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肺癌・悪性中皮腫の甲状腺転移(転移性甲状腺癌),ALK融合遺伝子[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

長崎甲状腺クリニック(大阪)は、肺癌・悪性中皮腫の甲状腺転移の治療を行っておりません。これらの治療は、呼吸器内科・呼吸器外科入院設備のある病院でしかできません。

Summary

転移性甲状腺癌は稀だが肺癌からの転移が最多[肺癌Ⅳ期[遠隔転移(M1b)]。エコー所見は非特異的な低エコー領域で橋本病の破壊性変化・甲状腺悪性リンパ腫と区別難。転移性甲状腺癌は原発巣が予後不良なので問題にならないが急速増大し窒息の危険があれば手術も。甲状腺乳頭癌と同じ融合型癌遺伝子EML4-ALK(ALK融合遺伝子)は肺腺癌特異的、非小細胞肺癌の5%、若年者肺癌の30%に。非扁平上皮非小細胞肺癌の1-3%に甲状腺乳頭癌と同じBRAF V600E遺伝子変異。悪性中皮腫も甲状腺に遠隔転移、腫瘍マーカーのシフラや可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)上昇。

Keywords

転移性甲状腺癌,肺癌,遠隔転移,シフラ,甲状腺乳頭癌,悪性中皮腫,甲状腺,ALK融合遺伝子,可溶性メソテリン関連ペプチド,SMRP

肺癌の甲状腺転移

肺を通った血液は全身に送られるため、肺癌は血液に乗って全身に転移する(急行、快速のような転移)可能性が高い。肺癌が転移しやすく、完治しにくい理由です。もちろん、甲状腺をはじめ、周囲の臓器にもリンパ節を伝って転移します(各駅停車の転移)。

肺癌からの転移性甲状腺癌(要するに肺癌が甲状腺に転移する)は稀ですが、剖検(死因究明のための病理解剖)で見つかる転移性甲状腺癌で最も多いのは肺癌からのものです。肺癌Ⅳ期[遠隔転移(M1b)]です。腺癌、扁平上皮癌小細胞癌いずれの場合もあります。

肺癌からの転移性甲状腺癌では、甲状腺組織の破壊により

  1. 急激なら破壊性甲状腺炎
  2. 緩やかなら甲状腺機能低下症

がおこります。

肺癌からの転移性甲状腺癌

エコー上、非特異的な低エコー領域で、橋本病(慢性甲状腺炎)の破壊性変化・甲状腺悪性リンパ腫と区別がかなり難しい(頭頚部外科 26(2):247-251.2016)。

全身多発転移(遠隔転移)の一つである場合が多く、周囲の鎖骨窩や頚部に明らかな肺癌転移リンパ節を認めるので推察可能。

また、治療的診断として、肺原発巣に化学療法・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬治療を行うと、甲状腺内の低エコー領域も縮小します。

扁平上皮細胞肺がんの甲状腺転移は、甲状腺未分化癌の一つである甲状腺原発扁平上皮癌との区別難ですが、甲状腺原発扁平上皮癌は粗大石灰化を起こす点が異なります。

肺癌の左鎖骨上窩リンパ節転移(ウィルヒョウリンパ節) 超音波(エコー)画像

肺癌の左鎖骨上窩リンパ節転移(ウィルヒョウリンパ節) 超音波(エコー)画像

肺癌の頚部リンパ節転移

肺癌の頚部リンパ節転移 超音波(エコー)画像

肺腺癌術後の小寛解期に、急激な甲状腺腫大をおこし、甲状腺未分化癌が疑われるも穿刺細胞診で甲状腺低分化型乳頭癌の診断。、しかし、組織生検では腺癌細胞が乳頭状増殖しており、甲状腺低分化型乳頭癌に似ているが乳頭癌特有の核所見はなく、肺腺癌甲状腺転移の診断に。(第53回 日本甲状腺学会 P135 甲状腺未分化癌との鑑別を要した肺癌術後甲状腺転移の1例)
 
甲状腺専門医にはなじみがありませんが、肺腺癌組織は乳頭状構造主体の場合が珍しくありません。[J Thorac Oncol. 2020 Oct;15(10):1599-1610.]

乳頭癌特有の核所見(核溝・すりガラス核・核内細胞質封入体など)のない甲状腺乳頭癌篩型(モルラ型)甲状腺円柱細胞癌(CCV)との鑑別は難しいと思われます。

転移性甲状腺癌は、肺癌など原発巣自体が予後不良なので問題にならない場合が多いです(せいぜい甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS]を補充するくらい)。ただし、急速増大して気管を圧迫し窒息の危険がある時は手術になる場合もあります。

肺癌でも、甲状腺乳頭癌と同じBRAF、RET遺伝子変異→precision medicine

肺癌患者でも、甲状腺乳頭癌と同じくBRAF遺伝子変異が認められる事があります。BRAF V600E変異は甲状腺乳頭癌の浸潤性と強く相関しますが、非扁平上皮非小細胞肺癌の1-3%にも出現します。

BRAF V600E陽性肺癌は、BRAF 遺伝子変異陽性甲状腺未分化癌と同じく、BRAF阻害薬ダブラフェニブ(Dabrafenib:BRAFi)とMEK阻害薬トラメチニブ(Trametinib:MEKi)併用療法が有効とされます。

肺腺癌の1~2%で、[KIF5B(キネシンファミリー5B遺伝子)との]融合型RET遺伝子(KIF5B-RET fusions)が検出され、肺腺がんの発症にもRET遺伝子が関与しています(Nat Med. 2012 Feb 12;18(3):375-7.)。

RET融合遺伝子が陽性の肺癌で、甲状腺髄様癌の分子標的薬バンデタニブ(カプレルサ錠®)の治療効果が報告されています(J Clin Oncol. 2017 May 1; 35(13):1403-1410.)。

RET阻害薬レットヴィモ®(セルペルカチニブ:セルパーカチニブ:selpercatinib)が、RET遺伝子変異を持つ以下の癌に承認されています。

  1. 成人の転移を有する(RET融合遺伝子陽性)非小細胞肺癌
  2. 進行または転移を有する全身療法が必要な12歳以上の甲状腺髄様癌
  3. 放射性ヨード治療抵抗性で、全身療法が必要な12歳以上の進行RET融合遺伝子陽性甲状腺癌(甲状腺乳頭癌、おそらく甲状腺低分化癌も含まれると思います)

この様に、個別の遺伝子変異などに基づき最適な治療や予防を行う事をprecision medicine(精密医療)と言います。precision medicineの語源は2015年、オバマ大統領の一般教書演説中にある“Precision Medicine Initiative”です。現在では、がんゲノム医療=precision medicine になっています。

肺腺癌は特異な遺伝子異常

非小細胞肺癌の中で肺腺癌は特異な遺伝子異常(変異、融合遺伝子)を有します。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異、ALK遺伝子転座、ROS1融合遺伝子などです。

肺腺癌の40-50%に認められるEGFR変異は東洋人·女性·非喫煙者に多くみられます(Cancer Sci.· 2007;98(12):1817-1824.)。EGFR変異は肺癌のドライバー遺伝子として癌の増殖シグナルを出し続けます。

ゲフィチニブ(イレッサ®)は、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼを選択的に阻害、「EGFR遺伝子変異をもつ手術不能又は再発非小細胞肺癌」患者の70-80%に腫瘍縮小効果、従来の抗がん剤による標準的治療より2-3倍抗腫瘍効果が高いです。耐性遺伝子変異としてT790Mが重要です。

ゲフィチニブ(イレッサ®)が著明な効果を示した甲状腺癌の症例報告があります(Auris Nasus Larynx 2009)。その後同様の報告がなく、全ての甲状腺乳頭癌肺転移に有効でないようです。

非小細胞肺癌に免疫チェックポイント阻害剤治療

免疫チェックポイント阻害剤は、非小細胞肺癌に保険適応があります。免疫チェックポイント阻害剤は、無痛性甲状腺炎破壊性甲状腺炎)・甲状腺機能低下症を高頻度におこします。(免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害 )

非小細胞肺癌の免疫チェックポイント阻害剤単剤の

  1. 奏効率は約20%
  2. 奏効した場合の有効期間は殺細胞性抗がん剤より長い
  3. 有効性は年齢に関係なし。高齢者でも若年者と変わりない。
  4. 5年生存率16%
  5. 免疫関連有害事象を起こした人は、起こさない人より予後良い

融合型癌遺伝子EML4-ALK(ALK融合遺伝子)

肺がんにおいて発癌・増殖の主因とされる単一遺伝子変異(Driver遺伝子)が発見されています。代表的なものは一部の甲状腺乳頭癌甲状腺低分化癌遺伝子と同じ融合型癌遺伝子 EML4-ALK (ALK融合遺伝子)で、肺腺癌に特異的とされ、非小細胞肺癌の5%、若年者肺癌の30%に認められます。

チロシンキナーゼの一種であるALK遺伝子が、EML4遺伝子に融合することで活性化され、発癌を誘発します。

肺腺癌と診断確定した後は、免疫組織化学やFISH法(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法;蛍光物質付きの塩基プローブで標的遺伝子を見つけ出す方法)などの遺伝子検査を併用し、EML4-ALK(ALK融合遺伝子)の有無を確認する事が推奨されます。

EML4-ALK(ALK融合遺伝子)には分子標的薬クリゾチニブ(ALK阻害剤)が有効で、手術不能例や手術後の補助療法に使用されます。

甲状腺がん疑いで甲状腺摘出手術され、手術後の病理組織診断で肺癌からの転移性甲状腺癌(甲状腺への転移)が疑われたため、免疫組織化学・FISH検査で肺原発ALK陽性大細胞神経内分泌癌と診断された報告があります。術後クリゾチニブ (ALK阻害剤)投与で、残存病変の縮小が認められたそうです。肺大細胞神経内分泌癌の頻度は少ないが、悪性度は高いです。(第60回 日本甲状腺学会 P2-8-1 分子標的剤が奏功した転移性甲状腺癌の一例)

EML4-ALK(ALK融合遺伝子)陽性肺癌からの転移性甲状腺癌(甲状腺への転移)は、先に肺癌が見つかった後にPET-FDGなどで検出される場合もあります。[下の写真、BMJ Case Rep. 2016 Nov 21;2016:bcr2016217541.]

EML4-ALK(ALK融合遺伝子)陽性の肺癌からの転移性甲状腺癌 超音波(エコー)画像
EML4-ALK(ALK融合遺伝子)陽性の肺癌からの転移性甲状腺癌 細胞診

EML4-ALK(ALK融合遺伝子)陽性の肺癌を原発巣とする転移性甲状腺癌 細胞診

悪性中皮腫も甲状腺に遠隔転移

アスベスト被曝

アスベストは1960年代までに製造されたトースター・オーブンレンジ・電気コンロなどに使用されていますが、アスベストが飛び散る可能性があるのは、火鉢とともに販売していた灰に含まれるものです。

アスベスト被曝は造船業などの高濃度職業被曝より、低濃度環境被曝(アスベスト事業所の近隣住民、アスベスト労働者の衣服に付着したアスベストに被曝された家族)の方が発癌性が高いとされます。

アスベスト含有火鉢
アスベスト含有火鉢

胸膜プラーク

アスベスト被曝により壁側胸膜に肥厚(胸膜プラーク)が生じます。胸膜プラーク自体は良性で、悪性中皮腫は胸膜中皮細胞から発生。

胸膜プラーク CT画像(Lung Cancer. 2017 Sep 111 139-142.)

胸膜プラーク CT画像

胸膜中皮腫

悪性中皮腫には胸膜中皮腫(70%)、腹膜中皮腫(20%)、心膜中皮腫があります。

悪性胸膜中皮腫では、胸痛や胸水・無気肺による呼吸困難を自覚する場合があります。

腫瘍マーカーのシフラ(CYFRA)や可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)が上昇。

悪性胸膜中皮腫 CT画像
悪性胸膜中皮腫 CT画像

悪性胸膜中皮腫 CT画像

悪性胸膜中皮腫 CT画像

CT画像では、胸水と無気肺しか見えない場合があります。胸水穿刺で悪性細胞を認める。

同時に、胸水中の

  1. ヒアルロン酸;確定診断にならないが、10 万/mL 以上なら可能性大
  2. シフラ(CYFRA)

が高値。

悪性胸膜中皮腫 PET/CT画像

PET/CT画像で、胸膜に沿った集積あり。悪性胸膜中皮腫が強く疑われる。

確定診断は、

  1. CTガイド下生検;リスクの割には十分な組織が取れない可能性がある
  2. 胸腔鏡下生検;数か所から組織を採取できるため、最適の方法

さらに、生検検体を悪性胸膜中皮腫特有の特殊染色、カルレチニン免疫組織染色すれば陽性に(肺癌との鑑別)。

悪性中皮腫の鑑別は

  1. 結核性胸腹膜炎
  2. 膠原病性(SLE)胸腹膜炎
  3. 胸膜腹膜播種
  4. 特発性腹膜炎
  5. 地中海熱

ペメトレキセド、CDDP(シスプラチン)の抗癌剤投与します。

悪性中皮腫の甲状腺転移

悪性中皮腫のⅣ期には脳、脊柱、甲状腺に遠隔転移します。筆者の経験では、悪性中皮腫の甲状腺転移は、原発巣と同じような粗大な(巨大な)石灰化が見られます。

他の報告では、下記の様に石灰化を伴わない事もあります(Cytojournal. 2014 May 22; 11: 11.)

悪性中皮腫の甲状腺転移 超音波(エコー)画像

悪性中皮腫の甲状腺転移 超音波(エコー)画像

悪性中皮腫の甲状腺転移 超音波(エコー)画像 ドプラー

悪性中皮腫の甲状腺転移 超音波(エコー)画像 ドプラー

悪性中皮腫とハーテル細胞

悪性中皮腫の甲状腺転移の穿刺細胞診。悪性中皮腫とハーテル細胞

悪性中皮腫の甲状腺転移では、他臓器にも多発性転移を認めます(Pathol Res Pract. 1995 Jun;191(5):456-60; discussion 461-2.)。

悪性中皮腫の補助診断・悪性中皮腫の甲状腺転移の補助診断に

可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)

肺CT検査

甲状腺関連の上記以外の検査・治療  長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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