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妊娠/出産/授乳と甲状腺の病気        [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 動脈硬化 甲状腺超音波(エコー)検査の長崎甲状腺クリニック(大阪)]

甲甲状腺:最新・専門の検査/治療/知見①甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎クリニック(大阪)

甲状腺の、長崎甲状腺クリニック(大阪市東住吉区)でしかできない検査/治療・当院ホームページでしか得られない情報が満載です。これらは、院長が最新の海外論文に眼を通して得たもの、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

妊娠/出産/授乳と甲状腺の病気

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Summary

甲状腺の病気、甲状腺機能低下症/橋本病甲状腺機能亢進症/バセドウ病における妊娠/出産/授乳を解説。胎児バセドウ病新生児バセドウ病妊娠時一過性甲状腺機能亢進症、メルカゾールによる胎児奇形、出産後甲状腺炎等も説明します。

 

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バセドウ病/甲状腺機能亢進症妊娠

バセドウ病/甲状腺機能亢進症は計画妊娠が必要不可欠

バセドウ病/甲状腺機能亢進症は計画妊娠が必要不可欠です。

  1. コントロール不十分で甲状腺ホルモンが不安定だと、流産・死産・早産、胎盤早期剥離が増えます(次項)
  2. 抗甲状腺薬メルカゾールは有効性と副作用から、日本甲状腺学会のバセドウ病治療ガイドラインの第1選択薬に推奨されています。しかし、メルカゾール奇形症候群が報告され(抗甲状腺薬メルカゾールによる胎児奇形)、妊娠15週まではプロパジールか無機ヨウ素(KI)に変更するのが好ましいとされますが
    ①妊娠15週を過ぎてから妊娠に気付いても遅い。
    ②プロパジールが原因の重篤な副作用の危険が生じます(無顆粒球症、劇症肝炎など)。妊娠早期に、このような副作用が生じると妊娠の継続が困難になります。
    妊娠前にバセドウ病/甲状腺機能亢進症を安定させた後、メルカゾールからプロパジールに予め変更するのが良いでしょう。

メルカゾールからプロパジールに変更した事による副作用

メルカゾールからプロパジールに変更した事による副作用を金地病院が報告しています。妊娠前175人・妊娠早期49人にメルカゾールからプロパジールに変更した際、プロパジールを中止せねばならないほどの副作用は、

肝障害 薬疹好中球減少(1000/μl未満)
妊娠前 2.3% 2.9%0%
妊娠早期 8.2% 2.0%2.0%

妊娠前よりも、いざ妊娠してから切り替えた方が、重篤な副作用が起きやすいため、計画妊娠の重要性が判ります。

さらには、プロパジールではバセドウ病/甲状腺機能亢進症を抑え切れず、メルカゾールにもどした方が1.8%あり、妊娠中の悪化は母体・胎児共に危険なため、計画妊娠の重要性が判ります。(第55回 日本甲状腺学会 O-09-02 当院において妊娠に際しthiamazoleを他剤へ変更した症例の検討)

長崎クリニック(大阪)では、計画妊娠の予定の、あるいは甲状腺ホルモンが安定しているバセドウ病/甲状腺機能亢進症女性の診療はいたします。

しかし、以下の方は、ハイリスク妊娠ですので内分泌内科と婦人科が同一施設内にある高次機能病院(大学病院・国公立病院)でしか対応できません。

  1. 治療開始後間が無く、甲状腺ホルモンが正常化していないのに妊娠した、
  2. 投薬自己中断し、再発した状態で妊娠した
  3. 妊娠後、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発覚した

など、甲状腺ホルモンが不安定な状態のもの。

バセドウ病/甲状腺機能亢進症妊娠の管理

妊娠期間中は抗甲状腺薬の用量、種類を変更することが多く、甲状腺専門医による厳格な管理が必要です。

  1. コントロール不十分だと、流産・死産・早産、胎盤早期剥離、胎児奇形の確率が高くなります。また、周産期予後として、バセドウ合併妊娠はLFD/SFD(体重が小さい)・NICU(新生児集中治療室)入室数が多いと言う愛媛県立中央病院の報告があります。(第56回日本甲状腺学会 P2-064 当院におけるバセドウ病合併妊娠の周産期予後)
  2. その一方で、妊娠後半に、甲状腺ホルモンを下げ過ぎると、胎児の甲状腺機能低下症がおこるため、バセドウ病治療ガイドライン2011では「FT4(甲状腺ホルモン:遊離サイロキシン)が、非妊娠時の正常上限か、正常上限よりやや高めになるようにする」と書いています。

    しかし、いくら妊娠後半はバセドウ病の活動性が低下するといえ、これでは妊娠中甲状腺機能亢進症/バセドウ病という最悪の事態と紙一重です。(何考えてんねん!)
    また、甲状腺の病気と無関係の正常妊婦でも、妊娠中甲状腺ホルモンが非妊娠時より低下する(妊娠中の甲状腺ホルモン)ので、この基準は明らかにおかしいと考えます。

    妊娠高血圧症候群、糖代謝異常(妊娠糖尿病、糖尿病合併妊娠)、切迫早産がある場合は、母体の安全を優先し、FT4, FT3を正常範囲内にします。

妊娠中、抗甲状腺薬+ヨウ化カリウム(KI)でもコントロールできない時

妊娠中、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)+ヨウ化カリウム(KI)でもバセドウ病/甲状腺機能亢進症をコントロールできない時は、もはや妊娠2期(中期)以降に甲状腺全摘手術になります。母体の甲状腺機能は安定しますが、TSHレセプター抗体(TR-Ab)は急に下がらないため、胎児の甲状腺を刺激して胎児バセドウ病は免れません。

妊娠中、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)が副作用で使用できなくなった時

妊娠中、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)が副作用で使用できなくなった時は、妊娠2期(中期)に甲状腺全摘手術になります。妊娠1期(前期)で使用できなくなった時は、2期(中期)までヨウ化カリウム(KI)で持たせます。妊娠3期(後期)で使用できなくなった時は、出産後までヨウ化カリウム(KI)で持たせます。(第54回 日本甲状腺学会 P199  抗甲状腺薬の副作用のため手術療法を行い出産に至ったバセドウ病合併妊娠の一例)

アイソトープ治療後妊娠

ヨード131によるアイソトープ治療を受けた場合、6か月間は胎児への影響から、避妊しなければなりません。その後さらに6か月間は甲状腺ホルモンの変動が激しく、まともに妊娠出産できません。

また、急激な甲状腺の破壊により、甲状腺に対する自己免疫が活性化され、TSHレセプター抗体(TR-Ab)がアイソトープ治療前より増加。2年以内に妊娠すると新生児バセドウ病の確率が高くなります。上條甲状腺クリニックの公表データでも、TR-Abがアイソトープ治療前のレベルに低下するのに2年以上を必要としています。

3年以降でも、TSHレセプター抗体(TR-Ab)が高い方は胎児・新生児バセドウ病起こす可能性があります。

5年以上して、母体が甲状腺機能低下症になっても、TR-Abが高い場合、胎児・新生児バセドウ病おこす可能性あります。

甲状腺を全摘出すればTSHレセプター抗体が低下するとの報告もありますが、アイソトープ治療を受けた後の甲状腺を全摘出すべきか否か一定の見解はありません(しない方が一般的ですが、妊娠を前提とするなら、最初からアイソトープ治療でなく、手術をする方が理にかなっています)。ただし、甲状腺全摘出してもバセドウ病抗体が消えずに胎児バセドウ病を起こすこともあります。

胎児・新生児バセドウ病

母親がバセドウ病の場合、胎盤を通過するバセドウ病抗体(TSHレセプター抗体:TR-Ab)、抗甲状腺薬、甲状腺ホルモンのサイロキシン(T4)により、胎児・新生児にはさまざまな異常が起こります。

胎児バセドウ病

胎児バセドウ病

  1. 母親が甲状腺機能亢進症/バセドウ病のコントロールが不十分な状態で妊娠してしまった場合(TR-Abに加えT4も胎盤を通過するため妊娠初期にもおこります)
  2. アイソトープ治療後もバセドウ病抗体(TSHレセプター抗体:TR-Ab)が母体内に存在する場合(胎盤を通過したTR-Abにより、胎児の甲状腺が働き出す妊娠20週以降におこります)
  3. 手術で甲状腺を切除した後もバセドウ病抗体が存在する場合(胎盤を通過したTR-Abにより、胎児の甲状腺が働き出す妊娠20週以降におこります)

2. 3. では、バセドウ病抗体(TR-Ab)は胎盤を通り抜け、胎児の甲状腺を刺激し、胎児バセドウ病が発症します。胎児バセドウ病は、妊娠20週以降のTR-Ab≧10でおこりやすく、TR-Ab<7.0で危険性下がるとされます。(TESガイドライン2012  J Clin Endocrinol Metab 97:2543-2565, 2012)

胎児バセドウ病では、

  1. 胎児心拍数が170~180にも上昇し、
  2. 子宮内発育不全
  3. 心不全に至ります。
  4. 胎児甲状腺腫
  5. 骨年齢過剰発育もおこります。

母体の甲状腺機能にかかわらず抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)・KI(ヨウ化カリウム)投与します。(この治療は、産婦人科と内分泌内科の両方がある病院で行うのが適正です。)

胎児バセドウ病の甲状腺です。腫れていますが、かなり拡大した画像です。

大人のバセドウ病と同じく、甲状腺内部の異常血流増加を認めます。胎児甲状腺機能低下症でも甲状腺が腫れますが、甲状腺内部の血流は増加せず、周囲の血流増加のみになります。

胎児バセドウ病児は、早々に帝王切開し、母体から入ってきたバセドウ病抗体が消滅する約3カ月後まで抗甲状腺薬を続けます。

胎児甲状腺腫

胎児甲状腺腫は、

  1. 胎児の嚥下障害(羊水を飲み込めない)による羊水過多で早産
  2. 分娩時の回旋異常・気道閉塞(窒息)

をおこします。

バセドウ病合併双胎妊娠

バセドウ病合併双胎妊娠で一卵性と2卵性両方の可能性があります。臍帯血(へその緒で測る)TSHとF-T4、F-T3(甲状腺ホルモン値)は、理屈の上では一卵性なら双胎は同じ、2卵性なら異なる事になります。しかし、現実は一卵性双胎でも異なる事があり、両児の血管吻合が存在するためです。(第56回 日本甲状腺学会 P2-068 バセドウ病合併双胎妊娠における、膜性と臍帯血甲状腺ホルモン値のdiscordancy に関する検討)

新生児バセドウ病

新生児の体内に残った母体からの抗甲状腺薬は新生児バセドウ病を抑えます。しかし、母体からのバセドウ病抗体(TSHレセプター抗体:TR-Ab)の半減期は13日なので、抗甲状腺薬が効力を失う1週間を超えると新生児バセドウ病が発症します。バセドウ病抗体が消滅する約3カ月後まで抗甲状腺薬を続けます。ただし、バセドウ病抗体(TR-Ab)には、刺激型のTS-Ab(TSH刺激性レセプター抗体)とTSHの結合を阻害するブロック抗体(TSB-Ab)が混在しており、刺激抗体(TS-Ab)よりブロック抗体(TSB-Ab)の方が半減期が長いため、急激に抗甲状腺薬が効いて甲状腺機能低下症になる場合があります。

新生児バセドウ病は、上條桂一先生の上條甲状腺クリニックでも

  1. 妊娠後半期のTR-Ab≧10でおこりやすいと報告されています。
  2. 母体が抗甲状腺薬を服薬していない場合、TR-Abが6でもおこるとされます。
  3. 国立成育医療研究センターの報告でも、分娩までにTRAb が7 IU/L 未満に下がらない場合も新生児バセドウ病発症の可能性があるとの事です。(第57回 日本甲状腺学会 O5-5 甲状腺摘出術後またはアイソトープ(RI)治療後でTSH 受容体抗体(TRAb)高値のバセドウ病合併妊娠における胎児・新生児バセドウ発症について)

新生児一過性中枢性甲状腺機能低下症

母体が

  1. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病のコントロール不良
  2. 出産後まで甲状腺機能亢進症/バセドウ病と判らなかった

場合、母体内の過剰な甲状腺ホルモンが、胎児の下垂体に抑制をかけます。結果、胎児下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)と胎児甲状腺の甲状腺ホルモン産生が抑制され、出生後に自分で甲状腺ホルモンを作れなくなります(新生児一過性中枢性甲状腺機能低下症)。

ただし、母体内では過剰な甲状腺ホルモンに曝されているため、骨成熟に遅延がないのが特徴です。

児が自分で甲状腺ホルモン産生できるようになるまで甲状腺ホルモンを投与しますが、長期におよぶことあります(Pediatrics 115:e623-e625, 2005)。

逆に新生児一過性中枢性甲状腺機能低下症と新生児血中TRAbから、母親が甲状腺機能亢進症/バセドウ病だったのが判明することあります。

新生児一過性原発性甲状腺機能低下症

新生児一過性原発性甲状腺機能低下症は、

  1. 母体の抗甲状腺薬が効き過ぎて
  2. 母体のTSB-Ab(TSHレセプター抗体[阻害型])
  3. 妊娠中・授乳中の母体のヨード過剰摂取

起こる事があります。

抗甲状腺薬メルカゾールによる胎児奇形

薬剤の影響を受けやすい妊娠時期

薬剤の影響を受けやすい妊娠時期
  1. 最終月経の開始日を妊娠0週とし、最終月経の初日から14 日前後(妊娠0週、1週)で排卵が起こりるため、この間はまだ妊娠していません。
  2. 受精から2週間ぐらいまで(妊娠2週、3週)は、All or Noneの法則のため、薬物の影響で受精卵は死んでしまうか、無事生き残るかどちらかです。
  3. 妊娠4週から7週(妊娠2ヶ月)は最も重要な絶対過敏期で、胎芽から様々な器官が作られます。一般的に4週目が本来の月経予定日なので、生理が来なくて妊娠に気づいた時既に妊娠2ヶ月です。
  4. 以降、絶対過敏期よりは危険性は低くなり、妊娠8週目から15週目までは相対過敏期です。

よって、可能なら妊娠前から危険性のある薬は、危険性のない薬に変更するのが理想的です。ただし、薬剤服用歴が無く、大きな病気も無い妊娠での、先天奇形の発生率は2-3%とされ、先天奇形があったからと言って薬剤のせいとは言えません。

メルカゾール胎児奇形

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に対する有効性と副作用から、日本甲状腺学会のバセドウ病治療ガイドラインでは抗甲状腺薬メルカゾールを第1選択薬に推奨しています。しかし、メルカゾール服用バセドウ病妊婦の新生児に頭皮欠損、臍帯ヘルニア、臍腸管遺残、尿膜管遺残(成人期に膿瘍による急性腹症)、気管食道瘻、食道閉鎖症、後鼻孔閉鎖症等のメルカゾール奇形症候群が報告され、妊娠バセドウ病にメルカゾールを使用すべきか、非常に難しい問題となります。

現在、日本で多施設前向きコホート研究「妊娠初期に投与されたチアマゾールの妊娠結果に与える影響に関する前向き研究(POEMスタディ)」が行われており、その中間報告されました。メルカゾール奇形症候群は85生産児中5例(約6%)、5例とも妊娠前から妊娠12週までのメルカゾール継続曝露例で、全例に臍関連奇形、1例は頭皮欠損合併を認めました。一方、プロパジール群および抗甲状腺薬非曝露群、メルカゾール群のうち妊娠12週までにメルカゾールを中止または他剤に変更した場合には奇形発生は認めませんでした。

また、伊藤病院のデータでは、メルカゾール服薬量と奇形発生率は無関係とされます。

  1. 妊娠4-7週:重大な奇形、気管食道瘻、食道閉鎖症、後鼻孔閉鎖症
  2. 妊娠6-9週:臍帯ヘルニア、臍腸管遺残、尿膜管遺残、手術すれば大半は解決できます。
  3. 妊娠10-15週:頭皮欠損、自然軽快すること多く、手術すれば大半は軽快します。

メルカゾール胎児奇形を避けるために

妊娠4-15週はメルカゾールを使用せず、無機ヨウ素(KI)、またはプロパジールに変更するのが望ましいですが、プロパジールが原因の重篤な副作用の危険が生じます(無顆粒球症劇症肝炎など)。

米国甲状腺学会ガイドライン2011、米国内分泌学会ガイドライン2007(2012年度改訂版)では、妊娠前にメルカゾールを服薬されていた方は、妊娠15週以降はプロパジールを中止し、メルカゾールに戻すのが好ましいとされます。妊娠中期/後期以降に重篤なプロパジール肝障害の危険があるためです。(Thyroid 21:1081-1125,2011)(J Clin Endocrinol Metab 97:2543-2565, 2012)

以上より、「妊娠15週以降はメルカゾールを使用してもかまわない」というのが、日本甲状腺学会の結論です。

尿膜管遺残/尿膜管膿瘍

胎生期に臍帯と腸は卵黄のう管(臍腸管)で、臍帯と膀胱は尿膜管でつながっています。
メルカゾール服用バセドウ病妊婦では、これらか退化しきらず臍腸管遺残、尿膜管遺残になり得ます。

尿膜管遺残は、成人期に尿膜管膿瘍による急性腹症おこします。

妊娠希望バセドウ病女性の新たな選択肢:手術療法

米国食品薬品局(FDA)と米国甲状腺学会合同の、「メルカゾール胎児奇形とプロパジール肝障害に関する会議」が2009年に開催されました。メルカゾール胎児奇形・プロパジール肝障害とも危険なため、近い将来妊娠を希望する女性は、事前にアイソトープ治療か甲状腺手術(甲状腺摘出)をしておく事が提案されました。

アイソトープ治療は前述の通り、甲状腺手術に比べ胎児・新生児バセドウ病おこす危険が高いため、長崎甲状腺クリニック(大阪)ではバセドウ病抗体が最も下がる甲状腺全摘出手術の方を勧めています。

ただし、甲状腺全摘出してもバセドウ病抗体が消えずに胎児バセドウ病を起こすこともあります。(第56回日本甲状腺学会P2-066 胎児・新生児バセドウ病を生じたバセドウ病術後甲状腺機能低下症の1 例)

バセドウ病じゃないよ、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症

妊娠時一過性甲状腺機能亢進症とは

妊娠8~13週頃に一時的に甲状腺機能が亢進することがあります。胎盤がつくるhCG(薬局で売っている妊娠キットで測るものです)は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)と構造が似ています。hCGが多い場合、甲状腺が刺激され甲状腺機能亢進症を起こします(妊娠時一過性甲状腺機能亢進症)。甲状腺に異常がない人でもおこり、アメリカ甲状腺学会によると全妊婦の1-3%(Thyroid 21:1081-1125,2011)・日本人妊婦の3.3%(J Clin Endocrinol Metab 94: 1683-8, 2009)、つわりの強い人に多く、血中hCGは50000-75000IU/l以上の高値になります。

甲状腺機能亢進症状(多汗・暑がり・手指振戦など)に乏しいのが特徴ですが、甲状腺機能亢進症状が強い時は無機ヨード剤(KI:ヨウ化カリウム)治療を行います。

バセドウ病と鑑別が付き難いことがありますが、バセドウ病の自己免疫抗体であるTSHレセプター抗体(TR-Ab)、TS-Ab(TSHレセプター抗体[刺激型])が検出されない事で鑑別します。 自然に回復します。

バセドウ病妊婦は妊娠時一過性甲状腺機能亢進症起こし易い

バセドウ病妊婦は、妊娠初期に妊娠時一過性甲状腺機能亢進症起こし易い」と言う網野先生の論文があります。妊娠前に既に寛解し、無投薬で甲状腺機能正常のバセドウ病妊婦の44%が、妊娠初期に妊娠時一過性甲状腺機能亢進症起こすとの事です(J Clin Endocrinol Metab 55: 108-12, 1982)。

妊娠後期に妊娠時一過性甲状腺機能亢進症

  1. 妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は、時に、妊娠32~39週頃に発症し、さらにバセドウ病との鑑別をややこしくする事があります。
  2. 糖尿病妊婦は、潜在的胎盤機能低下のため、hCGが過剰産生され、妊娠後期に妊娠時一過性甲状腺機能亢進症おこす可能性が報告されています。

遷延する妊娠時一過性甲状腺機能亢進症

  1. hCGに過敏に反応するTSH受容体変異による遷延性妊娠甲状腺中毒症が報告されています。妊娠終了まで、無機ヨード、あるいは抗甲状腺剤服用が必要です(Lys183Arg 変異の母娘例)(N Engl J Med. 1998 Dec 17;339(25):1823-6.)。
    妊娠終了後数カ月で、甲状腺中毒症は消失します。
  2. 双胎妊娠の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は重度で(2個の胎盤で倍のhCGを作るためです)、ヨウ化カリウム(KI)を妊娠17週頃まで投薬します。

妊娠時一過性甲状腺機能亢進症じゃないよ!Mirror症候群(ミラー症候群)

Mirror症候群(ミラー症候群)は、胎児心疾患などによる胎児水腫から胎盤が破壊され、hCGが多量に放出されると、VEGF、IL-6なども誘導されます。

妊娠8~13週頃以外にもおこるため、バセドウ病と鑑別が必要です。

  1. hCGが甲状腺を刺激し、甲状腺機能亢進症
  2. VEGFによる著明な浮腫(むくみ)

を起こします

血中hCGは高値、エコーで胎盤の肥厚を確認します。

緊急帝王切開で、母体の甲状腺機能亢進症、浮腫(むくみ)は改善します。

逆!妊娠時一過性甲状腺機能亢進症じゃないよ、バセドウ病

確かに、妊娠前期甲状腺機能亢進症は、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症と安易に考えてしまいがちです。しかし、本当のバセドウ病の事もあるので要注意。隈病院の報告では、妊娠中発症甲状腺中毒症の86.2%は妊娠時一過性甲状腺機能亢進症ですが、14.8%は妊娠中発生バセドウ病との事です。発症時期も微妙に異なり、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は妊娠10.8±3.0(7.8-13.8)週、妊娠中発生バセドウ病は妊娠14.5±9.5(5.0-24.0)週との事です。(第57回 日本甲状腺学会 P1-013 妊娠関連甲状腺中毒症における4 分類と出現頻度)

抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)肝障害・バセドウ病再発と区別が必要、急性妊娠脂肪肝、HELLP 症候群(ヘルプ症候群)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病で妊娠中の場合、

  1. 抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)肝障害
  2. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の再発

急性妊娠脂肪肝、HELLP 症候群(ヘルプ症候群)の区別が必要です。

妊娠出産分娩と内分泌障害(甲状腺以外)

 を御覧ください。

非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症妊娠

自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症は、常染色体優性遺伝による(先天的な)TSH受容体、または刺激伝達経路のGsα(刺激性Gタンパク)の活性型変異[つまり甲状腺刺激ホルモン(TSH)がTSH受容体に結合しなくても、勝手に甲状腺ホルモン(T4, T3)を作る信号が無制限に出る]が原因です。妊娠を契機に増悪する事が多いとされます。

帯広厚生病院が報告している自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症具体例は、非妊娠時、TSH低値が常態の潜在性甲状腺機能亢進症で、母親もTSH 低値が持続。妊娠32週以降にFT3、FT4 が上昇、無機ヨード投与するも妊娠37 週に血中甲状腺ホルモンは頂値に。(第57回 日本甲状腺学会 P1-014 妊娠期間中に甲状腺中毒症が顕性化した非自己免疫性甲状腺機能亢進症における機能獲得型TSH 受容体遺伝子変異)

橋本病/甲状腺機能低下症妊娠

橋本病/甲状腺機能低下症の妊婦は妊娠期間中、甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]の用量を変更するため、甲状腺専門医による厳格な管理が必要不可欠です。妊娠期間中、母体血の甲状腺ホルモン結合蛋白(TBG)が妊娠前の1.3-1.5倍に増えるため、1.3-1.5倍の甲状腺ホルモンが必要とされます。

補充量が不十分だと、胎児の脳神経の発達が悪くなり、流早産、胎盤早期剥離、子癇前症、周産期死亡の確率が増えます。特に妊娠前期が重要で、甲状腺ホルモン補充量が不十分だと流産率が上がります。(第59回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠ 挙児希望女性のTSH 値、自己抗体の有無と治療目標について)

甲状腺に問題ない妊娠可能女性のほとんどが甲状腺刺激ホルモン(TSH) <3.0μU/mlです。

甲状腺ホルモン補充で流早産が劇的に減ります。

米国甲状腺学会ガイドライン2011に準じて

  1. 妊娠前期(13週まで):甲状腺刺激ホルモン(TSH) 0.1~2.5μU/ml
  2. 妊娠中期(14週~27週):                〃        0.2~3.0μU/ml
  3. 妊娠後期(28週~41週):                〃        0.3~3.0μU/ml

になるようコントロールします。

また、甲状腺ホルモンが正常であっても、橋本病の自己抗体[自分の甲状腺を破壊する抗体;抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が高い女性は習慣性流産/出産後甲状腺炎おこす確率が高いと言う報告がありますが、一方で関係ないとの意見もあります。ただ、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性妊婦では、妊娠が進むにつれ、甲状腺ホルモン低下か顕著になり、流産の危険は増していきます。

甲状腺ホルモン補充後 流産率

表は、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性妊婦(妊娠12週未満)にTSH<2.5になるよう甲状腺ホルモン補充療法行った有名な研究です。(J Clin Endocrinol Metab. 2010,95,1699-1707)

HYPO(甲状腺機能低下症妊婦)かつUniversal screeningが甲状腺ホルモン補充療法行った妊婦(左前方)。
HYPOかつCase findingの低リスク群が甲状腺ホルモン補充療法しなかった妊婦(左後方)。
EUは何もしない正常妊婦(右)

TSH<2.5になるよう甲状腺ホルモン補充療法行うと、例え抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性であっても、流早産率は正常妊婦と同じになります。

胎児甲状腺

胎児甲状腺は妊娠17週頃から甲状腺ホルモンを作り、妊娠20週頃に完成します。それまでの間は、母親の甲状腺ホルモン(T4)が胎児脳を発達させます。 母胎の甲状腺機能低下は、児の発達に影響します。

胎児期は、

  1. T4を活性型のT3に変換する肝1型脱ヨード化酵素(D1)が弱く
  2. T4を不活性型のrT3に変換する胎盤3型脱ヨード化酵素(D3)活性が強いため

血清rT3値は高く、T3値濃度は低くなります。 しかし、

  1. 胎生7週で脳2型脱ヨード化酵素(D2)活性が低濃度のT4を効率的にT3に変換し脳の発達を促します。

母体甲状腺の破壊の程度の評価

デジタルハイビジョン超音波装置で、母体甲状腺における橋本病(慢性甲状腺炎)の破壊の程度を評価し、妊娠週数進んだ時の予備力の有無を診断致します。

妊娠中の甲状腺腫瘍

妊娠中、甲状腺腫瘍はhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の刺激により、良性腫瘍でも増大します。 

妊娠中に発見された甲状腺は、転移していない限り、出産後の手術でも問題ないと言われています。

出産後甲状腺炎

上條甲状腺クリニックの統計では、橋本病妊婦の37.8%が出産後甲状腺炎をおこし、橋本病抗体のない妊婦でも8.2%が出産後甲状腺炎なります。

出産直後より、妊娠中は抑えられていた甲状腺に対する自己免疫が再活性化されます。橋本病無痛性甲状腺炎の細胞性免疫に関与するTh1細胞の活動性が急激に上がります。また、同時に甲状腺機能亢進症/バセドウ病の液性免疫に関与するTh2細胞の活動性も、ゆっくり上がりはじめ、出産後3か月で妊娠前の状態にもどり、9か月でピークになり、1年以上続きます。

隈病院の網野先生の統計では、TPO抗体陽性の女性が出産すると63%に出産後甲状腺炎がおきます。出産後甲状腺機能異常の89%がTPO抗体陽性といわれます。甲状腺機能亢進症/バセドウ病へ移行する(4%)、無痛性甲状腺炎から甲状腺機能亢進症/バセドウ病へ移行(7%)、無痛性甲状腺炎(68%)一過性甲状腺機能低下(20%)永続性甲状腺機能低下(0.3%)と多様な病態を呈するのが特徴です。(Thyroid 9: 705, 1999)

出産後甲状腺炎は妊娠回数を重ねるごとに重症化する危険があり、1人目で大丈夫だったからと高をくくってはいけません。

出産後無痛性甲状腺炎

隈病院の報告では、出産後無痛性甲状腺炎の発症時期は、4.0±1.5(2.5-5.5) か月との事です。(第57回 日本甲状腺学会 P1-013 妊娠関連甲状腺中毒症における4 分類と出現頻度)

出産後無痛性甲状腺炎の20-40%は永続性甲状腺機能低下症に移行します。

出産後永続性甲状腺機能低下症

脳下垂体ホルモンの一つプロラクチンは乳汁を出させるホルモンです。プロラクチンはTSH(甲状腺刺激ホルモン)と調節機構が同じです。TSHが高い状態(すなわち甲状腺機能低下症)で、プロラクチンはいつまでも高くなり、乳汁漏出が終わりません。

出産後甲状腺機能亢進症/バセドウ病

隈病院の報告では、出産後甲状腺機能亢進症/バセドウ病(これまでバセドウ病になった事がなく、出産後に初めてバセドウ病なる)の発症時期は、7.7±2.8(4.9-10.5) か月との事です。(第57回 日本甲状腺学会 P1-013 妊娠関連甲状腺中毒症における4 分類と出現頻度)

出産後甲状腺炎と紛らわしい周産期心筋症

出産後甲状腺炎と紛らわしい周産期心筋症は、出産後に心不全をおこし、甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能低下症による心不全(甲状腺心臓,サイロイドハート)との鑑別診断が必要です。

周産期(産褥)心筋症は、心臓の病気のない女性が、妊娠から出産後に突然心不全をおこし、心エコーすると拡張型心筋症に似た心拡大と心収縮力低下を認める病気です。周産期心筋症は、母体死亡にもつながる危険な病気です。 

周産期心筋症の治療は、一般的な心不全と同じです。また、2007年、異型プロラクチンが発症に関与しているとの報告が出され、ブロモクリプチンなど抗プロラクチン療法の有効性が報告されています。(Am J Cardiol 2007;100:302-304.)

出産後PTU(プロパジール、チウラジール)肝障害

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に投与する抗甲状腺薬のPTU(プロパジール、チウラジール)肝障害が、出産後に現れる7ことあります。PTU(プロパジール、チウラジール)肝障害は、いつおこっても不思議はないのですが、出産後の急激なホルモンバランスの変化が原因の可能性あります。(第58回 日本甲状腺学会 P1-12-4 出産後に甲状腺機能亢進の悪化と肝障害を来したPTU投与中バセドウ病合併妊娠の1例)

 授乳と抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)

抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に投与する抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)のうち、

  1. PTU(プロパジール、チウラジール)の乳汁移行はMMI(メルカゾール)の約1/10と低く
  2. メルカゾールなら一日2錠まで、プロパジール、チウラジールなら一日6錠まで問題ありません
  3. 抗甲状腺薬を服用後、6時間以上経過すると母乳中の濃度はかなり低くなります。メルカゾールを1回3錠以上飲む場合も、服薬後6~8時間あければ授乳に問題ありません。
    また、搾乳し母乳を保存するのも有効な方法です(当然、保存限界期間は守るべし。)

授乳中の甲状腺機能亢進症/バセドウ病の補助薬

抗アレルギー剤

アレルギー性鼻咽頭炎、アレルギー性結膜炎(花粉症)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性を上げます。アレルギー体質の人が授乳中に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症・再発・増悪あれば、抗アレルギー剤も必要になります。乳汁に移行しない授乳L1の指定のある唯一の抗アレルギー剤、クラリチン®(ロラタジン)を使用します。

授乳L1:最も安全(safest)。多くの授乳婦が使用するが、児への有害報告なし。対照試験でも児に対するリスクは示されず、乳児に害を与える可能性はほとんどない。又は、経口摂取しても吸収されない。

β(ベータ)ブロッカー

(ベータ)ブロッカーは本来、高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症の薬です。甲状腺ホルモンが正常化していないバセドウ病/甲状腺機能亢進症の状態では、高血圧・頻脈性不整脈・心不全・狭心症が起こりやすく、致死性不整脈、急性心不全、狭心症/心筋梗塞、たこつぼ型心筋症による突然死や命にかかわる甲状腺クリーゼを防ぐ目的で使用されます。

残念ながら、授乳L1指定のβ(ベータ)ブロッカーは存在しません。ただし、授乳L2指定のセロケン®(メトプロロール酒石酸塩)を使用します。

授乳L2:比較的安全(safer)。少数例の研究に限られるが、乳児への有害報告なし。リスクの可能性がある根拠はほとんどない。

ヨウ化カリウム(KI)

ヨウ化カリウム(KI)は、乳汁中に分泌され、乳児の甲状腺を抑制、潜在性甲状腺機能低下症をおこすことあります。

田尻クリニックによると、ヨウ化カリウム(KI)11-76mg(1錠50mg)を服用している授乳中のバセドウ病女性の母乳中には大量のヨードが分泌され、児にも母乳を介して大量のヨードが移行します。結果、児の甲状腺機能は10 例中8 例は正常ながら2例で潜在性甲状腺低下症[TSH7.1と5.3μU/L(0.5-5.0)]がみられたそうです。(第56回 日本甲状腺学会 P2-056 ヨウ化カリウムを服用しているバセドウ病授乳婦の母乳中ヨード濃度と乳児甲状腺機能の関係)

田尻クリニックの報告では、ヨウ化カリウム(KI)19-76mg(1錠50mg)を服用している授乳中のバセドウ病女性の子供40児の内、85%は甲状腺機能正常だったが、残り15%は1-2月後潜在性甲状腺機能低下症をおこしたとされます。特に、ヨウ化カリウム(KI)内服量と、児のTSHに相関なしとの事です。(第55回 日本甲状腺学会 O-09-01  バセドウ病授乳婦のKI内服による乳幼児甲状腺機能への影響)

甲状腺関連の上記以外の検査・治療   長崎甲状腺クリニック(大阪)


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