甲状腺ホルモン偽高値/偽低値(本当のTSH,FT3,FT4は正常だが異常値になる)[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
TSH、FT3、FT4の偽高値/偽低値(本当は正常だが異常値と出る)の原因は①甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs)[抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体、抗ヒトTSH自己抗体]、異好抗体②家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症③エクルーシス試薬(ECLIA法)。正しい値は①2step測定法アーキテクト②PEG(ポリエチレングリコール)沈殿法(FT3、FT4近似値)で。甲状腺機能低下症症状がないのに突然TSH上昇する場合、抗TSH自己抗体を疑う。家族性FT4偽高値、リウマチ因子(RF)によるサイログロブリン・カルシトニン偽高値、抗アイソタイプ抗体(ヒト抗動物抗体)の複数ホルモン偽高値もある。
Keywords
TSH,FT3,FT4,偽高値,偽低値,甲状腺ホルモン自己抗体,異好抗体,抗ヒトT3自己抗体,抗ヒトT4自己抗体,抗ヒトTSH自己抗体
TSH,FT3,FT4,偽高値,偽低値,自己抗体,家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症,ルテニウム,エクルーシス,ECLIA
偽高値・偽低値(本当のTSH、FT3、FT4は正常だが、異常値に出てしまう)は、異好抗体の抗マウスグロブリン抗体(マウス抗体に対するヒト抗体;HAMA)や抗ヒトTSH自己抗体(マクロTSH血症 の場合もある)、抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体が血液中に存在するために起こります。
抗ヒトTSH自己抗体、抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体をまとめて、甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs)と称します。甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs)保有率は一般人口の1.8%、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病・バセドウ病)患者の7%で、特に抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体),抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)強陽性患者に多いとされます。(Clin Chem 1990;36:470-473.)
※残念ながら2ステップ法であるアーキテクト®(アボットジャパン)の測定機械を持っている施設・検査センターは、ほとんどありません。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、埼玉のBML研究所に航空便で検体を送り、測定を依頼しています。
株式会社 ビー・エム・エルBML総合研究所(〒350-1101 埼玉県川越市的場1361-1)は、キット間の比較を行う目的で甲状腺ホルモンの全測定キットを保有している特殊な企業ラボです。
最近は、富士レビオのルミパルス®(ルミパルスプレスト) も2ステップサンドイッチ法に基づいた化学発光酵素免疫測定法(CLEA法)を採用しています。現在、日本国内の主流は偽高値を生じるロシュ・ダイアグノスティックス社製の1ステップ測定キット[エクルーシス試薬、ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)]ですが、果たして普及するでしょうか?
PEG(ポリエチレングリコール)沈殿法は、抗マウスグロブリン抗体(異好抗体HAMA)や抗ヒトTSH自己抗体、抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体を沈殿させて除去する方法です。
PEG(ポリエチレングリコール)沈殿法を用いると、FT3、FT4を本当の値に極めて近い近似値へ換算する事ができます。しかし、本当の値とは言えません。さらに、TSHの換算式は確立していないため、換算値を出せません。抗ヒトTSH自己抗体に影響されない2step測定法のアーキテクト®(アボットジャパン)には及びません。
どのような場合、抗TSH自己抗体の存在を疑えば良いでしょうか?
- 甲状腺機能低下症症状が全くないのに、TSH 50~100~200 μIU/mL 以上が持続。甲状腺超音波(エコー)検査でも、TSHの値に見合う変化がない(中枢性甲状腺機能低下症、萎縮性甲状腺炎、TSH受容体不活型変異の可能性は否定できませんが・・・)。筆者の経験上、FT4は正常範囲内の高値(例えば、1.4 ng/dL )が多く、そもそも甲状腺機能低下症ではない。
- 甲状腺機能正常~潜在性甲状腺機能低下症が持続していたのに、突然、TSH 上昇し、50~100~200 μIU/mL 以上が持続(突然、TSH 上昇する報告が多い)。
(第58回 日本甲状腺学会 P1-026 潜在性甲状腺機能低下症の経過観察中にTSH 異常高値となり抗TSH 自己抗体の存在が疑われた一例)
抗TSH自己抗体の確認
抗TSH自己抗体の存在を確認しようとすれば、患者血清をゲルろ過し、TSHと抗TSH自己抗体の複合体を見つける。ただし、これは保険適応もなく、学会・論文報告用に行われるのみです。[Clin Chem Lab Med. 2009;47(5):604-6.]
現実的には、2step測定法のアーキテクト®(アボットジャパン)で本当のTSH値を測定すれば、抗TSH自己抗体の存在を間接的に証明できます。(第53回 日本甲状腺学会 P-149 TSHが著明な高値を呈した一症例におけるTSH測定への患者血清の影響)
秋田大学が、興味深い報告をしています。家族性にFT4高値で、甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)を疑いTRβ遺伝子解析を実施しても第4~10エクソンに変異無し。当然、non-TR RTH[コファクター(転写共役因子)の異常]が疑われますが、2 ステップ測定法[アーキテクト®(アボットジャパン)]で測定するとFT4 は正常範囲内であり、家族性にFT4偽高値という結果でした。
- そもそも抗ヒトT4自己抗体は、遺伝性が強い自己免疫性甲状腺疾患(橋本病・バセドウ病)の7%に存在するとされ、家族性に持っているケースもあります。[Nihon Naibunpi Gakkai Zasshi. 1982 Jan 20;58(1):9-23.]
- また、下記の家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症も可能性として考えられます。
(第56回 日本甲状腺学会 P1-027 家族性に不適切TSH 分泌症候群(SITSH)に合致する検査所見を示したが、2 ステップ測定法でSITSH が共に否定された親子例)
これまで報告されていたのは、ほとんどが単一のホルモンに対する偽高値/偽低値でした。抗アイソタイプ抗体(ヒト抗動物抗体)[Clin Chem. 1999 Jul;45(7):942-56.]は複数のホルモンで偽高値をおこします。信じられないことに、2step測定法のアーキテクト®(アボットジャパン)でTSH、ACTH、FSH、PTH、IGF-1、プロラクチン(PRL)、βヒト絨毛性ゴナドトロピン、およびカルシトニンの異常高値(偽高値)を示し、他のメーカーの測定キットでも高値~正常値とバラバラの値だったケースがあります。[J Clin Endocrinol Metab. 2015 Jun;100(6):2147-53.]
IgGのFc部分に対する自己抗体であるリウマチ因子(RF)は、異好抗体[抗マウスグロブリン抗体(マウス抗体に対するヒト抗体;HAMA)、ヒト抗動物抗体(HAAA)]と同じく、捕捉抗体と標識抗体を橋渡しすることで測定干渉を引き起こします。
リウマチ因子(RF)によるサイログロブリンおよびカルシトニンの偽高値が報告されています[Medicine (Baltimore). 2019 Feb;98(5):e14178.]。
家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症 (FDH)は、常染色体優性遺伝性に甲状腺ホルモン(T4とT3)と高い親和性を持つ異常アルブミンを有する病気。顕著なFT4偽高値と軽度のFT3偽高値を呈す。TSH不適切分泌症候群(SITSH)と鑑別要。本当のFT4・FT3値は2ステップ測定法アーキテクトで測定(反応液中のアルブミン・T4・FT4 複合体を除去)。家族性異常アルブミン性高トリヨードサイロニン血症(FDH-T3)も報告されている。診断はゲル濾過分析(アルブミン・T4・FT4 複合体の証明)、確定診断はアルブミンの遺伝子解析。
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家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症[familial dysalbuminemic hyperthyroxinemia (FDH)]は、常染色体優性遺伝性に甲状腺ホルモン(T4とT3)と高い親和性を持つ異常アルブミンを有する病態。
詳しい機序は不明だが、何らかの原因で、血液検査における高サイロキシン(T4)血症(FT4偽高値)とT4程ではないが高T3血症(FT3偽高値)を呈します。アルブミン遺伝子R218 部分の一塩基変異が多い[Clin Chem. 2009;55(5):1044-1046.]。 TSH不適切分泌症候群(SITSH)との鑑別が必要です。
見かけ上、free T4(FT4), free T3(FT3)がTSH抑制を伴わず高値を示し、特にFT4が測定限界を超える特徴的なTSH不適切分泌症候群(SITSH)パターンになるため、その不自然さから家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症 (FDH)を疑われます。異なる測定キットを使うと、正常なFT4、FT3値の結果になることがあります。
もちろん、実際のFT4、FT3は正常値につき、何の症状もありません。
千葉大学の報告によれば、HPLC を用いたゲル濾過法で、家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症 (FDH)患者血清のAlb分画を分離しT4・FT4 を測定すると、T4・FT4 がピークを示してFT4/T4 比は0.63。すなわち、アルブミンとT4・FT4 が通常よりも強く結合しており、FT4測定過程で添加されるバッファや抗体などにより遊離し、試験管内ではFT4 が偽高値を示すと推測されます。(第56回 日本甲状腺学会 O8-2 HPLC を用いたサイズ分画分離による家族性異常アルブミン性高サイロキシン血(FDH)患者血清におけるT4 結合の解析)
近年、 高T3血症(FT3偽高値)のみで、高T4血症(FT4偽高値)を伴わない家族性異常アルブミン性高トリヨードサイロニン血症(FDH-T3)も報告されています[Biochim Biophys Acta. 2016 Apr;1860(4):648-60.]。
家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症と診断するには、ゲル濾過分析してアルブミン(Alb)のT4 に対する親和性増加を証明すれば良いのですが、研究室でなければ不可能です(日常診療では無理)。
家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症の確定診断は、アルブミンの遺伝子検査(遺伝子解析)しかありませんが、簡単に行える施設はほとんどなく、しかも保険診療不可の高額な検査です。アルブミン遺伝子のR218部分が一塩基変異した(白人ではp.R242H、日本人ではp.R242P変異)報告例が多い[Clin Chem. 2009;55(5):1044-1046.][J Pediatr Endocrinol Metab. 2021 Jun 18;34(9):1201-1205.]。
家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症 (FDH)で本当のFT4値を知るには、どうすれば良いか?測定過程において、反応液中のアルブミン・T4・FT4 複合体を除去してしまえば良い事になります。ならば、2ステップ測定法[アーキテクト®(アボットジャパン)]で測定するのが1番です。
千葉大学の報告によると、アルブミンの影響を受けやすい1ステップ測定法のルミパルス®(富士レビオ)を用いたFT4値は1.86-2.35 ng/dL(基準値0.70-1.70)となってしまい、2ステップ測定法[アーキテクト®(アボットジャパン)]には及びません。(第59回 日本甲状腺学会 O2-3 家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症(FDH)患者の異なる測定系によるFT4 値の比較)
以下は家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症 (FDH)患者のFT4・FT3値を、1ステップおよび2ステップ測定法の異なるイムノアッセイ法で測定した結果です。やはり、2ステップ測定法[アーキテクト®(アボットジャパン)]が優れています。[Eur J Endocrinol. 2020 Jun;182(6):533-538.]
エクルーシス試薬[ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)]による測定では、FT3、FT4が実際の値より高めに出て(偽高値)、TSH不適切分泌症候群(SITSH)と紛らわしい(TSHは偽低値)。試薬中で発色を担うルテニウムに対する患者血清中の阻害物質が最大原因。臨床症状・甲状腺超音波エコー所見と矛盾する値が出た場合、ルテニウムを含まないケミルミ(1step法)か2step測定法のアーキテクトで再測定。FT3、FT4の偽低値、抗サイログロブリン抗体(TgAb)の偽低値、バセドウ病抗体TRAbの偽高値もある。ECLIA法では抗ストレプトアビジン抗体が原因の偽低値、偽高値もある。
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FT3、FT4の偽高値
日本で25%の市場シェアを占める(2026年、筆者の実感では90%以上)ロシュ・ダイアグノスティックス社製の測定キット[エクルーシス試薬、ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)]では、FT3、FT4が実際の値より高めに出てしまい(偽高値)、TSH不適切分泌症候群(SITSH)とまぎらわしい事があります(TSHはむしろ偽低値になる)。
改良されたエクルーシス®試薬 FT3Ⅲ、FT4Ⅲでは、偽高値が出る確率は減っていますが、根本的な問題は未解決です。
エクルーシス試薬中で発色を担うルテニウムに対する患者血清中の阻害物質が最大原因と考えられます。ルテニウムを含む試薬を使っているのはエクルーシスのみです。ルテニウムの問題が解決されない限り、エクルーシス試薬の測定結果を100%信用するのは危険です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、臨床症状・甲状腺超音波(エコー)所見と矛盾する甲状腺ホルモン値が出た場合、ルテニウムを含まないシーメンス社(ドイツ)製の測定キット[ケミルミ1step法]か、前述の2step測定法のアーキテクト®(アボットジャパン)で再測定します。(埼玉県のBML研究所へ検体を送るので、時間が掛かります)
エクルーシス®[ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)]で偽高値が出る確率
エクルーシス®[ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)]で、TSH不適切分泌症候群(SITSH)を疑う結果が出た場合、本当のSITSHである確率は?伊藤病院の報告によると、エクルーシス®[ECLIA法]でSITSHが疑われた410名を、アーキテクト®(アボットジャパン)とルミパルス®(富士レビオ社)で測定し直した結果、
- 本当のSITSH 144名(約35%)
甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)14名(約3%)、下垂体TSH産生腫瘍10名(約2%)、家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症1名(約0.2%)、原因不明4名(約1%)、検索不十分15名(約4%)
合計すると約10%。
筆者が推察するに、残りの約25%は、①無痛性甲状腺炎の経過中など一過性、②甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)服薬中と考えられます。
- 偽高値’(残りの約65%)
(第53回 日本甲状腺学会 P-148 伊藤病院におけりるTSH不適切分泌症候群(SITSH)の現状)。
FT3、FT4の偽低値もあり!?
FT3、FT4の偽高値ならぬ偽低値も報告されています。仁和会 小池病院の報告によると、ECLIA 法にてTSH 1.36 μIU/mL(0.27-4.20)正常値、FT4 0.3 ng/dL (1.0-1.8)かなり低値、FT3 0.3 pg/mL(2.2-4.4)かなり低値であり、
- 中枢性甲状腺機能低下症
- 無痛性甲状腺炎の経過中
が疑われるパターンです。チラーヂンS錠(LT4)50μg/日の投与を開始し、1カ月後、TSH 0.387 μIU/mL と改善したもののFT4 0.3 ng/dL, FT3 0.3 pg/mL は全く改善を認めず。ECLIA 法による偽低値を疑い、CLEIA法(化学発光・酵素免疫測定法)で再検すると、FT4 1.08 ng/dL(2.13-4.07),FT3 2.94 pg/mL(0.95-1.74)と正常範囲だったそうです。(第59回 日本甲状腺学会 P2-7-2 ECLIA 法にてFT4,FT3 偽低値を呈した1例)
TSHの偽低値もあり!?
TSHの偽低値も報告されています。名古屋甲状腺診療所の報告では、ECLIA 法にてTSH偽低値、FT3・FT4 偽高値となったそうです。
ECLIA 法でFT3 10.1 pg/mL 高値、FT4 1.04 ng/dL 正常値、TSH 3.18 μIU/mL 正常値
CLIA 法でFT3 2.3 pg/mL 低値、FT4 0.59 ng/dL 低値、TSH 59.37 μIU/mL 高値
と真逆の結果です。(第68回 日本医学検査学会 107 甲状腺機能検査において非特異反応を示した一例)
下記、長崎甲状腺クリニック(大阪)の自経例でも同様の結果になっています。
抗サイログロブリン抗体(Tg抗体:TgAb)、バセドウ病抗体TRAb(ECLIA)も偽高値に
エクルーシス試薬[ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)]により、
になる場合もあります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)の自経例
長崎甲状腺クリニック(大阪)の自経例は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の診断で当院紹介されたが、FT3、FT4 偽高値TSH偽低値、TRAb不活性型(neutral)もしくはTRAb 偽高値だった85歳女性。本当は甲状腺機能低下症/橋本病だった。、
他院にてFT3 11.9 pg/mL(ECLIA)[2.30-4.0]高値、FT4 2.85 ng/dL(ECLIA)[0.9-1.7]高値、TSH 0.91 μIU/mL(ECLIA)[0.5-5.0]正常下限値、TRAb 23.2 IU/lL(ECLIA)[<2.0]高値。
しかし、長崎甲状腺クリニック(大阪)受診時、FT3 2.4 pg/mL(CLIA)[2.2-4.1]正常値、FT4 0.7 ng/dL(CLIA)[0.8-1.9]低値、TSH 10.4μIU/mL(CLIA)[0.4-4.0]高値と甲状腺機能低下症状態。TRAb 27.5 IU/L高値、TSAb(EIA) 111% (<120)正常値, TSBAb 164% (<180)正常値 , TgAb >4000 IU/mL高値, TPOAb 101.6 IU/mL高値だった。TRAb は強陽性だが、刺激も阻害もしない不活性型(neutral)TR-Abか偽高値と考えざる得なかった。
抗ストレプトアビジン抗体(IgM 抗体)が甲状腺機能検査(甲状腺ホルモン測定)に干渉する可能性があります。[Clin Chem Lab Med. 2020 Sep 25;58(10):1673-1680.]
患者血清中の抗ストレプトアビジン抗体は、測定試薬中のストレプトアビジンに反応し、発光シグナルを減少させるため、甲状腺ホルモン(FT4とFT3)の偽高値をもたらします。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は偽低値、甲状腺ホルモン(FT4とFT3)は偽高値を呈するため、甲状腺中毒症と誤診します。さらに、TRAb も偽高値を示す可能性があり、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と見誤ります。
抗ストレプトアビジン抗体による分析干渉は、前述のエクルーシス試薬、ECLIA法で確認されています。[Thyroid Res. 2021 Jul 10;14(1):17.]
マイクロフィブリンの存在下では、一次抗体へ標識抗体が非特異的に結合して偽高値に(in vitroでのフィブリン干渉)。①ワーファリン(ワルファリン)や直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)による抗凝固療法中や②不十分な血清分離でマイクロフィブリンが生じる。マイクロフィブリンの干渉を避けるには①1日静置後に再遠心した血清か②血漿(EDTAやクエン酸ナトリウム、ヘパリンなどの抗凝固剤入り容器)で再測定する。甲状腺ホルモンFT4、FT3測定は競合法だが、TSH測定はサンドイッチ法なので一次抗体と標識抗体の非特異的な結合が起こり難く、偽高値は生じ難い。
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甲状腺以外の領域において、血清中のマイクロフィブリンが測定に干渉しておきる偽高値は、日常最もよく遭遇する臨床検査トラブルの1つです。HBs 抗原やHCV 抗体の偽陽性反応は有名。マイクロフィブリンの存在下では、一次抗体へ標識抗体が非特異的に結合してしまうのが原因です。マイクロフィブリンによる偽高値は、
に多い。特に、不十分な血清分離で、血清中にマイクロフィブリンが残存してしまう。
甲状腺の領域において、マイクロフィブリンが原因で生じたFT4、FT3偽高値の報告;
心房細動(Af)を合併した甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者に投与されたワーファリン(ワルファリン)が原因でマイクロフィブリンが生じる。その結果、2step測定法アーキテクト®(アボットジャパン)で偽高値を示したが、エクルーシス®[ECLIA法(電気化学発光免疫測定法)]では正常値になった(理由は不明、一次抗体を反応させた後、wash outしたのがいけなかったのか?)。(第64回 日本甲状腺学会 41-1 アーキテクト(R)2STEP測定法で甲状腺ホルモン偽高値を呈した一例)[Ann Clin Biochem. 2023 Jul;60(4):249-258.]
浜松赤十字病院・浜松医科大学の報告によると、マイクロフィブリンが原因の偽高値をアピキサバン[直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)]投与患者でも認めたそうです。(第67回 日本甲状腺学会 HS1-5 アピキサバン内服中に見かけ上の不適切TSH分泌症候群を呈した一例)
採血後の不十分な血清分離より、検体中に残存したフィブリンが原因(in vitroでのフィブリン干渉)の場合、
- 1日静置後に再遠心した血清
- 血漿(EDTAやクエン酸ナトリウム、ヘパリンなどの抗凝固剤が入っていて凝固が起こらない)
で再測定すると正常値になったそうです。(第65回 日本甲状腺学会 P17-5 フィブリンの干渉による“見かけ上のSITSH”に関する検討)
FT4、FT3測定は競合法だが、TSH測定はサンドイッチ法なので一次抗体と標識抗体の非特異的な結合が起こり難く、偽高値は生じ難いようです。(第65回 日本甲状腺学会 P17-4 経口抗凝固薬による血中遊離サイロキシン値上昇の可能性)
結果、TSH正常、FT4、FT3偽高値で、TSH不適切分泌症候群(SITSH)のような検査値になります。
肝臓で合成・分泌されるTBG(サイロキシン結合グロブリン)は甲状腺ホルモン結合蛋白の70~75%を占める。TBG異常によりFT4, FT3値へ影響が出るが、自然現象であり、異常抗体・異常蛋白が測定キットに影響する分析干渉とは異なる。TBGが増加するのは遺伝性TBG増加症、妊娠、胞状奇胎、急性肝炎、新生児、薬剤[エストロゲン製剤、5-FU]、低下するのは遺伝性TBG欠損(減少)症、肝硬変、ネフローゼ症候群、栄養失調、カロリー制限、薬剤[アンドロゲン、蛋白同化ホルモン]
TBG,サイロキシン結合グロブリン,甲状腺ホルモン結合蛋白,遺伝性TBG増加症,遺伝性TBG欠損症
TBG(サイロキシン結合グロブリン)は、肝臓で合成・分泌される糖蛋白で、血中の最も重要な甲状腺ホルモン結合蛋白です。血中で甲状腺ホルモンを運搬し、末梢組織へ供給します。TBG(サイロキシン結合グロブリン)は甲状腺ホルモン結合蛋白の70~75%を占め、トランスサイレチン(プレアルブミン)は約15%、アルブミンは約10%です。
TBG(サイロキシン結合グロブリン)異常によりFT4, FT3値へ影響が出ます。実は、正常妊娠中の甲状腺ホルモン変動の原因としてよく知られていた事で、妊娠中~後期にFT4, FT3は低値になります(ただし測定キットによりその程度はバラつきがある)。妊娠に伴う性ホルモン結合タンパク増加と同時に、甲状腺ホルモン結合グロブリン(TBG)も増え、結合していない遊離型甲状腺ホルモン(FT4, FT3)が減るためです。
これは、自然現象で、異常抗体・異常蛋白が測定キットに影響する分析干渉
- 抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体、抗ヒトTSH自己抗体、異好抗体
- マクロTSH血症
- 家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症の診断
- 測定キット(エクルーシス試薬、ECLIA法)でFT3、FT4が偽高値・TSHが偽低値
- 抗ストレプトアビジン抗体による偽低値、偽高値
- マイクロフィブリンによる偽高値
とは異なります。
TBG(サイロキシン結合グロブリン)が増加するのは、
TBG(サイロキシン結合グロブリン)が低下するのは、
- 遺伝性TBG欠損(減少)症
- 肝硬変
- ネフローゼ症候群
- 栄養失調、カロリー制限
- 薬剤[アンドロゲン(男性ホルモン)、蛋白同化ホルモン、L-アスパラギナーゼ(ロイナーゼ;急性白血病や悪性リンパ腫の治療薬)]
遺伝性サイロキシン結合グロブリン(TBG)増加症は極めて稀で、0.004% (25,000人に1人)[遺伝性TBG欠損症は0.02% (5,000人に1人)]です(Endocrine Reviews 10: 275-293.)。
遺伝形式はX染色体優性遺伝と考えられ、遺伝性サイロキシン結合グロブリン(TBG)増加症の家系が日本でも2家系報告されています。(Endocr J. 1994 Aug;41(4):467-70.)(Folia Endocrinologica Japonica 1970, 46(9):1002-1004.)
サイロキシン結合グロブリン(TBG)欠損症はセルピンファミリーAメンバー7(SERPINA7)遺伝子変異が原因とされます。X連鎖性遺伝のため、半接合体の男性とホモ接合体の女性に発現します。[J Clin Endocrinol Metab. 1996 Jun;81(6):2204-8.]
TBG欠損症にはTBG完全欠損症とTBG部分欠損症があり、それぞれ15,000 人に一人、4,000人に一人の頻度。[Gene. 2018 Aug 5:666:58-63.]
「サイロキシン結合グロブリン(TBG)増加でFT3高値になる」(偽高値か?)と言う不思議な症例が報告されています。筆者は、その論理を把握していません。
報告によると、TSH不適切分泌症候群(SITSH)の検査所見を示すが、代謝亢進症状なく、甲状腺腫大もなし。甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)、TSH産生下垂体腺腫も否定され、偽高値を疑われるが、抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体、抗ヒトTSH自己抗体、異好抗体も否定的。
TBG≧60.0 μg/mL (12.0~28.0 μg/mL)の甲状腺機能低下症で、「(抄録のまま)T3結合TBGを種々の検体に異なる濃度となるように添加し、T3・FT3を測定する検討を行った。その結果、添加したT3結合TBGのT3量に比例してFT3測定値が上昇しており、TBGからT3が遊離し測定されている可能性が疑われた。」との事です。甲状腺ホルモンと親和性の高い異常サイロキシン結合グロブリン(TBG)により見かけ上、遊離トリヨードサイロニン(FT3)上昇を来すと考えられ、家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症 と同じ原理です。近年、 高T3血症のみで、高T4血症を伴わない家族性異常アルブミン性高トリヨードサイロニン血症(FDH-T3)が報告されており[Biochim Biophys Acta. 2016 Apr;1860(4):648-60.]、非常に似ています。
(第60回 日本甲状腺学会 O6-2 TBG異常による遊離甲状腺ホルモン測定への影響が疑われた2例)
従来の甲状腺ホルモン測定法であるECLIA/ELISA と統計的な違いがないとの結果ですが、偽高値・偽低値が無くなるか否か不明です(Anal Bioanal Chem. 2019 May;411(13):2839-2853.)
そもそもイオン化した物質を測定する技術で、除タンパク、液液抽出や固相抽出法等で夾雑成分を除去した血清を測定対象としますが、偽高値・偽低値の原因となる抗体を除去できるでしょうか?。
できたとしても、コストを考えれば臨床の場に普及するのは難しいと思います。
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