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穿刺細胞診の注意(不適正検体,鑑別困難,細胞成分少数,判定不能,病理診断,局所麻酔,針を刺す痛み,腫瘍梗塞)[橋本病 長崎甲状腺クリニック大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

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(目次)

穿刺細胞診の注意(不適正検体,鑑別困難,細胞成分少数,判定不能,病理診断,局所麻酔,針を刺す痛み,腫瘍梗塞)[本ページ]

穿刺細胞診の気を付ける点(医療従事者用)

Summary

甲状腺穿刺吸引細胞診を行っても、病変が微小、穿刺困難な場所、石灰化や線維化が強い、良性で細胞数少ない、内部壊死等なら十分な検体採取できず不適正検体、細胞成分少数、判定不能。不適正検体の確率は約10%で、2回穿刺行うといずれか一方が適正検体の確率は99%。鑑別困難の比率は医療機関によりかなり差がある。病理診断は細胞診断技師、病理診断医の主観により左右されるため人工知能AI導入の動きがある。針を刺す痛みに局所麻酔薬は使用しない。針刺しにより腫瘍の内部構造が破壊される穿刺細胞診後腫瘍梗塞(全梗塞、部分梗塞)起こす場合あり。

Keywords

甲状腺,穿刺細胞診,不適正検体,鑑別困難,細胞成分少数,判定不能,病理診断,局所麻酔,針を刺す痛み,腫瘍梗塞

不適正検体

甲状腺穿刺吸引細胞診

甲状腺穿刺吸引細胞診を行っても、

  1. 数mm大の微小な病変(針先より小さい、同じくらい)
  2. 穿刺が困難な場所にある病変
  3. 石灰化や線維化が強い病変
  4. 良性の病変
    ・当然、細胞数は少ない
    腺腫様結節は壊死組織を含んでいる
  5. 例え悪性腫瘍でも内部が壊死(組織が溶けてしまう事)した病変
  6. 嚢胞成分が有意の病変;元々、細胞数が少ない
    [Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Jun;74(6):776-82.]

などでは十分な検体採取ができず、「検体不適正」「細胞成分少数(過少)」「判定不能」になることがあります(甲状腺穿刺吸引細胞診の限界)。また、良性でも悪性腫瘍でも、血管の豊富な組織や崩れやすい(脆い)組織は針を刺した時の出血で「血液のみ」「判定不能」になる可能性があります。

不適正検体の確率は、施設により異なりますが約10%-17%で、それ以下にするのが望ましいとされます。2回穿刺を行うと、いずれか一方が適正検体になる確率は99%とされます(2回とも不適正である確率1%)。

(第54回 日本甲状腺学会 P143 甲状腺穿刺細胞診における2回穿刺法の有用性について)[Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Jun;74(6):776-82.]

鑑別困難

甲状腺穿刺吸引細胞診の結果、「鑑別困難」の事があります。この「鑑別困難」の比率は医療機関によりかなりの差があります。

大抵は細胞診断技師が一次スクリーニングして、判断付かない場合のみ病理診断医が見ます(病理医が全て自分の眼で見ていないのが現実)。細胞診断技師、病理診断医の主観により診断は左右されます(診断を下す人間の質により左右される本当に困った問題です)。

驚いたのは、慶應大学病院での「鑑別困難」がわずか7.1%である、言い換えれば92.9%は診断できていると言う事です。(第62回 日本甲状腺学会 P1-5当院の甲状腺穿刺吸引細胞診症例における鑑別困難症例の特徴)

細胞診断技師、病理診断医の主観による誤診を失くすため、病理診断に人工知能AIを導入する動きが加速しています。筆者は賛成です。

細胞病理診断

穿刺細胞診で針を刺す痛み

患者さんに穿刺細胞診の説明をする時、「麻酔をするんですか?」とよく聞かれます。「麻酔はしません」と答えると、「痛くないんですか?」と言われるので、「針を刺すので、痛く無いとは言いませんが、採血よりも細い針です。」と再度返答します。

まあ、人間の体の表面には痛覚神経が網目の様に張り巡らされ、どこにあるのか肉眼では見えないから仕方ないでしょう。

では、なぜ麻酔をしないか?

歯科の治療と違い、1か所に付き1分も掛からないので

  1. 麻酔をするのに針を刺し、しかも薬液を注入する方がよほど痛い
  2. 局所麻酔薬で、アレルギー反応や局所麻酔薬中毒が起こる危険性(下記)
  3. 局所麻酔薬で皮膚が盛り上がり、穿刺の角度がずれる

などが理由です。

リドカイン中毒

局所麻酔薬中毒は危険です。一般的には800mg以上投与すると局所麻酔薬中毒で心停止。局所麻酔薬中毒(けいれんなどの中枢神経症状、甲状腺機能亢進症/バセドウ病のような振戦、意識障害」)には、ドパミン・ノルアドレナリンなど昇圧薬の効果は乏しく、脂肪乳剤イントラリポスで解毒。

トルコでは針を使わないリドカイン局所麻酔[おそらく経皮的浸潤麻酔、皮膚の上から2%リドカイン塩酸塩ゼリー(キシロカインゼリー2%)を塗る]した上で、穿刺細胞診を行った報告があります。無痛、軽度痛は90.9%で、プラセボ群44.2%に比べて有意な効果がありました。(Thyroid. 2007 Apr;17(4):317-21.)

しかしながら、アレルギー反応、特にアナフィラキシーショックをおこす可能性はあるため、止めた方が良いと思います。

穿刺細胞診後腫瘍梗塞

穿刺細胞診後腫瘍梗塞とは、針を刺す事により腫瘍の内部構造が破壊される状態です。完全に破壊される全梗塞と、部分的に破壊される部分梗塞があります。甲状腺乳頭癌に穿刺細胞診行うと約2%で穿刺細胞診後腫瘍梗塞がおこります。約30%が部分梗塞、約70%でほぼ全梗塞とされます。(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2014 Jan;140(1):52-7.)

完全に破壊され、甲状腺内の乳頭癌が消滅すれば、メデタシです。しかし、手術標本で、在るはずの甲状腺乳頭癌が無いとなれば慌ててしまいます。穿刺細胞診後腫瘍全梗塞だった可能性を考慮し、念のため遠隔転移が無い事を確認し、その後の再発をフォローすべきです。

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞)超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞) 超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部融解  超音波(エコー)画像(穿刺後1年)

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞) 超音波(エコー)画像(穿刺後1年)

穿刺後内部融解  超音波(エコー)画像(穿刺後1年)ドプラーモード

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞) 超音波(エコー)画像(穿刺後1年) ドプラーモード;低エコー部には血流が認められ、完全に壊死していなかったようです。

穿刺後内部融解  超音波(エコー)画像(穿刺後)[拡大]

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞) 超音波(エコー)画像(穿刺後1年)

穿刺後内部融解  超音波(エコー)画像(穿刺後)エラストグラフィー

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞) 超音波(エコー)画像(穿刺後1年) エラストグラフィー;低エコー部は他の部位より軟らかい。

穿刺後内部崩壊

穿刺後内部崩壊 穿刺後内部崩壊  超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部崩壊  超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部崩壊 穿刺後内部崩壊  超音波(エコー)画像(穿刺後)

穿刺後内部崩壊壊 超音波(エコー)画像(穿刺後);穿刺細胞診後内部崩壊壊とは、針を刺す事により腫瘍の内部構造が破壊され、連結が外れる状態です、穿刺細胞診後腫瘍梗塞とは、やや異なります。

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)

筆者の知る限り、甲状腺で毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)は報告されていませんが、乳腺の針生検ではあります(2020年度 総合内科専門医のセルフトレーニング問題集)。

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)は生検後よりも、

  1. 生理用品(タンポン)を交換し忘れる女性での発症が有名です。
  2. その他、術後感染症、熱傷・アトピー性皮膚炎で掻破した皮膚・からの感染、産褥期感染症から発症します。
毒素性ショック症候群(TSS)

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の菌体外毒素(TSSトキシン-1)による

  1. 高熱
  2. 嘔吐・下痢(褐色でやや粘度のある下痢)
  3. 全身の紅斑
  4. 敗血症性ショック、DIC・多臓器不全

が急速に進行します。穿刺部は、発赤・圧痛を認めます。

体幹皮膚、手掌、足底に発赤、1-2週間後、手掌と足底に特に強い皮膚の剥脱が起こり、初めて毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群TSS)と診断される場合もあります。

菌体外毒素なので血液培養(検体2 セット)も陰性の場合があります。創部からの起炎菌の培養は間に合いません。

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)の治療は

  1. 抗生物質;急速に進行するため薬剤感受性試験は間に合わず、最初からMRSA をカバーする抗菌薬を投与
    メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)セフェム系抗生剤
    メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、アルベカシン
    トキシン合成を抑えるため蛋白質合成阻害薬のクリンダマイシン、リネゾリドなどを併用
       
  2. 局所の感染巣除去、開放洗浄、ドレナージ
  3. ICU管理(ショックに対する輸液・カテコラミンなど集中的な支持療法)
  4. 免疫グロブリン投与を行う事もある

いつ甲状腺で起きても不思議ではありません。

バンコマイシンなどグリコペプチド系薬は濃度依存性のため、薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring : TDM)が必要。トラフ濃度が有効性と安全性の指標。

(写真 medscapeより)

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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