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甲状腺と神経内科(パーキンソン病,多系統萎縮症,アテトーゼ,本態性振戦) [橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

本態性振戦

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。神経内科の病気(パーキンソン病,多系統萎縮症,筋萎縮性側索硬化症(ALS),本態性振戦,手根管症候群)の診療は行っておりません。

Summary

甲状腺と神経内科疾患。甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能低下症/橋本病とパーキンソン病症状は類似し合併も多く増悪させる。多系統萎縮症ではTRHアナログセレジスト®(タルチレリン)を使用。甲状腺機能亢進症/バセドウ病ではアテトーゼ不随意運動、舞踏病様の不随意運動・バリスムスおこし、大抵、甲状腺ホルモンが正常化すると軽快。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は姿勢時振戦(ふるえ)で、本態性振戦、慢性アルコール中毒振戦と同様。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は急激な遠位筋萎縮と筋力低下で甲状腺機能亢進症/バセドウ病の様。

Keywords

甲状腺,神経内科,パーキンソン病,多系統萎縮症,本態性振戦,舞踏病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,橋本病

甲状腺とパーキンソン病

甲状腺とパーキンソン病

甲状腺とパーキンソン病

パーキンソン病は、体を動かす機能を調節する脳内のドパミンという物質の不足が原因です。ドパミンの欠乏は、ドーパミン作動性ニューロンの変性によります。

脳内のドーパミン作動系は視床下部-下垂体-甲状腺軸に連結し、甲状腺刺激ホルモン (TSH) を抑制→甲状腺ホルモンの合成・分泌を低下させます。よって、ドーパミンを増加させるパーキンソン病治療薬、レボドパ、ブロモクリプチンなどは視床下部下垂体-甲状腺軸を抑制する可能性があります。

また、RASD2、WSB1、MAPT、GIRK2、LRRK2、ニューロテンシンやNOX/DUOXなどの遺伝子はパーキンソン病と甲状腺疾患の共通するリスクです。

(J Endocrinol Invest. 2020 Jun 4.)

甲状腺疾患とパーキンソン病は合併率が高く、共通の症状があるため、診断の遅れと混乱の原因になります。 

視床下部-下垂体-甲状腺軸

甲状腺疾患とパーキンソン病の合併

スウェーデンの報告では、6種類の自己免疫疾患でパーキンソン病発症のリスクが増加するとされます。

  1. 甲状腺機能低下症/橋本病
  2. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病
  3. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  4. 多発性硬化症(MS)
  5. 悪性貧血
  6. リウマチ性多発筋痛症

の6つです (Neurodegener Dis. 2012;10(1-4):277-84.)。

逆にパーキンソン病患者では、甲状腺疾患、特に潜在性甲状腺機能低下症の有病率が高いとされます(Arch Gerontol Geriatr. 2001 Nov-Dec;33(3):295-300.)

特に、70歳未満の女性と70歳以上の男性パーキンソン病患者で、甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症ともにリスクが高いとされます(J Parkinsons Dis. 2020 Oct 19.)。

甲状腺疾患とパーキンソン病の症状の異同

甲状腺とパーキンソン病の症状の異同
  1. 甲状腺機能低下症は動作・脳の活動が緩慢になり、パーキンソン病の仮面様顔貌・仮性認知症・すくみ足に類似
    ただし、パーキンソン病では、皮質下認知症(大脳皮質以外の変性疾患に伴う認知症)も生じる
     
  2. 甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症/バセドウ病のうつ症状・神経症症状はパーキンソン病でも認める
     
  3. パーキンソン病の手足のふるえは、
    ①じっとしていても震える安静時振戦
    ②re-emergent tremor(手を挙上してから短時間で出現する振戦)
    です。
    ただし、症状に左右差を認めることが多い。
    一方、本態性振戦、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う振戦は、手を伸ばした時などに生じる姿勢時振戦です。
     
  4. REM睡眠行動異常症(睡眠中に大声・大きく手足をバタつかせる)はパーキンソン病の早期に出現。甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症/バセドウ病と異なります。

  5. パーキンソン病の自律神経障害として便秘が多く、甲状腺機能低下症と同じ
     
  6. パーキンソン病の歩き始めの一歩が出にくい、狭いところや方向転換で足が止まる等の「すくみ足」は、甲状腺の病気とは異なる。レボドパとドロキシドパ、床に目印をつけるなど外部刺激で改善(矛盾性運動)
パーキンソン病 前傾姿勢

(パーキンソン病 前傾姿勢)

パーキンソン病は、体の片側から症状があらわれ、左右差がある点、甲状腺の病気と異なります。また、緩やかに進行する点、甲状腺機能低下症に似ています。

甲状腺中毒症はパーキンソン病症状を増悪

甲状腺中毒症はパーキンソン病症状を増悪させます。パーキンソン病の安静時振戦・re-emergent tremorに、甲状腺中毒症による姿勢時振戦が加わります。機序は不明ですが、甲状腺中毒症がパーキンソン病治療薬L-DOPA 抵抗性に関与した可能性も報告されています。(第57回 日本甲状腺学会 P1-096 Parkinson 病の合併により甲状腺機能亢進症の診断に難渋したTSH 産生腫瘍(TSHoma)の一例)

中枢性甲状腺機能低下症下垂体前葉機能低下症に伴う)は、パーキンソン病様の症状おこす

甲状腺ホルモンは、中枢神経系の交感神経作用を増強すると言われます。甲状腺ホルモンの不足が、脳内ドーパミン作用の低下をもたらす可能性は十分考えられます。

しかし、甲状腺機能低下症で、神経内科専門医がパーキンソン病と見誤る程の典型的な症状(前方突進現象、歩行障害、首の硬直)は、普通おこりません。

報告例は、下垂体前葉機能低下症に伴う中枢性甲状腺機能低下症で、(中枢性)副腎皮質機能低下症成人成長ホルモン分泌不全症も合併します。3系統のホルモン低下による交感神経作用の低下が、脳内ドーパミン作用の低下→パーキンソン病様の症状おこしたと、筆者は考えます。(第53回 日本甲状腺学会 P-138 パーキンソニズムを呈し、甲状腺ホルモン投与により改善した下垂体機能低下症の1例)

ドパミントランスポーターシンチ(ダットスキャン®)

ドパミントランスポーターシンチ(ダットスキャン®)が、

  1. シナプス前ドパミン障害があるパーキンソン症候群(パーキンソン病・進行性核上性麻痺・パーキンソニズムのある多系統萎縮症・大脳皮質基底核変性症)の早期診断
  2. シナプス前ドパミン障害がないパーキンソン症候群(薬剤性パーキンソニズム・正常圧水頭症・本態性振戦)との鑑別
  3. レビー小体型認知症、アルツハイマー型認知症の鑑別

に保険適応が認められています。※長崎甲状腺クリニック(大阪)では扱っていません、神経内科専門病院をお探しください。

ドパミントランスポーターシンチ(ダットスキャン®)

パーキンソン病のくすり

パーキンソン病の第一選択薬であるレボドパ、カルビドパ、レボドパ・カルビドパ配合剤は、甲状腺ホルモン剤のチラーヂンSと同じく、酸性下で吸収が良い薬です。

しかし、

  1. 胃液の酸性度をアルカリ側に変える胃酸分泌抑制剤[ネキシウム®(エソメプラゾール)・ガスター®、ランソプラゾール、タケキャブ®など]
  2. 胃酸を中和する制酸剤[酸化マグネシウム、アルミニウム剤(アルサルミン®)等]

を併用すると、消化管からの吸収が低下し、効果が弱くなります。

ドパミンアゴニストは、

  1. 従来の麦角アルカロイド;ブロモクリプチン(パーロデル®)やガベルゴリン(カバサール®、プロラクチン産生性下垂体腺腫(プロラクチノーマ)先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体腺腫)にも使用)はD1,D2受容体刺激作用。心弁膜症の危険のため、定期的な心エコーや胸部X線検査を受けることが推奨される。
     
  2. 非麦角アルカロイド;ペキソール系のプラミペキソール(ミラペックス®、ビ・シフロール®)はD2受容体刺激作用。心弁膜症の危険が少なく優先的に使用されるが、麦角アルカロイドより効果が劣る。レストレスレッグ(むずむず脚)症候群にも保険適応あり。眠気(突発性睡眠)、めまい・立ちくらみ・ふらつき等の起立性低血圧症状、便秘の副作用が多い。下腿浮腫(甲状腺機能低下症のよう)・姿勢制御異常・衝動制御障害(バセドウ病/甲状腺機能亢進症でも)も。

パーキンソン病と異なるパーキンソン症候群

パーキンソン病と症状が似ているが、原因が別にある病気をまとめて「パーキンソン症候群(パーキンソニズム)」と呼びます。

  1. 薬剤性パーキンソン症候群;症状が急に進行し、左右の差に乏しい点がパーキンソン病と異なります。
    ①ドパミンをブロックする睡眠薬、精神安定剤[スルピリド(ドグマチール®)]、胃薬[スルピリド(ドグマチール®)、メトクロプラミド(プリンペラン®)]など。同時に薬剤性高プロラクチン血症を起こします。
    ドンペリドン(ナウゼリン®)も脳内のドパミンをブロックする事になっていますが、脳への移行は少ないので、パーキンソン病に使用されたりします。
    リチウムによる甲状腺機能低下症と薬剤性パーキンソニズムを同時に認めた報告あり(J Clin Pharm Ther. 2014 Aug;39(4):452-4.)
     
  2. 脳血管障害性パーキンソン症候群;脳梗塞などが原因
  3. 外傷性パーキンソン症候群;脳震盪(のうしんとう)などの外傷性脳損傷
  4. 副甲状腺機能低下症低カルシウム血症による大脳基底核石灰化→可逆的パーキンソニズム(Am J Med. 1993 Apr;94(4):444-5.)

などです。

薬剤性パーキンソン症候群をおこす薬剤は、

  1. ドパミンをブロックする睡眠薬、精神安定剤[スルピリド(ドグマチール®)]、胃薬[スルピリド(ドグマチール®)、メトクロプラミド(プリンペラン®)]など。これらの薬剤のポリファーマシーでおきやすい。
    同時に薬剤性高プロラクチン血症を起こします。
  2. ドンペリドン(ナウゼリン®)も脳内のドパミンをブロックする事になっていますが、脳への移行は少ないので、パーキンソン病に使用されたりします。
  3. リチウムによる甲状腺機能低下症と薬剤性パーキンソニズムを同時に認めた報告あり(J Clin Pharm Ther. 2014 Aug;39(4):452-4.)

薬剤性パーキンソン症候群は

  1. 無動などの運動障害で発症する
  2. 症状が急に進行し、左右の差に乏しい
  3. 安静時振戦でなく、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と同じ姿勢時振戦である
  4. ドパミントランスポーターシンチグラム(ダットスキャン®)、123I-MIBGシンチグラフィーで正常である

点がパーキンソン病と異なります。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアテトーゼ不随意運動・舞踏病様の不随意運動・バリズム

甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアテトーゼ不随意運動

アテトーゼ(athetosis)は自分の意志に反して運動を行う不随意運動の一つ。ゆっくりとねじるような運動が特徴的。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアテトーゼ不随意運動は、数年に1回、どこかの施設が日本甲状腺学会で発表しています甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因とは判らず(甲状腺専門医でも知らないヒトが結構いるのに、精神科医・神経内科医が知っているはずもないのですが・・・)、ほとんどが精神科医・神経内科で治療されています。しかし、神経内科的な異常所見無く、脳MRIも正常なので(原因が甲状腺なんだから当然ですが)、神経内科医も「おかしい。」と思いながら治療するそうです。

通常、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を治療し、甲状腺ホルモンが正常化するとアテトーゼ不随意運動も軽快しますが、改善しない事もあるようです。(第58回 日本甲状腺学会 P1-2-3 バセドウ病で内服治療中、舞踏様の不随意運動で入院となった一例)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の舞踏病様の不随意運動・バリズム

必ずしもアテトーゼ不随意運動とは限らず、舞踏病様の不随意運動・バリズムの事もあります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因なので、通常の舞踏病様の不随意運動に見られる脳MRIの尾状核の萎縮、側脳室の拡大も無く、神経内科医も首を傾げます。(第55回 日本甲状腺学会 P1-01-06 舞踏様の不随意運動の出現を契機に発見されたバセドウ病の一例)

舞踏病:筋肉群が不規則、不随意、かつ無目的な運動をすることです。四肢遠位部と顔で最も顕著で,四肢の舞踏運動と同時に、口唇の歪め運動が多い。躯幹にも現れます。 

バリズム:急速かつ粗大で持続的に起こり、体幹の近い部分(四肢近位部)で強く起こる上下肢全体を投げだす・振り回すような大きい不随意運動です。視床下核が責任病巣の事が多い。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の舞踏病様の不随意運動

本物のハンチントン舞踏病

ハンチントン舞踏病 MRI画像

本物のハンチントン舞踏病は、舞踏運動をおこす最も頻度の高い病気だが、日本・アジアでは少ない。

常染色体優性遺伝性に4染色体短腕上のIT15遺伝子(Huntingtin遺伝子)変異を認め、家系内に同様の者がいます。世代を経るごとに発症年齢が早くなります(表現促進現象)。

ハンチントン舞踏病に症状は、ある年齢(35~50歳)を境に

  1. 舞踏様不随意運動
  2. 抑うつなど精神症状:甲状腺機能亢進症/バセドウ病と同じく、イライラして、落ち着きがなく、怒りやすい、情緒不安定、うつ状態・自殺企図
  3. 行動変化・性格変化:甲状腺機能亢進症/バセドウ病の精神症状でも起こり得る社会的良識を欠いた行動、
  4. 認知症:記銘力低下、判断力低下、学習機能低下。小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、よく見られます。

などを起こします。

MRIで尾状核の萎縮と側脳室前角の拡大が認められるのが特徴。末梢血白血球を用いたIT15遺伝子(Huntingtin遺伝子)診断が可能。

ハンチントン舞踏病の治療はドパミンをブロックする抗精神病薬(リスペリドン、オランザピンペルフェナジン、ハロペリドール、クロルプロマジンなど)。

糖尿病性舞踏病

糖尿病性舞踏病

糖尿病性舞踏病は血糖コントロール不良の高齢者で突然発症する糖尿病性脳神経障害の一つで、機序は不明です。MRIでは舞踏様不随意運動の反対側の被殻・大脳基底核が、MRI、T1WI画像で高輝度になります。大脳基底核の糖代謝障害、血流障害(虚血)・点状出血などの説があります。糖尿病性舞踏病は、血糖コントロールにともない改善します。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に、血糖コントロール不良の糖尿病を伴っている場合、どちらが原因の舞踏様不随意運動か分かりません。血糖コントロールが改善しないのに、甲状腺ホルモンの改善だけで舞踏様不随意運動が改善すれば、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因だった事になります(逆も然り)。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病糖尿病以外にも

  1. 副甲状腺機能低下症
  2. 経口避妊薬の使用
  3. 妊娠

でも舞踏病が起こります。

多系統萎縮症と甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ

多系統萎縮症 MRI画像

多系統萎縮症は、下記の3疾患を統合した概念です。

  1. 小脳症状主体のオリーブ橋小脳萎縮症:
    進行性の運動失調(歩行時のふらつき)、構音障害(呂律が回りにくい、酔っ払ったような話し方)、患側向き方向固定性水平性眼振
    MRIでの脳幹と小脳の萎縮、脳血流シンチグラフィでの小脳の血流低下
     
  2. 起立性低血圧、神経因性膀胱による排尿障害(過活動性膀胱および排尿困難で泌尿器科を先に受診すること多い)、甲状腺腫瘍・甲状腺癌・巨大甲状腺腫による上気道閉塞甲状腺機能低下症先端巨大症がないのに睡眠時無呼吸(喉頭喘鳴)
    など自律神経症状主体のシャイ・ドレーガー症候群
     
  3. 甲状腺機能低下症の様に動作緩慢、小刻み歩行、姿勢反射障害などのパーキンソン症状を主体の線条体黒質変性症
    橋本脳症で線条体黒質変性症と同じ症候を示し、鑑別が難しいケースが報告されています(Clin Nucl Med. 2017 Aug;42(8):e390-e391.)

の3疾患は、進行すると他の系統にも病変が拡大し、次第に症状が重複してきます。

運動失調に対し、セレジスト®(タルチレリン)(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ)が使われます。

セレジスト®(タルチレリン)(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ)服薬中の甲状腺機能異常

タルチレリン服用中の甲状腺機能異常の多くはTSH上昇です。しかし、最近、東京大学が従来と異なるパターンの甲状腺機能異常を報告しています。いずれも脊髄小脳変性症でタルチレリン服用中、肺炎で入院した患者で、

  1. (症例1)TSH低値、FT3低値、FT4高値;TSH 0.36μU/mL, FT3 1.3pg/mL, FT4 2.17ng/dL
    TRAb, TPOAb, TgAbは陰性、甲状腺エコーも正常
    TRH負荷試験でTSHの反応は低下
  2. (症例2)TSH高値、FT3低値、FT4低値;TSH 10.34μU/mL, FT3 1.5pg/mL, FT4 0.9ng/dL

(第60回 日本甲状腺学会 P2-6-9 TRH誘導体タルチレリン服用中に甲状腺機能異常を呈した脊髄小脳変性症の3例)

理由不明ですが、強引に推測するなら

  1. (症例1)肺炎の入院患者であり、低T3症候群でFT4が一時的に上昇→下垂体にFT4がTSH産生・分泌抑制(ネガティブフィードバック)を掛けた。下垂体のTRH受容体はダウンレギュレーションにより減少していて、TRH負荷試験で反応悪い
  2. (症例2)肺炎の入院患者であり、低T3、低T4症候群になった

筆者は、このように推測しますが、皆さんはどのように考えますか?

甲状腺機能亢進症/バセドウ病と本態性振戦

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の姿勢時振戦

甲状腺機能亢進症 バセドウ病の姿勢時振戦

姿勢時振戦(ふるえ):手指と腕を前方に伸ばした姿勢で、指を開いたり、コップを取る時に生じる振戦。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、本態性振戦、慢性アルコール中毒振戦は姿勢時振戦です。

写真の様に、紙を載せてみると、振える様子が良く分かります。

本態性振戦

本態性振戦

本態性振戦は常染色体優性遺伝による小脳の異常との説が有力。発症年齢は20代と60代の2峰性。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病、慢性アルコール中毒振戦と同じ姿勢時振戦です。左右差がないこと多く、個人差大きいです。緊張/カフェインで増悪、アルコール/鎮静剤で軽減。アルファベータ遮断薬の「アロチノロール」(アルマール®)が保険適応です。

本態性振戦は手だけでなく、頭や声が震えたりもします。しかし、病状が進行したり、麻痺する事はありません。

片側の本態性振戦は、パーキンソン病に移行する可能性があります。

パーキンソン病は安静時振戦

パーキンソン病は安静時振戦ですが、甲状腺機能亢進症振戦をパーキンソン病と間違えてl-ドーパ投与すると、甲状腺機能亢進症振戦は増悪します。

パーキンソン病は安静時の振戦なので、手に力を入れない状態での振戦です。両手を膝に置いて振戦が見られれば、甲状腺機能亢進症振戦でなく、パーキンソン病の安静時振戦です。

肝性脳症の羽ばたき振戦(flapping tremor)

羽ばたき振戦

肝性脳症の羽ばたき振戦(flapping tremor)は、正確には振戦でなく、力を入れた時の急な脱力です。手指と上肢を伸ばして、手関節を背屈する姿勢を保つと、手が急に掌屈し、続いて元に戻ろうと背屈する運動が繰り返されます。あたかも、羽ばたいている様に見えます。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の姿勢時振戦も、羽ばたき振戦(flapping tremor)と同じく、手指と上肢を伸ばして、手関節を背屈する姿勢で起こります。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に間違えられる筋萎縮性側索硬化症(ALS)

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診療は行っておりません。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は人口10万人あたり4-6人の稀な病気。好発年齢は40-60代で、やや男性に多い。原因不明だが約20%は常染色体優性遺伝によるSOD1(Cu/Zn superoxide dismutase)遺伝子変異。

運動神経のみが変性、上位(脳脊髄)運動神経、下位(末梢)運動神経の両方が障害されます。

甲状腺との関連は皆無とされ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の甲状腺機能は正常、甲状腺に対する自己抗体(バセドウ病橋本病抗体)は陰性です(Arch Neurol. 1982 Apr;39(4):241-2.)(Ann Univ Mariae Curie Sklodowska Med. 2003;58(1):343-7.)。

しかし、ある論文では甲状腺ホルモンの細胞内輸送を司るマイクロ クリステリン(μ-crystallin:CRYM)蛋白が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の脊髄神経で著しく減少していることを報告しています(Neuropathology. 2018 Jun;38(3):247-259.)。

これが筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態解明につながるのか否か、誰にも分かりません。

(図;日本甲状腺学会雑誌 April 2014 Vol.5 No.1 26-31.)

CRYM(マイクロ クリステリン)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は甲状腺の病気と症状がやや似ています。

  1. 両手に力が入らない(急激な遠位筋萎縮と筋力低下)→甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能低下症/橋本病の筋力低下なし
  2. 食事が飲み込みにくい[嚥下障害(球麻痺)]→耳鼻咽喉科異常なし、甲状腺腫・甲状腺腫瘍による食道圧排なし
  3. 呂律が回りにくい[(構音障害(球麻痺)]→甲状腺機能低下症/橋本病による喉頭浮腫なし
  4. 舌萎縮(舌下神経核障害)→亜鉛、血清鉄正常、貧血無し
  5. 舌と両上肢に線維束性収縮(脊髄前核細胞障害)
  6. 腱反射亢進・腹壁反射消失(錘体路障害)
  7. 呼吸筋障害(呼吸ができなくなる)→甲状腺機能亢進症/バセドウ病による低カリウム性四肢麻痺ない

甲状腺機能亢進症/バセドウ病は全身の痩せ筋力低下、腱反射亢進(アキレス腱反射の弛緩相俊敏化)、腫れた甲状腺の気道圧迫による嚥下障害がありますが、

  1. 振戦や不随意運動がある点
  2. 腹壁反射正常で病的反射が無い点
  3. 構音障害(球麻痺)・舌下神経核障害による舌萎縮が無い点

が筋萎縮性側索硬化症(ALS)と異なります。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の検査所見は

  1. 神経伝達速度は正常
  2. 頭部MRI異常なし

リルゾールは神経保護作用があり筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を遅らせる薬ですが、効果はほとんど無いと思います。エダラボンは脳保護剤で活性酸素を除去し脳神経を保護する働きを持ちます。海外では筋萎縮性側索硬化症(ALS)にも使用されますが、癌の治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害(甲状腺irAE)を抑える報告があります(Int Immunopharmacol. 2019 Dec;77:105967.)。

球脊髄性筋萎縮症(bulbospinal muscular atrophy、Kennedy-Alter-Sung 症候群)

球脊髄性筋萎縮症(bulbospinal muscular atrophy、Kennedy-Alter-Sung 症候群)は、人口10万人あたり1-2人の極めて稀な病気で、X連鎖性劣性遺伝のため成人男性(30~60歳ごろ)のみに発症します(女性には発症しない)。

X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子異常により、

  1. 延髄の運動神経の変性;ろれつが回り難い・舌萎縮(舌下神経核障害)、むせ返る・嚥下障害、喉頭痙攣による短時間の呼吸困難、顔面けいれん
  2. 脊髄前角細胞の変性、末梢神経の脱髄(運動神経)→手指の振戦・筋痙攣、筋収縮時の筋線維束性収縮、筋力低下、筋萎縮(甲状腺機能亢進症/バセドウ病のよう)
  3. 末梢神経の脱髄(知覚神経);深部感覚優位の軽徴な感覚障害
  4. 男性ホルモン作用の低下による精巣萎縮、女性化乳房、女性様皮膚変化
  5. 耐糖能障害、脂質代謝異常症
  6. 肝機能障害
  7. ブルガダ(Brugada)症候群(ポックリ病)を合併

球脊髄性筋萎縮症の検査所見;高CK(CPK)血症を認める場合あり

球脊髄性筋萎縮症の治療には、多系統萎縮症と同じく、セレジスト®(タルチレリン)(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ)が有効との報告あり(J Child Neurol. 2009 Aug;24(8):1010-2.)。

クロウ・フカセ症候群(POEMS症候群)と間違えられた球脊髄性筋萎縮症

末梢神経障害(手足先のしびれ/脱力)、臓器腫大、内分泌異常(女性化乳房)、甲状腺腫大があり、クロウ・フカセ症候群(POEMS症候群)と間違えられた球脊髄性筋萎縮症の報告があります(Med Princ Pract. 2016;25(3):286-9.)。(写真→)

頸髄損傷と甲状腺

脊髄損傷の約75%が頸髄損傷で、損傷部位が高位程、生命にかかわります。頸髄損傷特有の症状は、呼吸筋麻痺と高体温・低体温です。

第5頸髄の障害で、横隔神経の障害による呼吸障害が生じます。胸式呼吸が障害され、胸郭運動は消失、気管支内に痰・分泌物が貯留し無気肺や肺炎になりやすい。腹式呼吸によって代償されます。

実験レベルの話ですが、外傷性脊髄損傷において甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン(T3)がオリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)の成熟を促すのに最も効果的です。しかし、治療用量のトリヨードサイロニン(T3)の全身投与は、甲状腺機能中毒症を誘発する危険性があります(J Neural Eng. 2017 Jun;14(3):036014.)。‎

甲状腺濾胞癌甲状腺低分化型の頚椎転移による頸椎浸潤と頚髄圧迫の報告があります(Medicine (Baltimore). 2017 Oct;96(41):e8215.)(J Laryngol Otol. 2000 Oct;114(10):808-10.)(甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)は骨転移)。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療      長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

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