重金属・水銀・ニッケル・鉛・クロム・カドミウム・ヒ素の甲状腺への影響 [橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見④ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。重金属には対応しておりません。
Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病は発汗が多く無機水銀、ニッケル(Ni)などのⅣ型アレルギー(金属アレルギー)に注意。メチル水銀は2型脱ヨード酵素(DIO 2)を阻害、細胞内甲状腺ホルモン[トリヨードサイロニン(T3)]を低下。低濃度シアン化合物を慢性的に摂取すると甲状腺機能異常・甲状腺腫大。ベンゼン・トルエン・NO2・SO2混合物に吸入曝露すると甲状腺ホルモンFT4が著しく低下、濾胞コロイドが激減。鉛、カドミウム、6価クロムは甲状腺機能低下症と甲状腺癌リスクを上昇。甲状腺に大敵のヒジキには急性ヒ素中毒の原因となる無機ヒ素が多く含まれる。
Keywords
鉛,甲状腺,ニッケル,カドミウム,水銀,6価クロム,ヒ素,中毒,バセドウ病,甲状腺癌
メチル水銀は、脳神経の形成や、成長に影響を及ぼすとされます。メチル水銀は、動物実験において2型脱ヨード酵素(DIO 2)を阻害し、細胞内の甲状腺ホルモン[トリヨードサイロニン(T3)]を低下させ、成長ホルモン(GH)分泌を抑制します。同様の機序で、脳の発達自体を妨げる可能性も考えられます。
厚生労働省のリーフレット「これからママになるあなたへ」では、妊婦の水銀摂取量に関する注意喚起がなされています。1人前の摂取量で最も多く水銀を含むのはキンメダイで、1人前につき1週間分の許容限度に匹敵します。次はミナミマグロ、メカジキでキンメダイの約半分量の水銀を含みます。
2017年に発効された「水銀に関する水俣条約」により、水銀を使った製品の不使用が決められました。昭和を連想させる赤チン(マーキュロクロム液)は、メルブロミン(有機水銀化合物)を含むため、生産が中止となりました。
金属アレルギーの予防は、
- 汗をかく季節には金属製品を身に着けない
- 甲状腺機能が正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、発汗が多いので、正常化するまで金属製品を身に着けない
などです。
ニッケル(Ni)アレルギーのある方は、甲状腺穿刺細胞診後、針先のニッケル(Ni)に反応して穿刺部の皮膚が炎症を起こします。甲状腺自体が腫れる訳ではありません。Ⅳ型(遅延型)アレルギーなので、穿刺直後は起こらず、帰宅後あるいは翌日に起きる事もあります。
歯の詰め物[水銀アマルガム、コバルト(Co)]が原因で(普通は気が付きませんが)皮膚炎が起こるのも金属アレルギーです。
基礎実験の話ですが、自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病・橋本病)では、無機水銀、ニッケルに対してリンパ球の反応性増加を認めます。要するに、無機水銀、ニッケル(Ni)に過敏に反応すると言う事です。水銀アレルギーのある人で、歯の詰め物である水銀アマルガムを取り除けば、70%の人の健康状態が良くなり、橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が正常化するとされます。[Neuro Endocrinol Lett. 2010;31(3):283-9.][Neuro Endocrinol Lett. 2006 Dec;27 Suppl 1:25-30.]
始皇帝も水銀中毒
硫化水銀は固体で、不老不死の薬、辰砂(しんしゃ)として、時の権力者に愛用されていました。もちろん効果はなく、水銀中毒になるだけです。始皇帝も水銀中毒で死んだとされます。
甲状腺の病気に似ている、合併している亜鉛欠乏症、甲状腺でむずむず脚症候群 は有名ですが、急性・慢性亜鉛中毒もあります。
亜鉛の毒性はきわめて低く、通常の食生活で亜鉛過剰症の可能性はほとんどありません。しかし、何らかの異常な状況で大量に体内に入れば亜鉛中毒が起こります。
吸入亜鉛中毒
- 工場で酸化亜鉛の煙霧を吸入して亜鉛熱(金属熱)、インフルエンザ様症状になります。
- 溶接、電池製造、めっき従事者などで塩化亜鉛の煙霧を吸入すると肺炎をおこします。
経口亜鉛摂取中毒
- 缶詰のメッキに含まれる亜鉛が酸性飲料中に溶出
- 厚生労働省が認可していない個人輸入の亜鉛サプリメント(通常の5-10倍量の亜鉛を含有)
- 「海のミルク」と呼ばれる牡蠣(カキ)には牛乳の約36倍の亜鉛が含まれ、食べ過ぎ
で亜鉛の1日摂取量が45mgを超えると、
- 急性亜鉛中毒は発熱・頭痛・めまい・嘔吐(おうと)・下痢・急性腎不全
- 慢性亜鉛中毒は吐き気・嘔吐・腹痛・下痢・肝障害・慢性腎不全、銅欠乏性貧血
の危険。
あくまでイランの報告ですが、甲状腺機能低下症でも、甲状腺機能亢進症でも血中亜鉛濃度が健常人に比べて有意に高い。しかし、甲状腺癌については健常人と有意差なし。(Environ Sci Pollut Res Int. 2019 Dec;26(35):35787-35796.)
日本で急性カドミウム(Cd)中毒が起こるなら、特殊な施設での事故か、殺人目的で茶に混入するなどシチュエーションが限られます(救命病棟24時 シーズン4)。一見、食中毒の様な症状ですが、吐物に食物残渣がありません。最悪、心肺停止。治療は、胃洗浄、点滴で排泄促進、備蓄している施設はほとんど無いキレート剤EDTA。
しかし、カドミウム(Cd)は自然界でも、工業、農業で発生する汚染物質としても、環境に広く存在しています。カドミウムの主な曝露源は食品群で、特に米からの曝露が多いです。
そして、低用量のカドミウム(Cd)は内分泌かく乱物質として、システイン、メタロチオネインが豊富な甲状腺に沈着します(Int J Mol Sci. 2018 May; 19(5): 1501.)。甲状腺に沈着したカドミウム(Cd)は、甲状腺組織を障害し、甲状腺機能を低下させます(Toxicol Ind Health. 2016 Dec; 32(12):1978-1986.)(Biol Trace Elem Res. 2018 Apr; 182(2):196-203.)。
シアン化合物はシアン化水素、シアン化ナトリウム(青酸ソーダ)、シアン化カルウム(青酸カリ)などが含まれ、農薬・工業用に使用されます。
低濃度でシアン化合物を慢性的に摂取した場合に、最も甲状腺機能異常・甲状腺腫大が起こり易い。
ベンゼン・トルエン・キシレンは石油化学製品(合成繊維・プラスチック・ゴム・ペンキ・接着剤)の基礎原料で、排気ガス等にも含まれます。毒性があってシックハウス症候群の原因にもなります。ペンキ塗装業者は職業性の有機溶剤中毒をおこす危険があります。
特にベンゼンは、再生不良性貧血、骨髄性白血病の原因として有名
アメリカのオイルサンド地域(おそらくルイジアナ州?)に生息する野鳥アメリカチョウゲンボウがベンゼン・トルエン・NO2・SO2混合物を吸入曝露した場合、甲状腺ホルモンのFT4(サイロキシン)が著しく低下し、甲状腺濾胞内コロイドが激減した報告があります。映画「ペリカン文書」の様な話で、産油地域での環境汚染が生物(人間)に及ぶ危険性を伝えています(Environ Sci Technol. 2016 Oct 18;50(20):11311-11318.)
シンナーの成分は有機溶剤(トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼンなど)で、呼吸器・皮膚から吸収されてシンナー中毒に至ります。
トルエン中毒(シンナー中毒、有機溶剤中毒)
トルエン中毒(シンナー中毒、有機溶剤中毒)では、
- 頭痛、めまい
- 結膜炎、気道炎症、皮膚炎(皮膚の脱脂作用)
- 低カリウム血症
- 代謝性アシドーシス(アニオンギャップ正常)
をきたします。
トルエンが肝臓で代謝され安息香酸→水素イオン(H+)+馬尿酸が発生します。水素イオン(H+)により代謝性アシドーシスがおこり、陰イオンの馬尿酸はナトリウムイオン(Na+)・カリウムイオン(K+)+アンモニウムイオン(NH4+)と共に尿中に排泄され低カリウム血症になります。
症状は、甲状腺中毒性低カリウム性周期性四肢麻痺の症状と同じ。
トルエンを扱う人の労働衛生管理(特殊健康診断)には、尿中馬尿酸を測定する生物学的モニタリングを用います。
スチレンやエチルベンゼンの代謝産物は尿中マンデル酸。
1,2-ジクロルエタン(1,2-ジクロロエタン) (塩化エチレン) は「労働者の健康障害を防止するための指針」で、作業記録の作成や30年間の記録保存などの措置が必要とされています。1,2-ジクロルエタン(1,2-ジクロロエタン)は塩化ビニルモノマーの生産に用いられ、ポリ塩化ビニルの前駆体とされます。
- ラットとマウスを使った2年間の試験で発がん性が認められる(J Environ Sci Health C Environ Carcinog Ecotoxicol Rev. 2016 Jul 2;34(3):169-186.)
- 長期に反復して暴露されると甲状腺障害(甲状腺機能亢進症)が起こるとされます(Gig. Tr. Prof. Zabol. 1957;1: 31-38.)
鉛中毒とは
鉛中毒の原因
- 鉛の主な曝露源は、食品、カドミウムと同様に米からの摂取が最も多いです。
- 古い塗装された鋼材には鉛を含んでおり、ガス溶断の作業で鉛を吸い込み続けると鉛中毒がおこります
- 鉛は鉛筆・シャープペンの芯、硬貨にも含まれており、普通はあり得ませんが、これらを食べ続ければ鉛中毒になります。
- インド製のアーユルヴェーダ製品を含む複数のサプリメントを2~3ヶ月間摂取で鉛中毒、鉛以外にカドミウム、クロム、アルミニウム、ヒ素、タリウムが検出。くれぐれも、ネットでこのようなイカガワシイものを買わない様に!(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2015 Aug 21;64(32):883.)
アーユルヴェーダ製品による鉛中毒は複数報告されています。(Acute Med. 2013;12(4):224-6.)(J Gen Intern Med. 2012 Oct;27(10):1384-6.)
- 打ち上げ花火の煙りには、鉛、チタン、ストロンチウム、銅などが含まれおり、人体に悪影響を及ぼす危険性があります(Part Fibre Toxicol. 2020 Jul 2;17(1):28.)
- ローマ帝国では鉛を含んだ食器を使用しており、また鉛製の水道管だったため、鉛中毒による腎機能障害から痛風患者が多発したとされます。ローマ帝国が滅んだ原因の一つとの説があります。
- 弾丸は鉛製であるため、体内に破片が残っていると鉛中毒になる危険があります。
鉛中毒と甲状腺
ガソリンポンプ労働者または自動車整備士の血中鉛 (Pb-B) 濃度が高い群では、血中TSH値が有意に高かったが、問題になる程高くなかったそうです。(Biometals. 2000 Jun;13(2):187-92.)
その一方で、電池作業者では、血中鉛 (Pb-B) 濃度が全く血中TSH値に影響しなかったと言う報告もあります。(Int Arch Occup Environ Health. 1992;64(1):49-57.)
鉛、カドミウム、クロムは甲状腺機能低下症と甲状腺癌のリスクを上昇させる報告もあります。(Environ Sci Pollut Res Int. 2019 Dec;26(35):35787-35796.)
ヒ素は、かつて農薬、殺虫剤、ネズミ駆除剤、防腐剤などに含まれていました。これらで汚染された井戸水の摂取によりヒ素中毒が起こり得ます。
ヒ素は3価ヒ素と5価ヒ素があり、毒性は前者が強い。三酸化ヒ素(亜ヒ酸)は最も毒性が強く、急性中毒で致死的に。ヒ素は体内に蓄積するため、毛髪中のヒ素測定で診断可能。
ヨウ素(ヨード)過剰摂取の原因となり、甲状腺に大敵のヒジキには、急性ヒ素中毒の原因となる無機ヒ素も多く含まれています(最悪やな)。ヒジキの産地により無機ヒ素の含有量は、かなりばらつきがありますが、見た目でヒ素が多いか少ないかなど判断できないため、避けるに越したことはありません。
慢性ヒ素中毒では、
- 全身の皮膚に色素沈着;甲状腺機能亢進症/バセドウ病、原発性副腎皮質機能低下症のよう。
手掌・足底の角化・色素沈着、爪のミーズ線(Clin Lab Med. 2006 Mar;26(1)67-97, viii.)
脱色素斑;逆に皮膚が白くなる。自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病)に合併する白斑のよう。
10 年以上の経過でボーエン病(Bowen病)、皮膚癌も発生
- 高血圧
- 末梢血管壊死
- 糖尿病性神経障害と同じグローブ・ストッキング型の末梢神経障害(シビレ)
- 皮膚がん・肺がん・肝臓がん・腎臓がん・膀胱がんの発生率上昇(Can Med Assoc J 1975;113:396–401.)
- 無機ヒ素は胎盤を通り催奇形性の可能性(Am J Dis Child 1969;117:328–30.)
6価クロムは、肺がん・鼻がんを引き起こす職業性発がん性物質(セメント、クロムメッキ、なめし革)です。直接の因果関係は証明できませんが、甲状腺癌・喉頭がん・咽頭がん・腎臓癌、精巣癌・骨の癌の死亡率を増加させるとされます。(Front Oncol. 2019 Feb 4;9:24.)
6価クロムは甲状腺にも毒性が高く、動物実験ですが、甲状腺の濾胞細胞を障害し、甲状腺機能低下症を起こします。(Histol Histopathol. 2010 Nov;25(11):1355-70.)
中国の報告ですが、ごみ焼却施設の周囲に住む学童は鉛、カドミウム、クロムは血中濃度が高く、DNAに障害を受けている可能性が指摘されています(Environ Res. 2018 Nov;167:488-498.)。
6価クロムは、アレルギーを強力に引き起こすアレルゲン物質でもあります。(写真:Contact Dermatitis 2014 May;70(5)321-3.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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