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甲状腺癌全摘出後の甲状腺ホルモン補充療法[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

現在、長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺癌手術後の経過観察・甲状腺ホルモン補充療法の受け入れを停止しております(飽和状態)。

甲状腺癌全摘出後の甲状腺ホルモン補充療法

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝に御用の方は 甲状腺編    動脈硬化編   甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など)  糖尿病編 をクリックください。

甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法

Summary

甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)は、正常甲状腺濾胞細胞と同じくTSH受容体を持ちTSH刺激で増殖。甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法は、脳下垂体のTSH分泌を抑制するよう、甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)]を通常より多く投与。アメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、コントロール目標を高リスク群は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)<0.1、中リスク群:0.1~0.5、低リスク群:0.5~2.0。TSH0.03-0.3では血中FT3(甲状腺ホルモン:トリヨードサイロニン)と基礎代謝率は甲状腺癌全摘出前と同じ。閉経後の女性では、TSHを正常下限以下に抑制すると骨粗しょう症に。

Keywords

乳頭癌,濾胞癌,甲状腺,TSH,甲状腺癌,全摘出,ホルモン補充,甲状腺ホルモン,チラーヂンS,骨粗しょう症

リスク別甲状腺ホルモン補充目標

甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)細胞はTSH刺激で増殖

甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)細胞はTSH刺激で増殖

甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)細胞はTSH刺激で増殖

(J Endocrinol. 2017 Apr;233(1)R43-R51)

甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)は、正常甲状腺濾胞細胞と同じくTSH受容体を持っており、TSH(甲状腺刺激ホルモン)によって刺激を受けます。

正常甲状腺濾胞細胞はTSH刺激でほとんど増殖しませんが、甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)は増殖します。よって、甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法は、脳下垂体からのTSH分泌を抑制するよう、甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)]を投与します。

TSH抑制の程度は、甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)の再発リスクにより異なりますが、通常より多くの甲状腺ホルモン剤が必要になります。

アメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、手術後長期(6カ月~1年以降)のコントロール目標を

  1. 高リスク群(再発の危険性高い):TSH(甲状腺刺激ホルモン)<0.1 μIU/mL
  2. 中リスク群(再発の危険性中くらい):TSH 0.1~0.5 μIU/mL
  3. 低リスク群(再発の危険性低い):TSH 0.5~2.0 μIU/mL
    (2015 American Thyroid Association Management Guidelines for Adult Patients with Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer: The American Thyroid Association Guidelines Task Force on Thyroid Nodules and Differentiated Thyroid Cancer.Thyroid. 2016 Jan;26(1):1-133.)

になるよう推奨しています。残存する甲状腺癌細胞に対し、TSHが増殖刺激を与えるのを防ぐためです。

  1. TSH 0.03-0.3 μIU/mL(下限値の1/10から下限値の間)に軽度抑制しても、血中のFT3(甲状腺ホルモン:トリヨードサイロニン)と基礎代謝率は甲状腺癌全摘出前と同じであるとされます。(甲状腺を全摘出しているため、甲状腺から直接分泌されるFT3がなくなるので)[甲状腺全摘出後(甲状腺がんバセドウ病)では
     
  2. さすがにTSH<0.03 μIU/mL(下限値の1/10未満)では、血中のFT3(甲状腺ホルモン:トリヨードサイロニン)と基礎代謝率は甲状腺癌全摘出前より高くなります。
    [当然、①心房細動(Af)など不整脈、②骨密度減少、③糖尿病の発症率が上がると考えられます。①喘息、異型狭心症などが無ければ、心臓を保護するためベータブロッカーを投与。血圧・脈が下がり過ぎないよう注意、②ビタミンD製剤・ビスフォスフォネートなどを予防投与、③血糖などを見ながら糖尿病治療するのが良いでしょう。
    しかし、前述のごとく高リスク群はTSH<0.1 μIU/mLで良いため、TSH 0.03-0.09なら問題ありません。]

    [Eur J Endocrinol. 2012 Sep;167(3):373-8.]
    (第58回 日本甲状腺学会 O-1-5 甲状腺癌全摘術後レボチロキシン服用患者の甲状腺機能と甲状腺関連代謝指標の関連についての検討)

甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法の指標

甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法は、何を目安に甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS(一般名:レボチロキシン ナトリウム)]の用量調節をすれば良いのでしょうか?

当然、前項で述べたようにTSHを測定します。それと同時に、これまでは(今は昔)血中濃度の安定性からFT4(甲状腺ホルモン:サイロキシン)が測定されていました。

しかし最近、TSHとFT3(甲状腺ホルモン:トリヨードサイロニン)を測った方が良いことが証明されました。その根拠は、甲状腺ホルモン過剰状態であれ、不足状態であれ、FT3が身体症状を正確に反映するためです。[Endocr J. 2019 Nov 28;66(11):953-960.](第55回 日本甲状腺学会 O-03-02 甲状腺全摘出術後LT4服用患者の甲状腺機能と身体症状の関連についての検討)

甲状腺全摘出後 超音波(エコー)画像
体内でのT3(甲状腺ホルモン:トリヨードサイロニン)の動態

甲状腺がなくなったため、

  1. 甲状腺から分泌されるFT3がゼロになる
  2. 合成甲状腺ホルモン剤チラーヂンS錠(LT4)が脱ヨード化されて生じるFT3のみになる

よって、たとえLT4≒FT4が正常でも、FT3が低くなります[Eur J Endocrinol. 2012 Sep;167(3):373-8.]。

しかも、T4はT3の前段階(前駆体、1段階前)なので、甲状腺ホルモン作用は活性型であるT3の方がはるかに強く、FT3が身体症状・エネルギー代謝を強く反映するのは当然と言えます。[Endocr J. 2019 Nov 28;66(11):953-960.][Thyroid. 2017 Apr;27(4):484-490.]

以上より、FT4を測定する意味はないのです。[Thyroid Res. 2022 May 10;15(1):9.]

[甲状腺全摘出後(甲状腺がんバセドウ病)では]

甲状腺濾胞癌の大規模な転移では、甲状腺ホルモン剤投与中にT3優位型甲状腺中毒症

甲状腺濾胞癌の大規模な転移では、甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠(LT4)]投与中に約20%がT3優位型甲状腺中毒症を呈します。これは、甲状腺濾胞癌細胞の1型および2型脱ヨード酵素(D1およびD2)活性が高く、チラーヂンS錠(LT4)をT3に変換するためと考えられます。[J Clin Endocrinol Metab. 2008 Jun;93(6):2239-42.]

甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法による骨密度減少

閉経後の女性では、TSHを正常下限以下(0.5 μIU/mL未満)に抑制すると骨粗しょう症の危険度が増え、抑制1年後には明らかな骨密度減少が起こるとされます。そのため、低リスク群(再発の危険性低い)ではTSHを必要以上に抑制すべきではないとの意見があります。

一方、40歳以下の若年者では、抑制5年後にも、有意な骨密度減少が認められなかったそうです。(第53回 日本甲状腺学会 O-2-2 甲状腺乳頭癌に対する TSH抑制療法(TST)の効果についてのランダム化比較試験(RCT)における腰椎骨量の経年的変化について)

しかし、最近の論文によると、225人の閉経後女性を対象とした前向き研究の結果、TSH抑制療法は少なくとも2年間では、骨密度 (BMD) 減少に、ほとんど影響しませんでした(Onco Targets Ther. 2018 Oct 9;11:6687-6692.)。さらに、10年間の経過観察を行った別の研究でも骨折リスクは上昇しませんでした(Endocrine. 2018 Oct;62(1):166-173.)。その他、最近の論文はほとんどが、「TSH抑制療法は閉経後女性の骨に影響しない」との結論を出しています。

甲状腺全切除と同時に副甲状腺も切除され、甲状腺全摘出後副甲状腺機能低下症から低カルシウム血症をおこすため、ビタミンD・カルシウム剤が甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠]と併用投与されているのも閉経後骨粗しょう症予防になっています。

甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法による高カルシウム(Ca)血症

甲状腺癌全摘出後のホルモン補充療法で、TSH抑制しても血中のFT3(甲状腺ホルモン:トリヨードサイロニン)が正常なら、甲状腺中毒症による骨分解は理論上おこりません。しかしFT3高値なら、骨分解が異常亢進して高カルシウム(Ca)血症をおこす危険があります。

甲状腺切除と同時に副甲状腺も切除し、ビタミンDとカルシウム剤投与していれば(甲状腺摘出後副甲状腺機能低下症)、更に高カルシウム(Ca)血症をおこり易くなります。

例えTSH抑制しても血中のFT3を正常に保つ微妙な甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)投与が必要です。(甲状腺専門医の腕の見せ所でしょう!)

 

甲状腺癌半葉切除後の甲状腺ホルモン補充療法の指標

甲状腺乳頭癌 甲状腺片葉切除後

甲状腺乳頭癌 甲状腺片葉切除後、元々、甲状腺機能低下症・橋本病

甲状腺癌半葉切除後、元々、甲状腺機能低下症・橋本病

甲状腺癌半葉切除後、元々、甲状腺機能低下症・橋本病

甲状腺がんで甲状腺片葉切除(甲状腺半葉切除、甲状腺の半分だけ切除)した後の甲状腺ホルモン補充療法の明確な指標は存在しません。最低限、TSHが正常範囲内なら良しとするのが一般的な考え方です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)としては、もし、細胞レベルでも(例え1個でも)甲状腺癌細胞が残っていれば、TSHに刺激されて増殖・再発する危険があるため、低リスク群(再発の危険性低い)と同じくTSH 0.5~2.0になるよう甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)]を調節します。

元々、甲状腺機能低下症・橋本病を持っていて、破壊された遺残半葉だけではTSH 0.5~2.0を保てない場合は、甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠]を使用する確率が高くなります。

甲状腺半葉切除後の甲状腺ホルモン補充療法の指標
甲状腺がんで甲状腺片葉切除(甲状腺の半分だけ切除)した後の経過観察は、安定したTSHとFT4を測ります。オーソドックスな組合わせです。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療   長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

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  • 大阪メトロ(地下鉄)谷町線「駒川中野駅」
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