甲状腺のう胞と思っても副甲状腺のう胞・正中頸のう胞・側頸嚢胞 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、年次開催の日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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Summary
副甲状腺のう胞は血中副甲状腺ホルモン値が①上昇しない非機能性副甲状腺のう胞②過剰に分泌される機能性副甲状腺のう胞があり、発生や治療法が異なる。甲状腺のう胞と鑑別難の場合、穿刺(機能性副甲状腺のう胞は禁)、のう胞液を採取すると透明サラサラ液が抜ける(甲状腺のう胞は黄色い粘稠な液)、のう胞液中の副甲状腺ホルモン(PTH)を測定(FNA-PTH;インタクトPTHよりホールPTHが正確)。穿刺排液後、再貯留あり。側頸嚢胞は管が外耳道,口蓋扁桃,皮膚に開いている事も。異所性甲状腺の一つ、正中頸のう胞は甲状舌管遺残で1~2%に癌が発生、84%が甲状腺乳頭癌。
Keywords
甲状腺のう胞,副甲状腺のう胞,側頸嚢胞,異所性甲状腺,正中頸のう胞,甲状腺,副甲状腺,副甲状腺ホルモン,PTH,カルシウム
副甲状腺内に水溜まりができたものを、副甲状腺のう胞(あるいは上皮小体嚢胞)と呼びます。副甲状腺のう胞には、
- 血中副甲状腺ホルモン値の上昇を示さない非機能性副甲状腺のう胞
- 副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される機能性副甲状腺のう胞
があり、それぞれ発生や治療法が異なります。
①非機能性副甲状腺のう胞
そもそも副甲状腺は、胎生期に魚のえらに相当する鰓嚢が下垂し、甲状腺の背面に位置するものです。その下垂過程で管が残り非機能性副甲状腺のう胞になります。ほとんど症状はありません。内容液を穿刺・吸引し、内容液の副甲状腺ホルモン(インタクトPTH)、カルシウム濃度を測定すると診断が付き、かつそれが治療になります。
甲状腺内部にできる非機能性副甲状腺のう胞では、甲状腺のう胞との鑑別が難しい場合もあります。
②機能性副甲状腺のう胞
副甲状腺腺腫、副甲状腺癌、副甲状腺過形成内部で組織の変性が起こり、嚢胞形成したものです。副甲状腺ホルモン(PTH)過剰産生から高カルシウム血症をおこします。(副甲状腺機能亢進症)
副甲状腺のう胞 超音波エコー画像
FNA-PTH
(下右:第15回隈病院甲状腺研究会より提供)
機能性副甲状腺のう胞にFNA-PTHは行わない方が良い
機能性副甲状腺のう胞にFNA-PTHを行うと、高カルシウム(Ca)クリーゼをおこす危険があるため、よほど診断が付かない場合以外は、止めた方が良いとの報告があります。(第54回 日本甲状腺学会 P106 甲状腺嚢胞との鑑別が困難であった機能性副甲状腺嚢胞の一例)
一方で、11名の機能性副甲状腺のう胞にFNA-PTHを行い、特に何も起こらなかった報告もあります[Int J Endocrinol. 2018 Jul 15;2018:3745239.]。
副甲状腺のう胞 病理組織
副甲状腺のう胞穿刺排液後
副甲状腺のう胞を穿刺排液すれば、比較的簡単に、のう胞液は抜けます(サラサラで抜けやすい)。再貯留することが多いですが、穿刺排液前ほどの量は貯まりません(筆者が思うに、のう胞液が貯留するには年単位の時間が掛かるのでしょう)。
異所性甲状腺・甲状腺片葉欠損症 を御覧ください。
正中頸のう胞(甲状舌管嚢胞)とは
正中頸のう胞(甲状舌管嚢胞)は胎生期に甲状腺原基(甲状腺中葉)が下方に移動する過程の甲状舌管遺残です。人口の約7%に存在するとされ、若年者(10歳代)と50歳代に多く、男女差なし。(Head Neck Pathol. 2016 Dec;10(4):465-474.)
多くは舌骨部に発生、甲状舌管は左寄りが一般的なので左側に多いです。
良性と考えられがちな正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)の1~3%に癌が発生します。正中頸嚢胞癌(甲状舌管嚢胞癌)は甲状腺組織を発生母地にするため甲状腺乳頭癌が84%を占めます。(Head Neck Pathol. 2016 Dec;10(4):465-474.)
上気道感染症などを契機に正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)感染・膿瘍を約20%に生じます。
- 頚部腫瘤増大;嚥下困難
- 頸部痛、皮膚発赤・熱感、咳嗽(せき)、嗄声(声のカスレ)
- 瘻孔形成
(Int J Oral Maxillofac Surg. 2015 Jan;44(1):119-26.)
頭頸部癌の放射線治療後、正中頸のう胞(甲状舌管嚢胞)が突然大きくなることがあります(Surg Radiol Anat. 2013 Dec;35(10):875-81)。
正中頸のう胞(甲状舌管嚢胞)の超音波(エコー)像
正中頸のう胞(甲状舌管嚢胞)の超音波(エコー)画像。黒い(低エコー)部分は粘稠な液体。白い(等エコー)部分は、胎生期に取り残された甲状腺組織で、甲状腺癌の発生母体になります。
正中頸のう胞(甲状舌管嚢胞)の穿刺細胞診
正中頸のう胞(甲状舌管嚢胞)の術後再発
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,生野区,東大阪市も近く。