人間ドックと甲状腺オプション[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください。
人間ドックの甲状腺オプションは片手落ちです。甲状腺ホルモン値(FT4,FT3)・甲状腺刺激ホルモン値(TSH)を調べても、
抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は調べない
からです。その結果次第で今後の健康状態が左右されます。
Summary
人間ドックの甲状腺オプションは甲状腺ホルモン値(FT4,FT3)・甲状腺刺激ホルモン値(TSH)を調べても、橋本病(慢性甲状腺炎)抗体の抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は調べない。そのため甲状腺機能正常橋本病を見逃し、甲状腺の破壊が進行し、将来、潜在性甲状腺機能低下症→顕在性甲状腺機能低下症に至る。橋本病の抗体が事前に分かれば、ヨード制限、禁煙・受動喫煙の解除で破壊の進行を遅らせる可能性がある。人間ドックの甲状腺超音波(エコー)検査は検査技師が甲状腺の腫瘍の有無を機械的に探すだけで、甲状腺破壊の程度は評価できない。
Keywords
人間ドック,甲状腺,オプション,橋本病,抗サイログロブリン抗体,Tg抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,TPO抗体,超音波,エコー,検査
人間ドックのオプションに甲状腺を付け、甲状腺ホルモン値(FT4,FT3)・甲状腺刺激ホルモン値(TSH)を調べれば、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症を見つける事ができます。しかし、これらの数値に異常ないが、橋本病(慢性甲状腺炎)の抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]だけ持っている、「甲状腺機能正常橋本病」を見つける事はできません。
「甲状腺機能正常橋本病」は、自分の甲状腺を破壊する自己免疫抗体を持っているが、破壊の程度が軽く、甲状腺ホルモンを作る細胞の数が、それほど減っていない状態です。
- 自己免疫抗体の量が少ない(軽い橋本病)
- あるいは年齢が若く、破壊を受けた年数が短い(初期の橋本病)
場合に良く見られます。
しかし、「甲状腺機能正常橋本病」でも、年月が経ち、(加齢による女性ホルモンの減などで)自己免疫抗体の量が増えたり、破壊された甲状腺ホルモン産生細胞の数が増えると、
- まず血液中の甲状腺刺激ホルモン値(TSH)が上昇(潜在性甲状腺機能低下症)
- 続いて甲状腺ホルモン値(FT4,FT3)が低下(顕在性甲状腺機能低下症)
に至ります。自己免疫抗体を持っている限り、甲状腺の破壊は進行しますが、破壊速度を遅くする、破壊の活動性を下げる事は可能なのです。
※そのような薬は存在しませんが、いくつかの生活習慣の改善が必要です(答えは下記のホームページの項目を御覧下さい)。
以上より、[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]を持っている事を事前に知っていれば、潜在性/顕在性甲状腺機能低下症になるのを防げるかもしれません。
詳細は、 橋本病(慢性甲状腺炎)の抗体 を御覧下さい。
札幌厚生病院の健診ドックでの橋本病(慢性甲状腺炎)の抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性率は、下表の通りで、年齢が上がるのに合わせて高くなります。対象者はドック受診者 4,277名 (男性2,648名、女性1,629名)、年齢 16-87(平均年齢 男性53.0歳 女性52.0歳)。抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)はCosmic社RIA 法で測定。(第53回 日本甲状腺学会 P45 北海道住民における抗甲状腺抗体の検討)
Tg抗体陽性率 | 女性 | 男性 |
---|---|---|
全年齢(16-87歳) | 24.6% | 12.2% |
40歳以下 | 19.7% | 7.7% |
41-50歳 | 23.0% | 9.2% |
51-60歳
|
26.9% |
13.2%
|
61-70歳
|
27.6% |
15.7%
|
71歳以上
|
24.7% |
20.1%
|
上記は抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)のみを測定した陽性率です。
抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)のいずれか一方が陽性の条件にすれば、更に陽性率は高くなって、甲状腺機能正常橋本病を発見できる確率が上がります。
40歳から74歳までの甲状腺機能が正常な日本人1432人を対象とした健康診断のデータでは、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性率は、全体18.6%、女性19.6%、男性17.1%。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)価は、甲状腺嚢胞の有病率と逆相関します。残念ながら理由は不明。[Environ Health Prev Med. 2020 Feb 21;25(1):7.]
最近の人間ドックでは甲状腺超音波(エコー)検査がオプションになっている事があります。結局、検査技師が甲状腺の腫瘍が有るか、無いかを機械的に探すだけなので、甲状腺破壊の程度には無関心です。
前述の通り、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性率は、年齢と共に上昇します。裏を返せば、いずれ陽性化する運命でも、年齢が若いために陽性でない方が多くいる事になります。
甲状腺超音波(エコー)検査で、直接、甲状腺組織の破壊の程度を評価すれば、全て解決します。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)の抗体が上昇する前でも、現在、既にどれ位、甲状腺組織が破壊されているか分かります。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)の抗体が上昇しない橋本病も約10%存在します。橋本病抗体陰性でも、穿刺細胞診でリンパ球浸潤を証明すれば、橋本病確定しますが、甲状腺超音波(エコー)検査なら、簡単に評価できます。
詳細は、 橋本病(慢性甲状腺炎)の破壊の程度の評価 を御覧下さい。
腫瘍マーカーCEAは腫瘍以外でも高値になる
CEAは最も広く使用されている腫瘍マーカーの1つです。CEAは正常な粘膜上皮(特に口腔、大腸、胃、気管支、胆管)でも産生されるため、これらの炎症で上昇する可能性があります。さらに、CEAは肝臓で代謝されるため、胆道閉塞などでも増加します(Cancer Res. 1973 Jan; 33(1):65-8.)。
人間ドックで腫瘍マーカーのオプション検査を受け、CEA高値だが腹部超音波(エコー)検査、子宮頸癌検査、乳腺検査、上部消化管造影、便潜血、肺CT、FDG-PET/CT、甲状腺超音波(エコー)検査[甲状腺髄様癌(ずいよう癌)の可能性]、その他何も異常がみつからない場合もあります。
CEAは腫瘍以外の
- 甲状腺機能低下症(J Clin Endocrinol Metab. 1981 Mar; 52(3):457-62.);CEAは20 ng/mL以上に上昇(Intern Med. 2018 Sep 1;57(17):2523-2526.)
- 糖尿病
- 喫煙
- 加齢
- 腎不全
- 肝炎/肝硬変
- 双極性障害治療薬の炭酸リチウム(リーマス®)(Cureus. 2016 Jun 20;8(6):e648.)
でも上昇します。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症が原因なら、オプションに甲状腺ホルモンが入っていれば診断は容易です。
未治療の甲状腺機能低下症では、44.9%で血中CEA陽性になるとの報告があります(綜合臨床,42(8):2578~2582,1993.)。
甲状腺機能低下症で血中CEAが上昇する機序は不明ですが、肝臓でのCEA代謝の低下が考えられています(J Clin Endocrinol Metab. 1981 Mar; 52(3):457-62.)。
甲状腺機能低下症では血中CEAだけでなく、CA125、CA15-3(Endocrinol Jpn. 1989 Dec; 36(6):873-9.)、CA19-9(Mayo Clin Proc. 2002 Apr; 77(4):398.)も上昇します。
血中CEAは甲状腺ホルモン(チラーヂンS)の補充で低下し、正常化する事もあれば、正常まで行かない事もあります。(J Clin Endocrinol Metab. 1981 Mar; 52(3):457-62.)(Intern Med. 2018 Sep 1;57(17):2523-2526.)
甲状腺機能低下症・糖尿病が否定的なら
甲状腺機能低下症・糖尿病でもなく、「CEAが高い原因は腫瘍以外」と結論を出すためには、腫瘍の可能性を消去法で、しらみつぶしに除外していくしか方法がありません。
- 人間ドックのオプションで受けていない検査<肺CT、甲状腺超音波エコー検査[甲状腺髄様癌(ずいよう癌)の可能性]>
- さらに高度な検診項目(FDG-PET/CT、DWIBS:ドゥイブス)
- 人間ドックで行わない精密検査、例えば上部(胃カメラ)/下部消化管内視鏡(大腸ファイバー)、肺・腹部・まだ調べていない臓器のCT(全身CT)、まだ調べていない臓器のMRI(ただし、甲状腺の病気にCT、MRIは有用でない )
解決しなければ、婦人科経腟超音波検査、泌尿器科で膀胱・前立腺検査。
総合内科もしくは該当する科で調べてもらえば、良いでしょう。
が妥当でしょう。
甲状腺髄様癌
最終的に、甲状腺機能低下症・糖尿病でもなく、「腫瘍以外が原因」との結論になれば、確率は低いですが、1つの盲点が甲状腺髄様癌です。
オプションに甲状腺超音波(エコー)検査が含まれていれば、それが甲状腺髄様癌かどうか分からなくても甲状腺腫瘍がある事は分かります。肺CTかFDG-PET/CT、DWIBS:ドゥイブスがオプションに含まれていれば、甲状腺腫瘍が見つかるかもしれません。ただし、性能悪いCTの場合、性能良くても肺CTは1cm間隔のスライスなので、甲状腺腫瘍を見逃す可能性があります。FDG-PET/CTの甲状腺癌検出率は100%ではありません。
人間ドックのオプション検査で腫瘍マーカーCEA高値だが、その他何も異常なくても、甲状腺超音波(エコー)検査を行い、甲状腺腫瘍があれば甲状腺髄様癌を疑いましょう。そして、甲状腺髄様癌に感度・特異度が高い腫瘍マーカーのカルシトニンを測定すべきです。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。