甲状腺濾胞癌(微小浸潤型濾胞癌,広汎浸潤型濾胞癌)診断,細胞診,転移(血行性転移・遠隔転移),治療,手術,予後,生存率[長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
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Summary
甲状腺濾胞癌は濾胞性腫瘍における被膜浸潤・脈管侵襲・甲状腺外転移の一つで診断され、超音波エコー検査や穿刺細胞診での診断難。組織診(コア生検)の診断率は上がるが、手術後の病理標本による治療的診断が主。リンパ節転移は少なく、血行性転移するため遠隔転移が先に見つかる事も。甲状腺濾胞癌の確信がなければ片葉試験切除後、甲状腺補完全摘・アイソトープ治療。広汎浸潤型・低分化成分を多く含む・遠隔転移がある場合は最初から甲状腺全摘術。10年生存率は約80%。微小浸潤型濾胞癌は遠隔転移が少なく予後良。広汎浸潤型濾胞癌は遠隔転移や再発が多く予後不良。
keywords
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甲状腺濾胞癌は甲状腺悪性腫瘍(甲状腺癌)の5~10%を占め、甲状腺乳頭癌に次いで2番目に多い甲状腺癌です。
甲状腺濾胞癌は細胞診による良性濾胞腺腫との鑑別が非常に難しく(同じに見えると言ってよい程)、細胞診で診断するのが非常に困難な甲状腺癌です。
甲状腺濾胞癌は、濾胞性腫瘍でかつ、
の一つを確認する事でのみ診断されます。1.2.は手術標本でしか分からないケースが多いため、手術前に甲状腺濾胞癌を診断するのは極めて困難です。
甲状腺濾胞癌;手術摘出された病理組織標本で初めて
- 被膜浸潤(腫瘍を包む膜に癌細胞が入り込んでくる)
- 脈管侵襲(被膜内外の特に血管に腫瘍細胞が侵入)
が判ります。(写真:バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
しかし、実際の臨床現場では、手術標本の病理組織でも1.2.の所見がはっきりせず、良悪性の鑑別が不可能な事や病理医によって判定が異なる事があります。(第64回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠ E1-3 内科医が知らない甲状腺濾胞癌病理診断の問題点)
例えば、術後病理組織標本で良性濾胞腺腫と診断されても、数年後に穿刺経路再発、局所再発、遠隔転移再発をおこし、「実は甲状腺濾胞癌だった」ということにもなります。
よって、たとえ手術標本で良性濾胞腺腫と診断されても、術後の経過観察は必要です。
甲状腺濾胞癌は周囲への浸潤の程度により
- 微小浸潤型濾胞癌:わずかに被膜に浸潤するもので、遠隔転移が少なく比較的予後が良いとされます。ただし、例外もあり、多発性骨転移する症例も報告されています(内分泌甲状腺外会誌 30(3):221-225,2013)。
- 広汎浸潤型濾胞癌:被膜を破って周囲の組織や血管に広く浸潤し、遠隔転移や再発が多いため、予後不良です。(Ann Surg 14 : 730-738, 2007)
微小浸潤型濾胞癌でも巨大なものは、血管浸潤・遠隔転移します。写真のケースは 4cm以上の微小浸潤型濾胞癌で、切除標本にて血管浸潤を4カ所以上認め、Ki-67 labeling index 7% 高値(>5%)だった(エコーでは内部血流が少なかったのに)。
Ki-67 labeling index >5%は、増殖能が強く予後不良[World J Surg. 2010 Dec;34(12):3015-21.]。
甲状腺濾胞癌と良性濾胞腺腫・腺腫様甲状腺腫(腺腫様結節)を細胞診で鑑別するのは、かなり困難です。しかし診る人が診れば、50%位の確率で甲状腺濾胞癌の可能性を推定できます。(以下の細胞診の所見は、医療関係者以外の方は無視してください。写真のみご覧になり、「こんなものか」と思っていただければ十分です。)
甲状腺濾胞癌の細胞像は
- 細胞数が多く、小濾胞状集塊を形成(構造異型)
- 重積、不整な配列、細胞結合性の低下(構造異型)
- 核径増大[N/C比(核/細胞質比)がやや高い]、核径不整、核の大小不同(細胞異型)
- 核クロマチン顆粒の肥大、充満により核が暗くみえます(細胞異型)
やはり、核異型の強さが最大のポイントになります。構造異型や核異型が濾胞腺腫良悪鑑別困難例と比べて著しいものは甲状腺濾胞癌疑いになります。(写真;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
手術を受けて甲状腺濾胞癌が確定した患者の細胞診所見は、6.9%がベセスダクラスI、16.1%がクラスII、37.0%がクラスIII、29.1%がクラスIV、10.9%がクラスV。複数の穿刺細胞診にもかかわらず、16.7%がベセスダクラスI またはクラスIIだった。組織診(コア生検)では、細胞診と比較してベセスダクラスIVの割合が有意に高くなる。遠隔転移を有する甲状腺濾胞癌患者は、有しない者と比較して、ベセスダクラスIVおよびVの割合が有意に高い。[Clin Endocrinol (Oxf). 2020 May;92(5):468-474.]
細胞診で鑑別可能な甲状腺濾胞癌
細胞診で鑑別可能な甲状腺濾胞癌の具体的な報告例。
超音波(エコー)検査で境界不明瞭、辺縁不整、内部低エコー(ここまでは甲状腺乳頭癌と同じ)、血流の豊富な腫瘤(甲状腺乳頭癌と異なります)。細胞診では、N/C比が大きく(やや大きいでは無い)、核クロマチンが増量し、核小体を有する腫瘍細胞で、異形の強い甲状腺濾胞癌といった感じです。甲状腺乳頭癌とも異なります。あえて言うなら、濾胞型低分化癌に近いかもしれません。
組織診(コア生検)では、濾胞構造、濾胞の融合や索状配列を認め、明らかに甲状腺濾胞癌でした。(第56 回日本甲状腺学会 P1-108 術前に濾胞腺癌と診断しえた一例)
甲状腺乳頭癌に比べ、甲状腺濾胞癌は前述の通り術前診断が困難なため、遠隔転移を来す頻度が高い。また、遠隔転移が先に見つかり、組織診(コア生検)で甲状腺濾胞癌の転移だったことが確定する事もあります。
甲状腺濾胞癌のリンパ節転移(リンパ節に沿って各駅停車の様に転移する)は非常に少なく、血流に乗って遠くまで一気に転移する血行性転移(急行の様なもの)がほとんどです。特に肺転移・骨転移 が大半で、脳転移は稀、肝転移、腎転移などの報告もあります(大抵は単独転移でなく肺転移 骨転移 も伴っています)。
例外的な孤立性肝転移の報告があります(甲状腺濾胞癌、濾胞型甲状腺乳頭癌の孤立性肝転移)。
甲状腺片葉(片方だけ)切除と補完全摘(後で全摘出)
上記のように甲状腺濾胞癌が疑われたら、手術標本で
- 被膜浸潤
- 脈管侵襲・血管浸潤
を証明し、確定診断するしかありません。甲状腺濾胞癌の確信がない場合、片葉(腫瘍がある方の甲状腺半分)試験切除(ただし、左右両葉にまたがる腫瘍は両葉切除)。
甲状腺濾胞癌が確定した後、
- 被膜侵襲のみの微少浸潤型濾胞癌だった場合、45歳未満、腫瘍径<40mm、広範な脈管侵襲・血管浸潤がないケースでは再発率が低いので、追加手術なしにそのまま経過観察します。(日本内分泌外科学会 甲状腺腫瘍診療ガイドライン[Endocr J. 2020 Jul 28;67(7):669-717.])
しかし、以下の場合、
- 55歳以上の微少浸潤型濾胞癌(年齢のカットオフ値は甲状腺癌取扱い規約 第8版による)(下記参照)
- 広汎浸潤型濾胞癌
- insular component(癌細胞が島状に存在)などの低分化成分を多く含む場合(Significance of an insular component in follicular thyroid carcinoma with distant metastasis at initial presentation. Endocr Pathol. 2005 Spring;16(1):41-8.)
- 術後に遠隔転移(肺転移・骨転移・脳転移など)が見つかり、(年齢、全身状態など考慮し)放射性ヨウ素(I-131)内用療法[アイソトープ治療]が可能な状態
には、甲状腺補完全摘(残りの甲状腺も全て切除)を行い、アイソトープ[放射性ヨード(I-131)]を用いた遠隔転移巣の検索(I-131シンチグラフィー)や放射性ヨード(I-131)内用療法[アイソトープ治療]。ただし、放射性ヨード(I-131)内用療法[アイソトープ治療]で甲状腺濾胞癌の予後が改善するというデータは存在しません。
微少浸潤型濾胞癌で年齢のカットオフ値が45歳になる理由
年齢55歳以上、腫瘍径>40mmが微少浸潤型濾胞癌の独立した再発予測因子。45歳未満、45~55歳、55歳以上の10年無再発生存率はそれぞれ97.0%、95.5%、86.4%につき、55歳以上で有意に低く、予後不良となります(Ann Surg Oncol. 2020 Nov 25. doi: 10.1245/s10434-020-09397-3.)。
日本内分泌外科学会 甲状腺腫瘍診療ガイドラインによると、年齢45歳以上、腫瘍径>40mm、広範な脈管侵襲・血管浸潤が微少浸潤型濾胞癌の予後不良因子であるため、甲状腺補完全摘・放射性ヨード(I-131)内用療法[アイソトープ治療]・TSH抑制療法の適応になります[Endocr J. 2020 Jul 28;67(7):669-717.]。
甲状腺全摘出
最初から、
は、甲状腺全摘術後に、放射性ヨード(I-131)内用療法[アイソトープ治療]をおこないます。ただし、アブレーションで甲状腺濾胞癌の予後が改善するというデータは存在しません。
微小浸潤型濾胞癌を甲状腺全摘出すべきか?
微小浸潤型濾胞癌に対して甲状腺補完全摘出すべきか?伊藤病院等の報告では
微小浸潤型濾胞癌を
- 甲状腺補完全摘出しなかった場合、1-9%で遠隔転移がおきる
- 甲状腺補完全摘出後、I-131 アイソトープ治療(放射線内照射)をしなかった場合、1-14%で遠隔転移がおきる
しかしながら、甲状腺補完全摘出後の遠隔転移を伴わない生存期間の延長は、統計的に有意でなかった。
(Ann Surg Oncol. 2014 Sep;21(9):2981-6.)
I-131 アイソトープ療法
「放射線治療無効な甲状腺癌」にネクサバール・レンビマ
「放射線治療無効な甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞型)」にネクサバール・レンビマ
近年、がんゲノム医療が注目され、RET遺伝子変異を持つ 甲状腺乳頭癌・甲状腺低分化癌・甲状腺髄様癌、BRAF 遺伝子変異陽性甲状腺乳頭癌・甲状腺未分化癌に有効な分子標的薬が開発されているものの、甲状腺濾胞癌に対して有効なものは現時点で存在しません。
甲状腺濾胞癌の10年生存率は80%前後で、血行性転移するため肺・骨 への遠隔転移が多い。
- 骨転移すると10年生存率は40%に下がり、かなり悪い(甲状腺濾胞癌骨転移)。
- 遠隔転移した場合における5年後、10年後、15年後の累積原因特異的生存率(CSS)は、それぞれ82.2%、63.8%、23.9%[Endocr J. 2014;61(3):273-9.]
甲状腺濾胞癌の予後は、被膜浸潤と脈管侵襲・血管浸潤に左右されます。被膜浸潤と脈管侵襲・血管浸潤を比較すると、脈管侵襲・血管浸潤の程度が被膜浸潤よりも大きく予後に関与します[Cancer. 2004 Mar 15;100(6):1123-9.]。脈管侵襲・血管浸潤の程度が強いケースは、遠隔転移の頻度が高く予後不良です。
甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)細胞は、わずかながら甲状腺ホルモンを産生します。甲状腺内に留まる程度の甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)の細胞数では、血中甲状腺ホルモン濃度に影響しません(甲状腺ホルモンをバンバン作る甲状腺機能性結節 は別)。
しかし、全身に転移した異常な数の甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)細胞になると、たとえ甲状腺全摘出後で原発巣がなくなっていても、I-131 アブレーション・アジュバント・治療+放射線外照射による細胞破壊で一斉に甲状腺ホルモンが血中に飛び出せば、甲状腺クリーゼを引きおこす位の量になります[Am J Med. 1983 Aug;75(2):353-9.]。しかも、甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)の増殖を抑えるため、過剰気味に甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を補充するTSH抑制療法が裏目に出ます。
報告例は、血清サイログロブリンが11万 ng/mL (<33.7 ng/mL)まで上昇する甲状腺濾胞癌の全身転移で、反復するI-131 治療+放射線外照射により甲状腺クリーゼをおこして死亡したそうです。(第53回 日本甲状腺学会 P-240 多発骨転移に対してRI 内用療法と術中照射治療を反復後に甲状腺クリーゼにより死に至った甲状腺癌の1剖検例)
または、甲状腺濾胞癌の全身転移だけで、すでに甲状腺機能亢進症を起こしている場合があります(もちろん、原発巣は甲状腺機能性結節 ではありません)。この状態では、ヨード造影剤を使用しただけで、Jod-Basedow現象による甲状腺クリーゼを引きおこします。[Cureus. 2021 Mar 31;13(3):e14219.]
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- 甲状腺編
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区,天王寺区も近く。








