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穿刺細胞診の注意(穿刺時出血,急性反応)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

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穿刺細胞診の気を付ける点(医療従事者用)

Summary

甲状腺穿刺吸引細胞診の注意点は、①穿刺部位の性質等により十分な検体採取ができず、不適正検体。穿刺細胞診の有害事象は②穿刺時出血;用手圧迫、再度、超音波(エコー)、造影CT、耳鼻咽喉科で喉頭ファイバー。出血・喉頭腫大が確認されれば入院、ステロイド投与。最悪、気道確保。③穿刺細胞診後、急激な穿刺部の痛みと甲状腺腫脹;超音波で甲状腺腫大、前頚筋腫大と線状の無エコー帯。治療は、局所冷却、ステロイド点滴静注。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、甲状腺内部の血流が異常増加、穿刺で大出血の危険。甲状腺ホルモン正常化し血流低下を待つ。頚動脈に接する小さな甲状腺腫瘍は穿刺難。

Keywords

甲状腺,穿刺細胞診,不適正検体,穿刺時出血,超音波,エコー,甲状腺腫瘍,甲状腺腫脹,ステロイド,甲状腺機能亢進症,バセドウ病

不適正検体

甲状腺穿刺吸引細胞診

甲状腺穿刺吸引細胞診を行っても、

  1. 数mm大の微小な病変(針先より小さい、同じくらい)
  2. 穿刺が困難な場所にある病変
  3. 石灰化や線維化が強い病変
  4. 良性の病変
    ・当然、細胞数は少ない
    腺腫様結節は壊死組織を含んでいる
  5. 例え悪性腫瘍でも内部が壊死(組織が溶けてしまう事)を起こしていると

十分な検体採取ができず、「検体不適正」「細胞成分少数」「判定不能」などになることがあります(甲状腺穿刺吸引細胞診の限界)。また、良性でも悪性腫瘍(病変)でも、血管の豊富な組織や崩れやすいもろい組織は針を刺した時の出血で「血液のみ」「判定不能」になる事があります。

不適正検体の確率は、施設により異なりますが約10%と言われます。2回穿刺行うと、いずれか一方が適正検体である確率は99%になるとされます(2回とも不適正である確率1%)。

(第54回 日本甲状腺学会 P143 甲状腺穿刺細胞診における2回穿刺法の有用性について)

鑑別困難

細胞病理診断

甲状腺穿刺吸引細胞診の結果、「鑑別困難」の事があります。この「鑑別困難」の比率は医療機関によりかなりの差があります。

大抵は細胞診断技師が一次スクリーニングして、判断付かない場合のみ病理診断医が見ます(病理医が全て自分の眼で見ていないのが現実)。細胞診断技師、病理診断医の主観により診断は左右されます(本当、困った問題です)。

驚いたのは、慶應大学病院での「鑑別困難」がわずか7.1%である、言い換えれば92.9%は診断できていると言う事です。(第62回 日本甲状腺学会 P1-5当院の甲状腺穿刺吸引細胞診症例における鑑別困難症例の特徴)

穿刺細胞診の有害事象

どんなに気を付けても、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、TSH高値の重度甲状腺機能低下症など血流の多い甲状腺を避けても、穿刺細胞診の有害事象は一定の割合で起こります。

順天堂大学の報告では、穿刺細胞診した663 例の内、

  1. 穿刺細胞診直後の甲状腺全体の腫脹(1 例、0.13%;1000人に1.3人の確率で起こる)[穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)]
  2. 腫瘍側方に出現し、組織を圧排しながら増大する無エコー域(7 例、0.93%;100人に0.93人の確率)(1.と同じ事象が局所的に起こったと推察されます)
  3. 穿刺細胞診最中もしくは直後に穿刺部位に出現した点状から索状の高エコー域(5 例、0.67%;200人に1.34人の確率)(おそらく軽度の穿刺時出血と推察されます)

が起こったそうです。無事象群と各有事象群間において腫瘍径や血管密度、内部エコーなどに差は無く、予測は難しいとの事です。(第57回 日本甲状腺学会 O1-5 穿刺吸引細胞診後に甲状腺超音波所見が変化した症例の検討)

これらは、無自覚性の事が多く、術者も患者さんも気が付かないので、上記の如く予想以上に高い確率で起こっています。野口病院の報告でも、連続して100例を穿刺細胞診し、1時間後に再度超音波(エコー)検査行った所、

  1. 無自覚性の血腫(甲状腺被膜と前頚筋との間に5mm大)
  2. のう胞内出血
  3. 甲状腺全体の腫脹

を1例(1%)ずつ認めたそうです(第53回 日本甲状腺学会 P-8 甲状腺穿刺吸引細胞診後に起こる無自覚性の血腫形成や甲状腺びまん性腫脹)。

穿刺時出血

甲状腺穿刺細胞診で、最も注意すべき合併症は穿刺時、あるいは穿刺後出血で、最悪、気道閉塞により窒息に至ります。(Am J Otolaryngol. 2005 Nov-Dec;26(6):398-9.)(Laryngoscope 2006;116:154―156)(G Chir. Aug-Sep 2010;31(8-9):387-9.) 

甲状腺は血管が多く、血流が豊富です。甲状腺穿刺吸引細胞診は、甲状腺に直接、針を刺すため、穿刺時、あるいは穿刺後出血が起こっても不思議ではありません。穿刺時・穿刺後出血は、そう頻繁に起こりませんが、飛行機事故と同じで起これば大惨事になります。

特に、のう胞性腫瘍の排液を行う場合、粘稠な液が多いため輸血用の太い針(21G)を使用します。当然、刺し口も大きくなり、出血しやすくなります(のう胞内出血 )。また、穿刺当日は何もなくても、塞がった刺し口は完全に固まるまで脆弱なため、無理な力が掛かると、穿刺2週間後でも出血をおこします(穿刺後遅発性出血)。

また、甲状腺動脈の外膜を傷付けて仮性動脈瘤が生じ、後日、破裂する場合があります(甲状腺動脈瘤破裂で命の危険)。

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像 ドプラー

穿刺後遅発性出血 超音波(エコー)画像 ドプラー

甲状腺穿刺時に「絶対に、唾(つば)は飲まないで下さい。」と必ず患者さんに注意しますが、それでも唾を飲む方が稀におられます(認知症気味の高齢者、精神遅滞のある方など)。針が甲状腺に刺さった状態で唾を飲むと、針が曲がり、甲状腺内で出血がおこります。最悪、気道閉塞(窒息)の危険があります。

このような場合、

  1. 用手圧迫行い、嚥下痛が持続しているか確認
  2. 再度、超音波(エコー)行い、出血の有無を確認しますが、1時間しても超音波(エコー)上、(出血しているのに)変化を認めない事があります。だから、ここで帰宅を許可するのは危険です。
  3. その時は、造影CT、耳鼻咽喉科に依頼して喉頭ファイバー行います。出血・喉頭腫大が確認されれば入院し、ステロイド投与(最悪、気道確保)。造影CT、喉頭ファイバーで異常が無くても、(特に抗凝固剤を服薬していると)遅発性の出血もあり得るので、入院して抗凝固薬を点滴するのが無難と筆者は考えています。
  4. 検査所見で改善が認めれば10日程で退院。
    (第54回 日本甲状腺学会 P148 FNA施行時に合併した甲状腺出血により気道狭窄をおこし入院を要した症例)

甲状腺穿刺細胞診後の巨大血腫・活動性出血

穿刺細胞診後の巨大血腫

気管圧排をきたす程の巨大血腫が生じ、気管内挿管後、外科的な切開とドレナージ(吸引)で除去できた報告があります(Am J Otolaryngol. 2005 Nov-Dec;26(6):398-9.)(G Chir. Aug-Sep 2010;31(8-9):387-9.)。

原始的ですが、最も確実な血腫除去方法です。

(報告例)甲状腺穿刺細胞診から3時間後、重度の呼吸困難をきたし、気管内挿管。造影CTで気管を圧排する巨大血腫(上の写真左)と、活動性出血を示唆する造影剤の漏れ(上の写真右)を確認。

右鎖骨下血管造影を行い、下甲状腺動脈(ITA)からの活動性出血を同定し、n-ブチルシアノアクリレート(NBCA)を用いた経カテーテル動脈塞栓術(TAE)で止血できたそうです(下の写真)

(BMC Surg. 2021 Apr 27;21(1):220.)。

甲状腺穿刺細胞診後、巨大血腫と活動性出血
甲状腺穿刺細胞診後、巨大血腫と活動性出血2

甲状腺機能亢進症/バセドウ病、重度甲状腺機能低下症に合併する甲状腺腫瘍

バセドウ病合併甲状腺腫瘍 穿刺困難

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、甲状腺内部の血流が異常増加しているため、針を刺せば大出血する危険があります。甲状腺腫瘍が見つかっても、下手に針を刺せないため、甲状腺ホルモンが正常化して、血流が低下するまで待たねばなりません。

TSH高値の重度甲状腺機能低下症でも、TSH(甲状腺刺激ホルモン)による甲状腺刺激により甲状腺内部血流が増加し、穿刺時出血の危険があります。

バセドウ病合併甲状腺腫瘍 穿刺困難

バセドウ病合併甲状腺腫瘍 穿刺困難

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)

甲状腺穿刺細胞診自体は、うまく行ったのに、直後(1-3分後)から数時間後(5-6時間後)、急激な穿刺部の痛みと甲状腺びまん性腫脹を来す症例があります。穿刺細胞診後急性反応、あるいは急性一過性甲状腺腫大と呼ばれます(そのままやな・・)。順天堂大学の報告では、0.13%の確率で起きるとされます(J Ultrasound Med. 2016 Mar;35(3):599-604.)。

穿刺細胞診後急性一過性甲状腺腫大は、まず、穿刺時出血との鑑別が必要です。

穿刺細胞診後急性一過性甲状腺腫大は、穿刺部を中心に超音波(エコー)で、

  1. 甲状腺びまん性腫大(両側性だが片側性、左右非対称の事も)、あるいは甲状腺外側を取り囲むような前頚筋腫大
  2. 線状の無エコー帯/樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)
    (ドプラーで血流乏しく、エラストグラフィーで軟らかい):おそらく穿刺刺激により、何らかの血管透過性物質が放出されたためと推察されます。
  3. 甲状腺推定重量は、穿刺30 分以上すると2倍以上で、甲状腺内部の血管は拡張、
    ①甲状腺機能・サイログロブリン(Tg)に大きな変化はなく、炎症所見もなし
    甲状腺中毒症になった(Case Rep Endocrinol. 2016;2016:2915816.)

を認めます[J Med Ultrason (2001). 2015 Jul;42(3):417-25.]。

下の写真は、(a)穿刺前→(b)穿刺後→(c)回復後の変化です(Case Rep Endocrinol. 2016;2016:2915816.)

穿刺細胞診後急性一過性甲状腺腫大
線状の無エコー帯・樹枝状低エコー・Hypoechoic cracks(ひび割れ)2

線状の無エコー帯/樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)(BMC Surg. 2021 Mar 31;21(1):175.)

線状の無エコー帯 樹枝状低エコー Hypoechoic cracks(ひび割れ)3

線状の無エコー帯/樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)[BMC Surg. 2022 Jan 28;22(1):28.]

線状の無エコー帯・樹枝状低エコー・Hypoechoic cracks(ひび割れ)2

線状の無エコー帯/樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)(AACE Clinical Case Reports 2018;4(2):134-139.)

CTでは、甲状腺周囲組織、後咽頭・下咽頭腔、縦隔内食道周囲まで浮腫を認める事もあります。

穿刺細胞診後急性一過性甲状腺腫大の治療は、

  1. 局所冷却
  2. ステロイド点滴静注(報告例では、腫大時44g位の大きさならメチルプレドニゾロン125-250mg程度で、甲状腺推定重量は3 時間後に著減、24 時間後に元の大きさに)

行い、念のため入院、一晩、経過を観る必要があります(入院設備が無いとできません)。

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)は、

  1. 女性の報告がほとんど
  2. 初診当日いきなり穿刺を行った患者が多く、不安感と緊張状態(交感神経亢進)が関与している可能性が考えられます。

(第54回 日本甲状腺学会 P142 穿刺吸引細胞診後に急速にびまん性甲状腺腫脹をきたした甲状腺腫瘍の2例)
(第54回 日本甲状腺学会 P150 甲状腺穿刺吸引細胞診直後に急速一過性頚部腫大を来たした5例)
(第55回 日本甲状腺学会 P1-043 超音波ガイド下吸引細胞診後に急激な甲状腺腫脹を認めた1 例)
(Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Oct;75(4):568-70.)
(J Med Ultrason (2001). 2015 Jul;42(3):417-25.)
(Thyroid. 2008 Jan;18(1):81-4.)

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)がおこる原因

穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)がおこる原因は不明ですが、甲状腺内の神経末端からサブスタンスP やニューロキニンA などのタキキニンが放出され、血管透過性を亢進させる可能性が考えられます(日臨外会誌70(2),375-379,2009)。

だとしたら、穿刺細胞診でなくても、甲状腺内の神経末端から化学物質が放出されれば、同様の反応が起きるはずで、筆者が知る限り

  1. 褐色細胞腫の高血圧発作時;痛みはない。急激な甲状腺びまん性腫脹と樹枝状低エコー
    (第54回 日本甲状腺学会 P126 一過性甲状腺腫脹を主訴とした副腎褐色細胞腫の一例)(第59回 日本甲状腺学会 P2-5-2 一過性の甲状腺腫大を契機に傍神経節細胞腫の診断に至った一例)
     
  2. 癌性リンパ管炎;通常、痛みはないが、急激に進行する場合は有痛性。
     
  3. 甲状腺のう胞内出血で、
    ①同側の甲状腺だけでなく、周囲組織にも炎症が波及。穿刺排液後約1週間で甲状腺周囲の低エコー、甲状腺内の樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)は消失。
    (第65回 日本甲状腺学会 P14-4例)
    ②反対側の甲状腺内に急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応);経過観察のみで数時間後に痛みは軽快、樹枝状低エコーも消失
    (第62回 日本甲状腺学会 P7-4 嚢胞内出血後に対側片葉に激痛を伴う一過性甲状腺腫大を呈した 1症例)
     
  4. 急性虚血性脳卒中(AIS)に対して、組織プラスミノーゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator:rt-PA :アルテプラーゼ)による血栓溶解療法を行った後。rt-PAはプラスミンを生成し、高分子キニノーゲンからブラジキニンを遊離させるため。[Medicine (Baltimore). 2018 Sep;97(36):e12149.]
    甲状腺内出血と鑑別[Neurocrit Care. 2013 Dec;19(3):381-4.][J Cardiovasc Med (Hagerstown). 2008 Sep;9(9):935-6.]

などがあります。

もしも、穿刺部を超音波(エコー)で確認し、ステロイド点滴静注する事を知らなければ?

もしも、穿刺部を超音波(エコー)で確認し、ステロイド点滴静注する事を知らなければ?

報告例では、穿刺後2時間で呼吸困難を訴え、穿刺細胞診したのとは別の総合病院(おそらく甲状腺をあまり知らない救急外来)を受診、おそらく超音波(エコー)検査などするはずもなく、CTで気管圧排を確認するや気管内挿管。

そのまま、穿刺細胞診した病院のICUへ救急再搬送され、その2日後ようやく、穿刺細胞診した科が診察し、遅きに失したがメチルプレドニゾロン250mgを点滴静注、その後軽快し抜管。

最後は、再度穿刺細胞診した時の再発を危惧し、甲状腺全摘術になったそうです。

結論として、最初から穿刺細胞診した病院に連絡して、別の総合病院を受診しなければ、ICUで2日以上、気管に管を入れられて苦しむ必要はなかったと言う事です。

(第53回 日本甲状腺学会 P136 甲状腺細胞診後急激な腫張を認め気管内挿管を要した腺腫様甲状腺腫の1例)

穿刺細胞診後、穿刺側片葉のみが無痛性腫大

穿刺細胞診後、穿刺側片葉のみが無痛性腫大おこした例もあります。報告では片葉のみ約2倍に腫れ、非穿刺側は無変化、痛みもないため、本人が気付かない限り、そのまま見逃されてしまいます。

そのため、穿刺細胞診後、穿刺側片葉のみの無痛性腫大は、実は高頻度で起こっ ている可能性もあります。(第61回 日本甲状腺学会 O17-6 甲状腺穿刺吸引細胞診後に穿刺側片葉のみが腫大した3症例 

穿刺細胞診後、穿刺反対側の急性一過性甲状腺腫大

穿刺細胞診後、穿刺したのと反対側に急性一過性甲状腺腫大を起こした例もあります。なぜ、穿刺した側・穿刺した腫瘍自体に何も起こらなかったのか理由は不明です。(第63回 日本甲状腺学会 C10-27 穿刺吸引細胞診後に穿刺反対側の著明な甲状腺腫大を認めた1例)

針のステンレスアレルギー(ニッケルアレルギー)で穿刺部の皮膚の炎症

注射針の素材は、アレルギー反応が起こり難いステンレス(Ni:ニッケルを含む)です。まれにステンレスアレルギー(ニッケルアレルギー)のある方は穿刺細胞診後、Ⅳ型アレルギー反応が起こり、穿刺部の皮膚の炎症を起こす事があります。甲状腺自体が腫れる訳ではありません。Ⅳ型(遅延型)アレルギーなので、穿刺直後は起こらず、帰宅後あるいは翌日に起きる事もあります。

ネックレスやピアスなどで起きる金属アレルギー[Ni(ニッケル)アレルギー]のある方は、穿刺細胞診前に主治医に申し出た方が良いです。

穿刺するには危険すぎる場所

穿刺細胞診するには、あまりにリスクが大きく、断念せざる得ない場合があります。たとえば、

  1. 頚動脈に接する小さな甲状腺腫瘍
  2. 頚動脈近傍で、頸動脈に連鎖して拍動する小さな甲状腺腫瘍
  3. 下甲状腺動脈直下で穿刺困難の小さな甲状腺腫瘍

甲状腺微小乳頭癌の可能性があるため、穿刺細胞診したくても、頚動脈を刺してしまう危険を考えれば断念するのが正しいと思います。「退く勇気」も大切なのです。その代わり、甲状腺腫瘍が大きくならないか、腫瘍マーカーは上昇しないか、定期的に経過を見る必要があります。

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤(拡大)

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤(拡大)

総頚動脈に接する甲状腺微小乳頭癌疑い腫瘤

頚動脈近傍で、頸動脈に連鎖して拍動する小さな甲状腺腫瘍

頚動脈近傍で、頸動脈に連鎖して拍動する小さな甲状腺腫瘍

頚動脈近傍で、頸動脈に連鎖して拍動する小さな甲状腺腫瘍 内部血流多い

頚動脈近傍で、頸動脈に連鎖して拍動する小さな甲状腺腫瘍。しかも、腫瘍内血流が豊富で、穿刺時出血する危険。

下甲状腺動脈直下で穿刺困難の小さな甲状腺腫瘍

下甲状腺動脈直下で穿刺困難の小さな甲状腺腫瘍

下甲状腺動脈直下で穿刺困難の小さな腫瘤 ドプラーモード

下甲状腺動脈直下で穿刺困難の小さな甲状腺腫瘍 ドプラーモード

何度穿刺細胞診しても血液成分のみ:甲状腺血管腫

甲状腺に発生する血管腫は非常に稀で、日本の報告例もわずかです(日臨外会誌 72(3),579―583,2011)。

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像;

  1. 境界は比較的明瞭だが、やや不整形腫瘍
  2. 内部エコーは等~やや低エコーで不均一
  3. 内部に線状の低エコーが入り組んでいて、ドプラーで血流を認めるため、血管であるのが分かります。

何度穿刺細胞診しても血液成分のみ、下手をすれば穿刺後出血の危険があります。

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像 ドプラー

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像 ドプラー

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像 ドプラー

甲状腺血管腫 超音波(エコー)画像 ドプラー

甲状腺血管腫

血管腫は易出血性なので、手術中に大量出血をきたす可能性があります1,000~2,000mlの輸血を要しも報告もあります。(J R Coll Surg 1978;23:226―229)

(エコー画像;J Ultrasound Med. 2014 Apr;33(4):729-33.)

穿刺したら大出血、最下甲状腺動脈

最下甲状腺動脈

(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)

約10%の人では、最下甲状腺動脈が腕頭動脈あるいは大動脈弓から出ています。最下甲状腺動脈は、気管の前面を上行し、気管にも枝を出しながら甲状腺峡部に達します。(Thyroid. 2003 Feb;13(2):183-92.)

最下甲状腺動脈を間違えて穿刺すれば、動脈出血なので血が止まり難く大変です。

左上甲状腺動脈と両側の下甲状腺動脈が欠落し、左内胸動脈から出た最下甲状腺動脈に置き換わっていた報告があります(Surg Radiol Anat. 1996;18(2):147-50.)。

最下甲状腺動脈 超音波(エコー)画像

最下甲状腺動脈 超音波(エコー)画像

最下甲状腺動脈 超音波(エコー)画像 ドプラー

最下甲状腺動脈 超音波(エコー)画像 ドプラー

穿刺細胞診で針を刺す痛み

患者さんに穿刺細胞診の説明をする時、「麻酔をするんですか?」とよく聞かれます。「麻酔はしません」と答えると、「痛くないんですか?」と言われるので、「針を刺すので、痛く無いとは言いませんが、採血よりも細い針です。」と再度返答します。

まあ、人間の体の表面には痛覚神経が網目の様に張り巡らされ、どこにあるのか肉眼では見えないから仕方ないでしょう。

では、なぜ麻酔をしないか?

歯科の治療と違い、1か所に付き1分も掛からないので

  1. 麻酔をするのに針を刺し、しかも薬液を注入する方がよほど痛い
  2. 局所麻酔薬で、アレルギー反応や、局所麻酔薬中毒が起こる危険性(下記)
  3. 局所麻酔薬で皮膚が盛り上がり、穿刺の角度がずれる

などが理由です。

リドカイン中毒

局所麻酔薬中毒は危険です。一般的には800mg以上投与すると局所麻酔薬中毒で心停止。局所麻酔薬中毒(けいれんなどの中枢神経症状、甲状腺機能亢進症/バセドウ病のような振戦、意識障害」)には、ドパミン・ノルアドレナリンなど昇圧薬の効果は乏しく、脂肪乳剤イントラリポスで解毒。

トルコでは針を使わないリドカイン局所麻酔[おそらく経皮的浸潤麻酔、皮膚の上から2%リドカイン塩酸塩ゼリー(キシロカインゼリー2%)を塗る]した上で、穿刺細胞診を行った報告があります。無痛、軽度痛は90.9%で、プラセボ群44.2%に比べて有意な効果がありました。(Thyroid. 2007 Apr;17(4):317-21.)

しかしながら、アレルギー反応、特にアナフィラキシーショックをおこす可能性はあるため、止めた方が良いと思います。

穿刺細胞診後腫瘍梗塞

穿刺細胞診後腫瘍梗塞とは、針を刺す事により腫瘍の内部構造が破壊される状態です。完全に破壊される全梗塞と、部分的に破壊される部分梗塞があります。甲状腺乳頭癌に穿刺細胞診行うと約2%で穿刺細胞診後腫瘍梗塞がおこります。約30%が部分梗塞、約70%でほぼ全梗塞とされます。(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2014 Jan;140(1):52-7.)

完全に破壊され、甲状腺内の乳頭癌が消滅すれば、メデタシです。しかし、手術標本で、在るはずの甲状腺乳頭癌が無いとなれば慌ててしまいます。穿刺細胞診後腫瘍全梗塞だった可能性を考慮し、念のため遠隔転移が無い事を確認し、その後の再発をフォローすべきです。

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞)超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞) 超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部融解  超音波(エコー)画像(穿刺後)

穿刺後内部融解(穿刺細胞診後腫瘍梗塞) 超音波(エコー)画像(穿刺後)

穿刺後内部崩壊

穿刺後内部崩壊 穿刺後内部崩壊  超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部崩壊  超音波(エコー)画像(穿刺前)

穿刺後内部崩壊 穿刺後内部崩壊  超音波(エコー)画像(穿刺後)

穿刺後内部崩壊壊 超音波(エコー)画像(穿刺後);穿刺細胞診後内部崩壊壊とは、針を刺す事により腫瘍の内部構造が破壊され、連結が外れる状態です、穿刺細胞診後腫瘍梗塞とは、やや異なります。

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)

筆者の知る限り、甲状腺で毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)は報告されていませんが、乳腺の針生検ではあります(2020年度 総合内科専門医のセルフトレーニング問題集)。

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)は生検後よりも、生理用品(タンポン)を交換し忘れる女性での発症が有名です。その他、術後感染症、熱傷した皮膚からの感染、産褥期感染症から発症します。

毒素性ショック症候群(TSS)

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の菌体外毒素(TSSトキシン-1)による

  1. 高熱
  2. 嘔吐・下痢(褐色でやや粘度のある下痢)
  3. 全身の紅斑
  4. 敗血症性ショック、DIC・多臓器不全

が急速に進行します。穿刺部は、発赤・圧痛を認めます。

体幹皮膚、手掌、足底に発赤、1-2週間後、手掌と足底に特に強い皮膚の剥脱が起こり、初めて毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群TSS)と診断される事もあります。

菌体外毒素なので血液培養は陰性の場合があります。創部からの起炎菌の培養は間に合いません。

毒素性ショック症候群(トキシックショック症候群:TSS)の治療は

  1. 抗生物質;
    メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)セフェム系抗生剤
    メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、アルベカシン
    トキシン合成を抑えるため蛋白質合成阻害薬のクリンダマイシン、リネゾリドなどを併用
  2. 局所の感染巣除去、開放洗浄、ドレナージ
  3. ICU管理(ショックに対する輸液・カテコラミンなど集中的な支持療法)
  4. 免疫グロブリン投与を行う事もある

いつ甲状腺で起きても不思議ではありません。

(写真 medscapeより)

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

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  • 大阪メトロ(地下鉄)谷町線「駒川中野駅」
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