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TSH産生下垂体腺腫の診断・甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)との鑑別診断[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

Summary

TSH産生下垂体腺腫のTSH FT4、FT3 は基準値内か軽度高値。診断には脳造影MRI(ダイナミック下垂体MRI)[下垂体インシデンタローマの方が高頻度]で下垂体腫瘍を確認、TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験で低反応(8%は正常反応)。血中の性ホルモン結合蛋白(SHBG)、TSHのαサブユニットかαサブユニット/ TSHモル比が増加。組織生検や手術摘出標本の免疫組織染色でTSHβ鎖、TSHを染色。甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)と鑑別診断要。TRβ遺伝子診断で鑑別できない時はT3抑制試験(心血管障害のリスク)。

Keywords

TSH産生下垂体腺腫,MRI,TRH負荷試験,性ホルモン結合蛋白,SHBG,TSHαサブユニット,鑑別診断,T3抑制試験,診断,下垂体腫瘍

TSH産生下垂体腺腫

TSH産生下垂体腺腫の診断

TSH産生下垂体腺腫では、

  1. TSH は基準値内、あるいは軽度高値が多い
  2. FT4、FT3 の増加も軽度で、一過性に基準値内を呈するケースもある

ため注意を要します。[Skull Base Surg. 1997;7(2):89-93.](第57回 日本甲状腺学会 O5-3 TSH 産生下垂体腺腫13 症例における甲状腺機能の検討)

TSH産生下垂体腺腫の診断には脳造影MRI(ダイナミック下垂体MRI)、TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験が必要です。

(グラフ;バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用)

TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験
TSH産生下垂体腺腫 MRI画像
  1.  ダイナミック下垂体MRI:大阪公立大学病院(旧 大阪市立大学病院) 代謝内分泌内科(一連の入院検査になります)、あるいは東住吉森本病院に依頼。
    下垂体の偶発腫瘍(インシデンタローマ)は高頻度(下垂体腫瘍の約10%)だが、TSH産生下垂体腫瘍(TSH産生下垂体神経内分泌腫瘍)は稀(下垂体腫瘍の約1%)なので、下垂体腫瘍が見つかってもTSH産生下垂体腫瘍(TSH産生下垂体神経内分泌腫瘍)と即断してはいけません。
     
  2.  TRH負荷試験:大阪公立大学病院(旧 大阪市立大学病院) 代謝内分泌内科に入院して、早朝空腹時に行います。
    ・TRH注射液(プロチレリン or ヒルトニン®)(200~500μg)をゆっくりを静注。
    →マクロアデノーマ(大きな腺腫)では下垂体卒中に注意、鞍上部に達するものは避けた方が良い。GnRHとの併用負荷で起こり易い。通常は頭痛が初期症状で、2時間以内に起こる。すぐにMRI(CTよりも良い)を撮る。負荷試験後1週間は注意を要す[The St. Marianna Medical Journal 2020;47(4):181-188.]。
     妊婦一過性甲状腺中毒症高プロラクチン血症による妊娠継続障害の危険があるので禁忌。
     悪心・嘔吐の副作用がある。
    ・注射前、30分、60分後にTSHとプロラクチン(PRL)[30分がピークで2倍以上なら正常]を測定
    注射前と120分後にFT3を測定、増加したTSHの生物活性(甲状腺を刺激できる正常な構造のTSHかどうか)を確認します。
    TSH産生下垂体神経内分泌腫瘍の92%がTRHに反応しません(TSHの頂値が基礎値の2倍以下が多い);感度 71%、特異度96%とされ、感度は高くありません[J Clin Endocrinol Metab. 1999 Feb;84(2):476-86.]
    健常人や甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)非機能性下垂体神経内分泌腫瘍では、TRHに反応してTSHが増加(ピークは30分で 10 μIU/mL 以上)
     
  3. 保険適応外検査
    ①血中の性ホルモン結合蛋白(SHBG:sex hormone-binding globulin)増加;甲状腺ホルモンが肝細胞核因子-4α(HNF-4α)を介して間接的にSHBG産生を増加させる[J Mol Endocrinol. 2009 Jul;43(1):19-27.]
    ②TSHのαサブユニットまたはαサブユニット/ TSHモル比が増加
    αサブユニット;感度 75%、特異度 90%とされ、感度は高くありません[J Clin Endocrinol Metab. 1999 Feb;84(2):476-86.]
    αサブユニット/ TSHモル比>1.0(ただし、ゴナドトロピンのαサブユニットが混ざるので閉経後・妊娠中の女性は除きます);感度 83%、特異度 65%とされ、特異度は高くありません[J Clin Endocrinol Metab. 1999 Feb;84(2):476-86.]
    成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫の合併を証明すればTSH産生下垂体腫瘍の可能性大[成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫診断用の負荷試験][Eur J Endocrinol. 2021 Jul 12;185(2):R65-R74.]
     
  4. 組織生検(脳外科に頼んでも、してくれないが)、あるいは手術で摘出した下垂体腫瘍組織の免疫組織染色を行い、腫瘍細胞内のTSHβ鎖、TSHが染色されるのを確認。
     
  5. オクトレオチド負荷試験

TRH負荷試験後下垂体卒中 単純CT画像

TRH負荷試験後下垂体卒中 単純CT画像 [Case Rep Endocrinol.2012;2012:826901.]

TRH負荷試験後下垂体卒中 MRI T1強調画像

TRH負荷試験後下垂体卒中 MRI T1強調画像 [Case Rep Endocrinol.2012;2012:826901.]

オクトレオチド負荷試験

保険適応はありませんが、オクトレオチド酢酸塩(サンドスタチンLAR®)は

  1. TSH産生下垂体神経内分泌腫瘍の治療
  2. 甲状腺機能を正常化させるための術前投与
  3. 甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の鑑別診断

に有用です。ただし、成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫の合併があれば保険適応。

持続性ソマトスタチンアナログ徐放性製剤であるランレオチド酢酸塩徐放性製剤(ソマチュリン皮下注®)は、1.2.に対して保険適応が認められ、

「成人にはランレオチドとして90mgを4週毎に3ヵ月間、深部皮下に注射する。その後は患者の病態に応じて60mg、90mg又は120mgを4週毎に投与する。」となっています。

オクトレオチド酢酸塩(サンドスタチンLAR®)の効果判定・投与量や投与間隔を決定するために、オクトレオチド50μg負荷試験を行うことがあります。しかし、オクトレオチド50μg負荷試験はTSH産生下垂体神経内分泌腫瘍の診断確定が目的ではありません。

オクトレオチド100μgを8時間ごとに3回投与し、初回投与から24時間後のTSHが、2時間値の55.46%以下に抑制(44.54%以上の減少)されればTSH産生下垂体神経内分泌腫瘍の可能性が高いとされます。3回目のオクトレオチド投与が深夜になることが運用上の問題です。[Clin Endocrinol (Oxf). 2023 Sep;99(3):306-314.](第66回 日本甲状腺学会 P19-4 オクトレオチド負荷試験が診断に有用であったTSH産生下垂体腺腫の一例)

TRH負荷試験で正常反応の場合

TRH負荷試験で正常反応の場合

  1. 非機能性下垂体腫瘍甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の合併の可能性
  2. TSH産生下垂体腫瘍の8%がTRHに反応

TRH負荷試験で正常反応した場合、非機能性下垂体腫瘍甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の合併の可能性が生じます。鑑別は難しく、搦め手(からめ手)として、

  1. 保険適応外検査(血中の性ホルモン結合蛋白SHBG, TSHのαサブユニット)
  2. 甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群を確定する遺伝子検査が陽性に出れば、TSH産生下垂体腫瘍は否定される。[ただし、甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)でも15%は陰性(nonTR-RTH)]

TSH産生下垂体腫瘍の8%がTRHに反応

TSH産生下垂体腫瘍の8%がTRH負荷に反応します。TRH負荷試験は感度 71%、特異度96%とされ、感度は高くありません[J Clin Endocrinol Metab. 1999 Feb;84(2):476-86.]。

報告によると、TSH基礎値18.5 μIU/mL、頂値15分 98.5 μIU/mL (過剰反応)なのに、下垂体腫瘍摘出標本の免疫染色はTSH-βとプロラクチン(PRL)が陽性(TSH産生下垂体腫瘍確定)。同じく摘出標本の遺伝子解析でTRβ 体細胞変異R338Wが検出されたそうです。腺腫組織の定量的PCR法でTRHレセプター過剰発現も確認されました。術後TSH値は低下し、TRHに対する過剰反応も消失。(第60回 日本甲状腺学会 P2-10-4 SITSHとTRHに対する過剰反応を示したTSH産生下垂体腺腫: 甲状腺ホルモン受容体の体細胞変異R338Wとその臨床的解析)

成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫の合併を証明すればTSH産生下垂体腫瘍の可能性大(成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫用の負荷試験)[Eur J Endocrinol. 2021 Jul 12;185(2):R65-R74.]

TSH産生下垂体腺腫と甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の鑑別診断

TSH産生下垂体腺腫甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)と比べて、

  1. 家族性がない(甲状腺ホルモン不応症でも25%は家族性が確認できず、散発性とされます)
     
  2. ダイナミック下垂体MRI下垂体腺腫を認める。(例え下垂体腺腫が見つかっても、非機能性下垂体腺腫TSH以外のホルモン産生下垂体腺腫の確率の方が高い。)
     
  3. TRH負荷試験の反応が低ければ診断確定し、これで鑑別終了。(但し、TSH産生下垂体腺腫の8%は正常反応する)
  4. 保険適応外検査[血中の性ホルモン結合蛋白(SHBG)、TSHのαサブユニット高値]
  5. TRβ遺伝子診断陰性;TRH負荷試験で鑑別できない時に行う。(ただし、甲状腺ホルモン不応症でも15%は陰性)
  6. T3抑制試験(最後の砦):T3製剤で抑制されません。甲状腺ホルモン不応症では部分的に抑制されます。(あまりに煩雑で、明確な判定基準もなく、リスクを伴うため、実際はTRH負荷試験でTSH産生下垂体腫瘍が確定するか、TRβ遺伝子診断で甲状腺ホルモン不応症が確定すれば行いません。)

    T3抑制試験の心血管障害をおこすリスクを考えれば、いっそ脳外科手術で下垂体腺腫を摘出し、摘出した組織の免疫組織染色(TSHβ鎖、TSH)した方が無難。
     
  7. オクトレオチド負荷試験

甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,天王寺区,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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