科に紹介だ!」と大騒ぎになる
エコーで見りゃ甲状腺の中でなく外なので分かりそうなもんだが、穿刺細胞診までして甲状腺に存在しない細胞が見つかり(当たり前だが)、「CASTLE甲状腺癌に違えない」て事になり、後は悲惨だな。
大抵の放射線科専門医は「CTで甲状腺の質的評価をしてはならない」という鉄則を知っていますが、経験の浅い医師が読影するとこのような事態になります。
年に1回は、こう言う話に巻き込まれ、「なんだ、またか・・・」と毎回思ってしまいます。しかし、
- 治療後、何年も経っている甲状腺機能亢進症/バセドウ病で見つかれば、本物の胸腺腫、胸腺癌(悪性胸腺腫)
- 胸腺過形成と高をくくっていても、おそらく1%未満の確率で本物の胸腺腫、胸腺癌(悪性胸腺腫)かもしれない
ので、見つけた以上、下記の様に鑑別診断せざる得ない。だが、筆者も今までバセドウ病合併「本物の胸腺腫」は2例しか見た事が無い。
胸腺過形成は、
- 真性胸腺過形成
- 反応性胸腺過形成
- リンパ濾胞性胸腺過形成
に分類されます。
このうち、リンパ濾胞性胸腺過形成は甲状腺機能亢進症/バセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病等に合併します。
治療して甲状腺機能が正常化すると胸腺が縮小する症例が数多く報告され、筆者が調べたところ、(日呼外会誌 24(1),2010,69-73)(日呼外会誌 21(1),2007,43-47)(第56回 日本甲状腺学会 P1-100 抗甲状腺薬治療に伴う前縦隔腫瘍の縮小経過を追跡し得たバセドウ病の2 例)
- 19-52歳の女性
- 6×20mm~18×52mm~75×100mmと様々だが、かなり大きい
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の治療後、3-9カ月以降に縮小傾向、全症例が消失する訳で無く、15カ月で消失する症例もあり
胸腺腫は胸腺癌(悪性胸腺腫)の可能性があるため、経過観察は難しく、侵襲の大きい胸部外科手術になりますが、止む得えません。しかし、胸腺過形成は甲状腺機能が正常化すると縮小し、消失することもあるため経過観察のみで可です。不必要な大手術を避けるためにも胸腺腫と胸腺過形成は鑑別しなければなりません。
胸腺過形成 CT画像 (JBR–BTR 2012, 95 281-288)
前縦隔に造影効果のある軟部濃度腫瘤があり、胸腺腫瘍に特徴的な"へ"の字型の形態です。
最も鑑別を要する胸腺腫はMRIで高率に内部が不均一に描出されるが、胸腺過形成は内部が均一に描出される(臨床放射線1995;40:825-30)
CTやMRIで、腫瘤内部に脂肪成分を含み、まだら状の小結節性低吸収域が見られ、MR脂肪抑制像(化学シフトMRイメージング)で正常胸腺と同じ生理的な脂肪成分が存在すれば胸腺過形成(Radiology2007;243:869-76)、
脂肪成分を含まない胸腺腫や胸腺癌(悪性胸腺腫、浸潤性胸腺腫)と区別されます。
一過性の甲状腺中毒症である無痛性甲状腺炎でも一過性胸腺過形成をおこした報告があります。甲状腺ホルモン自体の作用(Clin Exp Immunol 1997;27 :516-21.) に加え、同時に回盲部・鼠径部リンパ節腫大を認めた事から、リンパ濾胞様の過形成が原因と考えられます。薬剤性などを除く無痛性甲状腺のほとんどが、橋本病(慢性甲状腺)の亜急性増悪であり、リンパ節腫大を伴う事が多いため、胸腺過形成おこしても不思議ではありません。(第60回 日本甲状腺学会 P2-3-6 甲状腺中毒症に胸腺腫大を合併した2例)
胸腺腫
胸腺腫は、成人になるにつれ退化する胸腺細胞から発生する腫瘍です。心臓より上の上縦隔にできます。
胸腺腫には、
- リンパ球優位型
- 混合型
- 上皮細胞集塊型
があり、上皮細胞集塊型は悪性度が高いとされます。多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)の胸腺腫瘍は悪性度が高く、早期に骨・肝臓に転移します。
胸腺腫 CT画像;いびつな形態です。
甲状腺超音波(エコー)上、胸腺腫は甲状腺の下に見え、内部不均一な腫瘤で、特徴的な所見に欠きます。小児の胸腺とは異なる見え方です。
甲状腺超音波(エコー)上、胸腺腫は甲状腺の下に見え、内部不均一な腫瘤で、特徴的な所見に欠きます。小児の胸腺とは異なる見え方です。
心臓の上に乗っかるような形態なので、左に多く、CTで見ると、あたかも甲状腺結節・甲状腺腫瘤・甲状腺腫瘍のように見えて大騒ぎになります(「なんだ、またか・・・」と毎回思ってしまいます)。
胸腺癌(悪性胸腺腫、浸潤性胸腺腫)
胸腺癌(悪性胸腺腫、浸潤性胸腺腫)は非常に稀で標準的な治療が存在しません。組織型も、扁平上皮癌・未分化癌・小細胞癌と多様です。甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併した胸腺癌(Thyroid Res. 2012 Jul 23;5(1):5.)、胸腺原発非定型的カルチノイド(Well differentiated neuroendocrine carcinoma、Atypical carcinoid)(第56回日本甲状腺学会 P1-085 メルカゾール投与後に蕁麻疹様血管炎を生じ、131I 治療の2年半後に胸腺原発異型カルチノイドと診断されたバセドウ病の1 例)が報告されています。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺機能低下症/橋本病に合併した胸腺癌(悪性胸腺腫、浸潤性胸腺腫)を経験した事があります。
胸腺腫/胸腺癌(悪性胸腺腫)と鑑別を要する縦隔の悪性リンパ腫・縦隔の胚細胞腫瘍
縦隔の悪性リンパ腫
胸腺腫/胸腺癌(悪性胸腺腫)は、少なからずリンパ組織の増殖を認めるため、sIL2-R (可溶性インターロイキン2受容体) 高値となり、縦隔の悪性リンパ腫と鑑別を要します。また、胸腺に発生する悪性リンパ腫は、胸部外科で開胸生検で鑑別するしかないでしょう。
縦隔に発生する悪性リンパ腫は、
- ホジキンリンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫では、ほとんど見られない)
- T細胞性リンパ芽球型リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫では、ほとんど見られない)
- 縦隔原発大細胞型B細胞性リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫でもよく見られる)
- 節外性粘膜関連濾胞辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)(甲状腺原発悪性リンパ腫でもよく見られる)
などがあります。
縦隔の胚細胞腫瘍
胸腺腫/胸腺癌(悪性胸腺腫)と鑑別を要する縦隔の胚細胞腫瘍。
甲状腺の胸腺様分化を示す癌(CASTLE;carcinoma showing thymus-like differentiation)は、胸腺上皮性腫瘍に類似した甲状腺癌、甲状腺内異所性胸腺腫の悪性型とされる極めて稀な腫瘍です。
胸腺と下部の副甲状腺が第3咽頭嚢から発生する過程で、胸腺の一部が下副甲状腺から分離せず、甲状腺下極に遺残し癌化したと考えられます。
甲状腺の胸腺様分化を示す癌(CASTLE) は
CASTLE の症状
CASTLE の症状は
- 無痛性腫瘤(88%);咽頭部不快感、咽頭痛あるも圧痛を伴わない事がある
- 反回神経麻痺による嗄声(24%)
- 甲状腺未分化癌や扁平上皮癌の呼吸困難や急性腫大、白血球増多は少ない。
CASTLE の超音波(エコー)画像
CASTLE の細胞診
CASTLE の細胞診は、甲状腺未分化癌や扁平上皮癌と区別できません。
CASTLE の組織像
CASTLE の組織像は、線維性結合組織内で扁平上皮様細胞やリンパ球様細胞が索状・小胞巣状(島状)構造を示す特徴的な組織像です(ここで、CASTLEが濃厚になります)。
CASTLE の治療
CASTLE の治療は外科的な切除が第一選択。手術後5年の根治率は90%と良好で、再発の危険が低い。リンパ節転移例には、術後放射線外照射治療。
CASTLE の予後
CASTLE の予後因子は、治癒切除できたか否かです。リンパ節転移と周囲組織浸潤は治療成績が劣りが予後規定因子とされます。
外科切除を拒否され、放射線外照射と温熱療法のみ行った症例でも、甲状腺内から腫瘍が消失し、寛解した後10年して再発した症例も報告されています。(第54回 日本甲状腺学会 P176 放射線治療と温熱療法にて寛解10年後に再発した胸腺様分化を示す癌(CASTLE)の1例)
前縦隔の胚細胞腫瘍
甲状腺腫と鑑別を要する縦隔の胚細胞腫瘍は
- 奇形腫
- 精上皮腫
- 胎児性癌
などです。
また、きわめて稀ですが、パラガングリオーマが発生する場合があります。パラガングリオーマは、頭蓋底・頸部・胸部・膀胱付近などの傍神経節に発生する腫瘍(傍神経節腫)です。交感神経由来のパラガングリオーマは、カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)を過剰産生する場合が多く、副交感神経由来のパラガングリオーマはホルモン産生しないことが多いです。副腎に発生しカテコラミンを過剰分泌する腫瘍は褐色細胞腫で、副腎以外の傍神経節に発生するのがパラガングリオーマと呼ばれます。[Kyobu Geka. 2019 Feb;72(2):108-111.][Ann Thorac Surg. 1994 Jan;57(1):249-52.]
奇形腫
ブラックジャックで有名な奇形腫。内部に歯・皮脂などを含み、エコーで内部は不均一に見えます。むしろCTの方が、内部の成分を明瞭に区別できます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,東大阪市,天王寺区,浪速区も近く。