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FDG-PET/CTと甲状腺腫瘍・橋本病(慢性甲状腺炎)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

FDG-PET/CTと甲状腺腫瘍・橋本病

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 附属病院 代謝内分泌内科(内骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

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※長崎甲状腺クリニック(大阪)ではFDG-PET/CT検査を行っておりません。

Summary

人間ドックのFDG-PET/CTで最もよく見つかる癌は甲状腺癌で、約8%に限局性集積を呈する甲状腺結節(FDG 陽性結節)が見つかり、その約30%が甲状腺癌。SUVmax(放射線の最大集積値)は甲状腺腫瘍の良悪性を区別できない。逆に考えれば、甲状腺良性結節(良性濾胞腺腫腺腫様結節など)は、FDGを取り込まない(FDG-PET/CT陰性)のが多い。人間ドックのFDG-PET/CTで、びまん性集積(全体的にFDG取り込む)は約3%で橋本病(慢性甲状腺炎)がほとんど。FDG-PET/CT陽性となる橋本病(慢性甲状腺炎)は、炎症は強いが、線維化が進んでいない段階。

Keywords

FDG-PET/CT,甲状腺癌,甲状腺結節,SUVmax,甲状腺腫瘍,橋本病,慢性甲状腺炎,甲状腺乳頭癌,甲状腺,長崎甲状腺クリニック

FDG-PET/CTと甲状腺腫瘍

甲状腺がん細胞は正常細胞よりも細胞分裂が活発なため、栄養源であるブドウ糖を多く必要とします。18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)は、ブドウ糖と類似構造なので、ブドウ糖と同様に甲状腺がん細胞に多く取り込まれます。FDG-PET/CT検査はFDGが多く集まった場所を特定し、甲状腺がん細胞あるいはそれ以外の癌細胞の位置を突き止める検査です。

人間ドックのFDG-PET/CTで最もよく見つかる癌は甲状腺癌です。FDG-PET/CTをおこなうと最大8%に結節性甲状腺腫(甲状腺腫瘍)が見つかり、その10-60%が甲状腺癌とされます。(J Clin Endocrinol Metab. 2012 Nov;97(11):3866-75.)(Mol Imaging Radionucl Ther. 2017 Oct 3;26(3):93-100.)

また、FDG-PETは微小甲状腺癌でも検出可能です[Otolaryngol Head Neck Surg. 2007 Sep;137(3):400-4.]。

FDG-PET/CTと甲状腺

浜松医大の報告では、18F-FDG-PET にて限局性集積を呈する甲状腺結節(FDG 陽性結節)30 例の内分けは甲状腺乳頭癌10 例、甲状腺濾胞癌1 例、FNAB-indeterminate(判定不能)2 例、良性17 例。FDG 陽性結節の約30%が甲状腺癌ので、かなり高い比率です。逆に考えれば、甲状腺良性結節(良性濾胞腺腫腺腫様結節など)は、FDGを取り込まない(FDG-PET/CT陰性)ものが多い事になります。(第55回 日本甲状腺学会 P1-09-05 18F-FDG-PET にて限局性集積を認める甲状腺結節に関する検討―超音波カラードプラとエラストグラフィを中心に―)

SUVmax(放射線の最大集積値)では甲状腺腫瘍の良悪性を区別できないとされます(カットオフ値は存在しない)。(J Clin Endocrinol Metab. 2012 Nov;97(11):3866-75.)
藤田保健衛生大学の報告では、
細胞診正常患者のSUVmaxは11.95±8.06(0.79-30.22)
細胞診悪性患者のSUVmaxは18.82±14.72(2.9-48.25)
で、確かに良性でもSUVmaxが高いものもあれば、悪性でも低いものがあります。そもそも、悪性並みに細胞の代謝が高い良性甲状腺結節しか、FDG-PET/CTで検出されないのが理由と考えます。

しかし、甲状腺乳頭癌ではSUVmaxが、良性または鑑別困難例に比べて高い傾向だったとする報告もあります。(第55回 日本甲状腺学会 P1-09-02 FDG-PET により指摘された甲状腺偶発腫瘍に対する検討)

FDG-PET/CTで濾胞性腫瘍における良悪性の判別、すなはち良性濾胞腺腫甲状腺濾胞癌の鑑別はできません(Eur Arch Otorhinolaryngol. 2018 Aug;275(8):2109-2117.)(Surgery. 2003 Mar;133(3):294-9.)。

ヒュルトル(ハーテル:Hürthle)細胞腺腫[良性濾胞腺腫(好酸性細胞型)]は良性濾胞腺腫の亜型ですが、ミトコンドリア数が多いため、高SUVmaxになります(Ultrastruct Pathol. 1985;8(2-3):131-42.)。

放射線で標識したブドウ糖[18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)]を使うため、糖尿病では癌細胞のFDG取り込みが低下する可能性があります。[J Nucl Med Technol. 2014 Mar;42(1):5-13.]

下の写真を見れば一目瞭然。甲状腺内の結節性病変は、良悪性に関係なく同じに見えます。SUVmax(放射線の最大集積値)だけでは判定できません。

  1. A;濾胞性腫瘍 SUVmax4.4
  2. B;甲状腺乳頭癌 SUVmax11.8
  3. C;腺腫様結節(腺腫様甲状腺腫) SUVmax6.4-7.8
  4. D;多発性甲状腺乳頭癌 SUVmax4.5-8.1

(Mol Imaging Radionucl Ther. 2017 Oct 3;26(3):93-100.)

甲状腺結節のFDG-PET

FDG-PET/CTと橋本病(慢性甲状腺炎)

FDG-PET/CT 橋本病

人間ドックのFDG-PET/CTで、びまん性集積(全体的にFDGを取り込む)は、約3%に認められるとされます。(第53回 日本甲状腺学会 P-127 FDG-PET/CT 健診により発見された甲状腺癌の検討:FDG-PET/CT 健診の有用性)

FDG-PET/CTの、びまん性集積は、ほとんど橋本病(慢性甲状腺炎)です。橋本病(慢性甲状腺炎)でのSUVmax(放射線の最大集積値)は、健常人のそれと比べ有意に高くなります(中央値 3.94 vs. 1.95; p = 0.005)。(Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Apr 5;10:208.)

橋本病(慢性甲状腺炎)で、びまん性集積する症例は、

  1. 甲状腺は腫大傾向で実質エコーの変化が強い(内部が粗、炎症・破壊が強い)
  2. 抗体価が高い(炎症・破壊が強い)
  3. 甲状腺機能低下は軽度(内部が線維化しないで、甲状腺濾胞細胞が残存している?)

要するに、「炎症は強いが、線維化がまだ進んでいない橋本病(慢性甲状腺炎)」が結論のようです。(第59回 日本甲状腺学会 P2-6-5 FDG―PET でび漫性集積を示す橋本病の特徴)(Thyroid Res. 2018 Oct 16;11:14.)

橋本病(慢性甲状腺炎)でも、部位による線維化や炎症程度の差により、結節状のFDG集積になります。報告によると7%で、びまん性集積+局所的な集積になる(Ann Nucl Med. 2007 Aug;21(6):325-30.)。

橋本病(慢性甲状腺炎)でのFDG集積は、甲状腺ホルモン(チラーヂンS)補充療法の影響を受けない(J Nucl Med. 2007 Jun;48(6):896-901.)。甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)は、甲状腺ホルモンの不足分を補っているだけで、橋本病(慢性甲状腺炎)の炎症自体を抑えていないため。

FDG-PET/CTと橋本病(慢性甲状腺炎)合併甲状腺がん

FDG-PET/CTにおいて、

  1. 橋本病(慢性甲状腺炎)のSUVmaxと甲状腺がんのSUVmaxに有意差は無い
  2. 橋本病(慢性甲状腺炎)でも、部位による線維化や炎症の程度の差により、結節状のFDG集積をする

ため、

  1. FDGびまん性集積
  2. FDGびまん性集積+局所的な集積

は、いずれも橋本病(慢性甲状腺炎)甲状腺がんを合併している可能性があります(前者4%、後者50%の確率で甲状腺がんを合併)。(Ann Nucl Med. 2007 Aug;21(6):325-30.)

FDG-PET/CTと甲状腺機能亢進症/バセドウ病

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、FDG-PET/CTの甲状腺への集積が増加しそうなイメージですが、実際、それほどではありません。報告では、未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者治療後甲状腺機能正常を続けているバセドウ病患者ともに、甲状腺のFDG集積を認めたのは30%のみ。健常コントロール群では、12.5%がわずかに集積しました。

しかし、未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者では、75%が胸腺にFDG集積、95%が骨格筋で左右対称のFDG集積増加しました。骨格筋の内分けは腸腰筋が95%、腹直筋が60%でした。治療後甲状腺機能正常バセドウ病患者と健常コントロール群では、胸腺・骨格筋のFDG集積増加は無し。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、

  1. 胸腺の過形成が起きる(胸腺過形成甲状腺機能亢進症/バセドウ病
  2. 骨格筋のエネルギー代謝(糖分解)が亢進する

ため、当然とも言えます。

(Nucl Med Commun. 2004 Feb;25(2):115-21.)

胸腺へのFDG集積

胸腺へのFDG集積

骨格筋で左右対称のFDG集積

骨格筋(腸腰筋)で左右対称のFDG集積(Indian J Nucl Med. 2011 Jul;26(3):155-6.)

I-131(放射性ヨウ素) を取り込まない甲状腺癌の再発診断にFDG-PET/CTが有用

甲状腺全摘出後、血中サイログロブリン値が高く、甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)の再発が強く疑われるのに、I-131 シンチグラフィーでI-131(放射性ヨウ素)が取り込まれない状態をTENIS症候群(thyroglobulin-elevated negative iodine scintigraphy)と言います。TENIS症候群では、FDG-PET/CT(18F-FDG-PET/CT)で陽性に出る事が多いため、FDG-PET/CTが有用です。

甲状腺分化癌(乳頭癌濾胞癌)はヨードシンポーター(sodium/iodide symporter;NIS)からI-131(放射性ヨウ素)を取り込み、グルコース トランスポーター(GLUT)からFDGを取り込みます。甲状腺癌ではNISの発現とGLUTの発現は相反し、GLUT優位ならI-131 シンチグラフィーで集積性に乏しく、FDG-PET/CTで高集積を示すとされます。 [J Nucl Med. 1996 Sep;37(9):1468-72.][Br J Radiol. 2003 Oct;76(910):690-5.]

ただし、FDG-PET/CTは、甲状腺癌以外の他臓器癌、サルコイドーシス、炎症部位でも陽性(偽陽性)になり、偽陰性(FDGさへも取り込まない甲状腺癌)が少なからずあるため、他の検査データも照合して判断しなければなりません。

放射性ヨウ素治療(I-131 内用治療)抵抗性の甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)遠隔転移におけるFDG-PET/CTの有用性

北光記念病院の報告ですが、放射性ヨウ素治療(I-131 内用療法)抵抗性の甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌甲状腺濾胞癌)肺転移で、FDG-PET/CT(18F-FDG-PET/CT)陽性(肝臓と同等以上の集積を示す)の場合、3年以上してから病勢が進行し始めるとの事です。逆にFDG-PET/CT陰性なら、それより進行が遅いとの結果です。「FDG-PET/CT 陽性かどうかを、チロシンキナーゼ阻害薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]使用の判断材料の1つにしてはどうか?」と言う提案です。(この発表は、筆者も素晴らしいと思います)
(第60回 日本甲状腺学会 O7-3 RAI陰性甲状腺分化癌肺転移の予後推定におけるFDG-PET/CT の意義)

さらに、FDG-PET/CT(18F-FDG-PET/CT)はレンビマ®(レンバチニブ)の効果判定指標に良いとの報告もあります。[Cancers (Basel). 2021 Jan 16;13(2):317.][J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jul 13;106(8):2355-2366.]

FDG-PET/CTの被ばく量

FDG-PET/CTの被ばく量は約4.5 mSv [PET 3.5 mSv+低線量CT 1 mSv]です。低線量CTの被ばく量は通常CT の20-50%に抑えられています。胸部単純エックス線写真では0.15 mSv以下、通常の単純CT 2~5 mSv、腹部ダイナミックCTでは10~20 mSvになります。

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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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