ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)/エンプティ・セラ症候群で下垂体機能低下症[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪))
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科(内分泌骨リ科、第2内科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
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Summary
ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)は胎児期の袋。続発性(中枢性)副腎皮質機能低下症がなく、中枢性甲状腺機能低下症のみなら甲状腺ホルモン補充。ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)内で①粘液が増え、下垂体や視神経を圧迫して下垂体機能低下症・頭痛・視力障害に②出血すると下垂体卒中をおこし[内分泌エマージェンシー]準緊急手術③細菌が増殖し下垂体膿瘍を形成。MRI検査で診断。ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)は①自然退縮②下垂体機能低下症・視力障害がある場合、経鼻的手術で粘液を抜く。手術後再発は約16%で再手術により視力障害回復するが、下垂体機能低下症は回復し難い。再発繰り返すと開頭手術。
エンプティ・セラ症候群(empty sella症候群, トルコ鞍空洞症候群)は、クモ膜下腔がトルコ鞍内に下垂し、脳脊髄液で満たされた状態。原因は原発性、妊娠、自己免疫性下垂体炎、下垂体卒中、下垂体手術や放射線療法後。症状は視力障害、頭痛、脳脊髄液漏、下垂体機能低下症、中枢性甲状腺機能低下症[視床下部性(3次性)甲状腺機能低下症]、視床下部機能障害、高プロラクチン血症、先端巨大症、クッシング病、SITSH(TSH不適切分泌症候群)を起こす事も。原発性甲状腺機能低下症(橋本病・非橋本病)の合併が多い。ダイナミックMRIで診断。治療は一般的に外科的手術の適応外。
Keywords
ラトケ嚢胞,エンプティ・セラ症候群,トルコ鞍空洞症候群,下垂体機能低下症,下垂体,甲状腺,原因,症状,診断,治療,中枢性甲状腺機能低下症
ラトケ嚢胞,ラトケのう胞,中枢性甲状腺機能低下症,下垂体機能低下症,下垂体卒中,下垂体膿瘍,MRI検査,診断,経鼻的手術,再発
エンプティ・セラ症候群,empty sella症候群,トルコ鞍空洞症候群,原因,下垂体機能低下症,中枢性甲状腺機能低下症,橋本病,ダイナミックMRI,診断,治療
ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)とは胎児期の袋が消えずに残ったものです。
- 中枢性甲状腺機能低下症の原因;続発性(中枢性)副腎皮質機能低下症などが無く、中枢性甲状腺機能低下症単独の場合、甲状腺ホルモンを補充するだけで良いため、手術になりません。
- ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)内の粘液が増えると、大きくなったラトケ嚢胞(ラトケのう胞)が下垂体や視神経を圧迫して、下垂体機能低下症・頭痛・視力障害をおこします。
- ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)内で出血すると下垂体卒中をおこし[内分泌エマージェンシー下垂体卒中]、準緊急手術になる事があります。(Oper Neurosurg (Hagerstown). 2020 May 1;18(5):470-479.)(第54回 日本甲状腺学会 P052 ラトケ嚢胞卒中による汎下垂体機能低下症にバセドウ病を合併し,周術期管理を行った1例)
下垂体腺腫(下垂体神経内分泌腫瘍)による下垂体卒中よりも軽度とされます[Surg Neurol Int. 2021 Oct 6;12:504.]
- ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)内で細菌が増殖し、下垂体膿瘍を形成[Surg Infect (Larchmt). 2014 Jun;15(3):358-60.]。
MRI検査では
- T1強調;50% 高信号(蛋白成分が多い)、50% 低信号
- T2強調;70% 高信号、30% 等-低信号
- T1+ Gd造影剤;造影効果なし、周囲辺縁のみ造影される
頭蓋咽頭腫と鑑別難のラトケ嚢胞(ラトケのう胞) (Int J Surg Case Rep. 2020;68:104-106.)
ラトケ嚢胞内出血(ラトケのう胞内出血)による下垂体卒中[Surg Neurol Int. 2021 Oct 6;12:504.]
ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)の経過と治療
ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)は自然退縮し、消えることもあります。下垂体機能低下症・視力障害がある場合、ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)の治療は経鼻的手術(鼻からの手術)になり、嚢胞(のう胞)中の粘液を抜きます。これでラトケ嚢胞(ラトケのう胞)がつぶれて治ることが多いが、再度粘液がたまることもあります(World Neurosurg. 2012 Nov;78(5):527-34.)。
手術後の再発は約16%あって、再手術で視力障害は回復しますが、下垂体機能低下症は回復し難いとされます[Oper Neurosurg (Hagerstown). 2019 Jun 1;16(6):675-684.]。
何度抜いても再発するときは開頭手術が必要になります。(Oper Neurosurg (Hagerstown). 2019 Jun 1;16(6):675-684.)
小児ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)
小児ラトケ嚢胞(ラトケのう胞)診断時の平均年齢は13歳8ヶ月、男女比はほぼ同じ。症状は
- 頭痛(50%)
- 中枢性甲状腺機能低下症(50%)
- 低身長・成長障害(47%)
- 2次性徴障害(37%)
- 尿崩症(26%)
- 中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症(26%)
- 眠気および全身衰弱(13%)
- 視覚障害(11%)
[J Pediatr Endocrinol Metab. 2018 Aug 28;31(8):903-910.]
エンプティ・セラ症候群(empty sella症候群, トルコ鞍空洞症候群)とは
エンプティ・セラ症候群(empty sella症候群, トルコ鞍空洞症候群)は、クモ膜下腔がトルコ鞍内に下垂し、トルコ鞍が脳脊髄液で満たされた状態です。
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)の原因
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)の原因は、
- 原発性;中年女性に多く、エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)のほとんどを占める
鞍隔膜の形成不全→トルコ鞍で髄液の拍動を強く受ける→くも膜下腔が下垂→下垂体が菲薄化 - 続発性:
妊娠により下垂体の増大・縮小を繰り返す
リンパ球性下垂体炎(自己免疫で下垂体炎) - 下垂体卒中
下垂体手術や放射線療法後[World J Clin Cases. 2019 Mar 6;7(5):663-667.]
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)の症状
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)は無症状の事もあるが、
- 頭痛(69.7%)
- 視覚障害(34.2%)
- 脳脊髄液漏(11.8%)
- 内分泌障害(51.4%)
下垂体機能低下症 (30%)(Nihon Rinsho. 2006 May 28;Suppl 1:212-6.)
視床下部機能障害(Endocr J. 2009;56(4):585-9.)
高プロラクチン血症(10%)(J Clin Endocrinol Metab. 2005 Sep;90(9):5471-7.);マクロプロラクチン血症の報告あり(Pan Afr Med J. 2017 Aug 14;27:278.)
先端巨大症
クッシング病
SITSH(TSH不適切分泌症候群)(下記)
中枢性甲状腺機能低下症
原発性甲状腺機能低下症(甲状腺自体が原因の甲状腺機能低下症)(下記)
成人成長ホルモン分泌不全症(39.2%)[Ann Ist Super Sanita. 2012;48(1):91-6.]
の症状がおこります(Clin Endocrinol (Oxf). 1992 Dec;37(6):529-33.)。
小児エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)
小児エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)患者の特徴は、
- 年齢中央値12.4歳
- 下垂体の中央値は2mm;88%の患児が下垂体形成不全
- 47%の患児が低身長または思春期遅滞、29%が成長ホルモン分泌不全症
- 53%の患児が頭痛、耳鳴り、チック、めまいなどの神経症状
[Turk J Pediatr. 2022;64(5):900-908.]
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)と甲状腺
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)による
- 視床下部性(3次性)甲状腺機能低下症(Endocr J. 2009;56(4):585-9.)
- SITSH(TSH不適切分泌症候群)(第63回 日本甲状腺学会 C1-1 トルコ鞍空洞症とSITSHを合併した2症例)
の報告があります。
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)の
- 46.42%は原発性甲状腺機能低下症(甲状腺自体が原因の甲状腺機能低下症)
- 26.78%は自己免疫抗体[抗サイログロブリン抗体(TgAb)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)]陽性の潜在性または顕在性甲状腺機能低下症(橋本病)
- 23.21%は自己免疫抗体陰性の原発性甲状腺機能低下症;甲状腺の萎縮
で、中枢性甲状腺機能低下症よりも多い(Clin Exp Med. 2010 Jun;10(2):129-34.)
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)の診断
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)の治療
エンプティ・セラ症候群(トルコ鞍空洞症候群)は一般的に外科的手術の適応になりません。髄液漏では、腰椎穿刺によるドレナージ、瘻孔の修復、シャントがおこなわれます。
くも膜嚢胞は、くも膜の袋に脳脊髄液が貯留したものです。0.1~0.3%の頻度(1000人~330人に一人)で、男性に多い。
くも膜嚢胞の原因は、
- 先天性
- 後天性;外傷、出血、脳髄膜炎など
成人のくも膜嚢胞はほとんど増大しません。
- バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の眼窩MRI検査時に、偶然見つかる場合があります
- くも膜嚢胞の壁へ転移した甲状腺濾胞がんの報告があります[BMJ Case Rep. 2023 Oct 31;16(10):e255865.]
- 視床下部-下垂体障害;思春期早発症(下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症)、成長ホルモン欠乏症、尿崩症[Turk J Pediatr. 2011 May-Jun;53(3):295-300.]
SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群);リセットオスモスタット(reset osmostat)[J Clin Res Pediatr Endocrinol. 2023 Feb 16.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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