出産/授乳と甲状腺機能亢進症/バセドウ病再発・増悪[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
(お連れの子供も含めて)マスクをしてない方は、当院に入れません。
2歳未満の乳幼児の同伴はご遠慮ください。2歳未満の乳幼児は窒息の危険のためマスクをおすすめできません。しかし、乳幼児がコロナに感染していれば、周囲の患者さん全員に感染の危険が及びます。(自主的にマスクをしていただいている乳幼児の入室は問題ありません)(参考)
授乳中にバセドウ病が再発すると、増量された抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)やヨウ化カリウムが母乳中に出て、乳児にも影響が及ぶ可能性があります。小児科と内分泌科の両方ある総合病院を受診ください。長崎甲状腺クリニック 大阪は小児科でないため、乳児まで責任を持てません。
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会学術集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください。
妊娠・出産の基礎的な内容は妊娠/出産/授乳と甲状腺 を御覧ください
Summary
出産後に女性ホルモンが急激に低下するとリバウンドでバセドウ病の活動性が高まり増悪・再発。バセドウ病抗体TRAbは再上昇。抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の再開、増量、ヨウ化カリウム(KI)投与が必要。出産後にPTU(プロパジール、チウラジール)肝障害が現れる事も。KIは断乳必要。メルカゾールは一日2錠まで、PTUは一日6錠まで授乳に問題なし。メルカゾール1回3錠以上でも服薬後6~8時間あければ授乳に問題なし。搾乳も有効。補助薬は授乳L2指定ベータブロッカーのメトプロロール、αβブロッカーのラベタロール、授乳L1指定のロラタジン。
Keywords
出産後,バセドウ病,再発,TRAb,プロパジール,チウラジール,肝障害,授乳,搾乳,メルカゾール
出産後バセドウ病再発とは
出産後にバセドウ病が悪化します。妊娠中は胎盤で産生される女性ホルモンの免疫抑制作用[免疫寛容(母体と半分だけ遺伝子が異なる胎児を攻撃しないための免疫抑制)]で、バセドウ病の活動性が沈静化しますが、出産後に女性ホルモンが急激に低下すると反動(リバウンド)でバセドウ病増悪・再発します。出産後リバウンドバセドウ病は病勢が強くなるので、先手を打って抗甲状腺薬の再開、増量が必要です。
バセドウ病抗体TRAbは妊娠中減少し、出産後にバセドウ病増悪・再発した後、遅れて再上昇します。[J Clin Endocrinol Metab. 1987 Aug;65(2):324-30.][Taiwan Yi Xue Hui Za Zhi. 1987 Feb;86(2):171-7.][Rinsho Byori. 1988 Apr;36(4):455-8.]
筆者の経験では、出産後バセドウ病再発(出産後リバウンドバセドウ病)は、強烈な再発になる場合が多い。特に妊娠中に抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)を完全に中止できなかった人に多く、出産後すぐに、妊娠前の量へ戻すよう心掛けています。
同時に、強烈な再発では、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)を授乳が難しい量まで増量するため、最初から、必ず人工乳を混ぜるよう指示しています。
中には、いくら説明しても、母乳単独の授乳を譲らない方もおられますが、長崎甲状腺クリニック(大阪)では治療に責任が持てないため、他医に転院を勧めます。
妊娠及び出産後のTRAbの変動(バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
出産後バセドウ病再発の時期
出産後バセドウ病再発(出産後リバウンドバセドウ病)あるいは出産後バセドウ病初回発症は、出産後6 ヶ月くらいに多い(活動性が高いバセドウ病は出産後1 ヶ月経たずに発症・再発しますが・・)。細胞障害性T細胞は出産後1-3 ヶ月で、バセドウ病抗体産生を担うB細胞は遅れて出産後6-9 ヶ月でピークになるためです。[J Clin Endocrinol Metab. 1980 Dec;51(6):1454-8.][Clin Endocrinol (Oxf). 2002 Oct;57(4):467-71.][Thyroid. 1999 Jul;9(7):705-13.]
出産後バセドウ病再発の頻度
出産後バセドウ病再発の頻度は、
- 妊娠時寛解状態[抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)なしでも甲状腺ホルモン正常を維持している]なら、約0.7%は妊娠中再発、約12%は出産後再発
- 妊娠時に抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)服薬中なら、約50%は出産までに投薬中止できたが、その約46%は産後再発
(第62回 日本甲状腺学会 O6-1 Basedow病合併妊娠における出産前後の病態推移の検討)
筆者の考えですが、
- 妊娠時すでに抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)が中止されていた人は、再発を警戒するしかありません。ただし、出産後再発した時の抗甲状腺薬再投薬・ヨウ化カリウム(KI)使用に備えて、混合乳にしておく。
- 妊娠時に抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)服薬中の人は、妊娠中に中止すると出産後再発の危険が高いため、効き過ぎて甲状腺機能低下症にならぬよう減量して、わずかでも服薬続けた方が良いと考えます。
但し、メルカゾールの場合、メルカゾール胎児奇形 のため妊娠14週まで無機ヨウ素(KI)、またはプロパジールに変更する必要がある
出産後バセドウ病再発を予測
院長が、大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で行った研究では、出産後バセドウ病が再発する時は、甲状腺へ流入する下甲状腺動脈の収縮期最大血流速度(ITA-PSV)がまず最初に上昇し、続けて甲状腺ホルモンが上昇。バセドウ病抗体のTSHレセプター抗体(TSH Receptor Antibody:TRAb)上昇は、再発した後になります。
下甲状腺動脈の収縮期最大血流速度(ITA-PSV)は、出産後再発の一か月前に上昇する事が多いです。
院長の論文
-
Thyroid blood flow as a useful predictor of relapse of Graves' disease after normal delivery in patients with Graves' disease.(Biomedicine & Pharmacotherapy)
下甲状腺動脈の血流測定により、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の出産後再発を、再発する一か月前に予測可能な事を世界で初めて証明。
出産後バセドウ病再発の診断におけるアイソトープ検査[99mTc(テクネチウム)シンチグラフィー]
出産後バセドウ病再発か、出産後無痛性甲状腺炎か診断が付かない時の最終手段はアイソトープ検査[99mTc(テクネチウム)シンチグラフィー)]です。
99mTcの半減期は6.01時間、テクネシンチ®注の添付文書には、「授乳中の婦人は投与後少なくとも3日間は授乳しない方が良いとの報告がある(J Nucl Med. 1971 Apr;12(4):188.)。」と記載されています。
妊娠出産が誘因となって、TSAb(TSHレセプター抗体[刺激型]、甲状腺刺激抗体)とTSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体)の比率が、めまぐるしく数カ月単位で変化し、甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症を繰り返す症例が報告されています。[Thyroid. 1992 Spring;2(1):27-30.]
出産後再発せずに、TSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体)の比率が高くなり、甲状腺機能低下症になる場合もあります。
(第53回 日本甲状腺学会 P-143 出産後に甲状腺機能低下症を認めたバセドウ病の一例)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に投与する抗甲状腺薬PTU(プロパジール、チウラジール)肝障害が、出産後に現れる事があります。PTU(プロパジール、チウラジール)肝障害は、いつおこっても不思議でないが、出産後の急激なホルモンバランスの変化が原因となる可能性があります。(第58回 日本甲状腺学会 P1-12-4 出産後に甲状腺機能亢進の悪化と肝障害を来したPTU投与中バセドウ病合併妊娠の1例)
出産後は免疫寛容が解除されて、慢性HBV感染症妊婦は出産後肝炎を発症するため、鑑別を要します[Front Immunol. 2023 Jan 4;13:1112234.]。
産褥期(産後6~8週間以内)は、凝固系が亢進し、線溶系が抑制されるため、肺血栓塞栓症・大動脈解離・可逆性脳血管収縮症候群(RCVS:Reversible cerebral vasoconstriction syndrome)など血管障害のリスクが高くなります。
甲状腺ホルモン値が正常化していないバセドウ病/甲状腺機能亢進症は、ただでさへ血栓できやすい危険な状態のため(バセドウ病/甲状腺機能亢進症で血栓できやすい?)、産後は特に注意を要します。
授乳中にバセドウ病が再発すると、増量された抗甲状腺薬が母乳中へ出て、乳児にも影響を及ぼす可能性があります。小児科と内分泌科の両方ある総合病院を受診ください。長崎甲状腺クリニック 大阪は小児科でないため、乳児まで責任を持てません。
- 授乳中の抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)
- 授乳中の甲状腺機能亢進症/バセドウ病の補助薬
抗アレルギー剤
β(ベータ)ブロッカー
ヨウ化カリウム(KI)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に投与する抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)のうち、
- PTU(プロパジール、チウラジール)の乳汁移行はMMI(メルカゾール)の約1/10と低い
- メルカゾールなら一日2錠まで、プロパジール、チウラジールなら1日6錠まで問題ありません
※ただし、出産後発症あるいは出産後再発のバセドウ病は激烈なケースが多く、その程度の抗甲状腺薬では歯が立たないことが頻繁にあります。
KI(ヨウ化カリウム)を併用せざる得ない場合が多く、母乳中にI (ヨウ素)が移行するため、その時は断乳になります。
- 抗甲状腺薬を服用後、4-6時間以上経過すると母乳中の濃度はかなり低くなります。メルカゾールを1日3-4錠、、PTU(プロパジール、チウラジール)1日6-9錠飲む場合も、服薬後4-6時間あければ授乳に問題ありません(バセドウ病治療ガイドライン 2019)。
また、搾乳した母乳を保存するのも有効な方法です(当然、保存限界期間は守るべし。)
しかし、PTU(プロパジール、チウラジール)一日6-9錠は、朝夕2日に分けて投与せざる得ないため、服薬後4-6時間あけての授乳・搾乳は、かなり厳しいです。
※ただし、出産後発症あるいは出産後再発のバセドウ病は激烈なケースが多く、その程度の抗甲状腺薬では歯が立たないことが頻繁にあります。
KI(ヨウ化カリウム)を併用せざる得ない場合が多く、母乳中にI (ヨウ素)が移行するため、その時は断乳になります。
- バセドウ病治療ガイドライン 2019では、
①メルカゾール1日3-4錠、PTU(プロパジール、チウラジール)1日6-9錠で、服薬後4-6時間あけれず授乳する場合、児の甲状腺ホルモンをチェックもする
②メルカゾール1日5錠、PTU(プロパジール、チウラジール)1日10錠以上の授乳は、児の甲状腺ホルモンをチェックもする
大阪母子医療センターでは、メルカゾール一日6錠まで授乳可で、一日4錠以上は、母乳終了まで児の甲状腺ホルモンをチェックもするそうです。
現実問題として、
①新生児-乳児の甲状腺ホルモンをチェックは、母子ともに診れる母子医療センターのような施設でなければ不可能です[長崎甲状腺クリニック(大阪)では無理です]。
②授乳が終わるまで、頻回に(月1回程度でも)採血して新生児-乳児の甲状腺ホルモンをチェックするのは、母子ともに大変です。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病女性の授乳は、問題山積です。このような事態になるのを避けるため、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、妊娠前・妊娠中のバセドウ病女性に、
「出産後バセドウ病(再発)は強烈です。メルカゾール、プロパジール/チウラジールをかなり増量して、ヨウ化カリウム(KI)も使用するため、授乳できなくなります。完全母乳にすると断乳できないため、必ず人工乳も併用した混合乳にして下さい」
と再三、再四、指導しています。(完全母乳にすると、児が哺乳瓶や人工乳を拒否して断乳できない。)。
過去に一例だけ、一日2錠のメルカゾール(5)錠服薬で、授乳中の児に全身発赤が出た症例が報告されています。ただし、メルカゾールとの因果関係は不明で、偶然時期が重なっただけかもしれません。(第53回 日本甲状腺学会 P-99 母親の methimazole 内服が原因と思われる授乳後乳児皮疹の一例)
授乳中の甲状腺機能亢進症/バセドウ病の補助薬
アレルギー性鼻咽頭炎、アレルギー性結膜炎(花粉症)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性を上げます。アレルギー体質の人が授乳中に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を発症・再発・増悪すれば、抗アレルギー剤も必要になります。乳汁に移行しない授乳L1の指定がある唯一の抗アレルギー剤、クラリチン®(ロラタジン)を使用します。
授乳L1:最も安全(safest)。多くの授乳婦が使用するが、児への有害報告なし。対照試験でも児に対するリスクは示されず、乳児に害を与える可能性はほとんどない。又は、経口摂取しても吸収されない。
(ベータ)ブロッカーは本来、高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症の薬です。甲状腺ホルモンが正常化していないバセドウ病/甲状腺機能亢進症の状態では、高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症が起こりやすく、致死性不整脈、急性心不全、狭心症/心筋梗塞、たこつぼ型心筋症による突然死や命にかかわる甲状腺クリーゼを防ぐ目的で使用されます。
残念ながら、授乳L1指定のβ(ベータ)ブロッカーは存在しません。ただし、授乳L2指定のセロケン®(メトプロロール酒石酸塩)か、ラベタロール(αβブロッカー)を使用します。
授乳L2:比較的安全(safer)。少数例の研究に限られるが、乳児への有害報告なし。リスクの可能性がある根拠はほとんどない。
母体内の無機ヨード(ヨウ素)は乳腺上皮細胞のナトリウム・ヨードシンポーター(NIS)によって濃縮され、数十%が乳汁に移行し、乳児の口に入ります(J Endocr Soc. 2017 Oct 1; 1(10):1293-1300.)。
母乳育児中の母親における過剰なヨウ素含有食品(例:海藻スープ)摂取ですら、乳児一過性甲状腺機能低下症を引き起こします。[J Paediatr Child Health. 2011 Oct;47(10):750-2.][J Clin Endocrinol Metab. 2009 Nov;94(11):4444-7.]
授乳中はなるべく無機ヨード(ヨウ素)治療を避けることが望ましい。ヨウ化カリウム(KI)は乳汁中に分泌され、乳児の甲状腺を抑制して潜在性甲状腺機能低下症に至るため、可能な限り避けることが推奨されます。(バセドウ病治療ガイドライン 2019)
田尻クリニックによると、ヨウ化カリウム(KI) 50mg(4-100mg)/日を服用している授乳中のバセドウ病女性では、母乳中に大量のヨード(ヨウ素)が分泌されており、児にも母乳を介して大量のヨード(ヨウ素)が移行します。結果、児の甲状腺機能は100人中の88人で正常、12例で潜在性甲状腺機能低下症[全血TSH ≧10 μIU/mL(生後6か月未満)、≧5.0 μIU/mL(生後6か月以上)]がみられたそうです。
3人の母親がヨウ化カリウム(KI)を中止し、2ヶ月以内に乳児のTSHは正常化。4人の母親が継続、3人が減量し、いずれも乳児のTSHは正常化(2人が不明)。中止せずに甲状腺機能が正常化した乳児は、エスケープ現象によりヨウ化カリウム(KI)が効かなくなった可能性があります。
[J Endocr Soc. 2017 Sep 19;1(10):1293-1300.](J Endocr Soc. 2020 Nov 29;5(2):bvaa187.)(第56回 日本甲状腺学会 P2-056 ヨウ化カリウムを服用しているバセドウ病授乳婦の母乳中ヨード濃度と乳児甲状腺機能の関係)
田尻クリニックの前年度報告では、乳児に潜在性甲状腺機能低下症がおこるのはヨウ化カリウム(KI)投与後1-2カ月。特に、ヨウ化カリウム(KI)内服量と、児のTSHに相関なしとの事です。(第55回 日本甲状腺学会 O-09-01 バセドウ病授乳婦のKI内服による乳幼児甲状腺機能への影響)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。