甲状腺と耳,ANCA関連中耳炎,再発性多発軟骨炎,粘液水腫性滲出性中耳炎,滲出性中耳炎,真珠腫性中耳炎[橋本病 バセドウ病長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会年次集会で入手した知見です。
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内耳孔内には顔面神経と内耳神経があります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。甲状腺のみの診療です。耳鼻・難聴の診療を行っておりません。
Summary
再発性多発軟骨炎はタイプⅡコラーゲン抗体などによる全身軟骨への自己免疫。約20%は抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA,P-ANCA)陽性で抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用(ANCA関連血管炎)でも。ANCA関連中耳炎は抗生物質が効かない間に高度難聴化。顔面神経麻痺、頭痛(肥厚性硬膜炎)の合併が多い。甲状腺機能低下症に伴う粘液水腫性滲出性中耳炎は、甲状腺ホルモン剤補充でしか改善しない。通常の滲出性中耳炎・真珠腫性中耳炎/先天性真珠腫と鑑別。
Keywords
粘液水腫性滲出性中耳炎,甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,再発性多発軟骨炎,ANCA関連中耳炎,甲状腺,滲出性中耳炎,真珠腫性中耳炎
甲状腺と中耳炎
- 甲状腺炎・糖尿病の後に目・耳・鼻・頚部リンパ節の炎症(再発性多発軟骨炎)
- 難聴と甲状腺(ペンドレッド症候群、CRYM(マイクロ クリステリン異常症)、急激な甲状腺機能低下症で聴覚機能低下、骨形成不全症、先天性風疹症候群)
- ANCA関連中耳炎 多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)
- 甲状腺機能低下症に伴う粘液水腫性滲出性中耳炎
- 通常の滲出性中耳炎
- 真珠腫性中耳炎
- 先天性真珠腫
甲状腺と突発性難聴,老人性難聴,加齢性難聴,職業性難聴,耳硬化症
甲状腺と鼻・副鼻腔
再発性多発軟骨炎は、タイプⅡコラーゲン抗体などによる全身軟骨への自己免疫が原因です。再発性多発軟骨炎では、甲状腺炎・糖尿病・シェーグレン症候群・関節リウマチ(RA)罹患後に、目・耳(耳介の発赤腫脹、難聴)・鼻・喉(のど)(喉頭蓋軟骨炎)・頚部リンパ節の急性炎症がおこります。さらに、気管軟骨炎で気管支喘息、多発関節炎もおきます。
約20%で抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA,P-ANCA)が陽性になり、抗甲状腺薬[メルカゾール、プロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジール)]の副作用MPO-ANCA関連血管炎として発症する事があります。
報告では、プロピルチオウラシル中止により自然寛解したそうです。(第55回 日本甲状腺学会 P1-01-02 プロピルチオウラシルによるバセドウ病治療中に発症し、薬剤中止により寛解が得られた再発性多発軟骨炎の例)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬の抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を一年以上服薬しておきる稀な副作用に、抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA,P-ANCA)陽性となるMPO-ANCA関連血管炎があります。
近年、中耳炎で発症するANCA関連血管炎の報告が増加[ANCA関連中耳炎(Otitis Media with ANCA-Associated Vasculitis ; OMAAV)][Ann Otol Rhinol Laryngol. 2016 Jun;125(6):516-21.] 。まさかANCAが原因とは誰も思わないため、抗生物質が効かずに何度か変更していると、治療が遅れて高度難聴に至ります。
中耳炎なので当然ですが、症状は急性中耳炎・外耳炎症状、耳痛、難聴(骨導聴力閾値が進行性に上昇、混合性難聴)、耳鳴、めまい(前庭障害)です。
顔面神経麻痺が出現すれば、普通の中耳炎でない事に気付きます。特徴的なのは顔面神経麻痺、頭痛(肥厚性硬膜炎)の合併が多い事です。(日本耳科学会 編: ANCA関連血管炎性中耳炎 (OMAAV)診療のてびき 2016年版. 金原出版; 2016)
多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)に似た病態です。ANCA関連中耳炎には、通常の中耳炎治療(抗菌薬または鼓膜換気チューブ留置)が効果なく(細菌性でないので当たり前ですが)、鼓膜切開すると肉芽腫を疑う病変が見つかります(しかし、病理組織検査でも70%は診断不能とされます)。
むしろ血清MPO-ANCA またはPR3-ANCAが陽性であれば疑い濃厚。
報告例ではプロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジールいずれかは不明)を
- 29年間服薬後(第61回 日本甲状腺学会 O9-2 リツキシマブで治療したPTU誘発ANCA関連中耳炎の1例)
- 8年間服薬後(Endocr J. 2020 Sep 29.)
にANCA関連中耳炎を発症しており、「何十年経ってもプロピルチオウラシルの副作用は起こり得るので油断できない」教訓的な報告でした。
ANCA関連中耳炎 CT画像;中耳と乳様突起に滲出液貯留を認めます。(Endocr J. 2021 Feb 28;68(2):145-151.)
ANCA関連中耳炎の標準治療は、
- 第一に抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を中止する
- 副腎皮質ステロイドと免疫抑制剤シクロフォスファミドの併用療法ですが、治療抵抗性の場合、甲状腺悪性リンパ腫にも用いられるリツキシマブ(リツキサン®)の投与が認められています。(日耳鼻 2016; 119: 81-86)
早期発見できれば、副腎皮質ステロイド投与で聴力は速やかに改善する可能性があります。しかし、進行すれば
- 重度難聴の後遺症
- 肥厚性硬膜炎による致死的な経過
に至ります。
甲状腺機能低下症に伴う粘液水腫性滲出性中耳炎は、甲状腺ホルモン剤の補充でしか改善しません。[HNO. 1986 Jul;34(7):305-6.]
ANCA関連中耳炎、粘液水腫性滲出性中耳炎の鑑別すべき病気として、通常の滲出性中耳炎(exudative otitis media)があります。滲出性中耳炎とは、
- 急性中耳炎
- 鼻や喉(のど)の炎症
- 慢性副鼻腔炎(蓄膿)
で生じた滲出液が耳管から排出されずに蓄積した状態。[Ann Otol Rhinol Laryngol. 1997 Aug;106(8):619-23.]
真珠腫性中耳炎(cholesteatomatous otitis media)は慢性中耳炎の重症型です。真珠腫とは、中耳側に凹んだ鼓膜の一部へ上皮細胞が侵入・増殖したもので、骨を溶かして進行します。
真珠腫の進行によって
- 伝導性難聴;耳小骨の破壊
- 感音性難聴・めまい;内耳の破壊
- 顔面神経麻痺
- 髄膜炎・脳膿瘍;頭蓋内へ浸潤
化膿性中耳炎と真珠腫性中耳炎に対する根治的治療は、真珠腫の摘出と鼓室形成術。
Ohdo症候群(オード症候群:Ohdo Syndrome)の Say-Barber-Biesecker-Young-Simpson (SBBYS) 亜型(ヤング・シンプソン症候群)は、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)、眼瞼裂狭小・眼瞼下垂や鼻涙管閉鎖、多指症および精神遅滞が特徴。Ohdo症候群の SBBYS亜型に真珠腫性中耳炎に伴った報告があります。[Am J Case Rep. 2019 Feb 10:20:175-178.]
先天性真珠腫は、胎生期に迷入した中耳上皮細胞が増殖した上皮嚢腫です。鼓膜との連続性はありません。真珠腫性中耳炎の5%を占め、中耳炎を起こしていない場合の症状は
- 難聴
- 顔面神経麻痺
のみです。
先天性真珠腫の治療方法は、鼓室形成術。特に甲状腺との関連はありませんが、子供の難聴が疑われたら
との鑑別が必要です。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。










