小児甲状腺超音波(エコー)検査・小児甲状腺癌[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院(現、大阪公立大学附属病院) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
小児甲状腺超音波(エコー)検査で約20%にコロイド嚢胞(成長期の甲状腺下部背側に多発、性ホルモンにより成長と共に退縮。橋本病のう胞変性と鑑別。胸腺は小児甲状腺乳頭癌と紛らわしく、迷入胸腺(甲状腺内異所性胸腺)は1%以下に存在し自然に退縮。小児甲状腺結節の40%はサイズ増大。小児甲状腺癌は甲状腺乳頭癌が大半だが、通常型より硬化がんタイプが多い。小児甲状腺乳頭癌は遺伝性が高く、特徴的な遺伝子異常(Ret/PTC遺伝子の再配列が多い)、1cm以下でも早期にリンパ節転移や肺転移しやすいが、手術後の放射性ヨウ素大量療法が有効で死亡率は低い。
Keywords
小児,甲状腺,超音波,エコー,コロイド嚢胞,甲状腺癌,胸腺,乳頭癌,迷入胸腺,甲状腺結節
福島原発の事故以降、子供の甲状腺が心配という方が増えています。そもそも長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺で来られた方は全員、甲状腺超音波(エコー)検査していますが・・・
小児甲状腺超音波(エコー)検査ではコロイド嚢胞の多発と、甲状腺内への迷入胸腺が特徴所見です。
コロイド嚢胞
小児の甲状腺超音波(エコー)検査で最も多いのはコロイド嚢胞で、約20%に認めます。コロイド嚢胞は成長期の甲状腺に見られ、甲状腺下部背側に多発し、性ホルモンにより成長と共に退縮します。コロイド嚢胞がある子供は甲状腺が大きいとされます。[Pediatr Radiol. 2006 Apr;36(4):299-308, quiz 372-3.]
伊藤病院の報告によるとコロイド嚢胞は
- 背側に多く(80.6%)
- 上極(22.4%)に対して、下極(77.5%)
- 小さく最大径の中央値は3.3mm(範囲0.8-23.2)
だったそうです。(第59回 日本甲状腺学会 P2-7-5 小児甲状腺超音波所見に認める嚢胞分布の偏り)
コロイド嚢胞の超音波(エコー)検査は、のう胞内部に
- 粘稠なコロイド物質を示す点状高エコーや無血流の等~低エコー物質を認める
- 実質はなく、のう胞を包む被膜もない
ため、のう胞型腺腫様結節(下写真)やのう胞型濾胞腺腫(のう胞腺腫)とは異なります。
橋本病(慢性甲状腺炎)による破壊性のう胞・のう胞変性は、境界不明瞭で、のう胞内部に溶け切っていない実質を認める場合が多く、のう胞以外の実質にも破壊性変化を認めるため鑑別可能(橋本病のう胞変性との鑑別)。
コロイド嚢胞(コロイドのう胞) ケース①
コロイド嚢胞(コロイドのう胞) ケース②
橋本病 コロイドのう胞合併 ケース①
橋本病 コロイドのう胞合併 ケース②
のう胞型腺腫様結節との鑑別
異所性胸腺、迷入胸腺(甲状腺内異所性胸腺)
異所性胸腺は、腫瘍ではなく、正常な胸腺組織です。超音波(エコー)画像は、甲状腺乳頭癌に似ているため鑑別を要します。小児では甲状腺の直下に見られる事が多々ありますが、甲状腺外なので区別できます。
また、甲状腺内に迷入した迷入胸腺(甲状腺内異所性胸腺)、第4鰓弓遺残は全小児の1%以下に認めますが、甲状腺乳頭癌に似ているため鑑別を要します。[J Ultrasound Med. 2018 Mar;37(3):783-791.][Endocr Pract. 2014 Dec;20(12):e241-5.]
異所性胸腺は、年齢と伴に退縮する傾向があり、性ホルモンの影響と考えられます(福島県県民健康調査の統計)(第57回 日本甲状腺学会 O3-4 甲状腺内異所性胸腺の検討:福島県県民健康調査の結果から)。
成人でも甲状腺内異所性胸腺、しかも甲状腺乳頭癌に合併
成人でも甲状腺内異所性胸腺を認め、しかも甲状腺乳頭癌に合併した症例が報告されています。東北大学によると、50歳代女性で、甲状腺乳頭癌に合併し、内部に線状高エコーを有する低エコー腫瘤を認め、手術標本は黄色の柔らかい、脂肪様の腫瘤、病理所見は、ほとんどが脂肪組織に置換された異所性胸腺だったそうです(第59回 日本甲状腺学会 P3-3-4 手術を施行した甲状腺乳頭癌に併発した甲状腺内異所性胸腺の1例)。
小児の甲状腺結節(しこりで内部に組織がつまったもの、のう胞でないもの)は、サイズ変化を見ていかねばなりません。一般的に40%はサイズ増大し、4%は減少するとされます。サイズ増大するものは甲状腺乳頭癌の可能性があります。
小児甲状腺結節が悪性腫瘍である確率は、成人の2-3倍です。
[Thyroid. 2015 Jul;25(7):716-59.]
小児甲状腺癌の特徴
- 遺伝性が高い
- 特徴的な組織型・遺伝子異常[福島県「県民健康調査甲状腺検査(先行検査=1回目の検査)」の結果、覆りました]
- 発見時の肺転移は高率
- 手術後の放射性ヨウ素大量療法が有効
- 死亡率は低い
[Curr Pediatr Rev. 2016;12(4):247-252.][2004. Pathology and Genetics of Tumours of Endocrine Organs World Health Organization Classification of Tumours, Volume 8 IARC Press, Lyon, France]
甲状腺の病気は遺伝性が高く、一人見つかれば家族・血縁者が芋ツル式に見つかります。小児甲状腺癌も家族発生が多く、27%は遺伝性との報告もあります。
小児甲状腺がんは、甲状腺癌全体の100人に1.5人を占め、決して少なくありません。おまけに発見時の肺転移は6~33%と高率です。好発年齢は9歳以降ですが、6歳と言うのもあります。
小児甲状腺がんは甲状腺乳頭癌が大半ですが、典型的な甲状腺乳頭癌よりも、硬化がんタイプ(線維化や石灰化の強い)のような亜型が多い。(教科書ではこのように書いてありますが、福島県「県民健康調査甲状腺検査(先行検査=1回目の検査)」の結果、組織型の比率は大人と同じだったため、甲状腺専門医は皆驚きました。)
[2004. Pathology and Genetics of Tumours of Endocrine Organs World Health Organization Classification of Tumours, Volume 8 IARC Press, Lyon, France]
また1cm以下の甲状腺乳頭癌でも早期に頸部リンパ節転移や肺転移を起こす頻度が高い。[Am J Surg. 1990 Oct;160(4):341-3.][Cancer. 1993 Feb 15;71(4):1348-52.]
(教科書に書いてある)小児甲状腺がんの遺伝子異常の特徴は、
- Ret/PTC遺伝子の再配列異常が高頻度;DNA二重鎖切断とそれに伴う修復異常。RET/PTC1またはRET/PTC3再配列の頻度は、発症年齢が小児→青年→若年成人→成人と上がるとともに減少。
- BRAF遺伝子の再配列異常の報告もある
- 成人甲状腺乳頭癌に多いBRAFの点突然変異は少ない。BRAF V600E 変異の頻度は発症年齢が小児→青年→若年成人→成人と上がるとともに増加。[Hormones (Athens). Jul-Sep 2009;8(3):185-91.]
で、チェルノブイリ原発事故で生じた放射線誘発性小児甲状腺がんと、それ以外の散発性小児甲状腺乳頭がんとの間で差はありません。
ただし、この記述も福島県「県民健康調査甲状腺検査(先行検査=1回目の検査)」の結果を受けて覆り、遺伝子異常の比率も大人と同じだったため、甲状腺専門医は再度驚きました。)
小児甲状腺がんは、リンパ節転移や肺転移が多く、半数以上が進行型にもかかわらず、手術後の放射性ヨウ素大量療法が有効で死亡率は低いです。
[Thyroid. 2015 Jul;25(7):716-59.][J Pediatr Endocrinol Metab. 1997 Nov-Dec;10(6):561-8.]
小児甲状腺癌の常識であった特徴的な組織型・遺伝子異常が覆った理由
小児甲状腺癌の常識であった特徴的な組織型・遺伝子異常が、福島県「県民健康調査甲状腺検査(先行検査=1回目の検査)」の結果を受けて覆った理由は何でしょうか?
筆者が考えたのは、余程のことがない限り、誰も小児甲状腺癌を見つけるための検査を行わないからでしょう。大人なら、肺CT、頸椎MRIや頚動脈エコーで偶然見つかったり、人間ドックで甲状腺超音波(エコー)や FDG-PET/CTのオプション検査を受けて発見されたり、甲状腺癌を診断される機会が多い。甲状腺癌の進行は一部の例外を除き非常に緩やかなので、おそらく、小児期から既に存在していた甲状腺癌が大人になって見つかるのだと思います[甲状腺癌の発癌理論(芽細胞発癌:fetal cell carcinogenesis)]。
つまり、今まで小児甲状腺癌は、余程のことをおこす(進行が早く肺転移を高率におこす)甲状腺びまん性硬化型乳頭癌(DSPTC)・甲状腺乳頭癌充実亜型(solid variant)だけと思い込んでいたのです。
現在では、画像診断機械の進歩により、従来、見つける必要のなかった小児甲状腺癌が簡単に診断できるようになり、世界中で小児甲状腺癌の過剰検出が問題となっています[Pediatr Surg Int. 2022 Mar;38(3):445-456.]。
小児甲状腺癌の治療と予後
甲状腺癌の患者では発見時、既に局所浸潤や多発リンパ節転移・肺転移を伴っていることが多く、手術も広範な切除・郭清が必要になります。術後再発も高率に認めますが、生命予後は良好です。[Curr Pediatr Rev. 2016;12(4):247-252.][J Pediatr Hematol Oncol. 2013 Mar;35(2):93-7.]
放射性ヨウ素療法については、その利益と二次性発癌のリスクを天秤に掛けて判断する必要があります。[Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2023 Jan;37(1):101715.]
伊藤病院の報告によると、甲状腺切除手術を行った19歳未満の甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)患者における遠隔転移を伴わない20年生存率は、低リスク群、中リスク群、高リスク群で、それぞれ99.0%、71.7%、28.6%。そして、放射性ヨウ素療法の有効性を最大限に引き出すためには、明らかな転移が現れる前に遠隔転移を早期に診断する(血清サイログロブリン値などで)ことが望ましいとされます。[J Clin Endocrinol Metab. 2020 Nov 1;105(11):dgaa545.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,浪速区,生野区も近く。