自己免疫性甲状腺疾患とクローン病(Crohn 病),腸管ベーチェット病[橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会学術集会で入手した知見です。
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自己免疫性甲状腺疾患とクローン病(Crohn 病),腸管ベーチェット病[本ページ]
Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病や橋本病とクローン病(Crohn 病)の合併報告は少ない。クローン病(Crohn 病)に甲状腺アミロイドーシス(アミロイド甲状腺腫)を合併しても、クローン病(Crohn 病)の活動性・再燃性と関連ない。クローン病(Crohn 病)は甲状腺癌のリスクファクターとの報告も。抗TNFα受容体拮抗薬[インフリキシマブ(レミケード)・アダリムマブ(ヒュミラ)]投与開始後に亜急性甲状腺炎。クローン病(Crohn 病)患者の17.6%にむずむず脚症候群/レストレスレッグ症候群。腸管ベーチェット病では吸収障害によるヨード(ヨウ素)欠乏の可能性
Keywords
甲状腺機能亢進症,バセドウ病,橋本病,クローン病,Crohn 病,甲状腺,甲状腺アミロイドーシス,甲状腺癌,抗TNFα受容体拮抗薬,亜急性甲状腺炎
以前、日本人には少なく、欧米人に多いとされていた炎症性腸疾患(クローン病と潰瘍性大腸炎)。実は日本人にも多く、潰瘍性大腸炎は22万人以上、クローン病(Crohn 病)は7万人以上の患者がいます。
潰瘍性大腸炎は大腸の炎症、クローン病(Crohn 病)は小腸と大腸の炎症です(肛門病変も高率に合併)。
いずれも10-30歳代の若年者が多く、甲状腺の病気に合併した場合は、症状が増悪したりマスクされたりします。
いまだ原因も、甲状腺との関係も不明のクローン病(Crohn 病)。甲状腺機能亢進症/バセドウ病や橋本病とクローン病(Crohn 病)の合併報告は少ないですが複数あります[Cases J. 2009 Aug 25;2:8541.][Intern Med. 2005 Apr;44(4):303-6.][Biomed Res Int. 2016;2016:5187061.]。
クローン病(Crohn 病)に甲状腺アミロイドーシス(アミロイド甲状腺腫)を合併する場合があります。クローン病(Crohn 病)の活動性・再燃性と甲状腺アミロイドーシス(アミロイド甲状腺腫)の間に関連はないとされます。[Endocr J. 1999 Feb;46(1):179-82.][Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2015;2015:140117.]
しかも、どういう訳かクローン病(Crohn 病)に甲状腺アミロイドーシス(アミロイド甲状腺腫)を合併した場合、抗TNFα 抗体(下記)投与後、亜急性甲状腺炎を誘発された報告があります。[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2015;2015:140117.][J Clin Endocrinol Metab. 1988 Jul;67(1):41-5.]
クローン病(Crohn 病)は甲状腺癌のリスクファクター(オッズ比= 2.3 [1.06-5.1]、P = 0.034)との報告があります[Inflamm Bowel Dis. 2016 Dec;22(12):2902-2906.]
クローン病(Crohn 病)は、小腸や大腸に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する全層性炎症で、縦走潰瘍、敷石像やアフタが分節性に生じて、腸管狭窄に至ります。痔(痔瘻)、肛門周囲膿瘍など肛門病変も高頻度におこります。
エレンタールは成分栄養剤の中で最も脂肪が少なく、アミノ酸まで分解されているため、クローン病(Crohn 病)の栄養補給に最適。
クローン病(Crohn 病)の初期治療は、小腸病変に対する経口副腎皮質ホルモン剤投与を除けば、潰瘍性大腸炎と同じ。最近では、関節リウマチ治療薬のTNFアルファ阻害薬[抗TNF-αモノクローナル抗体のインフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)]が使用されます。自己免疫性甲状腺疾患(特にバセドウ病)を合併していると、抗TNFα受容体拮抗薬で両方同時に良くなります。[Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Sep 15;11:558897.]
クローン病(Crohn 病)に対する小腸カプセル内視鏡検査はほぼ禁忌です。小腸病変は狭窄を来しているため、小腸カプセル内視鏡が詰まって腸閉塞に至ります。
クローン病(Crohn 病)の治療目標は、内視鏡的寛解(粘膜治癒)です。
メサラジン製剤のペンタサ®は小腸から大腸にかけて広く薬が分布する徐放製剤で、クローン病(Crohn 病)だけでなく潰瘍性大腸炎にも適応があります。
緩解状態にあるクローン病(Crohn 病)の食事療法は、高カロリー、低脂肪、低繊維食で、腸管を安静に保つのが目的。蛋白質も多く摂取する必要があり、①抗炎症作用を持つα‐リノレン酸[オメガ(ω)3系、n-3系脂肪酸]の多い青魚②卵や豆腐などが良い。できるだけ肉類は避け、脂肪の少ない赤身、胸肉やささみにする。
※脂肪は腸管の蠕動運動を刺激し、消化のため分泌された胆汁酸が腸を刺激。不溶性食物繊維>可溶性食物繊維は腸管を強く刺激する。
腹部症状を欠き、腸管外病変
- 発熱
- 痔(痔瘻)、肛門周囲膿瘍;肛門病変の合併が多く、肛門病変から発見されることも多い。
- 口腔内アフタの存在は診断に有用(ベーチェット病、Reiter 症候群、周期性好中球減少症、Felty 症候群と鑑別)
- 強直性脊椎炎
- 皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)
- 虹彩炎(ベーチェット病と鑑別)
主体のクローン病(Crohn 病)は診断が難しい。
クローン病(Crohn 病)に対して、関節リウマチ治療薬の生物学的製剤・抗TNFα受容体拮抗薬[インフリキシマブ(レミケード®)]投与開始後に亜急性甲状腺炎を発症した報告があります。2 回目のインフリキシマブ(レミケード®)投与4日後に、頚部の腫脹、圧痛、37℃台の発熱がおこり、亜急性甲状腺炎だったそうです。もちろんインフリキシマブ(レミケード®)は中止して副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン)を投与[当然、クローン病(Crohn 病)自体も改善したでしょうね]、亜急性甲状腺炎は寛解したそうです。
さらに今度は、アダリムマブ(ヒュミラ®)注射に変更し1カ月後、亜急性甲状腺炎が再燃、再度プレドニゾロン投与後寛解したそうです。(第56回日本甲状腺学会 P2-077 クローン病に対する抗TNFα 抗体療法開始後に発症した亜急性甲状腺炎の一例)[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2015;2015:140117.]
他にも、関節リウマチの話ですが、抗TNF製剤エタネルセプト(エンブレル®)使用後に亜急性甲状腺炎を発症した報告もあります。
理由は全く不明です。持論ですが、
- 抗TNFα受容体拮抗薬は正常免疫もブロックするためウイルス感染が起こりやすくなり、かつウイルス感染後にサイトカインバランスが崩れて亜急性甲状腺炎の免疫機序が誘発された
- TNFα 阻害によってサイトカインバランスが崩れ、非ウイルス感染性に亜急性甲状腺炎が誘発された
クローン病(Crohn 病)患者の17.6%、潰瘍性大腸炎患者の21.7%にむずむず脚症候群(レストレスレッグ症候群)を認めたとの報告があります(Dig Dis Sci. 2017 Mar;62(3):761-767.)。(甲状腺・糖尿病でむずむず脚症候群 )
原因は不明ですが、筆者は、
- 亜鉛など微量元素の吸収障害
- 炎症性サイトカインの影響
と考えます。
腸管ベーチェット病でも抗TNFα受容体拮抗薬が使用されます。腸管ベーチェット病では、I-131(放射性ヨウ素)の甲状腺集積が増加し、尿中I-131 排泄率が減少することから、ヨード(ヨウ素)欠乏の可能性が報告されています。
なるほど、腸の炎症によるヨウ素(ヨード)吸収障害の可能性が示唆されます。
胃カメラ・大腸カメラは、かわさき消化器内科クリニック(大阪市平野区瓜破)にお願いしています。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
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