遺伝性大腸ポリープ/大腸癌と甲状腺癌②コーデン症候群(Cowden症候群),ポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)[長崎甲状腺クリニック]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年10月以降に開催される日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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遺伝性に大腸ポリープ/大腸がんが多発する病気[家族性腺腫性ポリポーシス、ガードナー症候群、コーデン(Cowden)病]と甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌の関連が知られています。
近親者・御自分が大腸ポリープ/大腸がんの方は、甲状腺超音波(エコー)検査が必要です。
また、近親者・御自分が甲状腺癌なら、大腸検査が必要です。
(本ページ)
遺伝性大腸ポリープ/大腸癌と甲状腺癌①篩(ふるい)型[モルラ(渦巻き)型]甲状腺乳頭癌、家族性腺腫性ポリポーシス
Summary
コーデン(カウデン,Cowden)症候群は常染色体優性遺伝性のPTEN遺伝子変異によるPTEN過誤腫症候群。73-80%に甲状腺腫瘍が発生し、全ての甲状腺細胞にPTEN遺伝子変異があるため甲状腺全摘出①甲状腺良性結節(腺腫様甲状腺腫・良性濾胞腺腫)70%②甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)3-10%。ポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)も常染色体性優性遺伝性で、合併する甲状腺分化癌は通常型と比べて悪性度高い。遺伝性非ポリポーシス大腸がんで甲状腺癌の合併あり。鋸歯状ポリポージス症候群は甲状腺乳頭癌と同じBRAF変異。
Keywords
コーデン症候群,Cowden症候群,PTEN遺伝子変異,過誤腫,甲状腺腫瘍,腺腫様甲状腺腫,甲状腺乳頭癌,甲状腺濾胞癌,ポイツ・ジェガーズ症候群,Peutz-Jeghers症候群
コーデン(カウデン,Cowden)症候群:常染色体優性遺伝性に、腫瘍抑制遺伝子のPTEN遺伝子変異から過誤腫(過形成・良性腫瘍)・癌腫が空間的・時間的に(様々な場所に、時間をおいて)多発する病気です(PTEN過誤腫症候群)。コーデン(カウデン,Cowden)症候群の約30%に悪性疾患が発生します[Clinical Oncology. 1998;44:1024–1032.]。
具体的には、
- 大腸ポリープ
- 小腸ポリープ[Case Rep Gastrointest Med. 2015;2015:475705.]
- 顔面多発丘疹、Cowden 皮疹、四肢の角化性皮疹、多発性毛根腫、口腔内乳頭腫症を多発
- 73-80%に甲状腺腫瘍(下記)
- 副甲状腺腫(稀)
- 副腎過形成
- 乳癌 25~50%、70歳の累積リスクは>50%
- 子宮内膜癌(子宮体がん) 5~10%、子宮筋腫・子宮内膜ポリープ
- 卵巣癌(わずか)(Int J Gynecol Cancer. 2002 Jul-Aug;12(4):337-47.)、粘液性卵巣嚢胞腺腫
- 脳動静脈奇形(AVM)(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2016 Jun;25(6):e93-4.)
- 脊椎血管腫[J Neurosurg. 2007 Oct;107(4 Suppl):307-13.]
- 自己免疫疾患の合併;橋本病(慢性甲状腺炎)[Gastroenterology. 2012 May;142(5):1093-1096.e6.]
[J Anus Rectum Colon. 2023 Oct 25;7(4):284-300.]
コーデン(カウデン,Cowden)症候群の甲状腺腫瘍
コーデン(カウデン,Cowden)症候群の73-80%に甲状腺腫瘍が発生。
- 甲状腺良性結節(腺腫様甲状腺腫・良性濾胞腺腫)70%
- 甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)3-10%、※20%との報告も[Eur Thyroid J. 2020 Sep;9(5):243-246.]
- 機能性結節[Pediatr Int. 2017 Nov;59(11):1223-1224.]
腺腫様甲状腺腫・良性濾胞腺腫
コーデン(Cowden)症候群による腺腫様甲状腺腫を認めた場合、甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)が発生する、あるいは既に合併している可能性があるため、甲状腺全摘出します。多発する腺腫様結節のいずれが、どの部分が癌化しているか事前に同定するのは困難で、しかも全ての甲状腺細胞がPTEN遺伝子変異を持っている限り、いつか、どれかが癌化する危険があります。
甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)
コーデン(カウデン,Cowden)症候群の甲状腺癌は、若年発症・遺伝性で、残存甲状腺も癌化する危険が高いため、甲状腺全摘術が推奨されます。
- 20歳未満のコーデン(カウデン,Cowden)症候群患者における甲状腺癌発生率は5%[J Anus Rectum Colon. 2023 Oct 25;7(4):284-300.]
- 甲状腺微小乳頭癌の合併を認めた10歳の男児症例もあります。(第56回 日本甲状腺学会 O2-6 PTEN 遺伝子に異常を認めたCowden 症候群に対して甲状腺全摘を施行した小児症例)
- 小児甲状腺濾胞癌の合併[Thyroid. 2020 Aug;30(8):1120-1131.]

ポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)は、常染色体性優性遺伝による癌抑制遺伝子Liver Kinase B1 (LKB1 or STK11)の機能喪失型変異が原因です。
- 口唇・口腔・眼瞼・頬・四肢末端皮膚の色素沈着は、幼少期より出現し、成人で自然消失
口腔の色素沈着は自己免疫性副腎皮質炎(アジソン病)と鑑別
- 小腸ポリポーシス(過誤腫ポリープ);1~3cmのポリープが小腸(特に空腸)に多発。有茎性・分葉状が多く、高頻度に再燃性腸閉塞・腸重積。慢性的な腸出血(下血)
- 悪性腫瘍の合併(50歳までに30%、70歳までに80%)
消化器癌が最多(60%);食道、胃、小腸、大腸、膵臓
女性は乳癌(40-50%)、性索腫瘍、卵巣癌、子宮頸癌
男性は石灰型精巣セルトリ細胞腫(エストロゲン分泌するため女性化乳房に)
甲状腺癌(Thyroid. 2011 Nov;21(11):1273-7.)
(Ann Inter Med 1998;128:896―899)(日本大腸肛門病会誌 2006;59;520)
甲状腺癌の合併
ポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)に合併する甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)は、通常のものと比べて悪性度が高いとされます(Exp Clin Endocrinol Diabetes. 2009 May;117(5):234-9.)。
生後16ヶ月の子供に発症したポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)では、副腎皮質癌と甲状腺癌を同時に合併(J Pediatr Surg. 2011 Mar;46(3):570-3.)。
ポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)のLiver Kinase B1 (LKB1) 遺伝子変異を、同時発見された甲状腺乳頭癌の組織標本には認められず。偶然合併した可能性もあります(Thyroid. 2011 Nov;21(11):1273-7.)。
甲状腺乳頭癌の肺転移と子宮頸部腺癌を合併したポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)が報告されています。消化器癌は発生しなかった様です。(日臨外会誌 70(9) ,2902―2905,2009)
「胃癌および甲状腺癌を合併したpeutz-jeghers症候群の1剖検例」(第93 回日本病理学会総会)
(第55回 日本甲状腺学会 P2-04-01 Peutz-Jegers 型大腸ポリープおよび直腸癌を重複した甲状腺癌の一症例)
などの報告があるものの、甲状腺との遺伝子的な関係は証明されていません。
ポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)でポリープ再発するたびに、低栄養・サルコペニア・低T3低T4症候群とポリープ摘出術による改善を繰り返した報告があります。「栄養状態並びに甲状腺機能を16年間観察したPeutz-Jeghers症候群の1例」(日本臨床外科学会雑誌 Vol. 76 (2015) No. 5 p. 1053-1058):ポリープの再発に伴い低栄養,サルコペニア,低T3低T4症候群をきたし、ポリープ摘出術で改善する病態を繰り返すそうです。
遺伝性非ポリポーシス大腸がん(Hereditary non-polyposis colorectal cancer、リンチ症候群)は全大腸がんの数パーセントを占め、原因はミスマッチ修復遺伝子(MLH1遺伝子)異常です。
子宮内膜がん(子宮体癌)、卵巣がん、胃がん、小腸がん、甲状腺乳頭癌、甲状腺低分化がん、甲状腺未分化がんの合併があります。(Biomed Pharmacother. 2015 Aug;74:9-16.)
乳癌の合併も、もちろんあります(Ital J Gastroenterol Hepatol. 1999 Aug-Sep;31(6):476-80.)。
- Sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P);無茎性鋸歯状腺腫/ポリープ
右側結腸に好発、大部分に甲状腺乳頭癌と同じくBRAF変異。背景粘膜と同色調またはやや褪色調で、見落としやすいが粘液付着目印。Narrow band imaging(狭帯域光観察)では、腺腫と異なり、血管豊富なbrownish area(褪色領域)を認めない。 - 古典的鋸歯状腺腫
- 過形成性ポリー プ
を認めます。
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- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。