バセドウ病の突然死・ 運動制限 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 動脈硬化 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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バセドウ病で長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方への注意
バセドウ病の治療開始(再開)後は頻回の副作用チェックが必要なため①大阪市と隣接市の方に限定②来院できず薬を自己中断する方をお受けできません。
Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の突然死は喫煙者/男性/治療を自己中止・服薬不規則に多い。剖検しなければ死因が解らないが急性心筋梗塞、致死性不整脈、脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血と考えられる。致死性不整脈の心室細動(Vf)で突然死(心肺停止)するのは中年男性、喫煙者、甲状腺ホルモン値は様々。ベータブロッカー多量投与、腎機能異常での腎排泄型のベータブロッカー投与、強力なベラパミル(ワソラン®)併用でも心停止の危険。メトプロロール(セロケン®)は肝排泄で腎不全でも可。甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う拡張型心筋症は、代謝性2次性心筋症で突然死の危険。
Keywords
甲状腺機能亢進症,バセドウ病,突然死,喫煙,ベータブロッカー,拡張型心筋症,心停止,心室細動,甲状腺,不整脈
大規模な追跡調査として知られる ロッテルダム研究では、甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者における突然死の危険率は健常人より高いとされます(調整ハザード比3.9倍)[Br J Clin Pharmacol. 2009 Sep;68(3):447-54.]。
男性バセドウ病患者で、甲状腺ホルモン(FT4)高値は心電図のQTc間隔延長と関連しています。QTc間隔延長は心臓突然死の危険因子です。[J Endocrinol. 2008 Jul;198(1):253-60.]
バセドウ病の突然死は、数年に1回、どこかの施設が日本甲状腺学会で報告されています。九州大学の報告では、
- 喫煙者
- 男性
- 治療を自己中止した、あるいは服薬が不規則
などの条件で起こり易い。剖検(死因を究明するための解剖)が行われていないため、死因が解らないのが残念です(普通に考えれば、急性心筋梗塞か致死性不整脈、脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血でしょうね)。該当する甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者さんは、くれぐれも御注意ください!(第56回日本甲状腺学会 P2-001 バセドウ病における突然死)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、心臓の病気による突然死、
脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血による突然死
の危険があります。
恐ろしいのは、極軽度の潜在性甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う心房細動(Af)でも突然死が報告されている事実です[J Electrocardiol. 2008 Nov-Dec;41(6):659-61.]。
原因不明の突然死には、生前、発見されなかった甲状腺機能亢進症/バセドウ病が含まれている可能性があります。
例えば、生来健康・健診でも異常を指摘された事は無く、ジョギング中に心肺停止となった場合。そのまま死亡すれば、事件性が無い限り、検視で「病死」「心不全」と片付けられ、突然死の原因が究明される事はありません。
東京女子医科大学八千代医療センターの報告によると、心室細動(Vf)・心肺停止を救命したことによって、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因であるのを特定できたそうです。ジョギング中に心肺停止を来し、バイスタンダー(周囲の人)による心肺蘇生と救急隊による自動体外式除細動器(AED)での除細動が行われた後に救急搬送される。ここで死亡していれば、原因となる甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発見される事は無かったでしょう。(第60回 日本甲状腺学会 P2-1-1 心室細動と冠攣縮性狭心症を合併したバセドウ病の一例)
オーストラリアの報告は、原因不明の上室性頻脈と急性肺水腫を発症し、治療にもかかわらず死亡した43歳女性のケース。病理解剖の結果、甲状腺組織は典型的なバセドウ病だったそうです[Forensic Sci Med Pathol. 2014 Sep;10(3):452-6.]。
法医学ドラマのような報告は、夫婦げんかで殴り合いの最中に倒れ、救急搬送後に死亡した30歳女性のケース。司法解剖の結果、目立った外傷・内臓損傷は無く、異常所見はバセドウ病の甲状腺と左室肥大した心臓のみでした。当然、容疑者の夫は無罪になりました。[J Forensic Sci. 2013 Sep;58(5):1374-7.]
はっきりとした突然死(心肺停止)原因の一つは、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併する最も危険な不整脈、心室細動(Vf)です。
報告では、
- 40歳代の男性が多い
- 喫煙者(20-40本/日)(Thyroid. 2011 Sep;21(9):1021-5.)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病以外で、心室細動(Vf)をおこす器質的疾患(冠動脈疾患、心筋症、心サルコイドーシス、ブルガダ症候群など)無し
- 甲状腺ホルモン値は、FT3 3.09~12.73 pg/mL と様々
- 心室細動(Vf)による心肺停止後、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が見つかる
- 報告された3例の内、一人死亡、一人低酸素脳症の後遺症(埋め込み型除細動器で再発防止)、一人無事救命(埋め込み型除細動器で再発防止)で、運が良ければ救命できる事もあります
(第53回 日本甲状腺学会 O-4-2 バセドウ病に特発性心室細動の合併を認めた3症例)
救命できた患者は、甲状腺機能が正常化した後、心室細動(Vf)の再発はなかった(Thyroid. 2011 Sep;21(9):1021-5.)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者の動悸(ただし心拍数116 拍/分程度の大した事のない洞性頻脈)に、多量のベータブロッカー[プロプラノロール 300mg/日(最大使用量は120mg/日)]と強力なベラパミル(ワソラン®)160mg/日(最大使用量は240mg/日)を併用使用し、心停止した症例が報告されています。当然、心不全から呼吸困難になり、救急搬送され、診察中に洞停止(心停止)起こし、テンポラリーペースメーカーを挿入し一命は取り留めたそうです。(第5▲回日本甲状腺学会 P2-x▲〇 バセドウ病に洞停止を〇併しxxxxxxxxを挿▲した■例)
しかし、救急搬送が間に合わなければ救命困難で、誰にも発見されねば突然死と片付けられていたであろう症例です。ちなみに、洞性頻脈含め、頻脈性不整脈のプロプラノロール 最大使用量は90mg/日、本態性高血圧には最大使用量120mg/日です(そりゃ心停止起こすわな・・・)。
ベータブロッカーは腎排泄型が多いので、腎障害・腎不全のある甲状腺機能亢進症/バセドウ病に投与する時は要注意です。腎から排泄されず体内で過剰になったベータブロッカーは、心停止を起こす危険性があります。メトプロロール(セロケン®)は肝排泄型なので、腎障害・腎不全の方にも安全に使用できます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う拡張型心筋症は、代謝性2次性心筋症です。原因不明の特発性拡張型心筋症と異なります。しかし、突然死がありうる点は共通です。(第56回 日本甲状腺学会P2-014 拡張型心筋症様の所見を呈し死亡した甲状腺クリーゼの一例)(代謝性心筋症)
タイでは、コントロール不良の甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者(20歳の女性)が、代謝性2次性心筋症で突然死した報告があります。
心臓震盪(しんぞうしんとう)は、サッカーボールがゴールキーパーの胸を直撃するなど、心臓に巨大な力が瞬間的に加わると、心臓がケイレン(心室細動;Vf)をおこし心肺停止(突然死)する病態です。スポーツ中の胸部打撲は、ラグビー・アメフト・相撲・野球など原因は様々です。心臓に持病が無い健康な若者ても心臓震盪(しんぞうしんとう)は起こります。まして、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で甲状腺ホルモンが正常化していない状態なら、心臓震盪(しんぞうしんとう)が起きやすいのは当然でしょう。
心臓震盪(しんぞうしんとう)は心肺蘇生術と体外式自動除細動器(AED)使用による早期除細動により救命可能です()。
(画像 SalvaVidas Projectより)
心臓震盪(しんぞうしんとう)でなく縦隔気腫
サッカーボールが胸を直撃した場合、肺胞が破裂し、肺間質へ侵入した空気が縦隔へ移動→縦隔気腫→皮下気腫を起こす場合もあります。頸部の違和感が主訴になるため、甲状腺の病気と勘違いすることもあります。肉眼上、頸部皮膚に異常がないものの、独特の握雪感を認め皮下気腫の存在がわかります。呼吸音に異常を認めません。胸部単純CTで縦隔気腫の診断を確定。
縦隔気腫の治療は
- 入院安静で自然軽快する場合が多い
- 血胸、気胸があれば胸腔ドレナージ
- 緊張性縦隔気腫で心臓・血管・肺を圧迫すれば縦隔ドレナージ
トライアスロンのような極限の運動でないまでも、マラソン等の強度の高い運動は心肺停止のリスクがあります。
マラソン王国、アメリカにおけるマラソン中の心肺停止は、ランナー10万人あたり0.54人で、特に男性、フルマラソン出場者に多く、71%は死亡するとされます。
毎年、4万人が参加する東京マラソンでも心肺停止をおこす人が、何年に一度か現れます。
当然、元々冠状動脈硬化による狭心症(狭心症予備軍)、不整脈(自分で気付かない場合も含め)、心筋症などを持っている人では心肺停止が起こりやすくなります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で特に甲状腺ホルモンが正常化していない人は言うに及ばず、甲状腺機能低下症/橋本病で動脈硬化が進んでいる人もマラソンは避けた方が良いと思います。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では上記の如く、心臓系に重篤な(致死的な)障害が起こる危険があるため、心臓に過剰な負担が掛かるのを避けねばなりません。
最も心臓に負荷が掛かるのは運動・ストレスです。ストレスは、仕事・学校がある以上、避けるのは非常に難しいです。しかし、運動制限は、医師の診断書と、会社・学校など周囲の協力があれば可能です。
厚生労働省の「人口100人でみた日本」(令和4年度版)によると、習慣的に運動している人は20歳以上の28.7人です。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の人は、それが突然死の原因になる場合があります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の生活指導に明確な指標はありませんが、せめて治療により甲状腺機能が正常化するまで、運動制限は必要です。
具体的には、職場・学校まで(常識的な距離を)歩くのは仕方ないですが、ウォーキングなどの軽い運動も控えねばなりません。入浴は約90kcalのエネルギーを燃焼する運動に匹敵するので、長時間の入浴は避けねばなりません。
小児バセドウ病の運動制限
日本小児内分泌学会による「小児期発症バセドウ病診療のガイドライン 2016」 では、 体育の授業や運動部活動について、エビデンスは無いが、「甲状腺機能が正常化するまでは体育の授業や運動部の活動は控えるよう指導します。」 となっています。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。