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心房細動(Af)治療と甲状腺[抗不整脈薬,ベータブロッカー,除細動,抗凝固剤,DOAC,リバーロキサバン(イグザレルト)・アピキサバン,ダビガトラン]

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。心房細動(Af)自体の診療を行っておりません。

甲状腺:専門の検査治療/知見 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

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甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)除細動後の再発率

表;甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)除細動後の再発率(バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)

長崎甲状腺クリニック(大阪)では、初診の方に心電図も録らせていただきますので、足首の出る服装でお越しください。

院長の執筆

ワンポイントアドバイス:見逃されやすい甲状腺疾患2 心血管系の異常---甲状腺機能亢進症編、見逃されやすい甲状腺疾患3 心血管系の異常---甲状腺機能低下症編 (文光堂 メディカルプラクティス)

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甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)治療

Summary

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)治療はベータブロッカーで内因性交感神経刺激作用(ISA)のないビソプロロール(メインテート®)、メトプロロール(セロケン®)、アテノロール(テノーミン®)。気管支喘息・COPDがあれば心抑制型カルシウム(Ca)拮抗薬ヘルベッサー®(ジルチアゼム)。甲状腺ホルモン正常化後3~4ヶ月しても心房細動(Af)が持続すれば電気的除細動治療。心原性脳塞栓(心原性脳梗塞)予防に抗凝固剤ワーファリン、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)リバーロキサバン(イグザレルト®)・アピキサバン(エリキュース®)・ダビガトラン(プラザキサ®)。

Keywords

甲状腺機能亢進症,バセドウ病,心房細動,治療,ベータブロッカー,ビソプロロール,ジルチアゼム,ワーファリン,抗凝固薬,リバーロキサバン

心房細動(Af)の治療は、

  1. 心房細動(Af)のまま、脈拍数を下げるレートコントロール治療
  2. 心房細動(Af)を完全に消して洞調律にするリズムコントロール治療

があります。予後に差がないためレートコントロール治療が主流です。

抗不整脈薬/除細動

抗不整脈薬

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)治療に抗不整脈薬を用います。特に、以下の腎排泄型は、高齢者・腎機能低下患者で効き過ぎに注意。心拍数が下がり過ぎ(50回/分以下)て心不全を引きおこす危険があります。

  1. ベータブロッカー(β遮断薬)のビソプロロール(メインテート®);降圧薬でもあるため、低血圧患者の場合は少量投与になります。血圧が下がり過ぎると、めまい・ふらつきが起こります。最も、心房細動(Af)は心房への過剰な負荷で発症するため、高血圧の改善は重要です。
     
  2. ピラジカイニド(サンリズム®);カプセル製剤につき、早く飲んでしまわないとカプセルが溶けて、苦い中身が出てきます。ピラジカイニドには局所麻酔作用があるため舌が麻痺します。何よりも心抑制が強く、心房粗動(AF)[1c群抗不整脈薬フラッター]への移行あり。(今時、ほとんど使用されません)。
     
    フレカイニド(タンボコール®);特に高齢者・腎機能低下患者で血中濃度が上がり過ぎてQT延長症候群⇒トルサード・ド・ポアンツ型の心室頻拍(VT)⇒心室細動(Vf)⇒突然死を引き起こす危険性(二次性QT延長症候群)。(今時、ほとんど使用されません)。

ベータブロッカー(β遮断薬)のメトプロロール(セロケン®):肝排泄型なので、腎臓の悪い方にも使用できます。

ベータブロッカー(β遮断薬)のアテノロール(テノーミン®)は強力過ぎて、完全房室ブロックなどペースメーカー埋め込みになる症例も報告されています。長崎甲状腺クリニック(大阪)では余程の場合しか使用しません。

ベータブロッカー(β遮断薬)で内因性交感神経刺激作用(ISA)のないものは心不全の予後を改善。狭心症薬で唯一、狭心症発作予防と心筋梗塞発症抑制効果があります。ビソプロロール(メインテート®)、メトプロロール(セロケン®)、アテノロール(テノーミン®)共に内因性交感神経刺激作用(ISA)はありません。

心不全を合併した心房細動(Af)

心不全を合併した心房細動(Af)においては、レートコントロール療法としてベータブロッカー(β遮断薬)ビソプロロール・カルベジロールなどを少量から使用。リズムコントロール療法に使用できる抗不整脈薬はアミオダロン(アンカロン®)だけですが、甲状腺専門医が絶対使って欲しくない悪魔の薬でもあります[不整脈治療薬 アミオダロン(アンカロン®)が引きおこす甲状腺機能異常 ]。非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬ヘルベッサー®(ジルチアゼム)・ワソラン®(ベラパミル)は心不全患者に対して禁忌。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)治療にメチルジゴキシン・ジゴキシンを使用しない

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)治療に、通常はメチルジゴキシン・ジゴキシンを使用しません。甲状腺機能亢進症では、

  1. 過剰な甲状腺ホルモンが必要以上に心筋を刺激しているため、メチルジゴキシン・ジゴキシンで更に刺激すると、心筋障害、心筋虚血、狭心症、心筋梗塞が誘発される
     
  2. メチルジゴキシン・ジゴキシンの代謝・分解亢進により、血中濃度が低くなって作用が減弱。薬物血中濃度モニタリングを行い、あまりに低いためメチルジゴキシン・ジゴキシン大量投与した場合、甲状腺機能が改善するにつれ、今度は過剰になります(ジギタリス中毒)(Clin Pharmacol Ther. 1977 Nov;22(5 Pt 1):533-8.)(G Ital Cardiol. 1980;10(7):836-42.)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)治療に向かない抗不整脈薬

シベンゾリン(‎シベノール®)、ジソピラミド(リスモダン®)などNa チャネル遮断効果のある1a群抗不整脈薬は、2000年以前なら気軽に心房細動(Af)患者へ投与されていました。しかし、これらは

  1. 抗コリン作用で副交感神経をブロックし、相対的に交感神経を優位にするため、甲状腺ホルモンの作用を増強させ、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を悪化させる
     
  2. QT延長症候群⇒トルサード・ド・ポアンツ型の心室頻拍(VT)⇒心室細動(Vf)⇒突然死を引き起こす危険性二次性QT延長症候群)がある
     
  3. 除細動後の洞停止・洞性徐脈を引き起こす
除細動後の洞停止

添付文書(薬の公式説明書)には

  1. シベンゾリン(‎シベノール®);頻脈性不整脈で他の抗不整脈薬が使用できないか、又は無効の場合
  2. ジソピラミド(リスモダン®);期外収縮、発作性上室性頻脈、心房細動で他の抗不整脈薬が使用できないか、又は無効の場合

のみ使用することと、決して第一選択薬でない旨が明記されています(今時、ほとんど使用されません)。

気管支喘息・COPD(慢性気管支炎、肺気腫など)がある場合の心房細動(Af)治療

気管支喘息・COPD(慢性気管支炎、肺気腫など)を持っているバセドウ病/甲状腺機能亢進症の人でβ(ベータ)ブロッカーを使用できない時(甲状腺機能亢進症と気管支喘息)、ヘルベッサー®(ジルチアゼム)を使用する事が多い。ヘルベッサー®(ジルチアゼム)は、心抑制型カルシウム(Ca)拮抗薬で、心拍数を抑え、頻脈性不整脈を予防するとともに、気管支平滑筋の拡張を阻害しません。降圧作用は、通常のカルシウム(Ca)拮抗薬よりも弱いため、通常血圧のバセドウ病/甲状腺機能亢進症の人でも(血圧に注意しながら)使用可能です。

ワソラン®(ベラパミル)も心抑制型カルシウム(Ca)拮抗薬ですが、心臓抑制が強力過ぎて、心不全の増悪が危惧されるため使い難いです。

甲状腺専門医には悪魔の薬、アミオダロン(アンカロン®)

甲状腺専門医が絶対使って欲しくない悪魔の薬、アミオダロン(アンカロン®)。拡張型心筋症など命に係わる重篤(重症)な状態なら止む無しですが、(言っては何だが)心房細動(Af)程度で安易にアミオダロン(アンカロン®)を使いたがる循環器内科の医者は困りもの。アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は、一度おこると、約半年~数年間は終息せず、延々とステロイド投与が必要(悪夢)。[不整脈治療薬 アミオダロン(アンカロン®)が引きおこす甲状腺機能異常 ]

除細動

甲状腺ホルモンが正常化後3~4ヶ月を過ぎても心房細動(Af)が持続する場合、積極的な電気的除細動治療の適応になります。甲状腺ホルモンが高い時期に除細動して洞調律に戻しても、すぐに逆もどりするので、甲状腺ホルモンが正常化するまで待ちます。 

甲状腺機能亢進症による心房細動(Af)は、他の原因による心房細動(Af)と異なり、除細動後の洞調律を維持できる率が著しく高い。除細動が成功した甲状腺機能亢進症患者の60%以上は、約10年後も洞調律を維持できています。[Eur Heart J. 2000 Feb;21(4):327-33.][Thyroid. 2002 Jun;12(6):489-93.]

(表;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af) 除細動後の寛解維持

カテーテルアブレーション

近年、カテーテル治療(アブレーション)によって、心房細動(Af)の根治治療が可能になりました。カテーテル電極先端の磁気センサーで心臓内をサーチし(心臓マッピング、心腔内マッピング)、心房細動(Af)の発生部位を特定。高周波通電によりピンポイントで焼いてしまい(凝固壊死)ます。

カテーテル治療(アブレーション)

心臓内マッピング;赤い点が心房細動(Af)の震源地(東京大学医学部附属病院 循環器内科HPより)

左右肺静脈周囲に心房細動(Af)の震源地が集中しています。

心房細動アブレーション(カテーテルアブレーション)

心房細動(Af)に対するカテーテルアブレーションの適応は、症状や心房細動の種類、年齢などによって異なります。適応として、

  1. 発作性の心房細動
  2. 症状を有する心房細動。80歳以上の高齢患者でも、症状が強い場合
  3. CHADS2スコア2点以上の心房細動
  4. 抗不整脈薬で抑制できない心房細動

カテーテルアブレーションの重大合併症として、

  1. 心タンポナーデ(約1%)
  2. 左房食道瘻
  3. 横隔神経麻痺
  4. 胃蠕動運動障害

が起きることがある。

アブレーション後、心房細動(Af)再発の有無にかかわらず、少なくとも3 か月間は抗凝固剤を継続することが推奨されています。

カテーテルアブレーション目的に入院した症例における甲状腺機能異常の頻度と関連性

小倉記念病院の報告では、心房細動(Af)に対するカテーテルアブレーション目的に入院した症例245例(男性174人、女性71人)の内、

  1. 甲状腺機能亢進症8例(3.5%)、甲状腺機能低下症17 例(6.9%)
  2. 甲状腺機能亢進症群では甲状腺機能正常群に比べ年齢が若い傾向、甲状腺機能低下症群では高齢の傾向
    (第55回 日本甲状腺学会 YIA-7 心房細動と甲状腺機能の関連性についての検討)

心房細動(Af)に対してカテーテルアブレーションを受けた潜在性甲状腺機能亢進症患者の心房細動(Af)再発率は著しく高い[ハザード比:3.07、95%信頼区間(CI):1.54-6.14]。潜在性甲状腺機能低下症患者の再発率は、甲状腺機能正常者と同程度。[Front Cardiovasc Med. 2022 Jun 3;9:902411.]

甲状腺ホルモンのサイロキシン(FT4)濃度が正常範囲内高値の患者は、カテーテルアブレーション後の心房細動(Af)再発リスクが高い。[Circ J. 2010 Jul;74(7):1316-21.][Am J Cardiol. 2015 Dec 15;116(12):1863-8.]

抗凝固剤

発作性心房細動(pAf)でも慢性持続性心房細動でも、心原性脳塞栓(心原性脳梗塞)の発症率は同等とされます。

心房細動(Af)を除細動しても、あるいは自然に除細動された後でも、左心房収縮不全(スタニング)により、心房内血栓ができる危険性は残ります。

除細動後心原性脳塞栓(心原性脳梗塞)の98%は10日以内に生じているため、出血リスクが高くなければ抗凝固薬投与は必要と考えます。

特に高齢者、CHADS2(チャッズ・ツー)スコア[心房細動(Af)での心原性脳塞栓発症リスクを点数化したもの]1点以上だと脳塞栓の危険大です。

心房細動(Af)による心原性脳塞栓(心原性脳梗塞)の予防に抗血小板剤[バイアスピリン、クロピドグレル(プラビックス®)など]は無効です。抗凝固薬が必要。

2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン

CHADS2(チャッズ・ツー)スコアは、計0~6点で評価します。
  1. C(Congestive heart failure、うっ血性心不全) 1点
  2. H(Hypertension、高血圧) 1点
  3. A(Age、75歳以上) 1点
  4. D(Diabetes Mellitus(糖尿病) 1点
  5. S2(Stroke/TIA、脳卒中/一過性脳虚血発作の既往) 2点

CHADS2 スコアが1 点以上なら、直接阻害型経口抗凝固薬 (DOAC) の投与が推奨されます。

ワーファリン(ワルファリン)

心房内血栓を防ぐため、抗凝固剤(ワーファリンあるいはワルファリン)を用います。ワーファリン(ワルファリン)の歴史は古く、腐敗した牧草から見つかった出血誘発物質が改良され、ワーファリン(ワルファリン)になりました。ワーファリン(ワルファリン)が効き過ぎると血が止まりにくくなり、胃十二指腸潰瘍や大腸憩室から出血したりします。

次項の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の登場で、僧帽弁狭窄症(MS)による心房細動(Af)、機械弁を使用している患者の心房細動(Af)以外へワーファリン(ワルファリン)を投与する機会はほとんど無くなりました。

何らかの理由でワーファリン(ワルファリン)を中止すると(ワーファリン中止後脳梗塞)、多発性脳梗塞の危険性大。椎骨動脈系(小脳・延髄外側)におこると、症状不明瞭で見逃される危険があります(回転性めまい:メニエールでなく小脳・椎骨脳底動脈が原因)。

凝固カスケード

ワーファリン(ワルファリン)はビタミンK類似構造(クマリン誘導体)で、ビタミンKに拮抗して肝臓の凝固因子[第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、第X因子]合成を阻害。(図;凝固カスケード 金沢大学 血液内科・呼吸器内科 HPより)

甲状腺機能亢進症では凝固因子の分解が亢進しており、ワーファリン(ワルファリン)が効き過ぎます[Case Rep Med. 2014;2014:292468.]。

金地病院の報告では、ワーファリン(ワルファリン)初期量は1.0-1.5 mgが適量とされます。(第54回 日本甲状腺学会 P057 バセドウ病患者での甲状腺機能亢進時における心房細動に対するワーファリン初期投与量についての検討)

長崎甲状腺クリニック(大阪)の経験では、2.0 mgでスタートするのが最適です。

PIVKA-ⅡはビタミンK欠乏時に肝細胞で作られる異常プロトロンビンで、ワーファリン(ワルファリン)効果の指標よりも肝臓がんの腫瘍マーカーとして使われます。

ワーファリン(ワルファリン)の作用を増強するものは、

  1. 甲状腺ホルモン
  2. アミオダロン
  3. 糖尿病スルフォニルウレア剤(SU剤)
  4. コレステロール降下剤 ロスバスタチン(クレストール®)
  5. エゼチミブ(ゼチーア®);小腸壁細胞に存在するコレステロールトランスポーターを阻害し、コレステロール吸収を選択的に低下させる。脂溶性ビタミンであるビタミンKの吸収も低下させる
  6. 痛風・高尿酸血症治療薬 アロプリノール
  7. 胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬) オメプラゾール
  8. ニンニク(抗血液凝固作用がある)・ショウガ

などです。

ワーファリン(ワルファリン)の作用を減弱するものは、

  1. 脂肪乳剤イントラリポス輸液;術前術後、消耗性疾患などの栄養補給に使用される。微量のビタミンK1を含むため
  2. ひじき[ヨウ素(ヨード)は多い]、生ワカメ[ヨウ素(ヨード)は少ない][食品のヨウ素(ヨード)含有量]
  3. 納豆(チラーヂンSの吸収障害をおこす食べ物
  4. ほうれん草[腎結石(腎臓結石)の原因]

アミオダロン服薬中のワーファリン(ワルファリン)効果

心房細動(Af)に対するアミオダロンとワーファリン(ワルファリン)投与中に生じたアミオダロン誘発性甲状腺中毒症2型(破壊性甲状腺炎型)では、

  1. 甲状腺ホルモンの変化に応じてワーファリン(ワルファリン)の効果も変化する
     
  2. アミオダロン自体が、ワーファリン(ワルファリン)抗凝固作用を増強する。アミオダロンは肝薬物代謝酵素 CYP2C9 を阻害し、ワルファリンの代謝・分解を抑制。[Chest. 2002 Jan;121(1):19-23.]

[Endocr Pract. 2013 Nov-Dec;19(6):1043-9.][Medicine (Baltimore). 2004 Mar;83(2):107-113.]

新生児ビタミンK 欠乏性出血症・乳児ビタミンK 欠乏性出血症

妊娠中にワーファリン(ワルファリン)や抗てんかん薬(フェニトイン)を服薬していた母からまれた児は、新生児ビタミンK 欠乏性出血症のリスクがあります。

ワーファリン(ワルファリン)や抗てんかん薬を服薬している母から母乳栄養を受けている乳児では、乳児ビタミンK 欠乏性出血症を発症する危険性があります。

頭蓋内出血・消化管出血をおこし予後不良

PT-INR ・APTT 延長、PIVKA-II 上昇

治療はビタミンK 製剤内服。緊急時はビタミンK 製剤静注。

直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)[direct oral anticoagulant]

一般的に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を含む非弁膜症性心房細動(Af)の抗凝固療法は、リバーロキサバン(イグザレルト®)・アピキサバン(エリキュース®)・ダビガトラン(プラザキサ®)など非ワーファリン系の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)[direct oral anticoagulant]へ変わりつつあります。

DOACはワーファリン(ワルファリン)と同等度の効果(虚血イベント低減効果)があり、ワーファリン(ワルファリン)よりも出血性脳梗塞などの副作用が少なく(頭蓋内出血リスク低下)、非常に良い薬です(脳卒中治療ガイドライン2015.協和企画,東京,2015)。

ワーファリン(ワルファリン)と異なり、効果判定のためにPT-INR 測定する必要もありません。

心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)心房細動における抗血栓療法

「2020年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法」でも、「心房細動(Af)に対する抗凝固療法の選択において、ワルファリンよりも直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)[direct oral anticoagulant]を優先する」とあります(推奨クラスI、エビデンスレベルA)

DOACとワーファリン(ワルファリン)の大きな違いは半減期です。ワーファリン(ワルファリン)は102〜106時間と極めて長いが、DOACは半減期5~14時間です(効果発現は、服薬後わずか0.5~1時間、中止後48時間以上経つと効果はほぼ消失し脳梗塞リスクがすぐに高まる)。

唯一の問題は、

  1. ワーファリンが1錠10円程度なのに対し、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の無いDOACは1日分で500円以上します。3割負担の方で1カ月の薬代が5000円も高くなります。
     
  2. ワーファリンと違い他剤との相互作用は少ないが、抗てんかん薬カルバマゼピンやフェニトインなどのP-糖タンパク誘導薬で作用が弱まる[Clin Pharmacol Ther. 2021 Dec;110(6):1526-1536.]。

第Xa因子阻害剤リバーロキサバン(イグザレルト®)・アピキサバン(エリキュース®)・エドキサバン(リクシアナ®)

第Xa因子阻害剤リバーロキサバン(イグザレルト®)・アピキサバン(エリキュース®)・エドキサバン(リクシアナ®)は「非弁膜症性心房細動における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」に適応があり、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)にも使用できます。

アンチトロンビンⅢ(AT3)と結合し、第Xa因子(肝臓で合成され、プロトロンビンからトロンビンへの変換を促進する)の活性を阻害するためプロトロンビン時間(PT-INR)に影響しません。

高度腎不全(eGFR15 mL/min未満)患者には禁忌ですが、eGFR 30mL/minでも投与可能な点、ダビガトラン(プラザキサ®)より優れています。

長い間、特異的な中和剤は存在しませんでしたが、第Xa因子に対するデコイタンパク質のオンデキサ静注用®(アンデキサネット:andexanet)が開発されました。

安定冠動脈疾患を合併する心房細動(Af)

安定冠動脈疾患を合併する心房細動(Af)に対しては、リバーロキサバン(イグザレルト®)単剤で、抗血小板薬を併用した場合と同程度の効果があり、かつ出血リスクは少なくなります(N Engl J Med. 2019 Sep 19;381(12):1103-1113.)。

ダビガトラン(プラザキサ®)

ダビガトラン(プラザキサ®)は血液凝固第Ⅱa因子トロンビンに対する直接阻害薬ですが、eGFR 30mL/min以下の腎不全に投与できないため、リバーロキサバン(イグザレルト®)・アピキサバン(エリキュース®)・エドキサバン(リクシアナ®)よりも使いにくいと言えます。

プリズバインド®(イダルシズマブ)は、ダビガトラン(プラザキサ®)に非常に高い親和性を持つため、特異的な中和剤になります。

ダビガトラン誘発性食道炎の副作用が報告されています。酒石酸は胃液のpHを下げて吸収率を高めるための添加物ですが、食道に停滞したダビガトランから溶出した酒石酸は食道粘膜を傷害します。

心房細動(Af)が消失し、洞調律に戻っても抗凝固薬継続投与は必要か?

心房細動(Af)が消失し、洞調律に戻っても抗凝固薬の継続投与は必要か?心房細動治療(薬物)ガイドラインでは、必要ないとされます。しかしながら、[甲状腺機能亢進症/バセドウ病による心房細動(Af)ではありませんが]洞調律に戻った患者の脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の発生リスクは、健常人の1.63倍だったとの報告があります(BMJ. 2018 May 9;361:k1717.)。甲状腺機能亢進症/バセドウ病による心房細動(Af)でも同じかどうかは不明です。

筆者の経験ですが、特に高齢者の甲状腺機能亢進症/バセドウ病による心房細動(Af)は、一端、洞調律へ戻っても、いつの間にか再発しており、何もせずに様子を見ると、次の日には洞調律に戻っている事があります。心房細動(Af)再発のきっかけは、外出して歩き回ったり、ビールを飲んだりと様々です。そう考えると、いつ再発してもよい様、洞調律に戻っても抗凝固薬を継続するのも間違いでは無いと思います。

甲状腺の手術で抗凝固薬中止

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の手術(甲状腺全摘出手術)、甲状腺腫瘍・甲状腺癌(甲状腺全摘出手術・亜全摘手術)が必要になった時、抗凝固薬を中止せねばなりません。ヘパリン置換するかどうかは循環器専門医に判断を仰ぎます。

甲状腺は血流が非常に多い臓器なので、出血リスクが中等度~高度の手術と考えた場合(最近は、レーザーメスなどで出血はかなり抑えられますが)、

  1. ワーファリンは手術の最低3-5日前
  2. 第Xa因子阻害剤リバーロキサバン(イグザレルト®)・アピキサバン(エリキュース®)・エドキサバン(リクシアナ®)は最低48時間前
  3. ダビガトラン(プラザキサ®)は、クレアチニンクリアランス(eGFRで代用)50-79 mL/分なら72時間前、30-49 mL/分なら96時間前

に中止する事が推奨されます(2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版)。

血液透析患者の心房細動(Af)

心房細動(Af)を伴う維持透析患者に、抗凝固剤を使用すべきか結論は出ていません。投与しなければ脳梗塞を発症するかもしれないし、投与すれば脳内出血や出血性梗塞を引き起こすかもしれません。

アピキサバンは血栓塞栓症の発生率を低下させないが、脳内出血や出血性梗塞の発生率を高めてしまう報告があります‎。‎(Clin J Am Soc Nephrol. 2020 Aug 7;15(8):1146-1154.)

抗凝固剤は血栓塞栓症の発生率を低下させないが、脳内出血や出血性梗塞の発生率を高めてしまう。ワーファリン(ワルファリン)、ダビガトラン、リバロキサバンは、特にそのリスクが高く、アピキサバンは最も出血の危険が少ない。‎(J Am Coll Cardiol. 2020 Jan 28;75(3):273-285.)

血液透析患者の心房細動(Af)

降圧薬

心房細動(Af)は心房への過剰な負荷で発症するため、高血圧の改善は大切です。

降圧薬の中で、心房細動(Af)予防にはARB/ACE 阻害薬が推奨されます。ARB/ACE 阻害薬は狭心症・頻脈以外、全ての高血圧に推奨されます。

ミカルディス®(テルミサルタン)は肝臓で代謝されるため、腎機能が低下していても安全に使用できますが、投与量が40mgを超えると血中濃度が急激に上昇するので注意を要します。

しかし、あくまで甲状腺機能亢進症/バセドウ病以外の非弁膜症性心房細動(Af)に対する予防効果であって、サイロイドハート(甲状腺の病気による心臓障害)に対しては、前述のベータブロッカーの方が良いと筆者は思います。

利尿薬

vanishing tumor

心房細動(Af)では、ごく軽度のものを含めて慢性心不全状態にあると言えます。慢性心不全が悪化すると肺に腫瘍のような水たまり(vanishing tumor)が生じ、肺癌・甲状腺癌の肺転移のように見えます。vanishing tumorは利尿薬に反応して消失します。

ペースメーカー

徐脈による失神、めまい、呼吸困難などの症状があれば、ペースメーカー適応になります。ペースメーカー電池の寿命は7年程度とされます。

リードレスペースメーカーは右室中隔に植え込む小型のペースメーカーです。有症候性徐脈性心房細動(Af)があり、

  1. 静脈アクセスを温存する必要がある
  2. 静脈閉塞・狭窄のために経静脈的に心内にリードを留置できない
  3. 易感染性がある
  4. 血液透析患者

患者が良い適応(経静脈ペースメーカーよりも有用。)。

経カテーテル左心耳閉鎖術(LAAO)、胸腔鏡下左心耳切除術

左心耳

経カテーテル左心耳閉鎖術(LAAO)は、新しいカテーテル治療の技術です。心房細動(Af)時、心筋が有効に収縮できない状態で左心耳は死腔になり、血液がうっ滞します。心房細動(Af)で生じる血栓は、左心耳の中で起こるものが約90%です(Blackshear & Odell, 1996)。

経カテーテル左心耳閉鎖術(LAAO)は、ワルファリン投与に比べ、脳塞栓が40%減少したそうです(JAMA. 2018 Jan 23;319(4):365-374. )。

更に、胸腔鏡下左心耳切除術は、経カテーテル左心耳閉鎖術(LAAO)よりも短時間で済み、合併症も少ないとされます。胸腔鏡下左心耳切除術後は、抗凝固剤を中止してもよいことになっています。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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